アルルーナ、寝袋で寝る
レイザンとカンナが、最近よそよそしい。
東海諸島語を教えるときは普通だが、普段軽口を言い合っていたようなやり取りはグッと減ってしまった。
私が彼らを魔人だと疑っているからだろう。少し寂しくなる。
しかし今はザカハというもう一人の旅仲間がおり、彼はとても饒舌だったので、話し相手には困らなかった。
「嬢ちゃん見てみ、あれがフトドラニフの街だぜ」
馬車から顔を出すと、崖のはるか下に今朝までいた街が見える。
「凄いわ。アリスベンツ王城があんなに小さい」
「山昇るの初めてっつったな?だいぶ寒くなってきたから、これ羽織っときな」
ザカハは手元にあった毛の織物を投げてよこした。
ゴワゴワしているが、防寒にはよさそうだ。
「ありがとう。気がきくのね」
「おーよ。俺を婿にしとくか?そしたら旅も終わりだぜ」
「考えとくわ」
ザカハは話しやすいし、意外と紳士的だし、頭の回転も早い。
悪くはないのだが、レイザンに勝てるかといったら私の中では比較対象にもならないのだ。
チラリとレイザンを見ると、レイザンもこちらを見ていたらしく、ふわりと微笑んでくれた。
心臓が破裂して死んでしまうからやめてほしいわ。
その様子を見ていたザカハが、不思議そうな顔をして言う。
「なあ嬢ちゃん、そんなにレイザンが好きならそいつと結婚すりゃいいじゃねえか」
「馬鹿ね。私が好きでもレイザンがダメなのよ」
「え〜?なんでだよ。こんなに可愛くて金持ちの嬢ちゃんの何が嫌なんだよ?」
話を振られたレイザンは困ってしまっている。顔が赤くなっていてかわいいわ。
「俺ではお嬢様には不釣り合いだし……身分も違うし……」
「じゃあこのまま駆け落ちすりゃいいじゃん。あ、もしかしてそうなの?」
「違う違う!」
レイザンは真面目でザカハは軽く、性格は全く違うが仲は悪くないようだ。
二人が話しているのを見ていると、これまでには見れなかったレイザンの顔を見られて微笑ましくなる。
「そうだよなあ、駆け落ちなら東海諸島に行けばいいし。魔人大陸がどうとかいうのは、婿探しに関係あんのか?」
「関係あるような、無いような……。半分は私の趣味ね」
「変な趣味だなあ」とザカハが呟いたかと思うと、急に雰囲気が変わる。
レイザンも私を庇うように少し席から腰を上げ、カンナにも頭を伏せるように小さく声をかけた。
「……やっべえな。山賊か?そんな噂は聞かなかったんだが……」
「レイザン、どうするの?」
「襲ってくるのなら、倒します」
道沿いの藪の中から、手に武器を持った男が十数人出てきて馬車を取り囲む。
「おい、どいてくれよ。前に進めねえじゃねえか」
ザカハが男たちに声をかける。
「やれ」
そのうちの一人がザカハの言葉には答えずに、一言そう言った。
その瞬間、レイザンが馬車を飛び出して行き、カンナが私に覆いかぶさるようにして馬車の奥に隠れた。
その後のことは、外が見えなかったので分からない。
しかししばらくするとレイザンが馬車に戻ってきて、いつものように「もう大丈夫ですよ」と声をかけてきた。
ザカハは一部始終を見ていたらしく、呆然としている。
「山賊はどうなったの?」
「全員まとめて縛り上げてあります。ちょうど縄を持った奴がいたので拝借しました」
馬車の外を見ると、男たちは全て地面に転がされており、ほとんどは意識がない状態だった。
「どうしようかしら。フトドラニフまで引っ張っていくわけにも行かないし、かと言って放置したら危険だし」
「そんなの、殺しちまえばいいんじゃねえか?どうせこいつら、襲った旅人皆殺しにしてる奴らだ。だから噂もなかったんだ」
ザカハが気を取り直したらしく、吐き捨てるように言った。
「人殺しは犯罪よ。正当防衛とはいえ、寝覚めが悪いわ」
「むしろこいつはなんで殺さずに全員倒せてるんだよ。その方が難しいだろ」
ザカハが親指でレイザンを指す。
レイザンは鎧についた返り血を拭き取りながら怪我の確認をしているが、特に怪我はないようだ。
「なんでなの?レイザン」
「日々の鍛錬の賜物ですね」
「ですって」
「ですってじゃねんだよ。こんな化け物飼ってるなんて聞いてねえぞ……」
「誰が化け物だ」
「おい!ほどきやがれ!クソッ!!」
縛られた一人が騒ぎ出した。
「うるさいな」
「ヒィ!!!」
拭いたばかりの抜身の剣を下げたレイザンが近づいていくと、騒いだ男は身を縮めて怯える。
「お、お、おれたちを殺すのか?」
「殺さないわよ。面倒くさい」
「お嬢様、馬車に居てください」
レイザンの後ろについていったら、軽く叱られてしまった。
しかしカンナやザカハも出てきているので、私だけ叱らなくてもいいのにと少し不満である。
「お前らなんかなぁ、おかしらの気がついたら全員ブッ殺してやるぜ!」
「でもそのおかしらもうちの護衛にひとひねりされてるじゃない」
騒いでいた男は口をパクパクさせて黙ってしまった。
横からザカハが見かねたように口を出してくる。
「お前らなんて噂も聞いたことねえし、どうせぽっと出のゴロツキなんだろ?」
「あぁ!?ナメんなよ、俺等は北では名のしれた盗賊団だ!おかしらはゴティスでは1万マイツの懸賞金がかかってんだぜ!」
「嘘つけよ、なんて名前だ?どうせ聞いたこともない奴だろ」
「盗賊団ヤヌートのベルザだ!オラ、ビビったか?」
我々はもう一度男を気絶させて、絶対に逃げられないよう厳重に縛り上げた上で、道のすみに転がした。
そして狼煙をあげ、転がる盗賊団の横には落ちていた木で看板をつけておく。
『盗賊団ヤヌート頭領ベルザ 懸賞金1万マイツ 早いもの勝ち』
我々は予定より少し遅くなった道を進む。
幸い馬たちも無傷で、元気に走っている。
「ザカハは尋問が上手ね。見習いたいわ」
「話術は商人に必須技術だからな〜。しかし1万マイツ、ちょっと惜しいぜ」
「レイザンもいつもありがとう。これどうぞ」
最近鞄に常備している、小さな飴玉の紙包を渡す。
「ありがとうございます。たまに動くと、鈍ったなと感じますね……鍛錬を増やします」
「オイオイ、あれで鈍ってるって、オメーどこの戦場から来たんだよ?東海諸島ってのはやべーところなのか?」
「レイ兄は特別!東海諸島は戦争してるところもあるけど、こんな人間はそういないから!」
「ホントに人間かよ?俺あんな戦い初めて見たぜ……人を倒し慣れすぎてる動きだったぞ……」
ザカハが奇しくも私の考えに近いことを言っている。
多分人間じゃないのよ。ザカハよくわかったわね。
峠を越え、道は下りになる。
山の下に街があり、その奥に海が見える。初めて見る海だ。
馬車を少し休めるために、見晴らしの良いところで休憩にした。
「あれが……海?」
「そーですよ!あの青いの全部水です!」
「なんか……丸くみえるわ」
世界は平らで、大陸を囲む海は端で無への滝になっているという。
世界は円盤状なのか?と首をひねっていると。
「ああ、それは気のせいですよ。なにか真っ直ぐなものを水平線に合わせてみて下さい」
レイザンがあっさりとそう言うので、手元にあった本の背を合わせてみると確かに真っ直ぐピタリと合った。
「不思議ね」
「俺も初めて知ったぜ。てっきり、この大地ってのは実はでっけえ球の上なのかと考えてたんだが」
なるほど、それは面白い考え方だ。
「そうだとしたら、ここから西にずっと行けば東海諸島に着くってわけね」
「そーそー。その方が魔人大陸とかも説明がつくかな〜と思ってたんだけどな。でも平らだったなあ」
ザカハと二人で水平線を眺める。
その向こうにあるのは、魔人大陸なのか、無への滝なのか。
山を降りていくと徐々に日が傾いてきた。
日が沈み切る前に寝床を作りたいということで、早めに今日の野営場所を決めることにする。
しかしザカハとレイザンに任せていたら、すぐに全てが終わっていた。
「うちの護衛と御者は有能だわ」
「あれ?侍女は?お嬢様侍女は?」
「カンナは私が本を読んで待っている間、何してたの?」
「……お嬢様の見張り」
「有能ね」
この間カンナが引っ掛けて穴を開けてしまったスカートと、裁縫箱を渡す。
「これはいつやるの?」
「はい……、やります……うぅ、縫い物は苦手なんですよう……」
指に針を刺しながら泣いているカンナを横目に、本の続きを読んだ。
「魚釣れたぜ〜。焼いて食ったらうまいぞ」
「米も炊けました。山菜のスープもありますよ」
あまり期待していなかった野営地での食事だが、思った以上に豪華なものとなった。
皆で焚き火を囲んで、串焼きにした魚をかじりながら、レイザンが『お結び』にしてくれたお米をほおばる。
頭の上には満天の星空。木々の隙間からは2つの月がたまに顔を覗かせる。
「なんだか、夢を見てるみたいだわ」
「ハハハ、嬢ちゃんはこんな体験したことないだろうな。俺なんかしょっちゅうだが」
隣に座るザカハが、私の服についた煤を払ってくれる。
「あら、ありがとう」
「……おい、気安く触るな、ザカハ。カンナもザカハより先に気が付け」
レイザンが少しピリピリしている。
昼間に襲撃もあったし、もう暗いし仕方ないわね。
「今日はどういう風に寝るの?」
「お嬢様はカンナと馬車の中で。私とザカハはそこのテントを使って交代で火の番をします」
火を焚いていないと、狼などが寄ってくる恐れがあるそうだ。
そして、今晩のためにフトドラニフで買ったものがある。
寝袋だ。
羽毛入りの薄い布団のようなものを、袋状にしたもので、中に入って眠るらしい。
他の3人は適当な上着や布に包まって寝ると言うので、私もそれでいいと言ったのだが、私だけでもこれを使ってほしいと兄妹が言うので購入したものだ。
食事を終えて馬車の中へ行くと、カンナが既に寝床を作ってくれていた。
「カンナ、これじゃああなたが使う布が無いじゃない」
私の寝袋の下には座席に使っているクッションやら厚めの織物やらがひかれており、寝袋の上にも毛織物などがかけられている。
「私はいっぱい着て寝るから大丈夫ですよ〜」
カンナの寝床は座席を挟んだ向こう側だが、どう見ても固そうだし寒そうだ。
私は自分の寝る場所を見て、二人でもなんとか寝れそうだと判断し、カンナにこう言った。
「命令よ。貴女もこっちで寝なさい。私の隣で」
馬車のカーテンの隙間から、外の焚き火の光がチラチラと見える。
内容は聞こえないが、レイザンとザカハは二人で話し込んでいるようだ。
「カンナと二人で寝るのは初めてね」
「そ、そうですね……ホントに良いんです?狭くないですか?」
「いいの。むしろ、これまでも一緒の部屋で寝たら良かったわね。寝る前にお話できるのって楽しいわ」
そう言って笑うと、カンナは照れたように上掛けに顔を埋めてしまった。
「……ねえ、カンナ。私と話すのは嫌?」
「えっ、な、なんでですか。そんなこと無いっすよ」
「だって。最近話しかけてくれないじゃない。そりゃ、私はあなた達のことを魔人じゃないかって思ったりしているけど、それは嫌いになったわけじゃないのよ」
「だから、魔人じゃないですって。あと、私はうかつだから、秘密をポロッと漏らしそうで怖いんです」
カンナは一言一言考えるように話していた。
「私は、ずっとお嬢様にお仕えしたいです。でも、もし私のせいで秘密が漏れちゃったら、多分私はここにいられません。それが怖いんです」
隣の気配が少し起き上がった。カンナの影の形で、こちらを見ているのがわかる。
「お嬢様、お願いですから、もう私達について調べるのはやめてくれませんか」
「カンナ……」
私も寝袋から這い出し、床に座る。
そしてカンナの手を取ると、ぎゅっと握りしめられていた。
「カンナ、あなたは恋をしたことがある?」
「え!?えっと……すこしは」
「どんな人だったの?」
カンナはいきなりの問いに戸惑っているようだったが、照れながらも答えてくれた。
「ええと……10歳ぐらいの話なので、大した話じゃないんすけど。近所に住んでいた、同い年の男の子でした。よく一緒に遊んでて、走るのが早くて明るい人でしたよ」
「今はその人は好きじゃないの?」
「いいえ〜全く。どこに住んでるかもわかりません。ちょっと好きだなと思って一度贈り物をしたんすけど、その子のお母さんから返事が来たんですよ〜。ありえなくないですか?」
「それは……冷めるわね」
「でしょう〜?で、なんでそんな事聞くんすか?」
「私があなた達を調べるのは、レイザンと結婚したいからよ。どうしても彼を手に入れたいの。その気持ち、わかってもらえるかと思って」
「う〜ん……そこまで人を好きになったことがないから、わかんないすねぇ〜……」
暗闇の中でカンナと目を見合わせたあと、どちらからともなく笑い出した。
「ふふ……、お母様から連絡が来たらびっくりしてしまうわね。あと恥ずかしいわ」
「そうでしょう!?何贈ったかも全部筒抜けで、お返しの品までお母さんが選んだらしいんですよ!アハハハ!」
「それはひどいわ。うふふ、でも交際する前に分かってよかったわねえ」
「ハハハ、ホントですよ〜」
ひとしきり笑ったあと、少し冷えたのでまた寝袋に戻った。
寝袋の中は暖かい。隣のカンナは寒くないだろうかとそちらを見ると、カンナもこちらを見ていた。
「ルルおじょーさまは、レイ兄がどんな人だったら好きじゃなくなりますか?」
「そうねぇ……実は人殺しとか、凄い借金があるとかだと考えるわね」
「部屋が汚いとか、脱いだ靴を揃えないとかでは駄目ですか」
「そんなの全然かわいいわよ」
「もし部屋がゴミで人の丈くらいまで埋まってても?」
「それはどうかと思うけど、そうなの?」
「いえ、それは嘘ですけど」
嘘はだめよ嘘は。
まあ、あのレイザンがそんな事になるとは思えないので嘘だとわかっているのだが。
「はぁ〜〜、人の気持ちは変えらんないっすよねえ」
「そうね。私がレイザンの気持ちを変えられないように」
カンナは諦めたようにため息をつく。最近よく聞くため息だ。
「もし私が秘密を漏らしちゃっても、私から聞いたって言わないで下さいね?」
「わかったわ。私だって、カンナはもう家族だと思ってるもの。いなくなってほしくないわ」
「えへへ……おじょーさま、ホントは私も、おじょーさまとレイ兄が結婚できたらいいなって思う事はあるんですよ」
でも無理なんです、とカンナは続けた。
「私達は生まれ故郷を出た時点で犯罪者ですから。おじょーさまを犯罪者と結婚させるわけにはいきません」
カンナはそれ以上は何も言わなかった。
そのうちカンナの寝たフリは本当の寝息に変わり、私も目を閉じることにした。
その日は不思議な夢を見た。
夢の中にカンナが出てきたのだが、カンナは机のついた不思議な椅子に座り、今にも泣きそうな顔をしている。
カンナの周りを黒い人の形のような靄が取り囲んでいて、なにかカンナに酷いことを言っているようだった。
「やめなさい。うちの侍女に何か御用?」
靄を割って入っていくと、黒い靄は霧散していく。
「ルル……おじょーさま?」
「カンナ。これは夢よ。貴女は私の夢の一部でしょうけど、こんな目にあわせてごめんなさいね」
「ルルおじょーさまが、謝ることじゃあ……」
「何その顔。いつもみたいにニコニコしてなさいな。それとも、今の旅路は不満?」
そう言うとカンナが座っていた不思議な椅子や周りの部屋も風のように消え去り、今日水平線を見た峠の風景に変わった。
「いいえ!毎日楽しいです。ルルおじょーさまと逢えてよかった」
「そう。私もよ」
そう言ったところで、夢はどろどろと溶けてゆき、私は浮かぶような感覚のあとにまぶたを開けた。
馬車の幌の隙間からは青い光が差し込んでいて、早朝であることが伺える。
隣でカンナはまだすやすやと寝息をたてている。
カンナを起こさないようにそっと寝袋から出て、馬車の外を覗くと、今火の番はレイザンのようだった。
手鏡で軽く身だしなみを整えて、馬車の外に出る。
砂利を踏む足音に、レイザンが振り返った。
「お嬢様。早起きですね。カンナはまだ寝ていますか」
「ええ。私は目が覚めてしまって。お疲れ様、レイザン」
レイザンが火で湯を沸かしてくれた。簡単にお茶を入れてもらい、二人で飲んだ。
まだ空は青暗く、少し鳥の声が響きだしている。
森はうっすらと霧がかかり、昨晩とは全く違う場所のように見えた。
「変な夢を見たわ。つまらないけど聞いてくれる?」
「変な夢……ですか?」
私は先程見た夢を、忘れないうちにレイザンに話した。
話しながら、大分内容を忘れてしまったなと思う。
「ほら、カイセン教では変な夢を見たら教会に行けって言うじゃない?レイザンが教会がわり」
「そう……ですね。変な夢ですね」
レイザンは歯切れ悪く笑った。やっぱり、夢の話なんてつまらなかったかしら。
「ねむくない?レイザン」
「昨晩寝ましたから、大丈夫ですよ」
「ザカハとしばらく話していたでしょう。何を話していたの?」
「今日の事とか、東海諸島の話をしていました」
「私とは話したくない?」
そう聞くと、昨晩のカンナのようにレイザンは戸惑った。
やっぱり兄妹ね。よく似てるわ。
「昨日、カンナとも話したの。私と話すと、秘密が漏れるかもって思うんでしょう。でも、私はあなた達を嫌いになったわけじゃないのに、寂しいわ」
「お嬢様、私はそういうつもりでは」
「ねえレイザン。前みたいに話してほしいわ。前だって、秘密なんて何も漏れなかったでしょう」
「……でも今は、お嬢様は我々についてお調べです」
「私はザカハみたいに誘導尋問をする技術はないわ」
レイザンの顔を覗き込むと、戸惑ったように目をそらされた。悲しい。
「それに、ヤマナ氏との約束もあるわ。私が多少知ったところで、それは外に漏らさないし、カイセン教にも許可はとってある。あなた達が何か漏らしたとしても、あなた達からの情報ではないって誤魔化すわ」
「しかし……」
「何が不安?」
レイザンは眉間に皺を寄せて、目を閉じた。
そして言いにくそうに、口を開けた。
「私は、お嬢様に幻滅されるのが怖いんです」
「幻滅……?」
「お嬢様は私を買いかぶりすぎです。私はそんなに好いてもらえるような人間じゃない。その幻が壊れるのが怖い」
それは、昨晩最後にカンナが言っていた事にも通じる。
『おじょーさまを犯罪者と結婚させるわけにはいきません』
彼らがここにいることが犯罪なのだとしたら、彼らの罪は何なのだろうか。
それは、私がレイザンに興味をなくすほどのことなのだろうか。
返す言葉がなく、じっと燃え続ける焚き火を見ていると。
横から手が伸びてきて、私の頬に触れた。
「レイザン……?」
「……頬に、煤がついていたので……」
ひと呼吸おいて、レイザンに頬を触られたことを認識すると、お腹のあたりから一気に脳天まで体が熱くなった。
「すっ、すみません。出過ぎた真似を……」
「いえっ、良いの。いいです。ありがとう」
その後しばらく二人とも無言で火を眺めていたら、ザカハやカンナが起き出してきた。
馬のタマラとマスケトは早々に起きて草を食んでいる。
我々もかんたんな朝食をとったあと、コモコの街に向けて出発した。




