死んだ幼馴染が、丘で待っていた
夜。
村の門の前には、ランタンを持ったラギドが立っていた。
昼間よりも、さらに顔色が悪く見える。
「来てくれて、ありがとうございます」
「案内しろ」
ガイルが言う。
それから、俺へ視線を落とした。
「坊主」
「何?」
「ジルから離れるな」
「分かった」
俺たちは村を出た。
月明かりの下、細い道が、丘の方角へ伸びている。
周囲には畑。
その向こうには、夜の森。
聞こえるのは、俺たちの足音。
風に揺れる草。
そして、時折鳴る、ラギドの金属タグの音だけだった。
チリン。
チリン。
「エリックって」
ダイスが口を開いた。
「どんな奴だったんだ?」
ラギドは、すぐには答えなかった。
少し歩いてから、小さく笑う。
「昔から、何でも勝手に決める奴でした」
「勝手に?」
「はい」
ラギドは、首から下げたタグへ触れた。
「僕が七歳の頃です」
「母が縫ってくれた鞄を、村の子供たちに取られたことがありました」
ラギドは、途切れ途切れに、エリックとの出会いを話し始めた。
泣きながら返してくれと頼んでも、誰も聞いてくれなかった。
その鞄を取り返してくれたのが、エリックだった。
「僕へ鞄を押しつけて」
ラギドは少しだけ目を細める。
「『帰るぞ』って言ったんです」
「それから、ずっとです」
ランタンの光が、ラギドの横顔を照らした。
「同い年なのに、兄みたいな奴で」
遊ぶ場所を決めるのも、最初の依頼を選ぶのも、次に向かう街を決めるのも。
いつだって、エリックが先だった。
「エリックが『行くぞ』って言って」
「僕は、その後ろを歩いてきました」
「全部、そいつが決めてたのか?」
ガイルが聞く。
「……はい」
ラギドの足が、ほんの少しだけ遅くなる。
「エリックがいなくなってから」
ランタンの火が、夜風に小さく揺れた。
「僕は、これからどこへ行けばいいのかも分からなくなりました」
誰も何も言わなかった。
やがて、道の先に、低い丘が見えてきた。
丘の頂には、一本の大きな木。
「あそこです」
ラギドが言う。
「子供の頃、二人でよく遊びました」
そして、少しだけ笑う。
「あの木の下で、冒険者になろうって話したんです」
「……まあ」
ランタンを持つ手に力が入る。
「決めたのは、エリックですけど」
丘へ続く坂道を上る。
チリン。
チリン。
歩くたび、ラギドの胸元で、金属タグが鳴っていた。
頂が少しずつ近づいてくる。
そして大きな木の根元が見えた瞬間、タグの音が止まった。
ラギドが足を止めたからだ。
ランタンを持つ手が、目に見えて震え始める。
「……いました」
丘の上。
大きな木の下に、一人の男が立っていた。
その姿を見た瞬間、ラギドが息を呑む。
その反応だけで、あの男がエリックなのだと分かった。
使い込まれた革鎧。
腰に下げた片手剣。
服にこびりついた、乾いた血と土。
そして、首を横切る、深い傷。
傷口は、塞がっていない。
どう見ても、生きている人間の姿ではなかった。
それでも、男は俺たちに気づくと、ごく普通に笑った。
十五年間。
ラギドへ向けてきたのと同じ顔で。
「遅かったな」
ラギドの顔から、血の気が引いていく。
「……エリック」
三日前に埋められた男が、いつもどおりの顔で、二人の始まりの場所に立っていた。
本日22時頃、もう一話投稿予定となります




