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PE3魔法少女ペイジン  作者: SAI
レゾナンス編
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第39話 2度目の敗北

シュウウウッ、と耳障りな凍結音が広場に響き渡った。蒸気の霧を切り裂き、クリスタリアの姿がペイジンの眼前へと音もなく滑り込む。残像すら凍りつかせるような神速の踏み込みに、ペイジンの瞳が見開かれた。


ペイジン「えっ、うそ、はや……ッ!」


クリスタリア「終わりよ、ペイジン!」


冷酷な宣告とともに、クリスタリアの掌から至近距離で放たれたのは、先ほどを遥かに凌駕する濃密な絶対零度の波動だった。


ズバアアアンッ!


ゴオオオオッと吹き荒れる純白の冷気が、躊躇なく少女の身体を包み込む。今度はさらに深く、魂や心そのものまで永遠の眠りへと凍てつかせるような白い氷が、ペイジンの肌を、服を、そして掲げようとしたステッキを瞬く間に侵食していく。


ニィ「ペイジンッ!逃げてニィッ!」


ニィの悲鳴が重なる中、クリスタリアは冷え切った瞳で氷の杖を翻した。その切っ先に、青白く濁った鋭利な氷柱が一瞬にして生成される。


ギイイイインッ!


空気を凍らせながら繰り出された鋭利な氷柱が、身動きの取れないペイジンの左腕へと無情に突き刺さった。


ドスッ……メキメキメキッ!


ペイジン「ぎゃあああああっ!」


激痛と極寒が同時に左腕を貫く。突き刺さった氷柱から直接、血管を伝うように白銀の凍結が広がり、ペイジンの左半身を一気に石のように硬く閉ざしていく。熱い血潮さえも瞬時に凍りつき、赤く濁った結晶となって皮膚を覆った。


ニィ「ペイジンッ!ああっ、左腕がカチコチになっちゃうニィッ!やめてええええっ!」


ニィが必死に小さな手で氷を叩くが、カキンカキンと虚しい音を立てるだけでビクともしない。


クリスタ「その腕も、その足も、熱い言葉を紡ぐ喉も……すべて私の氷の中で静寂を保ちなさい」


ピキピキピキッ、と無慈悲な結晶化の音が全身を駆け巡る。左腕から始まった冷気は胸元へと達し、ペイジンの呼吸を冷たく塞ぎ始めた。


ペイジン「う、ぅ……っ!あ……たた……かい、光……っ!」


ペイジンは必死に右手のステッキを握り直そうとするが、指先が急速に感覚を失っていく。カチッ、カチリと音を立てて純白の氷が少女の輪郭を覆い尽くし、広場にはただ、凍てついた風がヒョオオオと冷たく吹き抜ける音だけが残された。


ピキピキピキッ、ミシミシッ!


無情な結晶化の音は止まることなく、ペイジンの身体を足元から頭のてっぺんまで冷酷に呑み込んでいく。左腕に突き刺さった氷柱から送り込まれる絶対零度の冷気は、少女の体内を巡る血潮も、胸の奥で燃えていた温かな魔力の光も、容赦なく根こそぎ凍てつかせていった。


ペイジン「あ……がっ……、う、そ……身体が……うごか……な……」


右手に握っていたスリーピィステッキが、カランと虚しい音を立てて石畳の上へと滑り落ちた。手放されたステッキの星のモチーフは、すでに青白い霜に覆われて輝きを完全に失っている。


ニィ「ペイジンッ!お願いだから目を開けてニィッ!ステッキを拾うニィ!私を置いていかないでニィッ!」


ニィは泣き叫びながら、ペイジンの胸元から必死に腕を伸ばし、急速に白く固まっていくその頬を両手で包み込んだ。けれど、そこからはもう何の体温も感じられない。氷のように冷たく、ただ硬い結晶の感触が返ってくるだけだった。


クリスタリア「終わりよ。痛みも、悲しみも、これでもう味わうことはないわ」


ザッ、と音を立ててクリスタリアが一歩前へ踏み出し、冷たい切っ先をペイジンの胸元へと向けた。杖の先端から放たれた極限の吹雪が、最後の止めを刺すように少女を包み込む。


ゴオオオオオオッ!


ペイジン「ニィ……ごめ……ん……ね……」


絞り出すような最後の言葉とともに、ペイジンの瞳からこぼれ落ちそうになった涙の粒が、頬の上でカチリと凍りついた。


パキィィィン……ッ!


乾いた硬質な音が響き渡り、純白の分厚い氷棺が完成した。天真爛漫だった少女は、苦悶と無念の表情を浮かべたまま、光を通さない完全な氷像となって完全に沈黙した。広場に満ちていた温かな熱気は綺麗さっぱりと消え去り、あとにはただ、息を吸うことさえ痛烈な極寒の静寂だけが残された。


ニィ「ペイジン……?嘘でしょニィ……

返事をしてニィ……ッ!」


氷棺の表面に張り付いたニィが、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら小さな拳で氷を叩く。コツン、コツンと空虚な音が広場に小さく反響するだけで、内側に閉じ込められたペイジンからの反応は一切なかった。


クリスタ「無駄よ。私の氷に心を閉ざされた者が、再び目覚めることなどあり得ない。この街も、世界も、すべてこうして安らかな眠りにつくのよ」


クリスタリアは凍りついたペイジンを見下ろし、感情の抜けた冷たい瞳で杖を大地へ突き立てた。ドォンと重い衝撃音が響き、広場の足元から巨大な氷の樹木が次々と芽吹き、完全にクロノスの光を奪い去っていく。


ニィ「あ、あああ……ペイジン……ペイジンッ……!」


絶望に打ちひしがれたニィの嗚咽だけが、凍てついた白い世界の中へと虚しく吸い込まれていった。


氷棺に張り付いて泣き崩れるニィの背後に、影のように冷たい気配が音もなく忍び寄った。カツン、カツンと氷の床を打つ靴音が、無慈悲な死刑宣告のように鳴り響く。


クリスタ「お前もだ。黒猫」


ぞっとするほど平坦な声が頭上から降ってきた。ニィが戦慄して振り返るよりも早く、クリスタの細い指先がニィの首根っこを無造作に鷲掴みにした。


ニィ「ぬぅッ!」


締め上げられた喉から、苦悶の呻きが漏れ出る。宙に吊り上げられたニィは、必死に四肢をもがかせ、小さな爪を立ててクリスタの青白い手首を引っ掻こうとした。しかし、触れたそばから爪先が急速に白く凍りつき、感覚が失われていく。


クリスタ「相棒を一人で逝かせるのは可哀想でしょう。あの子の隣で、同じように永遠の氷の標本になりなさい」


クリスタの瞳の奥で、冷酷な氷河が渦を巻いた。ニィの首を掴む手から、ゴオオッと凄まじい絶対零度の冷気が直接体中へと流し込まれていく。


ピキピキピキッ、パキィン!


ニィ「ぎゃあああっ!つ、冷たいニィッ!身体の芯が、凍っちゃうニィッ!」


あまりの激痛と極寒に、ニィの身体が弓なりに反り返る。足先から黒い毛並みが白銀の霜に呑み込まれ、硬く、重い鉱物のように結晶化が這い上がってくる。


ニィ「ペイ……ジン……ッ!起きてニィ……!助け……て……ッ!」


凍りついていく視界の端で、ニィは必死に手を伸ばし、目の前で物言わぬ氷像となっているペイジンを見つめた。しかし、分厚い氷棺に閉じ込められた少女が動く気配はない。


クリスタ「もう誰も助けには来ないわ。すべての温もりはここで潰える」


ミシミシッ、ピキィン!


冷酷な結晶化はついにニィの胸元、そして喉元へと達した。小さく震えていた唇が白く硬化し、伸ばした手の指先がカチリと音を立てて完全に凍結する。


ニィ「ぺ……い……じ……」


最後の叫びも途切れ、ニィは伸ばした右手を氷棺へ向けた形のまま、透明な青白い氷の彫刻となって完全に沈黙した。クリスタは冷たく凍りついたニィを放り出すことなく、ペイジンの氷棺のすぐ足元へ、飾り物のようにコトリと無造作に置いた。


広場には、吹き荒れる乾いた吹雪の音だけが虚しく響き渡っている。


クリスタ「哀れで儚いモノねッ。やはりあなたはクロノス英雄賛歌の話に出てくるひとりではなかったのねッ」


見下ろすクリスタの氷のような瞳には、勝ち誇る色すらなく、ただただ虚無と失望だけが深く沈んでいた。凍てついた広場を吹き抜ける風が、彼女の銀髪を冷ややかに揺らす。足元に転がるニィの氷像と、分厚い氷棺の奥で微動だにしないペイジンの姿を、クリスタは感情の抜け落ちた視線で一瞥した。


クリスタ「世界を救う光など、最初からどこにも存在しなかった。神話も、古い英雄の賛歌も、すべては厳しい現実から目を逸らすために人間が紡いだ都合の良いおとぎ話にすぎない」


カツン、と氷の靴音を響かせ、クリスタはペイジンの氷棺の前へ歩み寄った。白く曇る氷の表面に青白い指先を滑らせると、指先から新たな極寒の霜が這い広がり、棺をより強固に、より冷徹に塗り込めていく。


クリスタ「痛みを抱えて歩き続けることの、どこに救いがあるというの。傷つき、失い、最後にはすべて消え去るだけ。それなら初めから、私の絶対零度の中で美しい彫刻となって眠り続ける方が、よほど幸福なはずよ」


クリスタが杖を軽く振ると、氷棺とニィの周囲を取り囲むように、巨大な氷の茨が幾重にも生え広がった。それは外からの干渉を一切許さず、二人の魂を永遠の静寂へと縛り付ける牢獄の柵であった。


クリスタ「眠りなさい、小さな魔法少女。あなたの無邪気な夢も、あの黒猫の祈りも、ここで完全に途絶えたわ」


クリスタは背を向け、中央広場の巨大な時計塔を見上げた。かつて時を刻んでいた巨大な歯車はすでに白銀の氷に埋もれ、針は完全に停止している。空を覆い尽くす分厚い氷雲からは、絶望を象徴するかのように純白の雪が静かに、そして激しく降り注ぎ始めていた。


街の息吹は完全に消え去り、クロノスは今や音のない死の都へと変貌を遂げていた。二つの氷像を残したまま、絶対零度の冷気だけが支配する広場に、クリスタの冷え切った吐息が白く漂い、儚く消えていった。


クリスタ「このままこの街ごとみんなの夢も凍らせてあげるわッ」


クリスタが杖を高々と掲げると、空を覆う氷雲が渦を巻き、大気を震わせる重低音がクロノス全域に響き渡った。


ゴオオオオオッ、ズドドドドッ!


天を突く巨大な氷の月が凶悪な輝きを放ち、絶対零度の吹雪が津波のように街の通りへと雪崩れ込んでいく。家々の窓が瞬く間に凍てつき、広場を彩っていた祭りの提灯や花びらが、色彩を奪われて白銀の結晶へと姿を変えた。人々の心に宿る温かな希望や願い、明日への憧れさえも、容赦のない極寒の底へと沈められていく。


クリスタ「もう誰も笑わなくていい。誰も涙を流さなくていい。すべての時を止めれば、永遠に悲劇は訪れないのよ」


冷酷な宣告とともに、クリスタの足元から同心円状に広がった氷の結界が、建物を、木々を、噴水を、次々と白銀の棺へと呑み込んでいく。クロノスの街は、かつての活気を跡形もなく奪われ、美しくも無慈悲な死の氷原へと変わり果てていった。


その中心で、氷棺に閉じ込められたペイジンと、足元で凍りついたニィは、冷たい氷の茨に囲まれたまま微動だにしない。


ヒョオオオオ……と、荒れ狂う猛吹雪の音だけが、命の消え失せた街を虚しく吹き抜けていた。


ズザザザザッ! メキメキメキッ!


クリスタが放つ絶対零度の魔力は、留まることを知らずクロノスの隅々まで侵食していった。大通りに立ち並ぶレンガ造りの時計工房も、色鮮やかだった屋台の天幕も、すべてが分厚い青白い氷の層に包み込まれ、硝子細工のように冷たく硬直していく。


街のあちこちで微かに灯っていた暖炉の煙すら、立ち上る途中でカチリと凍りつき、空中に白い結晶の彫刻となって静止した。人々の寝息、笑い声、明日を夢見る微かな胸の鼓動までもが、クリスタの冷気によって根こそぎ刈り取られ、絶対的な沈黙の淵へと引きずり落とされていく。


クリスタ「そうよ……これでいい。誰も何も失わない、完全なる永遠の世界……」


中央広場にそびえ立つ大時計塔の最上部、巨大な文字盤の中央へ音もなく降り立ったクリスタは、両手を広げて自らの創り出した氷の世界を見下ろした。その銀色の髪が、荒れ狂う純白の暴風に激しく揺れる。瞳の奥に宿るのは勝利の歓喜ではなく、底知れない虚無と、自らの心を閉ざすことでしか得られなかった痛烈な安息だった。


ゴオオオオオッ……!


街の境界を取り囲むように、数十メートルに及ぶ巨大な氷の防壁が地響きを立てて隆起した。外部からの光も、旅人の足音も、季節を告げる風すらも一切通さない。クロノスは今や、この大陸の地図から完全に切り離された、凍てつく孤島となっていた。クリスタの支配は完全なものとなり、世界から切り離された時間が白銀の静寂に閉じ込められていく。


だが、広場の中央で氷の茨に囲まれたペイジンの氷棺の奥底で、クリスタの魔力とは異なる、微かで温かな光の粒が、息絶えることなく静かに明滅していた。


クリスタは時計塔の天辺で杖を垂直に掲げ、冷酷な眼差しで両目を閉じた。


クリスタ「すべてを閉ざし、白銀の静寂に沈みなさい。クリスタル・エンド・テンペスト」


ズオオオオオッ!


杖の切っ先が眩い蒼白の閃光を放った刹那、クリスタ自身を震源として、超巨大な吹雪の衝撃波が同心円状に爆発した。


ゴォッ!ドゴォォォォォンッ!


吹き荒れる暴風は家々の屋根を激しく叩き、巻き上がった無数の氷の刃が視界のすべてを純白の地獄へと変えていく。クロノスの街どころか、周囲を取り囲む山々や森までもが一瞬で凍結し、地表を白銀の分厚い層が塗り潰していった。


大気中の水分が瞬時に氷結し、キラキラと残酷に煌めくダイヤモンドダストとなって舞い散る。気温は生物の生存を許さない極限のマイナス数百世界へと沈み込み、風鳴り以外のすべての音が完全に消失した。


ヒョオオオオオオッ……!


吹き荒れる猛吹雪の中心で、クリスタは感情を捨て去った人形のようにただ一人佇んでいた。広場の中央で氷漬けとなったペイジンとニィの姿も、猛烈な白のカーテンの向こう側へと完全に覆い隠されていく。街の命も、願いも、明日へ向かう鼓動も、すべてがクリスタの放った氷雪の牢獄の中に閉じ込められてしまった。

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