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PE3魔法少女ペイジン  作者: SAI
レゾナンス編
30/31

第28話 まほうのほうきの愛のムチ♡

PE3レゾナンスからは毎週土曜日更新!!!

ニィは、さっき地面に転がっていた問題のほうきを、じっと見上げていた。

提灯の灯りを受けて、その中古の魔法のほうきはどこか妙に気取って見える。


ニィ「……ところで、そのほうきまた飛んでみてにぃ?」


ペイジンは一瞬だけ嫌な顔をした。

だが次の瞬間には、なぜか負けず嫌いの火がついていた。


ペイジン「いいよー!……って、また!? うわあああああ!!!」


ギューン!!!


跨がった瞬間、ほうきは待ってましたとばかりに急加速した。

祭りの会場の真上を、提灯を揺らしながら一直線にすっ飛んでいく。


ペイジン「ちょ、ちょっと待ってええええ!! 止まって!! 止まってってばああああ!!!」


ほうきはまるで笑っているみたいに左右へぶんぶん揺れ、突然高く跳ね上がった。

次の瞬間には急降下。

ペイジンの悲鳴が夜空に響く。


ギューン!!!

どごおおおん!!!


鈍い音と一緒に、ペイジンはほうきごと屋台裏の木箱の山へ突っ込んだ。

箱が砕け、藁と紙くずがふわっと舞い上がる。


しばらくして、その中からぴくりと腕が出た。


ペイジン「……4ぬかと思った。」


ニィは目を丸くして駆け寄る。

尻尾はぶわっと逆立ち、完全に本気で焦っている。


ニィ「ペイジン、大丈夫!?」


木箱の残骸の中から、ペイジンはのそりと起き上がった。

髪には藁が刺さり、頬には紙切れが張りついている。


ペイジンは意識を失い三途の川を見ていた。


ニィ「ペイジイイイイン!!!!」


www。


しかし、あまりの衝撃にすぐさま現世へ復帰するのであった。


ペイジン「うわ!びっくりした.....!!」

「大丈夫じゃないよ……今の完全に“飛ぶ”じゃなくて“発射”だった……。」


ニィは転がっているほうきを見て、じりっと一歩下がった。


ニィ「やっぱりそのほうき、絶対に性格悪いにぃ……!」


ペイジンはふらつきながら立ち上がり、問題のほうきをじとっと睨みつけた。


ペイジン「……あんた、わざとでしょ。」


すると、ほうきの先端がぴくっと揺れた。


ニィ「今動いたにぃ!!!」


ペイジン「やっぱ意思あるじゃん!!! しかも絶対ちょっと楽しんでるでしょこれ!!!」


祭りのざわめきの中。

ドタバタの余韻を残したまま、問題児のほうきは何食わぬ顔でそこに転がっていた。


ほうきの先端が、ぴくりと震えた。

次の瞬間だった。


ばしぃんっ!


乾いた音が響き、ほうきの枝先が勢いよくしなって――そのままペイジンの顔面を直撃した。


ペイジン「へぶっ!?」


頭がぐらりと揺れ、ペイジンは一歩、二歩よろめく。

頬を押さえたまま、その場で固まった。


ペイジン「……いっ……たぁ……!!」

「ちょっとぉ!? 今、完全に叩いたよね!?」


ニィは一瞬ぽかんとしたあと、尻尾を逆立てて飛び上がった。


ニィ「やっぱりだにぃぃぃ!! このほうき、生きてるにぃぃぃ!!!」


ほうきは地面の上で、何事もなかったかのようにころんと転がる。

だが先端だけが、わずかに得意げに持ち上がって見えた。


ペイジン「絶対わざとでしょ、今の!!!」

「しかも顔狙ったでしょ!!!」


ニィはそろそろとほうきの周りを回り込み、警戒するように目を細めた。


ニィ「中古どころじゃないにぃ……完全に問題児にぃ……!」


ペイジンはじんじんする頬を押さえながら、ほうきを指差した。


ペイジン「いい!? 私が持ち主なの! 持ち主を叩くほうきがある!?」

「飛ぶなら飛ぶ! 叩くなら叩く! どっちかにしてよ!!!」


するとほうきは、つい、と自分で向きを変えた。

まるで「うるさい」とでも言いたげに。


ニィ「態度まであるにぃ!!!」


ペイジンは数秒黙り込み、それから真顔でぽつりと呟いた。


ペイジン「……これ、私より性格強いかも。」


ニィは力強くうなずく。


ニィ「うん。確実に強いにぃ。」


祭りの灯りの下。

問題児のほうきと、叩かれて涙目の魔法少女と、完全に呆れた黒猫。


そんな妙な三人組の空気を切り裂くように――


カキン。


また、あの音が鳴った。

凍ったクロノスの噴水の方角からだった。

ペイジンとニィの表情が、一瞬で引き締まる。


ペイジン「……今の音。」


ニィ「噴水にぃ……!」


ペイジンは頬を押さえたまま、地面のほうきを拾い上げる。

ほうきは不満そうにぴくりと揺れたが、今度は叩いてこなかった。


ペイジン「……あとで覚えてなさいよ、あんた。」


そして二人は、再び凍ったクロノスの噴水へ向かって駆け出した。


凍ったクロノスの噴水の前まで駆けつけたペイジンとニィは、息を整えながら周囲を見回した。


だが――


何もない。


ひびが広がっていたはずの氷も、今はしんと静まり返っている。

提灯の明かりを受けて、噴水全体が青白く光っているだけだった。


ペイジンは眉をひそめ、そろそろと噴水の縁に近づく。

氷の表面はつるりとしていて、さっきまで何かが中から叩いていた気配すら感じられない。


ペイジン「え? 何もない……ただ凍った噴水だけ……?」

「まさか、さっきのほうきが……!???」


その瞬間だった。


背後から、聞き覚えのある嫌な風切り音がした。


ぶんっ。


ペイジンが振り返るより早く、問題児のほうきがすいっと飛んできて――


ばしいいいんっ!!!

ゲシッ!!!!


見事にペイジンの顔面を横から叩き抜いた。


ペイジン「ぐえっ!!」

「わかったから!! わかったからああああ!!!!」


両手で顔を押さえ、その場でしゃがみこむペイジン。

ほうきはその横で何事もなかったかのように、ふよふよと浮かんでいる。


ニィはじっとその様子を見て、少しだけ真顔になった。


ニィ「……違うみたいニィ……」


ペイジンは涙目のまま顔を上げる。


ペイジン「違うの!? じゃあ何で叩いたのこれぇ!?」


ニィはほうきと噴水を交互に見ながら、小さく首をかしげた。


ニィ「多分、“それじゃない”って言いたいんだと思うニィ」


ペイジン「もっと他に伝え方あるでしょおおお!!!」


ほうきの先端が、ぴしっと立った。

妙に誇らしげである。


ペイジンは頬を押さえながら、じとっとそのほうきを睨む。


ペイジン「……あんた、ほんと腹立つわね……」


するとほうきは、くるりとその場で一回転してから、噴水の真正面ではなく、少し左手の石畳の方へと向きを変えた。


ニィの耳がぴくりと動く。


ニィ「ペイジン、見てにぃ」


ペイジン「……え?」


凍った噴水ではなく、その脇。

人通りの少ない石畳の地面の一角だけが、うっすら白く曇っていた。

霜のようにも見えるが、噴水から離れているそこだけが凍っているのは不自然だった。


ほうきは、そこを指し示すように先端を上下に揺らす。


ニィ「本当に変なのは、噴水そのものじゃないにぃ!こっちにぃ!!!」


ペイジンはゆっくり立ち上がり、まだじんじんする顔をさすりながら、その白く曇った石畳へ歩み寄った。


足元にしゃがみ込み、そっと指先を近づける。


冷たい。


ただの氷の冷たさじゃない。

もっと、深いところに沈むような冷気。


ペイジン「……これ、下から来てる」


ニィもすぐ隣まで寄ってきて、地面に耳を寄せた。


ニィ「……っ」

「ペイジン。下に何かあるにぃ」


ペイジンの表情が、さっと引き締まる。


祭りのざわめきは相変わらず続いている。

たこやきの匂いも、遠くの笑い声もそのままなのに、この一角だけ空気が違っていた。


まるで地面の下に、別の夜が埋まっているみたいだった。


ペイジン「噴水は目くらまし……?」


ニィ「多分にぃ。本命はその下……いや、“この祭りの真下”かもしれないにぃ」


そのとき。


石畳の下から、かすかに音がした。


コツン。


小さく、けれど確かに。

今度は氷の割れる音ではない。


何か硬いものが、内側から叩いた音。

ペイジンとニィは同時に息を呑む。


ペイジン「……今の、聞こえた?」


ニィ「聞こえたにぃ……」


問題児のほうきも、今度ばかりはふざけず、ぴたりと静止していた。


コツン。コツン。


音は、少しずつ近づいてくる。


祭りの夜の真ん中で。

凍った噴水のすぐ脇の石畳の下から、“何か”がこちらへ向かっていた。


兵士が二人の前に立ち、凍った噴水の脇を手で示しながら、やんわりと追い返すように言った。

祭りの見回りらしく、肩には王国の紋章が入っている。


兵士「君たち、何やってるんだ。屋台の方にさあ戻った戻った。」


ペイジンは石畳の方をちらりと見て、言いかける。


ペイジン「えー、いや……」


その瞬間。


ぶんっ。ばしいいいん!!!


またしても問題児のほうきが横から飛んできて、容赦なくペイジンの頬を叩いた。


ペイジン「ぐえっ!!」


兵士がぎょっとして目を見開く。

ニィは一瞬だけ耳を伏せたあと、もう何も言うまいという顔になった。


ペイジンはじんじんする頬を押さえながら、ぎこちない笑顔を作る。


ペイジン「じゃあ、もう少し食べていこうか。星降りの時間まであと30分だよね?」


ニィはペイジンの顔を見て、それからほうきを見た。

ほうきは何事もなかったかのように、すました顔でふよふよ浮いている。


ニィ「……そうだにぃ。まだ時間あるにぃ。」


兵士はどこか納得しきれていない顔だったが、祭りの警備に戻るべきと判断したのか、小さく頷いた。


兵士「そうそう。危ないから噴水の近くでは騒がないようにな。」


そう言って去っていく兵士の背中を見送りながら、ペイジンはひそひそ声で漏らす。


ペイジン「……あのほうき、完全に“今は黙ってろ”って叩いたよね。」


兵士「なんだそれ。んなの知るか」


ニィ「うん。しかもかなり本気だったにぃ。」


ペイジンはもう一度だけ、凍った噴水と、その脇の白く曇った石畳を見た。

さっきまで感じていた違和感は、今もそこにある。

けれど祭りの喧騒の中に紛れて、無理やり隠されたみたいに静かだった。


ペイジン「……今は、いいか。」


ニィ「忘れるにぃ?」


ペイジン「忘れない。でも今は、祭りを見て回る。」

「星降りの時間まで、ちゃんと楽しむの。」


そう言って、ペイジンはほうきを小脇に抱え直した。

問題児のほうきは、今度は珍しくおとなしい。


二人は再び屋台の並ぶ通りへ戻っていく。

提灯の灯りが揺れ、焼きそばの香りと甘い飴の匂いが流れてくる。


ペイジンは無理やり気持ちを切り替えるように、ぱっと顔を上げた。


ペイジン「よし。次は何食べようかな。」


ニィ「たこやきはもう食べたにぃ。やきそばもいったにぃ。となると……」


ペイジン「りんご飴?」


ニィ「いいにぃ。」


ペイジン「でも、そのあとしょっぱいのもほしい。」


ニィ「欲張りすぎにぃ。」


二人は屋台の灯りの中へと溶け込んでいく。

笑い声。笛の音。

子どもたちのはしゃぎ声。


星降りの時間まで、あと三十分。


その三十分が、長いのか短いのか。

まだ誰にも分からなかった。

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