第29話 凍てつく願い
PE3ここからは毎週土曜日公開!!!
クリスタニールセンの過去!!??
※たまに休む時あり
提灯の明かりに照らされた屋台の前で、真っ赤なりんご飴がつやつやと光っていた。
飴の表面には祭りの灯りが映り込み、まるで小さな宝石みたいにきらめいている。
ペイジンはそれを受け取った瞬間、ぱっと顔を輝かせた。
ペイジン「わーい! リンゴ飴だあああ!!」
両手で大事そうに持ち上げ、くるっと回して眺める。
真っ赤な飴の中に、屋台の灯りと夜の色が溶け込んでいた。
ニィはその様子を見上げながら、少しだけ呆れたように言う。
ニィ「さっきまで凍った噴水だの石畳の下だの言ってたのに、立ち直りが早すぎるにぃ。」
ペイジンは笑いながら、りんご飴を目の前に掲げた。
ペイジン「だってお祭りだよ? こういうのは楽しまなきゃ損じゃん!」
「それに見てよこれ! つやつやしててかわいい!」
一口、かじる。
ぱりっ、と飴が軽く割れて、すぐにりんごの甘酸っぱさが広がった。
ペイジン「んんー! おいしい!!!」
ニィはその音を聞いて、ぴくっと耳を動かす。
ニィ「……いい音したにぃ。」
ペイジン「食べる?」
ニィ「食べるにぃ。」
ペイジンは少ししゃがんで、ニィの口元へりんご飴を差し出した。
ニィは慎重に前足を揃え、ちょこんとかじる。
ニィ「……あまいにぃ。」
「でもちゃんとりんごの味もするにぃ。」
ペイジン「でしょー?」
二人は並んで歩きながら、りんご飴を少しずつ減らしていく。
屋台の灯りはどこまでも続き、笑い声が絶えない。
祭りの夜はまだ終わらない。
噴水の違和感も、石畳の下の音も、今だけは少し遠くに置いておく。
ペイジンはりんご飴をまた一口かじって、満足そうに目を細めた。
ペイジン「……やっぱり、お祭りっていいなあ。」
その言葉に、ニィも小さく頷いた。
ニィ「うん。……でも、星降りの時間が近づいてるにぃ。」
ペイジンは夜空を見上げる。
黒く澄んだ空の奥で、星がいつもより少しだけ近く見えた。
星降りの祭りが幕を閉じ、昨夜のにぎわいが嘘のように静まり返ったクロノスの街。しかし、その静寂は平穏なものではなかった。広場の中心へと続く石畳は、月明かりを浴びて異常なほど白く輝いている。それは霜などではなく、厚い氷の層だった。街灯の柱は根元から凍りつき、噴水の水もまた、空中で跳ねた形のまま静止している。
広場の中央には、一人の少女が立っていた。氷のように透き通った長い髪を高い位置で一つに結び、ポニーテールが夜風に揺れている。彼女が吐き出す息は白く、その足元からは絶え間なく冷気が溢れ出していた。
ペイジン「誰?」
ペイジンは、手にしたスリーピィーステッキを強く握りしめ、警戒を露わにしながら一歩前へ出た。隣に浮遊する相棒のニィも、いつになく真剣な表情でその少女を見つめている。
少女はゆっくりと顔を上げた。その瞳は冷たい氷の色をしていたが、そこには明らかな苦悩の色が混じっていた。
クリスタ「私はクリスタ。あなた、私を止めて」
クリスタの声は震えていた。助けを求めるようなその言葉とは裏腹に、彼女の周囲の魔力は激しさを増していく。地面から鋭い氷の棘が次々と突き出し、ペイジンの足元まで迫る。
ペイジン「なんでッ!!!」
ペイジンは間一髪で後ろへ飛び退いた。空気が一瞬で凍りつき、肺の奥まで痛くなるような寒さが襲う。クリスタの背後には、氷の結晶で形成された巨大な翼のような魔力の奔流が渦巻いていた。
クリスタ「お願い。この力が、街を飲み込む前に」
クリスタの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちるが、それは頬を伝う前に小さな氷の粒となって砕け散った。彼女の意志とは無関係に、広場一帯の気温が急速に下がり始める。
ニィ「ペイジン、この子の魔力はもう限界ニィ!放っておけば街全体が永久氷壁に閉じ込められてしまうニィ!」
ペイジン「そんなこと、させるわけないじゃない!」
ペイジンは叫び、魔法のほうきを召喚した。昨日の暴走が嘘のように、ほうきは主人の危機を察してか鋭く空を切って現れる。しかし、クリスタから放たれる絶対零度の障壁は、近づくものすべてを拒絶するようにその密度を増していく。
クリスタ「来ないで。凍りついてしまう。でも、止めて。私を」
矛盾した願いが、冷たい風に乗ってペイジンの耳に届く。クリスタの周囲には、すでに巨大な氷の城壁が築かれようとしていた。
ペイジン「クリスタ、あなたの名前、覚えたわ。勝手に一人で凍って終わらせようなんて、そんなの許さないんだから!」
ペイジンはほうきに飛び乗り、上空へと舞い上がった。眼下に広がるのは、白銀に変貌しつつあるクロノスの街。クリスタを中心とした魔力の渦が、夜の闇を青白く塗りつぶしていく。
ニィ「どうするつもりニィ!?まともに突っ込んだら凍像にされるニィよ!」
ペイジン「あの子の涙を見たでしょ!力ずくでも止めて、一緒に温かいスープでも飲ませてあげるんだから!」
ペイジンはステッキを真っ直ぐに突き出した。先端の宝石が、主人の決意に応えるように熱い輝きを放ち始める。氷の少女クリスタと、それに向き合うペイジン。静まり返った夜の広場で、二人の魔力が激突しようとしていた。
クリスタ「ああ、熱い。その光が、もっと近ければ」
クリスタは絶望の中に、わずかな希望を見出したかのように目を細めた。しかし、彼女を覆う氷の鎧は、主を守るためではなく、主を閉じ込める檻のように強固になっていく。
ペイジン「行くよ!フルパワーで駆け抜けるんだから!」
極寒の空の下、ペイジンは白銀の嵐の中へと突っ込んでいった。
クリスタを中心とした魔力の渦が、広場を飲み込むように膨れ上がっていく。あまりの冷気に、ペイジンが跨る魔法のほうきさえもパキパキと凍りつき始めた。
ペイジン「....とにかく逃げるわよ!!」
ペイジンは強引にほうきの機首を翻し、クリスタから距離を取るように急加速した。
ニィ「ええ!なぜニィ!???さっきはあんなに威勢よく突っ込んでいったニィよ!」
隣を飛ぶニィが驚愕の声を上げるが、ペイジンは歯を食いしばりながら背後を一度も振り返らない。
ペイジン「今のあの子、力が暴走してるだけじゃないわ!近づくだけでこっちの魔力まで吸い取られる!このままじゃ二人とも氷漬けよ!」
しかし、二人の撤退をクリスタは許さなかった。彼女の瞳が青白く発光し、凍てついた広場全体が共鳴するように震え出す。
クリスタ「逃がさない....ッ!!私を1人にしないで....ッ!!!!」
クリスタの悲痛な叫びと共に、石畳から巨大な氷の鎖が何本も伸び上がり、生き物のようにペイジンたちを追いかける。それは、誰かに側にいてほしいという切実な願いが具現化した、あまりに重く冷たい呪縛だった。
ニィ「鎖が追ってくるニィ!ペイジン、もっとスピードを上げるニィ!」
ペイジン「わかってるわよ!でも、この寒さでほうきが思うように動かないの!」
背後からは、すべてを凍らせ、停止させる死の静寂が迫っていた。クリスタの涙は止まらず、彼女が求める「ぬくもり」を拒絶するように、その力は街を白銀の地獄へと変え続けていく。
ペイジン「逃げるだけじゃダメね.....。どこかで体勢を立て直さないと!」
氷の鎖が空中で弾け、細かな氷晶の礫となってペイジンの行く手を阻む。退路は刻一刻と、美しく残酷な氷壁によって塞がれようとしていた。
ペイジンが必死に高度を上げようとしたその時、足元の魔法のほうきが、不気味な音を立てて激しく震え出した。凍りついた穂先が赤黒く光り、意思に反して明後日の方向へと突き進む。
ぎゅぎゅううううん!!!
どごおおおん!!!
制御を失ったほうきは、空中で円を描くように迷走した後、猛烈な勢いで地面に向かって真っ逆さまに突き刺さった。広場の石畳が激しく砕け、土煙と氷の破片が舞い上がる。
ペイジン「きゃあああああ!!!」
ペイジンはほうきから放り出され、冷たい地面の上を何度も転がった。全身を打った衝撃で、視界がぐらぐらと揺れる。
ペイジン「ちょっとまた何してんのよッ!!しかもこんな非常事態にッ!!!!」
ペイジンはボロボロになった服を払い、地面に突き刺さったままピクリとも動かない魔法のほうきに向かって怒鳴り声を上げた。昨日の暴走と同じ、いや、それ以上に最悪のタイミングでの故障だった。
ニィ「ペイジン、大丈夫ニィ!?今はほうきに怒ってる場合じゃないニィ!すぐ後ろを見てニィ!」
ニィの切迫した声に顔を上げると、そこには立ち上がったばかりのペイジンを影が覆っていた。
クリスタ「捕まえた.....。もう、離さない.....」
クリスタの背後に浮かぶ氷の翼が、影となってペイジンを飲み込んでいく。急落下の衝撃でステッキを落としてしまったペイジンの目の前で、冷酷なまでの絶対零度が牙を剥こうとしていた。
ペイジンと黒猫ニィの周囲を、猛烈な勢いで回転する吹雪が巨大な円を描くようにして囲い込んだ。その壁は高く、外の景色を完全に遮断するほど濃密で、逃げ場を許さない氷の檻と化していた。
ペイジン「ひぃッ!!寒い.....」
あまりの低温にペイジンの指先は感覚を失い、吐き出す息さえも目の前で凍りついていく。ガタガタと震える体を抱きしめるのが精一杯で、先ほどまで握っていたステッキを拾い上げる余裕さえない。
ニィ「退路を絶たれたみたいニィ....!」
ニィは毛を逆立てて周囲を警戒するが、上下左右、どこを見渡しても白銀の嵐が吹き荒れている。この円の内側から出ることは、死を意味するほどの極寒に身を投じるのと同義だった。
クリスタ「もう、どこにも行けない。あなたも、私と一緒にここで凍るの」
吹雪の円の中央で、クリスタが静かに手を広げる。彼女の周囲だけは風が止んでいたが、その瞳には凍てついた孤独が深く沈んでいた。
ペイジン「そんな.....。一緒に凍るなんて、冗談じゃないわよッ!」
ペイジンは震える声で叫び返すが、足元の石畳からは霜が這い上がり、彼女の靴を地面に縫い付けようとしている。
ニィ「ペイジン、なんとかしてこの吹雪を突破しないと、本当にここで氷像にされてしまうニィ!」
追い詰められた一人の少女と一匹。逃げ場のない白い監獄の中で、クリスタの悲しみに満ちた魔力だけが、どこまでも冷たく膨れ上がっていった。
クリスタ「私の力でこの世界の子供たちに極寒の夢を見させるの.....冷たく氷みたいな....絶対零度を...ッ!!」
クリスタが両手を高く掲げると、周囲を囲む吹雪の壁がさらに巨大な渦となり、空を覆い尽くさんばかりに逆巻いた。彼女の瞳からは青白い光が溢れ出し、その冷気は魂の芯まで凍えさせるような重圧を放っている。
ペイジン「そんなことさせないッ!!」
ペイジンは凍える足に力を込め、目の前の少女を真っ直ぐに見据えた。寒さで震える唇を噛み締め、恐怖を振り払うように叫ぶ。
ニィ「ペイジン、あの子の魔力が限界を超えて、街の外まで広がろうとしてるニィ!これ以上やらせたら、本当に世界中が眠ったまま凍りついてしまうニィよ!」
クリスタ「みんな、静かに眠ればいい。悲しいことも、苦しいことも、全部凍らせて.....私が守ってあげるの。この永遠の氷の中で.....ッ!!!」
クリスタの背後から放たれた絶対零度の余波が、広場の建物を次々と白銀の結晶に変えていく。ペイジンの目の前で、石畳がダイヤモンドダストを巻き上げながら鋭い氷の牙へと姿を変え、一斉に牙を剥いた。
ペイジン「守るなんて、そんなのただの押し付けよ!子供たちが求めてるのは、冷たい夢なんかじゃない、温かい明日なんだから!」
ペイジンは地面に落ちていたスリーピィーステッキを必死に手を伸ばして掴み取った。ステッキの先が微かに熱を帯び、彼女の周りだけわずかに氷が溶け始める。
クリスタ「黙って.....!温かさなんて、いつか消えるわ!氷だけが、永遠なの.....ッ!!」
クリスタの絶叫と共に、円を描いていた猛吹雪が内側へと凝縮し、巨大な氷の嵐となってペイジンを飲み込もうと襲いかかった。
.....なお、のちの86伝説のクリスタニールセンなのであった......w
次回 絶対零度




