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レイザン、総理と会談する

珍しく少し眠っていたらしい。

いつの頃からか、夜にあまり眠らなくなった。

魂が重くなり星に引かれにくくなったのだろうか。


椅子から起き上がると、タイミング良く緑之から連絡が入った。

「伶、いま大丈夫か?」

「ああ。暇していたところだよ」

そう言いながら、インテリアデザインシステムにミーティングルームのアセットを挿入する。

瞬く間にナノマシンがシンプルな椅子と机を組み上げた。


椅子に腰掛けると、机を囲むように緑之ともう一人の男性が表示される。

日本の総理だ。確か、こちらの大陸に来る前は女性だったが最近代わったと聞いた。

すぐ変わるので名前を覚えていない。

アカウント名を見るも『日本国総理』となっていたので、慌ててサブウィンドウで名前を検索した。



「初めまして、中村総理。秋浦零残です」

名乗ると、総理はにこやかに笑って応える。

「初めまして。邑日会長より、真堂博士の9回目の生まれ変わりと伺っております。この度はご迷惑をおかけしたそうで」

緑之の言うことを疑わずに信じてくれたようだ。

話が早くて助かる。さすが緑之、伊達に権力持ってない。

持つべきものは友だ。


「過ぎたことはいいんです。今後、我々を追わないで頂ければ」

そう返すと、総理の眉が少し上がる。

「……ですが、そちらの大陸と日本が接触するにはまだ早いと思います。それに、博士の攻撃でこちらにも被害が出ていまして」

総理がいくつかの3Dと文章を表示する。

中には生々しい傷跡をそのまま映したものもあった。

「今回、博士の攻撃によって外傷を受けた者が13名、霊傷を受けた者が25名おります」

「そうですか」

「……あなたを、『秋浦零残』として逮捕することも可能なのですよ」


ひりついた空気をあてられる。

しかしそれが何だというのか。

「やれるんですか?私たった一人に38人も損害を出したというのに」

「相手があなたと分かっていれば、対処方法はいくらでもある」

すでに総理の顔から笑みはない。

霊魂学は現在一般的な技術となっている。

魂を守る方法や攻撃方法は多々あり、その技術は日進月歩である。

政府軍にもそれらの装備はあるため、それをもって私を拘束しようということなのだろう。


しかしそれは私を見くびり過ぎである。


私は呆れて、手に此岸の剣を実体化した。

「こちらこそ、命を取っていいのなら殺り方はいくらでもある」

剣先だけ距離を飛び越えて総理の首元に飛ばすと、総理のSPが飛んできた。

私は剣から魂を辿り、総理の近くにいるSPを含めた4名の魂を夢階層へ強制的に押し込む。

ドサドサと人が倒れる音とザワつく声が聞こえた。

私から見える総理の顔は、血の気が引いて真っ白に見える。


「伶、そんくらいにしとけ。オッサンたちがドン引きや」

緑之が間に入り、私は剣を引く。

「すまない。交渉事は苦手でね……」

「なあ中村。こいつ見た目は繊細そうに見えるし博士って呼ばれたりしとるから誤解されやすいんやけどな、かなりの脳筋なんや。煽らんほうがええぞ」

総理は剣の刃先が当たっていた首元を押さえながら、息を整えている。

「し……失礼を致しました。先程の損害については、正当防衛ということで処理いたします」

総理が合図をすると、表示されていた被害額などの文字や映像が消えた。


「……っですが、日本大陸の存在をサンドラ人に伝えるのはまだ待って頂きたい。せめて、そちらの技術で大陸間航海ができるまでは」

「別に私は、それを目的としていない。隠したければ隠せばいい。ただし、私と共にいた3人は除外してもらいたい」

総理が、思惑が外れたかのように目を瞠る。


成程。私の行動はそう捉えられるのか。

総理は不思議そうに言う。

「サンドラ大陸開放のためにそちらに行ったのではないのですか」

「そんな事がしたいなら、これまでの人生ですでにやっている。今回は偶然同行者が秘密を暴いてしまっただけのことだ」

「ではなぜ、サンドラ大陸なんかに……」


私は、現在日本ではサンドラの最期がどのように伝えられているかを思い出した。

サンドラのドキュメンタリー映画、あれは途中まではサンドラの手記を参考にしているため正確だが、終盤の展開は脚色が多い。

それはそうだ。サンドラの最期を見たのは私しかいないのだから。


私は生まれ変わってもそれを訂正しなかった。

どうでも良かったからだ。

それにサンドラの手で私が殺されたことが知れれば、それはそれで問題になっていただろう。

あの映画は誰かの都合が良いように作られたフィクションだ。


だから、私が何故生まれ変わるのか、なぜ毎回サンドラ大陸に渡るのかを知っているのは緑之と研究所の一部の者くらいだ。

総理の質問でそれを思い出し、少し言葉を選んで答えた。


「人を探しに。サンドラの娘のサーシャが、私と同じように生まれ変わっているはずなので」

そう言うと総理は納得がいかない顔をする。

「博士のように生まれ変われる人間が他にいるのですか?邑日会長のようにテクノロジーの力で延命しているわけではないのでしょう?」

「そうですね……。9回生まれ変わって、ついに見つけられませんでした」

少し間があり、総理は「それは……残念です」とだけ返してきた。



私のことを馬鹿だと思うだろうか。

一人の女性、それも数ヶ月しか共に居なかった女性を追いかけて、700年の時を生きるのは。



死んだあと、いつも困るのは次に入る肉体探しだ。

なかなか自分の魂に合う体が見つからない。

そしてうまく体を見つけても、記憶が戻るのは12〜14歳頃。

10年以上のタイムラグがそこで起きてしまう。


最初の生まれ変わりのときは大変だった。

まず前世の知り合いに連絡を取りたくても、中学生の少年に取れるアポなんてない。

邑日グループの御曹司である緑之なんてまず捕まらないので、私は霊魂学会の研究発表大会に潜り込み、関屋さんに話しかけた。

しかし最初は軽く流されてしまったので、関屋さんのいるセッションでボコボコに質問をしていったら流石に気づいてもらえた。


そこから緑之に繋いでもらい、無理矢理サンドラ大陸への密航を果たす。

だが、彼女はもういなかった。

娘のレイシャを遺して。



私が大陸に渡る数年前に、聖女として他の男の子を産むように強制されそうになった彼女は、自害したそうだ。

私を殺したサンドラの銃で自らを撃ち。



レイシャは彼女の跡を継いで聖女となっていた。

サーシャお嬢様はサンドラが考えた『イスミト教計画』をそのまま進めていたのだ。

レイシャはサーシャお嬢様が遺した日記をもとに、その計画を引き継いでいた。

そこに私が現れたので、私は娘によって神人様の降臨として崇められることとなる。



イスミト教計画は、サンドラがサーシャお嬢様の安寧を願って考えたものだった。

娘に聖女という権力を与え、飢えることなく生きて欲しいと思ったのだろう。

サーシャお嬢様も、そして自分の娘と対面した私も、その計画に乗った。



私はサーシャお嬢様が生まれ変わって戻ってくることを願いながら、レイシャの聖女としての地位を盤石にするために動いた。

科学も、霊魂学も、使えばすべて神人の御業となる。


レイシャは聖女として崇拝され、イスミト教は地球の記憶をなくした人々に広く受け入れられた。

私は神人としてあまり表には出ないようにし、イスミト教が大きくなるのを見守った。


しかしレイシャが結婚し、孫が何人も産まれても、サーシャお嬢様は戻ってこない。

生まれ変わりに失敗したのでは、という考えが頭をよぎる。

それはおそらく一番可能性のある結論だったが、私がそれを信じるわけにはいかなかった。



孫が成人する頃、緑之に帰って来いと言われた。

肉体年齢が生まれ変わった私より15ほど年上の彼は、すでに老人だ。

私もそれほど若くはない体だったので、日本に戻るには最後のチャンスだった。

また大陸を徒歩で横断し、東海岸から密航船で日本に戻る。



緑之には2つの選択肢を迫られた。

諦めて今生で死ぬのか、何度でも生まれ変わって探し続けるのか。

私は後者を選び、緑之はそれに付き合ってくれると言った。



「何ボーッとしとるんや。話の途中やぞ」

緑之の声に、目の前のものがまた見えてくる。

「ちょっと記憶が多すぎてね。一度思い出し始めると止まらなくて」

「しっかりせえよ。俺みたいに記憶消したらええやん」

「いつか役に立つかもと思うとなかなかね」


談笑していると、総理が話の筋を元に戻す。

「こ、こちらとしては、日本大陸の存在を知らしめるようなことをしないと約束して頂けるのなら、あなた方を追うのは止めさせます」

「ありがとう。それなら私も手を汚さずに済む」

総理はまだ視線を左右させていたので、何か聞きたいことがあるように見えた。

「まだ何か?」

「……参考までに、真堂博士がやろうと思えば、どの程度の規模までの事が可能ですか」


こう年重の男性に怯えた目で見られると、まるで自分が化け物になったかのようで居心地が悪い。

そういえば最初に死んだときにもサンドラに「化け物」と言われたな。

私はあの時に本当に化け物になってしまったのかもしれない。


「考えたことはないですが、この星の規模なら人間全員の魂を刈り取るくらいはできるんじゃないですかね」

時間をかければできないこともない。

やるメリットがないのでやらないが。

「は、ハハハ」

総理は顔を引きつらせながら笑う。

「中村、こいつは冗談とかが苦手でな」

その顔のまま総理は固まった。

「それに、こいつがおらんでももうサンドラ大陸では蒸気船が実用化されとる。文明衝突の心構えをしとくんやな」

「……私の任期中でなければ、良いですが」

それは冗談のように言った本音に聞こえた。





総理との話はそれで終わり、その他ほとんどの交渉は緑之に任せた。

緑之がいるのといないのとではこの700年の難易度が段違いだ。

一度彼に聞いてみたことがある。

なぜ自分のサポートをしてくれるのかと。


「そらお前みたいな奴放置したら、この星メチャクチャんなるやろがい」

自分の会社の発展と永続のためが第一だと言った。

そして、自分は他人を信用していないとも。

「例えば俺の子孫とかに、お前のことを言い伝えておくことも考えたんやけどな。先祖の言い伝えなんか聞かんやろ。俺自身が聞かんもん」


それに、と緑之は続ける。

「親友の恋の手助けをするんは、友として当たり前やろ」

からかうように言われ、つい手が出て殴り合いになったのもいい思い出だ。





大陸への足がかりとして、東海諸島への密航路を開く事から始まり、東海諸島の開拓、カイセン教会をカモフラージュとしたサンドラ大陸インターネットの整備。

彼女を探すために私は緑之の力を使ってなんでもやった。

その途中で手掛けることになった、翡翠湖から現れ始めた転生者の保護や、マーヒトガイヒの建国はオマケのようなものだ。


彼女の手がかりは見つかった。

イスミト教に数回、彼女の生まれ変わりを自称する者がいた。

近年の数名は偽物だったが、シャーリア、ハーラバート、シャラガートは恐らく彼女の生まれ変わりではないだろうか。

しかし私がそれを知ったときには、彼女たちは亡くなった後だった。

サンドラ大陸人の寿命は短い。

日本大陸の技術を享受できる私と、彼女らの生きる時間が噛み合わない。

私はその3人の存在を心の支えに、彼女の痕跡を探し続けた。





9回目の生まれ変わり、10人目の体は秋浦零残という名だった。



記憶が戻ったのは14歳のとき。

バーチャル格闘スポーツ『EMMA』の県大会決勝戦で、私は3本先取ルールのところ2-0で負けていた。


記憶が戻る前の私は、負けたくないという気持ちと、なぜこんなことをしているのだろうという気持ちで揺れ動いていた。

父はEMMAの元プロで、父の試合を見て自分もそれに憧れ、格闘技を始めたのを覚えている。

私にも少し素質はあったようで、準決勝を勝利したあとに14歳で決勝まで残ったのは今まで居ないと言われた。


しかしたかが県大会だ。

なのにこのザマ。


合わせる顔がない………誰に?

もっと強くなりたい………なんのために?


思考がチラチラと飛ぶ。

俺は何を。

時間は刻々と過ぎ、このままでは次の試合が始まってしまう。

思わずタイムアウトをかけた。

認められ、目の前にカウントダウンが表示される。



その瞬間、記憶がなだれ込んできた。

その量に圧倒されて座り込んでしまい、バイタルチェックをしているドクターが声をかけてくる。

「大丈夫ですか?棄権しますか?」

「……大丈夫です。少し疲れただけです……」

さすがに、人生10回目ともなると疲れるな。

そう思ってしまい少し口角が上がる。


秋浦零残の体に過去の記憶をインストールし、記憶とともに置いておいた此岸の剣も取り込む。

もう何度も繰り返した流れ。完璧だ。



目の前のカウントダウンが終わり、次の試合が始まった。

前の2試合で相手の癖は頭に入っている。

14歳の体は軽いが、まあまあ鍛えられているので不足はない。



サンドラ大陸では野盗に遭ったり戦争に巻き込まれたりと、何度も命を取られかけた。

此岸の剣の記憶でも戦闘力の不足を感じたので、戦場を巡り有能な武人の魂を取り込んだりもした。

相手の魂を操ってしまえばどんな大人数にも勝てるのだが、あまり人間離れした技を使うと目立ちすぎる。


しかしこの試合は目立つことが目的なので、遠慮せず行くことにした。

まずは純粋な格闘技だけで1勝。

次に相手の魂に軽く影響を与えて、動きを鈍らせて余裕の1勝。


最後に観客、スタッフなどこの試合を見ている全員の魂に向けて、自分のバウンダリーを薄くした。

度重なる生まれ変わりと、魂の吸収でだいぶ私の魂は重い。

バウンダリーを薄くすると軽い魂は私に引かれる。

私に興味を持つように意思のベクトルが曲げられる。

私が勝利し、オンに切り替わった観客席の歓声は割れんばかりであった。



私のEMMA県大会優勝は、『最年少優勝!』という見出しでニュースを賑わわせた。

そして緑之から連絡が入る。

「お前な〜、可哀想やろが相手が。ズルすんな」

「15年ぶりに話す言葉がそれか?冷たいやつだな」

緑之とは最初の生まれ変わり以降、合言葉を決めてある。

優勝者インタビューの中に合言葉を含ませたのだが、緑之の優秀な秘書がちゃんと見つけてくれた。

「また、行くんか」

「行くよ。何度だって」



緑之は呆れながらも、私がいない間の調査結果をまとめてくれる。

「イスミト教の聖女関係に、あのあとそれらしき人間はおらんな。それよりアガートの書籍館の方が有力や」

「書籍館……マーヒトガイヒにいた時に行ったが、たしかに彼女らしい施設だな」

マーヒトガイヒでは建国王の補佐としてある程度の役職を得ていたので、国使として中に入ることができた。

シャラガートはシャルルと名を変えて書籍館を建てたそうだが、本好きの彼女らしいといえばらしい。


しかし目的がよくわからない。

もし彼女の記憶が残っていたとしたら、私に会うことを目的として動いてくれたはずだ。

書籍館にはそれが見いだせないので、シャルルには記憶がなくただ好きだった本を集めたか、シャルルは彼女の生まれ変わりではなかったのだろうと結論づけた。


緑之は続ける。

「あの大陸で書籍館は少し存在が浮いとる。転生者が伝えた技術や文化と違うて、あれはサンドラ大陸人のものなんやけどその匂いがせんのや」

「それはお前のカンか?」

私と同じくらいの年の少年が頷く。

「お前もそう思っとるんやろ?少なくとも手がかりくらいはあるんやないか。今回は書籍館の内部に入りこんでみたらどうや」

「今回って……次回があるように言うなよ」

まるでその言い方では、次の人生のための布石づくりにこの人生を使うようじゃないか。

そう言ったが、緑之には鼻で笑われる。

「実際そうやろが。どうせまた見つからんでもう一回、ってなるんや。せめて次に残る死に方せんとな」

「……今度こそ見つける」



14歳ではまだサンドラ大陸に行っても子供扱いされて動きにくいため、体を鍛えたり15年分の霊魂学研究資料を読み漁ったりしながら、準備をした。

EMMAでは日本一になり、それを三連覇したためかなりの有名人になってしまう。

サンドラ大陸での予行にちょうど良かったからなのだが、だいぶ強くなりすぎてしまった。

17歳になりそろそろサンドラ大陸に行くか、というときに、それを後悔することとなる。

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