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初めての実地へ

 朝食を終えた俺たちは、学院の北門から続く道を進んだ。


しばらく歩くと、森と岩場の境目に、翼を広げた飛竜の石像が見えてくる。


あれが、実習区域の集合地点だ。


「ノア、あれじゃない?」


「う、うん。たぶん、あれだよ」


石像の周囲には、すでに、ほとんどの生徒が集まっていた。


木剣を布で拭いている者。


杖を握り、魔元素への感応を確かめている者。


どの道順で行くかを話し合っているバディ。


少し離れた場所では、ウォルスが、自分のバディと何かを相談していた。


こちらに気づくと、拳を一度だけ突き出してくる。


俺も同じように返した。


反対側。


侯爵の息子、オスカーは、自分のバディと並び、無言で地図を読んでいる。


周囲が浮き足立っている中、あいつだけは、いつも通り、落ち着いて見えた。


『いよいよか』


訓練ではない。


学院の管理区域とはいえ、自分たちで考え、自分たちで動く。


胸の奥が、少しずつ熱くなっていく。


しばらくして、エルディンが、一段高くなった岩の上へ立った。


「よし。全員いるな」


ざわついていた生徒たちが、少しずつ静かになる。


「説明は一度しかしない。よく聞け」


エルディンは、各バディへ配られた地図と同じものを掲げた。


「今日の制限時間は、正午の鐘が鳴るまで」


次に、指を二本立てる。


「必須課題は二つだ」


一本目。


「指定された薬草を、傷つけずに三株採取すること」


二本目。


「実習区域に生息する大鼠を、二体以上駆除すること」


教室で見せられた薬草の絵。


そして、猫より一回り大きい、大鼠の姿を思い出す。


大鼠は、農作物や食料を荒らす、典型的な害獣型の魔獣だ。


一体だけなら、今の俺たちでも、十分に対処できるはず。


「討伐証明には、尾を持ち帰れ」


何人かが、少し嫌そうな顔をした。


まあ、気持ちは分かる。


でも、本物の依頼でも魔獣を倒した証拠がなければ、依頼達成とは認められない。


これも、冒険者になるなら避けられないことだ。


「必須課題を終えたあとは、どう動くかは自由だ」


「大鼠を追加で駆除してもいい。早めに帰還してもいい」


エルディンが、地図のいくつかの印を指差す。


「採取物の正確さ」


「駆除した大鼠の数」


「そして、帰還した時刻」


「それらを合わせて、バディごとの順位を決める」


周囲が、小さくざわついた。


ウォルスが、楽しそうに拳を握っている。


オスカーは、表情を変えず、地図へ視線を落とした。


「ただし」


エルディンの声が低くなる。


「指定区域の外へ出た者」


「ほかのバディから採取物や討伐証明を奪った者」


「怪我を隠して、課題を続けた者」


「以上は、その時点で失格だ」


全員の表情が引き締まった。


次に、エルディンが、腰へ下げていた小さな筒を掲げる。


俺たちにも配られた。


非常用の信号具だ。


「危険だと判断したら、迷わず使え」


「自分たちが危険な場合も」


「ほかのバディが危険な場合もだ」


「信号を上げれば、区域内に配置された教員と、冒険者ギルドの監視役が向かう」


一度、言葉を切る。


「だが」


俺たちを見渡した。


「信号を上げた瞬間に、助けが目の前へ現れるわけじゃない」


誰も、声を上げなかった。


「退くのか」


「隠れるのか」


「仲間を連れて逃げるのか」


「救助が来るまで、どう動くか」


エルディンの視線が、一人ずつ確かめるように、俺たちの上を通る。


「その判断も、課題の一つだと思え」


簡単な依頼と、安全な依頼は違う。


エルディンが言っていた意味が、少しだけ分かった気がした。


「質問は?」


誰も手を上げない。


エルディンが、短い杖を抜いた。


杖先へ、青い光が集まる。


「なら」


光球が空へ昇る。


全員が、同時に身構えた。


「始めろ!」


パンッ!


青い光が、空高く弾けた。


その瞬間、多くのバディが、一斉に森へ向かって走り出す。


「俺たちも行くぞ、ノア!」


「ま、待って」


走り出そうとした俺を、ノアが呼び止めた。


「どうした?」


ノアは、ほかの生徒たちが向かった森ではなく、反対側にある岩場を指差していた。


「し、指定された薬草なら」


少しだけ自信なさそうに、それでも、はっきりと言う。


「たぶん、あっちにある」


俺は、森へ消えていくほかのバディを見る。


次に、ノアが指差す岩場を見る。


「分かった」


迷う理由はなかった。


「行こう、ノア」


「う、うん!」


俺たち《Never Die》の最初の実地課題は、ほかのバディとは、逆方向へ走るところから始まった。

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