↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/67

お前は、今日から俺たちの仲間だ

 クオンと別れ、俺たちはようやく、ディアドラの西門を潜った。


城壁には、さっきまでの戦闘でできた焦げ跡が残っている。


負傷した聖騎士が担架で運ばれ、壊れた門扉の周囲では、職人たちが補修を始めていた。


それでも、街の奥へ進むにつれて、少しずつ日常が戻り始めているようだった。


冒険者たちが行き交い、依頼について話し、閉じていた店が、再び扉を開けていく。


だが、俺は街を見るどころではなかった。


『ガイルが……聖騎士』


隣を歩く大男を見る。


無精髭。


使い込まれた革鎧。


背中には巨大な大剣。


どう見ても、王国を守る立派な騎士というより、酒場の隅にいたら、できるだけ目を合わせたくない冒険者だ。


でも、クオンは確かに言った。


――騎士団を離れても。


つまり、昔、ガイルは聖騎士だった。


思い返せば、父さんと母さんを失った夜。


俺が聖騎士になりたいと話したとき、ガイルは、ほんの一瞬だけ、遠いものを見るような顔をしていた。


本当は、色々聞いてみたい。


どんな聖騎士だったのか。


なぜ辞めたのか。


クオンとは、どういう関係だったのか。


だが、前世では、上司や取引先の顔色を散々読んできた。


聞かれたくない話題くらいは分かる。


ガイルが自分から話すまでは、触れない方がいいのだろう。


「坊主」


「何?」


「着いたぞ」


顔を上げる。


目の前には、剣と翼を組み合わせた巨大な紋章。


ディアドラ冒険者ギルド本部。


ガイルが扉へ手を掛けた。


「まず、ヴァルドで頼んだ親族照会だ」


それから、俺を見る。


「そのあと、お前の手続きをする」


「うん」


俺は、小さく頷いた。




ギルド本部へ入ると、ガイルは真っ直ぐ受付へ向かった。


冒険者証を差し出す。


「先に討伐報告をする」


「対象をお願いします」


「死霊だ」


受付の女性の手が止まった。


「死霊……ですか?」


「ああ」


ジルが前へ出る。


「ディアドラ街道沿いの村よ」


「共同墓地へ埋葬された冒険者の遺体に憑依していたわ」


「浄化は?」


「私が」


ジルが、胸元から銀色の証票を取り出した。


神官としての身分を証明するものらしい。


受付の女性が受け取り、奥へ消える。


しばらくして、数枚の書類を持って戻ってきた。


「該当地域から、すでに報告が届いております」


紙へ目を落とす。


「村長、および被害者の同行者ラギド様の署名」


「埋葬されていた遺体が墓所から消失したこと」


「翌朝、再埋葬されたことも確認済みです」


ジルへ神官証を返す。


「死霊種は、アレス領内における常設緊急討伐対象となっております」


一度、俺たちを見る。


「討伐を正式に認定いたします」


「よし」


ダイスが小さく拳を握った。


受付の奥から、報酬の入った革袋が運ばれてくる。


「規定の討伐報酬です」


ダイスが受け取った。


ずしり。


結構入っているらしい。


「今日は肉ですね」


ジルが冷たい目を向ける。


「あなた、最後は拘束術をすり抜けられてたじゃない」


「途中までは働いてたでしょうが!」


「最後はアドリスとジル頼みだったな」


ガイルまで言う。


「ガイルさん!?」


思わず、俺は吹き出した。


少し前まで、死霊と命懸けで戦っていたのに。


こうしていると、いつもの三人だ。


ガイルが咳払いする。


「それと」


俺の肩へ手を置いた。


「ヴァルドから照会を頼んでる、この坊主の親族についてだ」


受付の女性が、別の書類を取り出した。


「アドリス・ライラス様ですね」


「はい」


分かっている。


今さら、遠い親戚が突然現れて、俺を引き取ってくれる。


そんな都合のいい話を期待していたわけじゃない。


それでも、受付の女性が書類へ目を落としている時間が、妙に長く感じた。


やがて、顔を上げる。


「アドリス・ライラス様のご親族について調査しましたが」


一度、俺を見る。


「現在、引き取り可能な方は確認できませんでした」


「……そっか」


思ったより、普通に声が出た。


予想していたからだろう。


でも、胸の奥が、ほんの少しだけ沈んだ。


俺の帰る場所は、やはり、もう残っていない。


父さんも。


母さんも。


いない。


「その場合」


ガイルが言った。


「俺を一時保護人として登録する」


受付の女性が顔を上げる。


「十歳の適性試験までですね?」


「ああ」


「ダイスとジルを共同同行者に」


受付の女性が、三人の冒険者証を確認する。


「離線級パーティであれば、条件は満たしております」


そして、今度は俺へ向き直った。


「ただし」


「?」


「本人の同意が必要です」


「俺の?」


「はい」


受付の女性は、真っ直ぐ俺を見る。


「アドリス様」


「はい」


「ガイル様を一時保護人とし」


「ダイス様、ジル様を共同同行者として」


「十歳の適性試験まで、こちらの三名と旅を続けることを希望しますか?」


三人を見る。


ガイル。


ダイス。


ジル。


父さんと母さんを失った夜。


俺には、何も選べなかった。


行く場所も、帰る場所も、これからどう生きるのかも。


何一つ。


ただ、差し伸べられたガイルの手を取るしかなかった。


でも、今は違う。


剣を教わりたい。


魔術を学びたい。


色々な街を見たい。


もっと、この世界を知りたい。


そして、この三人と、もう少し旅を続けたい。


答えは、もう決まっていた。


「希望します」


少しだけ、声を強くする。


「俺は、この三人と行きたい」


ダイスが、僅かに笑った。


ジルも、優しく目を細める。


ガイルだけは、いつもの仏頂面だった。


受付の女性が、一枚の書類を差し出す。


「では、こちらへお名前を」


羽根ペンを受け取った。


紙の上へ、ゆっくりと書く。


アドリス・ライラス。


父さんと、母さんからもらった、今の俺の名前。


続けて、ガイル、ダイス、ジル。


三人も、それぞれの名前を書く。


最後に、受付の女性が、ギルドの印を押した。


ドンッ。


小さな音だった。


それでも、俺には、妙に大きく聞こえた。


「登録は完了しました」


受付の女性が微笑む。


「本日より」


「アドリス・ライラス様を、当パーティの保護同行者として正式に認定します」


ガイルが、俺を見る。


「今日から」


少しだけ間を置いた。


「正式に、俺たちの一員だ」


「……うん」


胸の奥が、じんわりと熱くなった。

次の話で第一部が終了となります。

次部からは、アドリスがどうやって自ら仲間を作っていくか、など書いていきたいと思います。


引き続き、アドリスの成長を見守っていただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。