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PE3魔法少女ペイジン  作者: SAI
レゾナンス編
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36/55

第34話 記憶から消えた部屋

ペイジン「上がったよー。」


白いタオルで髪を拭きながら、ペイジンが浴室の扉を開ける。


その声を聞いた瞬間、廊下の向こうで待っていたフリスがぱっと顔を輝かせた。


フリス「わーい!入るー!!」


フリスは白いワンピースの裾を揺らしながら、勢いよく浴室へ駆け込んでいく。


ペイジン「ちょっと、走ったら滑るわよ!」


フリス「大丈夫だよー!」


振り返って笑うフリスの淡いピンク色のツインテールから、またあの柔らかく甘い香りがふわりと漂った。


ペイジンはその背中を見送りながら、どこか不思議な懐かしさを覚える。


初めて会ったはずなのに、この元気な声を以前にも聞いたことがあるような気がしてならなかった。


フリス「あ!そうだ……ッ!!二階の私の部屋は覗かないで……ッ!!」


フリスは浴室へ入りかけたところで急に振り返り、思い出したように念を押した。


その笑顔はいつも通り明るかったが、一瞬だけ妙に真剣な色が混じっていた。


パタンッ……。


ペイジン「お風呂、入っちゃった……ッ。」


扉の向こうから、すぐに楽しそうな鼻歌と水音が聞こえてくる。


ペイジンは廊下に一人残され、静かに二階へ続く大きな階段を見上げた。


ペイジン「覗くなって言われたら、逆に気になるじゃない……。」


白い階段の先には、長い廊下と一枚だけ薄桃色に塗られた扉が見える。


その扉の隙間からは、フリスの甘い香りとは違う、冷たく澄んだ空気が僅かに流れ出していた。


ペイジン「……どうしたんだろう、私?」


二階へ続く白い階段を見上げながら、ペイジンは胸元を押さえた。


身体は温かい。


氷の中にいたはずの痛みも、寒さも消えている。


それなのに、心の奥だけが妙にざわついていた。


ニィ「何か困ったことでもあったニィ?」


ペイジン「うわああああ!!!!」


突然、すぐ隣から声をかけられ、ペイジンは勢いよく飛び退いた。


いつの間にか、ニィが階段の手すりへ腰掛けている。


その姿はいつもの相棒と同じだった。


けれど、笑顔だけが妙に静かで、瞳には何の感情も浮かんでいなかった。


ペイジン「ニ、ニィ……!?どこから出てきたのよッ!!」


ニィ「最初からここにいたニィ。」


ペイジン「嘘よ。さっきまでいなかったじゃない。」


ニィ「気づかなかっただけニィ。」


浴室の向こうから、フリスの楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。


けれどニィはそちらを一度も見ず、ただペイジンだけを見つめていた。


ニィ「いつまでもここで楽しく暮らすニィ。」


ペイジン「……え?」


ニィ「全部、お芝居だったニィよ。」


その言葉と同時に、宮殿の灯りが一瞬だけ消えた。


再び明るくなった廊下は、どこか形が歪んでいる。


階段は先ほどよりも長くなり、二階の薄桃色の扉だけが遠くで浮かぶように揺れていた。


ペイジン「お芝居って……何が?」


ニィ「この街も、宮殿も、フリスも。」


ニィは楽しそうに尻尾を揺らす。


ニィ「ペイジンがここへ残りたくなるように用意された、優しいお芝居だニィ。」


ペイジン「……フリスも?」


ニィ「そうニィ。」


浴室から聞こえていた鼻歌が、ぴたりと止まった。


ニィ「だから何も考えなくていいニィ。二階も見なくていい。現実にも戻らなくていいニィ。」


ペイジン「……嫌よ。」


ニィ「どうしてニィ?」


ペイジンは薄桃色の扉を見上げ、静かに拳を握った。


ペイジン「お芝居なら、なおさら確かめる。」


ニィの笑顔が、僅かに歪んだ。


ニィ「確かめる……ッ?それって、どういうことだ……ッ??」


それまで薄く笑っていたニィの表情が、初めてはっきりと揺らいだ。


ペイジン「そのままの意味よ。」


ペイジンは二階へ続く白い階段を見上げた。


浴室の向こうは静かなまま。さっきまで聞こえていたフリスの鼻歌も、水音も、もう何ひとつ聞こえない。


ペイジン「この街も、宮殿も、フリスも、全部お芝居だって言うなら……誰が何のために作ったのか、自分の目で確かめる。」


ニィ「やめた方がいいニィ。」


ペイジン「どうして?」


ニィ「知らなくていいこともあるニィ。」


ペイジン「それ、答えになってない。」


ペイジンが一段目へ足をかけると、階段の奥から冷たい風が吹き下ろしてきた。


ニィ「上へ行ったら、今までみたいに楽しく暮らせなくなるかもしれないニィよ。」


ペイジン「最初から、ここで暮らすつもりなんてないわ。」


その言葉に、ニィの瞳から笑みが消えた。


ペイジン「私は現実へ戻る。そのためなら、フリスが隠してるものも、この場所の正体も、全部見つけてみせる。」


ニィ「……後悔しても知らないニィ。」


ペイジン「後悔するかどうかは、見てから決める。」


ペイジンはそう言い切ると、静まり返った二階へ向かって階段を上り始めた。


ニィ「確かめる……ッ?それって、どういうことだ……ッ??」


それまで薄く笑っていたニィの表情が、初めてはっきりと揺らいだ。


ペイジン「そのままの意味よ。」


ペイジンは二階へ続く白い階段を見上げた。


浴室の向こうは静かなまま。さっきまで聞こえていたフリスの鼻歌も、水音も、もう何ひとつ聞こえない。


ペイジン「この街も、宮殿も、フリスも、全部お芝居だって言うなら……誰が何のために作ったのか、自分の目で確かめる。」


ニィ「やめた方がいいニィ。」


ペイジン「どうして?」


ニィ「知らなくていいこともあるニィ。」


ペイジン「それ、答えになってない。」


ペイジンが一段目へ足をかけると、階段の奥から冷たい風が吹き下ろしてきた。


ニィ「上へ行ったら、今までみたいに楽しく暮らせなくなるかもしれないニィよ。」


ペイジン「最初から、ここで暮らすつもりなんてないわ。」


その言葉に、ニィの瞳から笑みが消えた。


ペイジン「私は現実へ戻る。そのためなら、フリスちゃんが隠してるものも、この場所の正体も、全部見つけてみせる。」


ニィ「……後悔しても知らないニィ。」


ペイジン「後悔するかどうかは、見てから決める。」


ペイジンはそう言い切ると、静まり返った二階へ向かって階段を上り始めた。


ペイジン「どんな苦難があろうとも……

そうじゃないと、人って進めないんだから……ッ!!そんなことも分からないなんて……ッ!!!」


ペイジンの声が、白い宮殿の吹き抜けへ強く響いた。


階段の上から流れてくる冷気に髪を揺らされながらも、彼女は一歩も退かない。胸の奥には恐怖も迷いも残っていたが、それ以上に、ここで立ち止まってはいけないという思いが燃えていた。


ニィ「……まだそんなこと言うの?」


ニィの声から、いつものふざけた調子が消える。


手すりの上に立つその姿は相棒と同じはずなのに、瞳の奥には深い闇だけが広がっていた。


ニィ「進んだ先にあるのが、また痛みでもニィ?」


ペイジン「それでもよ。」


ニィ「大切なものを失っても?」


ペイジン「それでも進む。」


ニィ「今度こそ、本当に死ぬかもしれないニィよ。」


ペイジン「怖いよ……。」


ペイジンは震える手を握りしめた。


ペイジン「でも、怖いからって全部止めたら、クリスタと同じになっちゃう。」


その言葉が落ちた瞬間、宮殿の壁に細い亀裂が走った。


パキッ……。


ニィ「……黙るニィ。」


ペイジン「嫌よ。私は戻る。本物のニィと一緒に、まだ終わってない旅へ。」


ニィの顔から、ついに笑みが完全に消えた。


ニィ「だったら……その覚悟が本物か、見せてもらうニィ。」


その緊迫した空気を、ペイジンは突然ぶち壊した。


頬を思い切り膨らませ、目を寄せ、口をぐにゃりと歪める。


ペイジン「こんな顔ですかァ〜??」


ニィ「…………。」


白い宮殿に、信じられないほど重い沈黙が落ちた。


さっきまで覚悟だの苦難だのと真剣に語っていた本人が、次の瞬間には全力の変顔を披露している。


ニィ「……違うニィ。」


ペイジン「えー?じゃあ、こっち?」


今度はさらに鼻を押し上げ、片目だけを閉じる。


ニィ「そういう覚悟じゃないニィッ!!!」


ニィの絶叫が宮殿中へ響き渡り、張り詰めていた空気は跡形もなく吹き飛んだ。


ペイジン「じゃあ、こんな顔〜???」


ペイジンはさっきよりもさらに頬を引き伸ばし、目を限界まで寄せ、鼻の下まで思い切り伸ばした。もはや元の顔がどこへ行ったのか分からないほど、全力すぎる変顔だった。


ニィ「全然違うニィッ!!!!」


げしっ!!!!


ニィの前足が、容赦なくペイジンの脇腹へめり込む。


ペイジン「ぐえッ!!!!」


ペイジンは変顔のまま身体をくの字に折り、白い階段を数段転げ落ちた。


ニィ「真面目な話をしてるのに、どうしてそうなるニィッ!!」


ペイジン「だって、覚悟の顔を見せろって言ったじゃない……ッ!」


ニィ「誰が変顔大会を始めろって言ったニィ!!」


張り詰めていた宮殿の空気は、再び盛大に崩れ去った。


ニィ「あと、この上の部屋の扉の先は……そのまま落ちたら地獄に落ちるだけニィ。」


ペイジン「え……ッ!?!?」


さっきまで変顔でふざけていたペイジンの表情が、一瞬で真顔へ戻った。


視線の先には、二階の奥にある薄桃色の扉。


何の変哲もない部屋の入口にしか見えない。だが、扉の隙間から流れ出す冷気は、さっきまでより明らかに重く、底の見えない暗闇の気配を含んでいた。


ペイジン「ちょっと待って。フリスの部屋じゃなかったの……?」


ニィ「部屋に見えてるだけニィ。ここは現実と冥界の間だから、扉の向こうが普通の場所とは限らないニィ。」


ペイジン「じゃあ、開けた瞬間に落ちるの?」


ニィ「足を滑らせたら、そのまま真っ逆さまニィ。」


ペイジン「軽く言わないでよッ!!!」


ペイジンは慌てて階段から一歩下がった。


ニィ「だから覗くなって言われたニィ。」


ペイジン「それ先に言ってよ!!!」


ニィ「今言ったニィ。」


ペイジン「遅いわよッ!!!」


白い宮殿に、ペイジンの叫びが盛大に響き渡った。


その時、白い宮殿の玄関側から、小さな足音が静かに近づいてきた。


コツ……コツ……。


廊下の奥に現れたのは、氷色の髪を小さなサイドテールに結んだ少女だった。


まだ幼さの残る細い身体に、透き通るような白い服。けれど、その赤い瞳だけは妙に暗く、長い夜を知っているような光を宿していた。


女の子「ただいま……ッ。」


ニィ「おかえり、クリスタ。」


ペイジン「え……ッ!!??」


ペイジンの身体が固まる。


聞き間違えるはずがない。


あの吹雪を生み、街を凍らせ、自分とニィを氷の棺へ閉じ込めた少女と同じ名前。


けれど、目の前の少女はあまりにも小さく、あまりにも静かだった。


クリスタ「……誰?」


赤い瞳が、まっすぐペイジンへ向けられる。


その視線には敵意よりも警戒と怯えが混じっていた。


ペイジン「クリスタ……なの?」


クリスタ「どうして、私の名前を知ってるの……ッ?」


ペイジンは答えられないまま、幼いクリスタの姿を見つめ続けた。


ここにいるのは、あの絶対零度の魔法を操る少女ではない。


まだ何も凍らせていない頃の、ただ寂しそうな一人の女の子だった。


ニィ「そうそう、言い忘れてたけど……あのフリスの部屋を開けた先がどうなってるかは伝えたニィ。でも、あの空間にはまばらだけど、まあまあ男性のムキムキな写真集を残してるニィ。」


ペイジン「それ、なんで早く言わないのよおお!!!」


ぺしっ!!!


ペイジンの平手が、ニィの頭へ綺麗に炸裂した。


ニィ「ぐえっ。」


クリスタ「……何してるの?」


幼いクリスタは玄関の前で立ち尽くしたまま、呆れたように二人を見つめている。


ペイジン「だってこの子、地獄に落ちるとか散々怖がらせたあとに、とんでもない情報を追加してきたのよッ!」


ニィ「地獄も写真集も本当ニィ。」


ペイジン「余計に意味分からないわよッ!!」


白い宮殿にペイジンの叫びが響き、クリスタの赤い瞳が僅かに揺れた。


クリスタ「……フリス、また増やしたの?」


ペイジン「また!?」


ニィ「常習ニィ。」


ペイジン「この宮殿、急に別の意味で怖くなってきたんだけど……ッ!」


クリスタ「……つまりペイジン、あなたは私と会ったの?」


幼いクリスタは赤い瞳を細め、確かめるようにペイジンを見上げた。先ほどまでの警戒とは違い、その表情には未来を恐れるような、静かな戸惑いが滲んでいる。


ペイジン「そうだよ!もう少し背の高いクリスタさんを最初に見て……ッ。」


ペイジンは、凍りついた広場と絶対零度の吹雪を思い出す。目の前の小さな少女と、あの孤独に満ちたクリスタが同じ人物だとは、今でも簡単には信じられなかった。


クリスタ「そう……未来の私は、まだそこにいるのね。」


少女は一瞬だけ俯いたが、すぐに顔を上げる。その赤い瞳には、年齢に似合わないほど強い決意が宿っていた。


クリスタ「もし、あなたが未来の私を手に入れたいのなら、そうしなさい……ッ!!!!」


ペイジン「手に入れる……?」


クリスタ「未来の私の心も、失ったものも、全部よ。」


クリスタは二階へ続く階段を指差し、追い立てるように声を張り上げた。


クリスタ「ほら、さっさと行くのよ……ッ!!!」


ペイジン「え、でもあの先って地獄とムキムキ写真集が……。」


ニィ「説明すると余計に行きづらくなるニィ。」


クリスタ「うるさいッ!!早く行きなさいッ!!!」


幼いクリスタの叫びに押され、ペイジンは戸惑いながらも階段へ足をかけた。その先に未来のクリスタへ繋がる何かがあると信じて。

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