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レイザン、アルルーナとの出会いを思い出す

「わあ〜〜アガート王国だ!ゲームで親の顔より見た」

王都に着いてからというもの、カンナのテンションが高い。

カンナのやっていた恋愛シミュレーションゲームでは、アガートやリトゲニア、イリョールやマーヒトガイヒが舞台となっていたそうだ。

大きい街は路地裏まで再現されていたようで、私はカンナに案内されながら王都を歩いた。


「あれが書籍館だよ!レイ兄は行ったことあるんだっけ」

カンナが指差す方向には、高い石壁に囲まれた大きな館がある。

「ああ、昔マーヒトガイヒを建国したとき、無理を言って訪ねさせてもらった」

あの時は、書籍館の創設者シャルルがサーシャお嬢様の生まれ変わりかもしれないという情報を聞いて、すぐ向かおうと思ったのだが。

シャルルがイスミトを離れた原因でもあるイリョール北部の戦争を治めるのが先決であった。

放って置くと書籍館どころかアガート、イリョールも無くなり、この大陸北部が混乱に陥ってしまうところだったのだ。


リトゲニアとイリョールの間に小さな国がいくつかあったので、その中で可能性のありそうな王子を煽って周囲の国をまとめ、マーヒトガイヒ共和国を建国させた。

私の指示を受けたマーヒトガイヒ軍の勢いはすさまじく、あのリトゲニア軍も引いたほどだ。

さらに、書籍館のあるアガート王国がリトゲニアに吸収されそうになっていたので、それを止めるよう圧力もかけた。

あの妙なカルド条約は、私が裏から手を回して書籍館を守るように仕向けたものだった。

マーヒトガイヒには書籍館を見守るようによく言い聞かせておいたが、300年以上経った今では、それが曲解されて伝わっているようだ。



「ゲームではね、どんな相手を選んでも書籍館の令嬢がライバルになるんだよ。すごく権力があってね、王子も逆らえないの」

「王子よりも権力があったら国がおかしくなるだろ」

「まあそこはゲームだからさ」


カンナとともに書籍館へ入ると、中は結構賑わっていた。

受付らしきところで職員に声をかけると、看板を示される。

「図書の閲覧ですか?貸出ですか?それとも、ご相談でしょうか」

看板はメニュー表のようになっており、本の冊数に応じた値段が書かれていた。

相談の部分は空白だったので、職員に訊く。

「相談はいくらになりますか?」

「内容によりますが……」

「ええと、書籍館の創設者について詳しく伺いたいんです」

職員は少し待つように言い残して、奥に座っていた上席らしき人物と話しだした。

そして戻ってくると、メモを受付カウンターに置く。

「明日は無理ですが、明後日以降、この時間ならご対応可能です。そのご相談内容なら短時間で終わると思いますので、料金は500マイツくらいかと」

「わかりました。では明後日の午前のこの時間で」

前金として250マイツを支払い、書籍館を後にした。



「明日一日暇になったな」

「ねえレイ兄。なんかアガートって、こんなにむさ苦しい所なの?」

そうカンナに言われて周りを見渡せば、確かに武器を携行した筋骨隆々の男が多い。

まるでリトゲニアだと思い、アガートはそんな感じでは無いはずと記憶を辿っていると。

「あ。ごめん自己解決したわ。ニュースサイトに出てた」

カンナから送られてきたリンクを見ると、密航者が運営するサンドラ大陸のニュースサイトの記事だった。

なんでも、明日はアガートの闘技場で剣闘士大会が行われるそうだ。

「なるほど。その参加者たちなんだな」

「優勝賞金10万マイツだって。レイ兄出たら?」

「優勝なんてしたら軍にスカウトされるぞ。あーでも、3位でも1万マイツか。3位狙いなら良いかもな」

「いーじゃん!それで美味しいもの食べよ」



サンドラ大陸の食事は悪くない。

どうも、過去に転生者として日本から星に連れてこられた者たちが、まず改善したのは食だったようだ。

なので我々の口に合う料理がどこでも食べられて、カンナは喜んでいた。

美味しそうに食事をする妹が幸せそうなので、このときもつい美味しいものを食べさせてあげたくなり、大会に出ることにした。


この大会に出なくても、明後日相談に行けば出会うことはできたのだろう。

しかし、それより先に出会えたのはやはり運命だったのではないだろうか?




大会当日、カンナは荒事は見たくないので王都を観光すると言って出ていった。

一人で歩かせるのは少し不安だったが、宿屋にいた霊に監視を頼んだ。

宿で亡くなったらしい彼は、星への還り方が分からなかったようなので、妹を見ていてくれたら星に還してあげると言ったら請け負ってくれた。

カンナには内緒だ。あいつは意外と幽霊とかが怖いらしい。




闘技場の周りは、参加者と貴族の馬車で混み合っていた。

自分の順番はまだ先であることを確認し、少し時間があるのでカンナがどうしているか位置測定システムを見た。

王立美術館に行っているようで、あそこならスリ以外にはそれほど危ないことは無いだろうと安心する。


立ち止まっている私に、後ろから声がかけられた。

「あの、すみません」

振り向くと、まず明るい黄色の巻髪が目に入る。

そして少し切れ上がったグレーの瞳。

そこには、まるで天使のような少女がいた。


「はい?俺ですか?」

本当に自分に話しかけているのか?

聞き返すと、少女は不安そうな顔をする。

「私、人とはぐれてしまって……大会の運営本部はどちらかわかりますか?」

なるほど、迷子になった貴族令嬢か。

確かに私は周りの筋肉ダルマたちに比べたら話しかけやすかったかもしれない。

しかし、貴族の令嬢を連れ回したら誘拐の疑いをかけられる。

こんなに可憐な少女だ。私といたら誘拐にしか見えない。


とても小柄な少女だったので、私は膝をついて目線を合わせた。

久しぶりに人に膝なんかついたせいか、サーシャお嬢様にしたときのことを思い出させる。

「今はぐれたばっかりですか?その人の名前は?」

「えっと……わたしの父で、ジュダといいますが」

父親ならすぐに探してくれているだろう。

ならばと、立ち上がって周りに声をかける。


「ジュダさーん!!お嬢さんはここですよーーー!!ジュダさーーん!」


幸い私の背は高いので、人混みの中からこちらへ向かってくる帽子が見えた。

すぐにその子は父親と再会でき、父親の方は安堵で半泣きになっていた。


「ありがとうございます、あの、お名前は……」

立ち去ろうと思ったら、少女に名を聞かれてしまった。

名乗らず去るのが格好いいのだろうが、そんな格好をつけるのは私には向いていない。

「レイザンです。良かった。もう、はぐれたらだめですよ」

つい、サーシャお嬢様と話していたときの事を思い出してしまい、顔がほころぶ。

少女の瞳の色のせいだろうか。



「娘がご迷惑をおかけしました。レイザンさんは大会に出場なさってるのですか?」

ジュダと呼ばれた少女の父親からも礼をされてしまう。

言葉は優しいが、身なりからしてちゃんとした貴族のようだったので、礼を失しないように気をつけて話す。

「ええ、ちょうど一試合目が終わったところです。旅の途中に面白そうな大会をやっていたので、ちょっと力試しをと思いまして」

本音を言えば、賞金目当てなのだが。


その後は普通ならば「頑張って下さい」的な言葉を貰って終わり、別れるところだろう。

しかしその時は違った。


「あの、私の護衛になっていただけませんか」


少女がいきなりそんなことを言うので、脳が処理できずに固まってしまった。

何よりも。

その言葉に、私はサーシャお嬢様を感じたのだ。

少し熱を帯びた、私を見る目。

もしかして。

もしかしてこの子は。



呆けていると、少女の父親が困った顔をしながら説明してくれた。

「申し遅れました。私は書籍館館長の息子ジュダ、これは娘のアルルーナです」

それを聞いてもう一度驚いた。

書籍館だって?

私の探している人は書籍館を最後に足取りがわからない。

そんな所の令嬢が、私に一目惚れをしたって?


「うちはアガート王国の貴族の端くれをやっておりまして。身代金目的などで、狙われることも多いのです。そこで今日はここに娘の護衛を探しに来たところで」

それは許しがたい。

すでに私の心は、このアルルーナ嬢に傾いている。

「娘はあなたが気に入ったようです。なぜだか分かりませんが……どうでしょうか。旅の途中とのことで、難しいかもしれませんが……」

「いいですよ」

即答すると、ジュダ氏もアルルーナ嬢も目を見開いた。


「書籍館に雇って頂けるなんて光栄です。あの、可能なら俺……私の妹も一緒に雇って頂けるとありがたいのですが」

「妹さんも一緒に旅を?」

「はい。今は街を観光してると思います。一応お嬢様の従者のようなことは一通りできる奴ですので」

と言ってもゲームの知識だが、できるはずだ。

カンナのやっていたシミュレーションゲームはかなりリアルに作り込まれていた。

本当のアガート貴族に仕えられると聞いたら、喜ぶだろう。


「うーん……旅の続きはいいんですか?無理にとは言わないので……」

そこまでジュダ氏が言ったところで、アルルーナ嬢のローキックが彼の膝裏に決まった。

ジュダ氏が痛みにうめいている隙に、アルルーナ嬢がこちらへ微笑む。

「よろしくお願いいたしますわ。レイザンさん」

「はい。もう敬語で話して頂かなくてもよろしいですよ。アルルーナお嬢様は私の雇用主ですので」

そう言うとまたアルルーナお嬢様は固まってしまった。

顔が真っ赤になっていてとても愛らしい。


「サーシャお嬢様……」


つい彼女の名前を口走ってしまう。

しかしアルルーナお嬢様は何も気づかぬようだった。


彼女ではない。

いや、まだ記憶が戻ってないだけかもしれない。

しかし、もしサーシャお嬢様とは何も関係がなかったら?

私は無駄な時間を過ごしてしまっているのでは?

それに、サーシャお嬢様への裏切りにならないか?


でもアルルーナお嬢様には彼女の魂を感じるんだ。

それを言い切れる証拠はない。

自分の感覚と記憶しか頼りにならない。

それも、700年前の。



ぐるぐると思考がまとまらず、考え事をしながら大会に出ていたら、いつの間にか優勝していた。

うっかり目立ってしまったがために、様々な貴族からオファーが殺到する。

全て先約を理由に断ったが、かなり地位のありそうな貴族からは嫌な顔をされてしまった。

変に目をつけられただろうか。

まあ、全部蹴散らせばいい。

私は彼女の護衛なのだから。



アルルーナお嬢様が、サーシャお嬢様の生まれ変わりだとしたら。

いつか記憶が戻るかもしれない。

戻らなかったとしても、それならば恐らくサーシャお嬢様の記憶はもう星に還ってしまっているのだろう。

生まれ変わりでもなんでもない、全く関係のない人間だったとしても、その人に魂を揺さぶられている時点で、私の記憶はもう消えかけているのだと思う。

これが諦めるタイミングなのかもしれない。



私はそう考えて、長い人生の最後の仕事にアルルーナお嬢様の護衛を選んだ。




護衛の仕事もすっかり慣れたある日のこと。

「おじょ〜さまぁ、この本はもう片付けていい本っすか?」

カンナが間違った敬語で話す。

大陸共通語は旅の間も色々と指南したのだが、敬語は難しいようだ。

「それは今読んでる本の参考にするから置いておいて。あと、この本を書庫から取ってきて頂戴」

「はぁ〜い」

メモを渡されたカンナが出て行き、お嬢様と部屋でふたりきりになる。

少し緊張してしまう。


「レイザン。あのね」

お嬢様が声をかけてきた。

少し甘えたような声に心臓が跳ねる。

「はい。何でしょうか」

「私、第一王子と婚約させられるらしいの」


瞬間、体中の血の気が引いた。

あまりにショックで魂が暴走しそうになる。

後から聞いたら、その日に邑日総研の霊魂研究所にある計器が一斉にメチャクチャな数値を叩き出したらしいので、少し漏れ出ていたようだ。



「それは、おめでとうございます」

口は感情と裏腹に理性的な返事を返す。

「おめでたくなんかないわよ。あんなバカ王子、私の手に余るわ」

アガートの今の第一王子はいい噂を聞かない。

あんな男にお嬢様を?と思うと、この国を滅ぼしてやろうかとすら思う。

「でもね。断れないんですって。貴族なんてバカバカしいわよね。家出してしまおうかしら」

お嬢様は何でもないかのように言うが、心の中はそうでないことは見ただけでわかる。

一緒に逃げようと、言えたら良かったのだが。

そうしたらこの書籍館は無くなってしまうかもしれない。

それはお嬢様を深く傷つけるだろう。


「……レイザンは、私が嫁いでも一緒に来てくれる?」

「もちろんです」

「……ああ、でも、いいわ。あなたがいたら、毎日辛くなってしまうかも。私が結婚したら、ここを辞めてまた旅に出て頂戴。顔を見なくて済むように」

確かに、私もそんな状況に置かれたら、いつの日か爆発して全て壊してしまうかもしれない。

私はお嬢様の言葉に返すことができず、カンナが戻ってくるまで部屋の中は静かだった。





その後一年も経たずにお嬢様が婚約破棄をして、旅に出ることになったのは本当に急なことだった。

これまでお嬢様は外出されることがあまりなかったため、外での護衛経験が足りず、リトゲニアではお嬢様を奪われる事態となってしまった。


「カンナ!お嬢様が拐われた」

走りながらカンナに通話を繋げる。

人の目など気にしている場合ではない。

「はぁ!?レイ兄がいるのに何やってんの!?」

「発信機の位置に向かう。お前は位置をセキエイと共有して、リトゲニア軍を動かせ!」

相手は馬車のようだ。みるみるうちにお嬢様は遠ざかっていく。

下唇を噛むと血の味がした。


行く先は見知らぬ館のようだ。

魂のつながりを追って攻撃を仕掛けるより、走ったほうが早い。


もしお嬢様に何かあったら。

2回目の生まれ変わりのとき、サーシャお嬢様がすでに亡くなっていたことを聞いた瞬間の感覚を思い出す。

二度とあんな思いはしたくない。

もしお嬢様に何かあったら、私はこの大陸を道連れに星へ還ってやる。




お嬢様は無事軽症で助け出すことができた。

しかしやはり誘拐のショックは大きかったようで、カンナと行った診察室からお嬢様の泣いている声が聞こえた。

ああ、なぜお嬢様を慰めているのが私ではないのだろう。

無力感を感じながら待合室の長椅子に寝そべり、目を閉じた。





そういえば、リュカナのカイセン教会には山名がいた。

彼は前世で私の教えを受けたことがある若者だった。

今ではだいぶ歳を取り、リトゲニア支部の支部長だかなんだかになっているようだ。

当然こちらには気づいていない、と思っていたが、知っていたけど気づいていないふりをしていたと後から聞いた。

からかわれたのだろうか。若者の考えはよく分からない。



その少し後、お嬢様がカンナの夢を見たと言っていた。

聞いてみると、どうも魂過多による夢干渉が起きているようだ。

この位の年齢ではたまにあることなので、様子を見ようと思う。


カンナにはアルルーナお嬢様が私の探している人かもしれないことは伝えていない。

それに、サーシャお嬢様の記憶がない彼女とは、結婚しようと思わない。

それはどちらに対しても裏切ることになってしまうから。


私はずっとサーシャお嬢様の面影を、アルルーナお嬢様に探してしまう。

サーシャお嬢様にはもう一度会うと約束したのに、会えぬまま他の人と結婚するなんて。

サーシャお嬢様の記憶はもう無いと諦められた今、私も記憶を捨てて、魂の生まれ変わり同士がまた出会う偶然を祈ろう。



せめて今生は、お嬢様を全身全霊で守り、幸せになるのを見届けて終わりたい。

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