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アルルーナ、魔人と出会う

ヤザラザ氏曰く、ミェドラ山中腹のマズ教本山と祭礼殿の間は洞窟で繋がっているそうだ。

その洞窟の中を通って、小部屋ごと本山側から引っ張り上げる仕組みとのことで、仕組みの詳細についても説明してくれた。

つまり、魔術でもなんでもなく我々でも理解できる技術ということだ。

理解はできるが、実現する方法が分からないのでまだ自分には魔術的に見えるけれども。


「……これは、転生者の技術でしょうか?」

「いいえ。転生者では、こんな大きなものを作る材料や施工者を用意できないでしょう。これは魔人の技術です」


ヤザラザ氏が言い切ったことに、部屋の空気が固まった。


「マズ教は、魔人と繋がりがあるのですね」

「そうです。今回、魔人様方がアルルーナ様との面会を希望されましたので、こうして包み隠さずお伝えしています」

「魔人が?私に?」

「イスミト教でもあなたの名前が上がったと聞いていますよ」

「……なぜ私なのですか」

ヤザラザ氏は、私の問いに褐色の顎を撫でながら答える。


「マズ教では魔人の実在を広める機を伺っておりました。サンドラ大陸への影響力や、知識量、そして魔人に関する興味から、アルルーナ様にその旗振りを任せたいと魔人様はお考えなのでしょう」

「マズ教では……ということは、イスミト教では違うのですね」


マリーの方を見ると、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。

珍しく真面目に考えているのだろうか。

「のう……耳が変なのじゃが、何か変な魔術でもかけられてないじゃろうな?」

「ああ、気圧の変化のせいですね。ザカハ、そこの水を人数分配れ」

考え事をしていたのではなく、気分が悪いだけだったようだ。

たしかに、私も耳に違和感を感じる。

配られたグラスの水を飲んだら少し良くなった。



水を飲んだマリーは元気になって、ニコニコとしている。

「イスミト教では魔人や神人を隠していたりなぞせんよ。先日の神託も、私が祈りを捧げていたら礼拝堂に声が響き渡ったのじゃ」

「つまり、魔人にも目的が違う派閥がいるのですね?」

「その通りです。大きく分けて、魔人の存在を公にしたいマズ教派の魔人、魔人の存在を秘匿したいイスミト教派の神人と我々は呼んでいます」

「カイセン教は?」

「あれはイスミト教派の神人が、サンドラ大陸に来た魔人・神人を管理するための組織です。我々にとってはまあ……敵ですね」

「じゃあマズ教派の魔人は少数派ということですね」

私の言葉に、ヤザラザ氏は渋々頷く。

「魔人大陸とサンドラ大陸の不干渉は彼らの法で決まっているそうです。ですので、これから会う魔人の方々は法を破る犯罪者という事になりますね」


それを聞いて、私はカンナとレイザンの方を見る。

二人とも諦めたようにため息をついた。

「……後ろの二人もお尋ね者の魔人という事ですか?」

「いえ、彼らはカイセン教を通じてサンドラ大陸に来ておりますので、もう二度と戻れない世捨て人、自殺志願者の類と見なされているようですね」

カイセン教にて、魔人大陸に関する情報を洩らさないように処置をされるらしい。

それが、この間のカンナに起きたことだろうか。



もっと聞きたいことは山ほどあったのだが、小部屋の動きが静かに止まった。

「私より、魔人様のほうが詳しく教えて頂けるでしょう。さあ、こちらへ」

ヤザラザ氏はまた何かを操作し、引き戸を横に引く。



その先には、目もくらむような絶景があった。



雲が海のように一面に広がり、そこから急峻な山々が島のように突き出している。

朝日が雲を照らして影を作り、穏やかな風が雲の表面を撫でていた。

雲の隙間から、遠くに大河となったアーヤールア川が見える。

本当に山を登ってきたのだ。


そして、その景色と私の間はガラスらしき何かで仕切られている。


「でけぇ……こんな大きさで、こんなに透明な一枚物のガラスなんて、この世に無ぇ」

「あるじゃろうが、ここに」

「ここはもうこの世じゃねえよ……」

ザカハが放心しながらガラスにそうっと触れている。

私は恐ろしくて触れられない。



「こちらですよ」

我々が落ち着くのを待ってから、ヤザラザ氏が声をかけてきた。

左手には延々と続く大きなガラス窓、右手にはほとんど飾り気のない白い壁が続いており、たまに扉らしき溝がある。

扉をよく見ると、東海諸島語の数字らしきものが書かれていた。

ヤザラザ氏がどんどん奥に進んでいくのでそれ以上観察できなかったが、もう十分だ。

あとは魔人に聞けばいい。

ついにすべてが分かるのだ。

レイザンの秘密が。

その後の事はその後考える。



ヤザラザ氏はその後何度か廊下を曲がり、奥へ奥へと進んだ。

もうあの大きな窓ガラスはなく、日の光は差していないのだが中は明るい。

どうも天井全体が光っているように見える。

あまりにわけが分からなくなったのか、ザカハの落ち着きが無くなってきた。

無理もない。私ですら、レイザンが居なければ不安に押しつぶされそうになっていただろう。

レイザンとカンナは黙々と歩を進めている。

マリーはあれやこれやとヤザラザ氏に質問をし、彼を困らせていた。


「魔人の生活は快適そうじゃのう。食事はうまいのか?」

「美味しいですよ。滞在中は是非食事もお楽しみください」

「それは楽しみじゃ〜」

「や、ヤザラザ様!俺だけでもシャマツタールに帰してくれませんかね?こんな所で泊まるなんて、寝れる気がしません」

「ザカハ。お前はもう知ってしまったのだ。魔人様の許可なくここからは出られない」

「じゃあ知る前に警告して下さいよ!」

ザカハの苦情にヤザラザ氏は答えなかった。


ザカハだって魔人の情報に踏み込む覚悟はしていただろうが、まさかこんないきなり世界の核心に触れる事になるとは思っていなかっただろう。

そして、それほどの身分にないことも自覚している。

彼は巻き込まれた。そして、魔人の都合によってはいつ消されてもおかしくない。


「ザカハ、私は貴方を仲間だと思っているわ」

「え、……なんだよ急に……」

「もし魔人やマズ教が貴方を切り捨てるようなら、マズ教は私の敵よ」

ヤザラザ氏の背中に向かってそう言うと、ヤザラザ氏は少し振り向いた。

「随分、うちの情報屋を気に入って頂けたようで」

「そうね。私のご機嫌を取るのは大事よ?魔人様の大事な客なのでしょう?」

そう言うと、ヤザラザ氏は少しだけ目をしかめてから、無言で前へ向き直った。


誰かに袖をひかれる。

見ると、カンナが私の袖をつまんでいた。

『かっこいい悪役令嬢でしたよ』

内緒話をするように、声を落としてそう伝えてきた。

何よ?悪役令嬢って。




ある扉の前でヤザラザ氏が止まった。

ヤザラザ氏が扉に手をかざす。

ピッと笛のような音が鳴った後に少し待つと、扉が音もなく開いた。


「ヤザラザさん、ご案内ありがとうございました。あとはこちらで進めます」

中に居た不思議な格好をした男性がそう言うと、ヤザラザ氏は礼をして後ろに下がった。

魔人らしきその男性は黒髪を肩口で切りそろえており、服装は首元まで覆う薄い服の上に、さらさらとした生地のベストを着ている。

線が細く格好が珍妙なので、女性のように見えなくもない。

「菱吹と申します。アルルーナ様、いろいろと驚かれているとは思いますが今から説明をいたしますので、こちらへ」

ヒシブキと言うその男性は部屋の中にあった扉に手をかざして開き、閉じないように押さえている。

言われるがままに扉をくぐると中は広い会議室になっており、円卓を多くの東海諸島人……つまり魔人と、数人のマズ教徒が囲んでいた。

ヤザラザ氏も円卓の一席に腰を下ろしている。



円卓には席が2つ用意されていた。

私とマリーの席ということらしい。

レイザン、カンナ、ザカハの3人は壁際の簡易な椅子を勧められる。

カンナとザカハはそちらに座ったが、レイザンは私から離れずに後ろに立った。

ヒシブキが焦りながらもう一度レイザンに後ろに座るように言う。

「いいのよ。レイザンはここに居て」

私の言葉に、ヒシブキは周りの魔人の顔色を見て引き下がった。



「書籍館のアルルーナ様、イスミト教のマリーエルヴェ様、ようこそ。私は魔人の代表をしております大曽根です。まずは我々について軽く説明してもよろしいですかな?」

円卓の正面に座るオオソネという老人がそう言った。

オオソネ氏とはだいぶ距離があるのだが、声は明瞭に聞こえる。

声を伝える技術が何か施されているのだろうか。

「是非お願いしますわ」

私も普通の声の大きさで言うと、問題なく全員に伝わったようだ。



机の上のなにもない空間に、急に四角く絵が浮かび上がった。

これもなにかの技術なのだろうが、もう魔術だと思ってどうやっているのかは考えないことにする。

「まず、この星には今我々がいるサンドラ大陸と、あなた達が魔人大陸と呼ぶ2つの大陸があります」

浮かび上がった丸い球に、サンドラ大陸ともう一つの大陸、小さな島々が映し出される。

これがこの星の形なのか。

以前見た水平線は丸くなかったが、あまりに大きくて平らに見えたのか?


ゆっくりと回転する球を見ていたら、レイザンが後ろから手を出してきた。

「手で触れると自由に回したり拡大したりできますよ」

レイザンがやるとおりに球に触れると、手応えはないが動かすことができた。

指を使って拡大すると、四角の内側いっぱいに地図が広がる。

まるで本物のようなうねる河川や山脈のひだが見え、まるで神の視点に立ったようだ。



「我々はこの星を永星と呼んでおります。そして、あなた方が魔人大陸と呼ぶ地は、我々にとっては日本大陸と言う名を持っています」

オオソネ氏がゆっくりと話し出した。

「日本大陸では、我々日本人が暮らしています。あなた方が魔人、神人と呼ぶものは、どちらも日本人なのです」

目の前に映る星が拡大していき、日本大陸の街の一部が映し出された。


高くそびえ立つ樹木のような建物が、他の建物と網目のように繋がっている。

道は継ぎ目なく舗装され、謎の機械が空と地上を行き交い、人の姿はまばらだった。

「ご覧のとおり、我々はサンドラ大陸と比較して高度な文明を持っております。この宇宙の、他の星とも交流があります」

目の前の風景はまた小さくなり、更に小さくなって他の星々が現れた。

それらの星と星が細い線で繋がれている。


「我々はこの文明を、サンドラ大陸にも伝え広めたいのです。医療技術が向上して多くの病が治るようになります。生活もより豊かに、便利になります。肉を食べるために動物を殺さなくても良いし、夜でも昼間のように明るい光の中で生活できる。素晴らしいでしょう?」

「ではなぜ、それをサンドラ大陸に広めることが法で禁止されているのですか?」

そう聞くと、少し会議場がざわつく。


オオソネ氏はヤザラザ氏を少し見やってから答えた。

「我々に得がないからですよ。大陸間の戦争を起こしかねないという懸念もある。しかし、私はサンドラ大陸の人々を友人だと思っていますので」

違う。恐らく何か彼らが得られる利益があるはずだ。

そうでなければこんなに組織立った動きができると思えない。

そもそも、何故同じ星の2つの大陸でこれほどまでに文明に差があるのか?

質問を重ねようとしたその時。



「もういい。大曽根、やはりその子を騙すつもりだったのだな」

議場の一人が立ち上がった。

「騙すなどと人聞きが悪いぞ、菊池……私に任せて、座っていろ」

「いや、お前達はもう終わりだ」

キクチと呼ばれた男性がそう言うと同時に、武装した集団が議場になだれ込んできた。



その瞬間、私を捉えようとした隣の席の女性をレイザンが一撃し、すぐさま逆どなりのマリーを後ろのザカハとカンナの方へ投げ飛ばした。

そして私を抱きかかえるように素早く下がる。


「菊池!裏切ったのか!?」

「裏切り者はおまえたちだ。カルト教団め」

議場内には怒声、人の足音、何かの破裂音が響いている。

私達はレイザンに守られるようにしながら、壁を背に数名の武装兵に囲まれていた。



「武器を捨てろ!君達は日本政府にて保護する!安全は保証する!」

我々を囲む兵の一人が叫ぶ。

兵は皆小さな機械を手にしているが、どのような武器なのかわからない。

議場の奥では血が流れているのが見えた。


「お嬢様は家に帰れるのか?」

レイザンが剣を構えながら訊く。

「それは……できない!これから君達には日本へ来てもらう。帰ることは許されないだろう」

「お嬢様の自由が約束されない限り、こちらは退けない」

レイザンがきっぱりと言う。

兵たちはレイザンの対応に困惑しているようだった。


我々以外は制圧され、議場から連れ出されていく。

手の空いた人員もこちらへ集まり、我々を囲む人数は十数人まで増えていた。

「レイザン、ニワの時のように……やっつけるの?」

「いえ、この間の手は通じません」

レイザンの表情は、かなり緊迫した状況であると表していた。

兵たちは何か相談し、さきほど声を上げた人間がもう一度叫んだ。


「もう一度言う!武器を捨てろ!やむを得ない場合は発砲も許可されている!」


それを聞き、レイザンは深く息をついた。

諦めるのだろうか?レイザンでもこの状況はどうにもならないのだろうか。

「お、おいレイザン。もうどうしようもねえって。今まで守ってくれてありがとうな……」

「そうじゃ、命が一番大事じゃ」

「レイ兄、もう無理だよ。しょうがないよ……」

後ろの三人がレイザンを説得する。

ニワの時とは違い、命は取らないと言っているからだろうか。



レイザンの黒い瞳がこちらを見た。

「お嬢様、帰れなくなってもよろしいですか?」

「いいわけないでしょう。私はお兄様の結婚式に出ないといけないのよ」

私の言葉に後ろの3人が絶句し、レイザンが吹き出した。

まあそれは冗談で、諦めるしかないかと続けようとしたのだが。

「わかりました」

レイザンが微笑みながら了承の言葉を発した。


砂が床に落ちる音がする。

「何だ!?」

我々を囲んだ兵たちが焦ったような声を出した。

手に武器はなく、彼らは砂を掴んでいる。

兵の一人がこちらを指差して、言った。


「……目が」


見上げると、レイザンの目はいつもの黒い瞳ではなく、白目が真っ黒に染まっている。

そして徐々に瞼が頬に向かって裂けていった。

「ば、化け物!!」「人間じゃない!?」「他星人か?!」

混乱する兵たちの声が聞こえる。

そんな声を気にもせず、レイザンは剣を下に向けて持ち、床に突き刺す。

すると兵たちの足元が一気に砂になり、兵たちは穴の中へ叫びとともに落ちていった。


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