アルルーナ、映画を見終える
湖の南側は山脈が囲んでいるが、それ以外は広い平野が広がっている。
そのおかげか、雪はそれほど降らなかった。
それでも食べ物は減り、皆火の周りにいることが増えた。
その日は特に寒さが厳しかった。
ミハイルが眠り、ポールと二人で火の番をしていたところ。
メシュナーが白い息をはずませながら、チャネリング小屋から駆けてきた。
「向こうの仲間に連絡が取れたぞ!すぐ助けをよこしてくれるそうだ!!!」
ポールが歓声を上げて立ち上がる。
そして、メシュナーに泣きながら抱きついた。
メシュナーも目に涙をにじませながら笑っている。
その声にミハイルも目を覚まし、助かると聞いて嗚咽を上げながら泣いた。
皆、何度も死を経験し、肉体も精神もやせ細っている。
ミハイルは今日このまま目を覚まさなくなるんじゃないかと思っていたから、間に合って良かった。
サンドラは誰も見なくなった火に薪をひとつくべ、大きく息を吐いた。
すぐと言っても、助けが来たのは3日後であった。
宇宙連邦の移動機器は借りれず、日本が保有する航空機を急いで出力し組み立てたそうだ。
垂直離着陸機がこんな時に役に立つなんてね。
「なぜこんな事が起きたのか?」
航空機から降りてきた宇宙人が言う。
メシュナーによると彼は彼女の上司で、モーレーンという名前だそうだ。
モーレーンは立派な髭を生やした壮年のインド人のように見える。
「星がこの湖を物質構成機代わりに使い、彼女らをこの地に増やそうとしたようです」
メシュナーが答えると、モーレーンは腕を組みながら湖を見た。
「信じがたい。しかし、事実起こっていることだ。ラボは興味を持つかもしれない。報告書を上げろ」
「はっ」
モーレーンに付いてきた日本人の医療スタッフに保護され、我々は航空機に乗り込んだ。
「服ってなんて着心地がいいのかしら」
ずっとガチガチの臭い毛皮をまとっていたから、とりあえず与えられた入院着のような服でもシルクのネグリジェのように感じる。
我々のいたところは基地の真裏に位置するようで、しばらくはこの航空機に乗っていないといけないらしい。
「点滴より食事をもらえるかな?もう長いことろくなものを食べていなくて」
ポールがスタッフに聞いており、私とメシュナーがそれに続いた。
ミハイルは大分状態が悪いようで、横になって点滴を受けている。
「俺、基地に戻ったらできるだけ早く地球に戻ります。隊長はどうしますか」
「私は母国の移住先の星に直接行こうかと思うわ」
ポールと栄養補助食品をかじりながら話す。
こんなものでも、とても美味しい。
「私は報告書を書き上げるまでは帰れなそうだ……」
メシュナーが暗い顔をしている。
宇宙連邦は結構職員の扱いが悪いのだなと思った。
おもむろにメシュナーが顔を跳ね上げる。
「星が……星の魂が!」
「どうしたの、メシュナー?またなにか起きるの?」
「サンドラ!」
メシュナーの手が伸びてきた。
それと同時に、体が宙に浮くような感じがして、急激に眠くなる。
覚えている。
これは。
最初に死んだときの感覚だ。
冷たい、冷たい水の中で目を覚ます。
青いその光景は絶望の光だ。
もうこのまま浮かび上がりたくない。現実を見たくない。
しかし、私の体はどんどん水中を登っていく。
数人の手が私を引き上げた。
「しっかりして!」
医療スタッフの声が聞こえた。
そうか、私が死んでから生まれ変わるまでに時間差がある。
こちらで救護隊が控えていたのだろう。
目を開けると、いつもどおりの湖にボートが浮かんでおり、岸には航空機が着陸していた。
そのそばには、しっかりとした防寒服を着たミハイルやポール、メシュナーの姿がある。
それを見てサンドラは苦笑した。
「私達、帰れないみたいね」
生活は格段に良くなった。
小屋はテントになり、服は防寒服だ。
寝袋もあるし、保存食もたくさんある。
だが、もとの生活に比べたら不便だ。
「今度仮設住宅を差し入れてくれるそうだよ。日本も移住で大変だろうに、ありがたいね」
ミハイルが物資とともに届いた書類を見ながら言う。
「でも、ここにずっと住むならしっかり家を建てても良いんじゃないか?」
ポールはコーヒーをドリップしている。
テントの中がコーヒーの香りに満ちた。
「素人が作った家屋より、売られてる仮設住宅の方が良いわよきっと」
私がそう言うと、メシュナーが首を振った。
「いや、家を作ったほうが良い。というより、家を作れる人間を育成したほうがいい」
「それはどうして?」
「星の意思はこの大陸で増えろと言っている。人を増やさなければ、向こうの大陸の人間がまた呼ばれるぞ。この大陸に、街を作り、国を作らなければいけない」
メシュナーの言う事に納得した我々は、それをどうやるかを話し合った。
しかし、こんな星に来たい人間などそうそういないだろう。
日本でも我々のことを知って、星を変えようという動きが出てきているようだが、そうはいかない。
まだ体が出力されていない国民をはやく出さないと、魂の保持期限が迫っている。
魂はずっと体から離してはおけず、決められた期限内に戻してやらないと、散り散りばらばらに拡散してしまうそうだ。
まずは全移住民の出力と、宇宙連邦の調査を待つ必要がある。
宇宙連邦も調査結果が出ないと、再度の移住に割く予算が降りないらしい。
どこの世界でも予算に悩むのは同じなのだな。
その間に、メシュナーの報告書を見た宇宙人の研究者が5名ほど調査隊として来星した。
「どうもぉ、霊魂研究をしているソソラルラです!お話を伺っても?」
ソソラルラはプラチナブロンドの巻毛の若い女の子の姿をしている。
調査隊にはモーレーンも含まれていた。
壮年の男性が女の子の部下というのは不思議だ。
それを問うと、ソソラルラは巻毛を指でくるくるとしながら笑った。
「ああ、外見はできるだけ魂が合いやすいように作るから、精神年齢が幼いあたしみたいなのはこういう見た目になっちゃうんだよね。でもモーレーンより経験豊富だから。よろしくね」
ソソラルラ隊は我々には分からない機械を持ち込み、湖の中や我々を調べた。
仕組みを聞いたが濁され、教えてはもらえないのだと察する。
宇宙人が何度か湖から引き上げられているのも見た。
どうやら生まれ変わりを試す事にも成功したらしい。
彼らも星に捕らわれてしまったのではないかと心配になるが、我々の心配など無用なのだろう。
「面白いねぇ!この星は。とても愚かで能動的で粘着質」
「人間だったら御免こうむりたいタイプね」
ソソラルラは正解と言わんばかりに人差し指をこちらに向け、ニッコリと笑った。
「そのとおり、星にも個性があるの。地球は逆にとても受動的で、おとなしくて、でもとてもアーティスティックだったわ」
ソソラルラはそう言って飲み物を飲み干し、また調査に出かけていく。
私も最初の町イスミトの都市計画書と、移民希望者のリストとのにらめっこを再開した。
ソソラルラ達の調査結果でも、星を満足させるにはこの大陸にも人間を根付かせる必要があるとのことだった。
しかし日本には2つの大陸を同時に開拓できるほどのリソースは無い。
宇宙連邦も、技術レベルの違う他星人を送り込むのは許可できないと言う。
だがありがたいことに、我々先遣隊の話はまだ地球に残る人達に伝わり、特に3人の母国から移住希望者が現れた。
日本大陸を経由して、定期的に移住者が送られてきて徐々に人が増えている。
そのおかげか、星による生まれ変わりは実験を除いてしばらく起きていない。
生まれ変わりが先遣隊とメシュナーだけで済んだため、星を変えようという日本での動きは徐々に沈静化していった。
「あたしだったらこんな愚かな星すぐ出ていくけどな〜」
ソソラルラがそう言うのを聞いたのは、サンドラたちだけだった。
地球人が増えていくことは気にもとめず、ソソラルラ達は生まれ変わりの実験を続けている。
行政官のような仕事が増えてきて、元々が研究者であるサンドラは息抜きにそれを眺めていた。
モーレーンは今日は休暇らしく、横で解説をしてくれながら菓子をかじっている。
「この星の『死に戻り』システムは参考になる。おかげで魂保持期間を伸ばせそうだ」
「死に戻り?私達は生まれ変わりって言うわ」
「生まれ変わりはまた別のシステムだ。死んだ魂が胎児の魂を乗っ取り産まれてくる事だな。これは他の星で確認されている」
「ああ、確かにそれも生まれ変わりね。転生と言ったりするわね」
二人が話していると、メシュナーが息子を抱いて現れた。
ポールとの子供で、もうすぐ2歳になる。
「サンドラ、少し息子を見ていてくれないか」
「わかったわ。おいで」
男の子はテチテチと歩いてサンドラの膝に座った。
「メシュナー、今度お前も実験に参加してみないか。お前はチャネリングの能力を鍛えただろう」
「あれから何年経ったと思っている。それに、もう死ぬのはあと一回でいい」
メシュナーは苦々しい顔をして去っていった。
サンドラの膝の上で、男の子が歌を歌っている。
宇宙共通語の歌で、サンドラが知らない歌だったのでモーレーンが一緒に歌ってあげていた。
「そうだ、この大陸では公用語を宇宙共通語にしようと思うのだけど、誰か先生をやってくれる人はいないかしら?」
「ふむ?なぜそう思った」
モーレーンが菓子を男の子に分けながら訊く。
「移住者は彼らの判断でここに来ているからいいわ。でもその子どもたちは、日本の便利な生活を知ったらここはとても不便に思うでしょう」
イスミトでは、できるだけ自分たちで作れるもので生活するようにしているため、まだ電気もなく食事も貧しい。
食事は移民の数に対して供給が間に合っていないため、日本から支援を受けているが、いずれはそれも止めたい。
「便利な生活を知らなければ、不便に感じることはないわ」
「原始人のような生活をしていた君が言うとはね」
「だからわかるのよ」
サンドラは膝の上の男の子の頭を撫でる。
「英語には地球の思い出が残りすぎている。宇宙共通語ならそういうこともないでしょう。それに移民には英語が得意でない人も多いわ」
「ふむ。しかし君たち向けの教材が無いな。新たに作らねばなるまい」
そこに用を済ませたメシュナーが戻ってきた。
「サンドラ、ありがとう。もう大丈夫だ……おいモーレーン、勝手に菓子を与えるなといつも言っているだろう」
「メシュナー、我々の実験に参加する気がないなら、宇宙共通語の教材を作らないか。君の息子に教えるにも良いだろう」
ここまでの話をかいつまんで話すと、メシュナーは少し悩んだあとに了承した。
「育児で忙しいからどこまでできるか分からないが、やってみよう」
「ありがとう。必要なものがあったら言ってね」
移民の中にも、不便な生活のままは嫌だという人間は少なくなかった。
そういった人間が日本に移ったり、もめてイスミトを出ていくなどの問題はあったが、逆にそういう生活を求めていたという人間もおり、地球からの移民でイスミトは人が増えていった。
さらに夜やる事もない上に避妊具もないためか、子供がどんどん増えていく。
「サンドラさま、見て!神人さまからこれもらったよ」
「良かったわね。大事に食べなさい」
日本の支援物資を手にした子供が駆けていく。
サンドラは仕事をほとんど下のものに任せ、隠居を始めていた。
地球であればまだ元気な老人もいる年齢だが、もう体があまり言う事を聞かない。
「サンドラ、日本の担当者が君に挨拶したいと」
「そういうのはもういいわ。私はただの老人よ」
困った顔をするミハイルを追い払い、最近やっと製造ができるようになった本を読む。
本はいい。幼い頃から、本を読むのが何よりの楽しみだった。
メシュナーが教材を作るためと言って、製紙工場と印刷所の設立を急がせたが、実際は自分のためである。
中身はメシュナーが作った宇宙共通語の教本だが、彼女は聡明でわかりやすい文を書く。
感心しながら眺めていると、ソソラルラがこちらへ歩いてきた。
ソソラルラは幼い姿のままである。
死に戻りを繰り返しているためだ。
どうやら死に戻りは、最初に死に戻ったときの姿に戻るらしい。
私の熊にやられた傷も無くなっていたし、それは理解できるが、これを使えば永遠に生きることができるのではないか?
それはちょっとぞっとする、とサンドラは思った。
「良いニュースと悪いニュース、どちらから聞きたい?」
ソソラルラはニコニコとしながらサンドラのそばに立った。
「悪い方からお願い」
「あなたは老衰では死ねない。また死に戻るでしょう」
サンドラはその言葉の意味を噛みしめるように黙り、少し長く目を閉じた。
「良いニュースの方は?」
「死に戻りのループから抜け出る方法が分かった」
死に戻り続けると、魂が濃くなっていくためいずれは魂過多になってしまう。
星はそうならないようなシステムにしているはずで、死に戻らなくなる条件をソソラルラ達は探していたという。
「条件は子孫を残すことだったの」
メシュナーやポールには、もう死に戻るシステムが適用されていない。
ポールが先日事故で亡くなったが、数日経っても湖に変化は無かったそうだ。
「ポールには、もう、会えないのね」
サンドラは悲しむと同時に、彼が無事に死ねて良かったと感じた。
「ミハイルは、一度安楽死をして死に戻ってから子供を作るって」
「そうね。彼ももう年だけど、死に戻ればまだ間に合うわね」
「サンドラは、無理だね。年だもん」
ソソラルラがバッサリと言う。
気遣いのない言葉に、サンドラも逆に笑ってしまった。
「どうしようかしら?宇宙連邦の技術でどうにかならない?」
「うーん。クローンなら作れるけどね。それでなんとかなるかも」
「やってみましょう」
クローンを作ったあとサンドラは寿命を迎えたが、すぐに死に戻ってしまった。
「若返った気分だわ。年だけど」
そう言うと私の死に戻りを観察していたソソラルラは笑った。
「サンドラのクローン、無事生まれたよ。でも意味無かったね」
「あるわよ。この星に還る魂が増えるでしょ。命が生まれる意味なんて結局それしかないんだから」
「確かにそうだ」
ミハイルはイスミトに住む女性と結婚し、子供が生まれていた。
サンドラのクローンと同じ歳なのでよく一緒に遊んでいる。
「君は良く冷静でいられるね」
ミハイルがホールで走り回る娘を見ながら、言った。
「最初に熊に襲われたときも、助かったと思ったらここへ引き戻されたときも、君は狂わなかった。自分ならとっくに狂っている」
「そんなこと無いわよ。きっと、精神のどこかが焼ききれてしまっているんだわ」
サンドラはそう返すと、近寄ってきた自分のクローンを抱き上げる。
「でも、この子が死ぬところは見たくないわね。それまでには……ソソラルラが何とかしてくれることを信じてる」
「異動って、どういうこと?」
サンドラがソソラルラに問う。
「私も歳だからね。そろそろ死なないと魂が漏れ出てきちゃう。子供も産んだし、この星を離れられるから別の担当と代わるんだ」
幼い見た目をしているから余裕に思っていたが、ソソラルラも寿命だとは。
サンドラが言葉をなくしていると、ソソラルラが励ますように肩を叩く。
「次に来る子は天才だと聞いてるよ。日本人なんだけどね、初めて霊魂学でラボに招致された地球人だって」
「地球人なら、あなた達より知識が少ないじゃない」
「違うよ。ラボに行ったって事は本当に天才なんだよ。あたしも行ったことないんだから。だから、期待したら良いよ」
ソソラルラはそう言うが、期待しないで待つことにした。
現れたのは長い黒髪の男性だった。
名前を真堂と言い、英語も宇宙共通語も上手に話す。
「しばらくは、この星を調査させて下さい」
そう言って彼はいつも姿が見えず、サンドラはやきもきしていた。
クローンのサーシャはもう18になる。
まだ時間はあるが、おそらく自分がもうすぐまた寿命を迎えるだろう。
冷たい湖で目を覚ますのはもう嫌だ。
人々の目を避けて生きるのも。
サンドラの命はまた尽きようとしており、起き上がれない事が増えてきた。
そこに調査を終えた真堂が現れ、言う。
「あなたを助ける方法が、2つあります」
「本当に……?冗談や気休めなら、やめて頂戴……」
真堂は首を横に振った。
「ひとつは、確実ではないですが、試してみる価値があると思っています。もうひとつは確実ですが、最後の手段です」
真堂が説明したひとつめの方法はこうだ。
生命だけでなく、生命が作り上げたものにも多少魂が宿っている。
それを集めてサンドラが取り込むことで、サンドラ自身を裏返す。
説明を聞いてサンドラは、再度問い返した。
「私を裏返すって?」
「そうです。生命のほうが魂は濃いですが、宇宙連邦の装置ならそれに近い量が得られると思います」
「どうやって取り込めばいいの」
「私が補助します」
真堂が自信満々に言い切るので、言うとおりにしてみるのも良いかとサンドラは思う。
どうせ失敗したって、最悪死んでもまた死に戻るだけだ。
「確実なほうの最終手段というのは?」
「それは、ひとつめが駄目だったときにお教えします」
早速サンドラは高度な文明品をイスミトの聖堂に集めさせた。
ここは日本大陸からの支援を受け取るための場所だったが、日本の使者を神人として宗教化しているため、宗教施設として整えている。
そして死に戻ったサンドラはここに籠もるように暮らしていた。
「集められる限り集めたわ。日本人の力も借りて、南の方で勝手に作られていた動力機とかも全部押収してきた」
「そうですね、宇宙連邦の機械以外は微々たるものになると思いますが、あればあるだけいいですから」
装置の山を見上げる3人。
サンドラと真堂、そしてクローンのサーシャだ。
真堂がサーシャを見届人に指名したのでここにいる。
「では、私の言うとおりに」
真堂は、サンドラには理解できない指示をいくつも続けた。
さらに宇宙連邦の装置を使い、魂を操作しているようだ。
サンドラがいくつかの指示を終えたとき、変化が起きた。
砂の音がする。
見ると、集めた装置の下に砂が積もっている。
こんなに砂を持ち込んだだろうか?
そうサンドラが訝しんでいると、装置の山が一部大きな音を立てて崩れた。
そして、顔が熱い。
サンドラの目は黒く染まり、まぶたがどんどん裂けていく。
それを見たサーシャが後ずさりをした。
砂の上に、足跡が残る。
聖堂のホールは砂に埋め尽くされていく。
装置がひとつ、またひとつと砂に変わり、大きな砂山ができた。
サンドラは自分に何が起きているかわからないまま、砂山の前で立ちすくんだ。
「魂を押し込みます」
真堂はそう言うと残った装置を操作した。
すると、サンドラの目はもとに戻り、頬にも裂けた痕は残らない。
サンドラは気分が悪くなり、倒れる。
サーシャが近寄り、抱き起こすと、またサンドラのまぶたは黒く裂けていた。
「……失敗です」
真堂は汗を拭いながら、大きく息を吐いた。
サンドラは黒い目を見開く。
「失敗って、じゃあ」
「確実な方の手段をとります」
真堂はそう言って注射器のようなものを取り出し、自分に打つ。
「私の命と引き換えに、あなたの魂をこの星から引き剥がします」
シーンは変わり、日本大陸の外務省が映る。
そこにサンドラ大陸にいる輸送隊から緊急コールが入った。
慌てて繋げば、サーシャがそこに座っている。
「母、サンドラは亡くなりました」
その言葉に、日本側の人間は皆言葉を失った。
「真堂博士の命を賭した処置により、母はついに楽園へと旅立ちました」
サーシャは泣くでもなく、喜ぶでもなく、まっすぐにカメラを見ながら言う。
「これまでのご支援、ありがとうございました。これで、そちらとの交流を最後にしたいと考えております」
少しざわめきが起こるが、そろそろそう言われるかもしれないとは皆予想していたようだ。
日本側は色々聞きたいことがあったが、質問をする間もなく、サーシャは最後の挨拶をした。
「隣の大陸の皆様。また、いつか、会う日まで。さようなら」
暗転し、音楽が流れる。
これで話は終わりのようだ。
「サンドラはどうなったのじゃ!?本当に死んだのか??」
マリーが泣きながら言う。
泣くとこあったかしら?
ヒシブキがハンカチを渡し、ケイゴ氏が答える。
「サンドラは死んだ。真堂博士が霊体となって、直接魂を星からぶった切ったらしい。そしたらサンドラの魂は地球に還っていったそうだ」
「何だそれ?そんな事ができんのか?」
ザカハは頭をワシワシと掻き、映画を見ながら書いていたメモを見返している。
「普通はできない。そもそも死んだあと霊体として現世にとどまるのも才能と技術が必要だ。それを真堂博士はやれる能力がある。あと、この宇宙でもトップレベルの霊魂に関する知識があるからな」
「ケイゴさん、その言い方だと真堂博士はまだ死んでいないようだけど」
私は気になった点をケイゴ氏に問うた。
それに、サーシャは何も答えず通信を切ったのに、なぜサンドラが死んだ時の描写を答えられるのか?
それは、真堂博士がまだ生きているからではないだろうか。
「死んだよ。そんで『生まれ変わった』。それも彼の研究の一環なんだと」
「……もしかして」
ケイゴ氏は黒地に文字が流れている映像を消して、言った。
「そう。真堂博士が9回生まれ変わって、今生きているのが、あのレイザンさんだ」




