表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/52

レイザン、サンドラの最期を思い出す

その日も彼女の授業のためにサンドラの屋敷へ向かう。

モーレーンは最近同席しなくなっている。

授業の進む速度が自分の理解を超えたと言っていた。

それは我々を二人にしてくれるための嘘かもしれない。

まあ、授業中もメイドや使用人がいるのでふたりきりにはなれないのだが。


ここ数日は雨で、朝に彼女に会うことができていなかった。

数日ぶりに彼女に会える嬉しさで、足取りも軽く部屋へ向かうと、そこには昨日見た顔が居た。


「……サンドラさん」

ぶすくれるサーシャお嬢様の横に、サンドラが席をつくり座っている。

「やっぱりあなただったの。私はモーレーンに頼んだと聞いていたけれど?」

「ああ、それは私の手が空いていたので。モーレーンは忙しい身ですから」

「そうね。あなたは暇でしょうね」

意地の悪い言い方をされるが、自分をからかっているのだとわかる口調なので、逆に腹は立たない。

むしろ隣の彼女のほうが腹を立てていた。

「お母様!それはお母様が彼に協力をしないからでしょう?!彼はお母様を助けに来たというのに」

「静かになさい、サーシャ。私のことは私が一番わかっています」

サンドラは立ち上がり、私の前に立つ。

「私にも霊魂学を教えなさい。真堂伶」


グレーの瞳は確かに彼女と同じ色だ。

しかし目の光が濁りかけている。

「……わかりました。では、少し魂を見させていただきます」


彼女の魂は、度重なる死に戻りで傷だらけになっていた。

さらに人よりも長く生きていることで魂濃度も上がっている。

「サンドラさん……あなた、幽霊が見えていますね?」

「そうね……たまに、そんなものが見えることがあるわ。死に戻りの影響かしら」

「夢で誰かに会ったりしますか?」

「夢?そうね。よく出てくるわ。この屋敷にいる人やサーシャが多いわね」

こう魂が溢れていると、周囲への夢干渉も起きてしまう。


すべての魂は星と繋がっており、人は眠るときに魂の階層を星の方向へ沈んでいく。

そして魂の一部を星へ流すのだが、夢階層では魂が多い場合近くの魂と重なってしまうことがある。

そこで夢干渉が起きると、人の夢に入ることができてしまう。

起きたら忘れることが多いのであまり現実に影響はないが、人の夢に入れるという技術は使いこなすと危ないかもしれない。


「サンドラさんはまずバウンダリーの強化を行ったほうが良さそうですね」

「バウンダリー?」

「そうですね……ではお嬢様。サンドラさんにバウンダリーを説明してみてください」

急に話を振られた彼女は慌てて、自分のノートをめくっていた。

「えーと、お母様。バウンダリーっていうのはね……」




サンドラは娘と同じくらい吸収が早かった。

バウンダリー強化も自分の意志でできるようになり、他人の夢に干渉することもなくなったと言っていた。

驚いたのは自分以外の魂を操る能力の高さだ。


ある日、授業が始まってすぐにサンドラが「見てもらいたいものがある」と切り出した。

おもむろに机の上に金属でできた小さな像を置く。

3人の視線がその像に注がれ、しばらくすると、その像がカタカタと動き出した。

そして重力から解き放たれたようにフワリと宙に浮く。


「これは……」「超能力?!」


サンドラの掌に像が落ち、サンドラは私を試すように見た。

「どう?私超能力が使えるようになったのよ」

「……あなたの魂の腕が見えましたよ、サンドラさん。像の魂を掴んだのですね」

そう返すと、サンドラはつまらなそうに窓の外を見た。

「もっと驚いてくれてもいいんじゃないかしら?サイコキネシスを目の当たりにしたというのに」

「あら、私は驚いたわよ。お母様」

彼女のフォローに被せるように、今の現象についての説明を始める。


「サイコキネシスは、物体の魂に干渉することで起こせるということは分かっています。ですが実際に行える人間はなかなかいません。自分以外の魂を自在に操るというのはかなり高度な技術です。私でも出来ません」

そう言うと、サンドラは少し嬉しそうに笑った。

「この他にも、テレパスや透視、サイコメトリーなどの技術は霊魂学の技術で再現可能です。地球末期の魂過多の子どもたちにはこれらの能力が発言していたとも言われています」

「テレパスね……あなたの考えていることもわかるようになるかしら?」

サンドラの言葉に私は笑って首を横に振る。

「私はバウンダリーが強いので、心を読むのは難しいと思いますよ。それに、人の魂に触れるということは逆に触れられもするというリスクがあります」

「リスクって?」

サンドラではなく彼女が質問してくる。

「魂同士は引き合いますので……肉体を使ったバウンダリー越しの触れ合いなら混じることはないですが、テレパスなどでは多い魂の方に混じって持って行かれる可能性も」

「魂を持っていかれるとどうなるの」

「多くは記憶を、たまに感情や思考能力、感覚をなくします」


そこまで話すと、サンドラは掌を開いた。

その上には先程の像が乗っている。

「魂を全て持っていくとこうなるのね?」

サンドラの手のひらの上の像が、きらきらとした砂に変わっていく。

それを見たサーシャお嬢様は目をまるくした。

私は慌ててそれを止める。

「サンドラさん!それはいけません。魂が濃くなる」

「あら?微々たるものよ。なぜいけないの?」

「目が、裂けますよ」

「それはバウンダリーが薄いからでしょう?バウンダリーが十分に強ければ裂けることはないわ」

サンドラは私の教えたことをちゃんと記憶している。


そうだ。サンドラの言うとおり、物の魂を吸ったくらいではたいして影響はない。

そして、バウンダリーが裂けなければ見た目にも影響はない。

しかし、裂けて魂が漏れ出すことなく濃度が高まれば。



「塵も積もれば山となる。やりすぎれば、いつか魂が裏返りますよ」

何せ彼女は不死だ。塵が積もる時間はある。

魂が裏返れば、彼女はこの宇宙と同化する。

そしてこの宇宙全体の魂濃度を上げてしまうのだ。

それがどういった結末をもたらすのかはわからないが、宇宙連邦もラボも、そうなれば我々の世界は終わるだろうと予測していた。

だから魂の裏返りはできるだけ防がねばならない。



私の忠告をサンドラは鼻で笑った。

「どうせ死ねないのなら、それも良いと思わない?」


残念ながら、私はそれに返す言葉を持たなかった。





ある夜、私の部屋の窓を叩く音がした。

布団の中で微睡んでいた意識が浮上し、魂が肉体へ戻ってくる。

ベッドから下りてブラインドを開くと、二つの月の光に金色の巻毛が輝いていた。


「お嬢様!?なぜここに」

驚いて声を上げると、彼女の柔らかな掌が私の口を塞いだ。

「しーっ。誰にもバレたくないの。お願い、部屋に入れて頂戴?」

そう言われて断れる男がいるだろうか?ここにはいなかった。


彼女は薄い緑色の部屋着に、毛のコートを羽織っていた。

空調のきいた部屋の中ではコートを脱いだが、部屋着だけというのは私の目に毒だったので、私のカーディガンを上から着てもらった。

「サイズが大きいわ」

「我慢してください……駄目でしょう、こんな夜遅くに出歩いたら。危険です」

男の部屋にいるのも十分危険だが、触れないことにした。


「だって……眠れないの。いえ……眠りたくないの……」

彼女はそう言って下を向く。

その様子が本当に辛そうだったので、ベッドに腰掛けた彼女の下に跪いて、手を取った。

「何があったんですか?」

見上げるように聞くと、彼女のグレーの瞳と目が合う。

「お母様が……」

言うかどうか悩んでいるようだ。

彼女の気持ちが落ち着くまで、ゆっくり待つ。

そうしていると、彼女は一粒の涙を零して話しだした。



「お母様は、人の夢に入るのをやめていないわ。それだけじゃない。どんどん人の魂を吸っている。もうあの人は、人じゃないわ」



「……詳しく聞いても良いですか?」

私が訊くと、彼女はぽつりぽつりと説明をしだした。

夢と魂の仕組みを知ってから、サンドラは周りの人の夢に入るのをやめた。

彼女も夢に母親が出てこなくなったので安心していたが、どうも母親の魂が変化してきているように感じる。

バウンダリーが強化されたので私には分からなかったが、クローンであり母娘である彼女には変化が分かったらしい。


そこで彼女も夢干渉を試してみることにした。

サンドラに気づかれぬよう、しかしサンドラの動きを追えるように。

「そんな高度なことを。できたのですか」

「お母様には……気づかれたかもしれないわ。でも、何も言われなかった」


サンドラはイスミトを離れ、別の地域に移った集落へと魂を伸ばしていた。

魂に物理的な距離は関係ない。

魂の繋がりを辿っていくことで、イスミトにいながらにして別の町にいる人の夢に入り込むことができる。


そんなことをして何をしているのかと思えば、サンドラは入り込んだ夢の主から魂を一部吸い取っていたそうだ。

「魂を?」

「おそらく、記憶よ。サンドラが去ったあとにその人の夢に入ったわ。その夢は普通だったけれど、明らかに違うところがあった」


サンドラは、この大陸中の人間から、地球の記憶を吸い取ったのだ。



「それに、この間日本の物資輸送機を使って様々な機械を回収してきていたわ。おそらくそれらも全部もう砂になってる」

「日本もグルか……私に知らされていないのは、反対されると分かっているからか」

サンドラは人の記憶を吸って、どうしようというのか。


おそらく。

自ら魂を裏返して、この星の呪縛から解き放たれようとしているのだろう。

それでも人を殺すのは嫌だと。

だから魂の一部を記憶という形で吸収しているのだ。



私は彼女の手が少し震えているのを感じた。

「私、怖いの。お母様が怖い。寝て起きたら、忘れてはいけないことを忘れているかもしれない」

彼女の手が私の手を強く握る。

「あなたのことを、忘れているかもしれない」



サンドラの操魂技術の高さは予想外だ。

人の魂から、狙った記憶だけを吸い取るなんてできるものなのだろうか。

しかも夢階層を使用することで、どんな人間にも辿っていける。

日本政府はそれをわかって協力したのだろうか?そんなはずがない。

彼女にかかれば、日本大陸をこちら以下の原始の状態にだって落とせるのだ。

おそらく日本には今後大陸間は不干渉とするなどと嘘を言って協力させたのだろう。

この大陸を制したあとは日本だ。

それが理解できるほどあちらの霊魂学は発展していない。



これは、彼女に霊魂学を教えた私のせいだ。

彼女にそれほどの能力があると思わなかった。

サーシャお嬢様を見ていたら予想できたはずなのに。

サンドラはこの星を支配することもできる力を手に入れてしまった。



「レイのせいじゃないわ。私だって、お母様がそこまでするとは思っていなかったのだもの」

彼女に私の考えを見透かされる。

しかし私は責任を感じずにいられない。

「いえ、明日私からサンドラさんに話してみます。そんな事をしなくても、この星から開放される道を探すと……」

「私も行くわ。私の話なら、聞いてくれるかもしれない」


できれば彼女は連れて行きたくない。

娘が私の味方についたら、逆に激昂しそうなタイプだと思ったからだ。

「お嬢様はここにいて下さい。そうだ、バウンダリー強化薬をあげましょう。そうすれば夢に入られにくくなります」

薬を探しに行こうとする手を、彼女がとらえた。


「お薬もいいけれど……せっかくだから、朝まで話をしない?レイ……」

見上げる彼女の目は涙でうるんでおり、うっかり正気を失いそうになる。

「は、話ですか……。映画でも見ますか?いくつかダウンロードしてきたものがあるので……」

「ここに座って」

彼女は首を横に振り、有無を言わさぬ口調で自らの隣を叩いて私を促す。

私は自分のベッドに、恐る恐る腰掛けた。


彼女の両手が私の頬に添えられる。

少し冷たく、私の体温が移っていくのがわかる。

「お母様がこの星に囚われなければ、私は産まれなかったしあなたがここに来ることもなかった」

「お嬢様、」

私の口は親指で塞がれた。

「過去のことを恨んでも悔やんでも、しかたないわ。私達は今、ここで、自分でできることしか変えられない」


「それに私は今、あなたと居られて幸せよ」


私の口を塞いでいた指は、彼女の唇と交代した。

しっとりとした感触がはなれていく。

「思い出を頂戴。絶対に忘れられない、魂に刻まれる思い出を」


部屋の明かりが落ちる。

月明かりがブラインドの隙間から、部屋の壁に光の線を作る。

その夜は静かで、我々以外のすべての生き物が眠っているようだった。








夜が明け、いつもなら彼女と森で逢う時間。

彼女は私のベッドですやすやと眠っている。

私はそれを起こさず、布団をかけ直してから部屋を出た。



朝靄の中、いつもの道を進む。

今ではそこには泉はなく、ぱたぱたと水音を上げる噴水がある。

その横に一人の女性が立っていた。



「ちゃんと来たのね。あなたのバウンダリーは分厚いから、聞こえているのか不安になったわ」

「あれだけノックされれば聞こえますよ。それに、こちらもあなたに用があったので」



明け方に夢現のはざまでサンドラの声を聞いた。

『森の噴水で待つ』と。


彼女を置いていくには好都合だった。

私ならサンドラに魂を操られることはない。

その時は、そう慢心していた。





「そちらの要件は何でしょうか?」

そう聞くと、サンドラは笑ってぽつりと言った。

「そうね……私は、あなたが大嫌い、ということよ」



サンドラの手には黒い塊。

銃だと認識したときには遅かった。




銃声が森に響き、木々から鳥が羽ばたく音がする。

体に強い衝撃を受けて倒れ込むと、腹のあたりから血が流れ出る感覚があった。

自分の血が熱い。



「私が犠牲になりながら、のうのうと暮らしている日本人が嫌い」

サンドラが草を踏みしめながら近づいてくる。

「その上、私の大事な大事なサーシャを、奪おうとするお前は……許せない」

私の顔を見下ろすサンドラは、表情がなかった。

「魂を奪ってやりたくても、バウンダリーが強すぎてできない……なら、壊してしまえばいい」

そう言いながらまたサンドラは銃を構える。

「霊体になったら、この星より早く喰らってあげる。死に戻りなんてできないようにね」


もう一度、銃声が聞こえた。








目を開けると、目の前を川が流れている。

直感的に三途の川だと理解した。

そして、ここは永星ではなく地球の三途の川だということも。


なぜ地球に行ったこともない私が、魂を地球に引かれたのか?

彼岸にはぼんやりと建物が見える。

しかし今向こうにはほとんど魂はないはず。

誰かの魂に呼ばれたというのもおかしい。



此岸に目をやると、玉砂利の中に黒い棒が刺さっている。

棒と思ったが、よく見れば剣だ。

これが私を呼んだのか?


剣を引き抜く。

そこで、私は理解した。

ああそうか、これは祖父の剣だ。

先祖代々伝わる我が家の剣だ。


記憶が流れ込んでくる。

先祖の、祖父の記憶が。

彼らは魂を記憶と核に分けて保存した。

記憶を剣に。

核は子孫に。


千年以上、真堂家は魂を継ぎ足しながら続いていった。

私の魂量の多さとバウンダリーの強さは、私の才能ではなく、先祖から受け継いだものだったのだ。


祖父は命を落としたが、剣だけは此岸に残していってくれた。

いつか子孫か志を継ぐものの役に立つだろうと。

此岸の剣は、ふるりと震えて私を現世へ引き戻す。






目を開ければ、驚愕の顔をしたサンドラが立っている。

「何で死なないの!?化物!!」

私はいつの間にか手にあった此岸の剣を杖に立ち上がる。

此岸の剣は実体をなくしているが、千年以上濃縮された魂のせいで自ら実体を創造していた。




剣を手に入れた今、私は私のすべきことがわかる。



「すまない、遅くなった。あなたに人を殺させてしまった」

「な……何を言って……」

サンドラが後ずさっていく。

私の腹と額から、液体がどろどろと流れていくのがわかる。

もう脈もない。私を動かしているのは、先祖の魂だ。



「あなたを、地球に還す」

「来ないで、嫌ッ!!」

体にいくつかの銃弾が当たる。

痛みは感じない。


サンドラが間合いに入る。

剣術は先祖の記憶が教えてくれる。

此岸の剣を一閃すると、剣はサンドラをすり抜けた。




「あ……あぁ………」


サンドラの魂が肉体から離れていく。

肉体は地面に倒れ、そのまま動かなくなった。



『還れる……地球に、還れるの……?!』

浮かんでいくサンドラの魂を見上げて、私は微笑んだ。

「ええ。あなたとこの星の縁は切りました。振り向かずに行って下さい」

『ごめんなさい……あなたを、』

「いいから、行って。今なら、この星を抑えていられるから」

此岸の剣を地面に突き刺す。

星の魂が慌てて手を引っ込めるのが見えた。


『っ……ありがとう』

サンドラの魂は宙に消え、宇宙の彼方へ飛び去った。




「ありがとう……お祖父さん」

此岸にこの剣を残していってくれて。

でも自分がもっと優秀であれば。もっと早くこの境地にたどり着いていれば。

死なずに、サンドラを助けられたのに。



目を閉じると、穴だらけの体が草むらに倒れ込む。

自分の肉体から魂が離れていくのがわかる。


ああ、これが死ぬということか。

祖先たちは死んだ後、記憶を剣に託して子孫の体に入ったようだが、あいにく自分は一人っ子だし、子供もいない。



思い残したことはたくさんある。

幽霊になるには十分なほど。

彼女にさよならを言えなかった。

いや、さよならを言いたくない。

まだ彼女といたい。

まだ死にたくない……。





魂は意思に正直だ。

私は気づけば彼女の夢の中にいた。


どこまでも広がる花畑の丘、そこに彼女は立っていた。


「あら、レイ。じゃあ……これは夢かしら?」

彼女は鋭く気づき、その瞬間夢の空間はいつもの噴水の前に変わる。

皮肉にも、私が死んだその場所だ。


「さあレイ。いつもみたいに座って頂戴」

微笑む彼女に、言葉が出ない。

「……レイ?」

「申し訳……ありません、お嬢様」


「どうしたの、レイ?なぜ泣くの?!」

膝をつく私に駆け寄り、抱きしめてくれる。

ああ、もうこの彼女のぬくもりを感じることもできないのだ。



「私は……死にました。ここで、サンドラと」

かろうじて言葉にすると、彼女が息を呑む音が聞こえた。


「私は、あなたを諦めきれない。幽霊となって、そばにいても良いですか?」


「ダメよ」

彼女の言葉に今度はこちらが息を呑み、目を合わせると。

彼女の強い意志を持った目がこちらを見ていた。



「幽霊になるくらいなら、生まれ変わってまた私のところに来て。あなたならできるでしょう?」



簡単に言うが、記憶を持ったままの生まれ変わりは困難だ。

しかし彼女が言うならやらねばならぬ。



「分かりました。待っていて頂けますか」

「私が死ぬ前に来てくれなきゃ困るわよ」

「はい。必ずまたあなたと共に」




そう言葉を交わし、私は彼女の夢を離れ、次の肉体を探した。


それが『真堂伶』としての最後の記憶である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ