其の七
本日投稿その2です。
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一合目は、セキとツカサの優勢に終わった。
次もそうなれば良いと、ツカサは弓に矢を番える。
視線の先には、荒法師の攻撃を紙一重で躱すセキの姿があった。
振り下ろしの一撃を体捌きで躱し、すね斬りの一撃を半歩下がって回避する。
(……すごい)
その動きは、鬼若の動きを完全に見切っている。
とはいえ、その全てを回避し続けるのは難しい。
たとえ、分かっていても、どうにもならない攻撃は存在するのだ。
「ぬぅ、ァアアア―――ッ!!」
荒法師が咆哮とともに大薙刀を振るう。
横一閃。
セキの首を刎ね飛ばさんと奔る斬撃を、セキは上体を逸らして回避した。
間髪入れずに第二撃。荒法師が体ごと旋回し、追撃の薙ぎ払いを叩きつける。
その攻撃もバックステップで躱すが、さらに第三撃が追いかける。
―――荒れ狂う刃風の渦が、セキを襲う。
「――――ぐ、クッ」
その圧力に、彼が大きく後退した。
厄災が逃がさぬとばかりに、追いかけようと―――
その瞬間を狙って、ツカサは矢を放った。
一息で三射。
八幡大神の加護を以て、初伝の域を超えて放たれる早射ち。
「――――ッ!!」
苛立ったように鬼若が咆哮する。
頭を射抜かんと狙う三矢を、薙刀の一閃で打ち払う。結果、その足が止まった。
そして―――
「ナイスアシスト」
一瞬で間合いを詰め直したセキの太刀が、その胴を深く斬り裂いた。
ダメージエフェクトが散って、鬼若がうめき声を上げる。
だが、踏み止まるようだ。厄災は、大きく得物を振り被った。
渾身の一撃だ。まともに受ければ弾き飛ばされるだろう。
セキに与えられた選択肢は、追撃の手を緩めてやり過ごすだけだ。
そのはずだった。
――――鋼を打ち合う音が響き渡る。火花が散った。
(…………えっ!?)
飛び込んできた光景に、ツカサはパチパチと瞬きをした。
大薙刀を弾かれ、仰け反るように荒法師が体勢を崩している。
その眼前には、太刀を振り抜いた姿勢のセキ。
「――――っ」
荒法師は、崩された体勢を戻すため、セキは、大技の反動に耐えるため。
二人の動きが止まっている。
今、この場で動けるのはツカサだけだ。彼女は、慌てて弓弦を引き絞った。
放たれた三矢を、厄災は防ぐことが出来ない。
頭部に直撃した。
白麻の頭巾に阻まれたものの、衝撃は徹ったらしい。鬼若が小さく悲鳴を上げた。
ふらつきながら後退し、欄干ぎりぎりの位置へと戻る。
頭を抑えていた手をどける。そのすぐ目の前に、セキが距離を詰めていた。
「ァアアアアア―――ッ!!」
鬼若が咆哮した。
大薙刀を振るう。打ち下ろし、すね斬り、薙ぎ払い―――
その尽くを、セキは紙一重で回避する。
苛立ちの声とともに荒法師が強引に踏み込んだ。身体ごと回しながら、大薙刀を振るう。
これは躱せないだろうと、刃の竜巻がセキを襲った。
「おっと」
初撃をスウェー、次撃をステップ、三撃目以降は大きく後方に跳ぶ。
先ほどの焼き直しだ。
ツカサは、牽制の矢を放って追撃を阻む。
そうして厄災が動きを止めたところを、間合いを詰め直したセキが、太刀を叩き込む。
ダメージを堪え、反撃に大薙刀を強振すれば、セキの【剛の一閃】が迎え撃つ。
そして、荒法師は押し返されて、事態は振り出しに戻るのだ。
俗に言う「パターンに入った」という状況だ。
(このまま、押し切れる、かな?)
さらに三度、同じ状況を繰り返したあたりで、ツカサは首を傾げた。
そうであれば楽だけどと、矢を番えて弓を引く。
ただ、と彼女は漠然と思った。
(何だか、ちょっと肩透かし……)
初日に出会った脅威。
あの時は、ただ逃げることしか出来なかった厄災。
それが、さほど苦も無く封殺できている状況に、何故かひどく釈然としないものを覚える。
だから。
「喝――――ッ!!」
その【大喝破】に、ツカサは知らず笑みを浮かべていた。
一瞬の硬直、矢を取り落とす。硬直が解け、彼女は即座に新たな矢を番えた。
自分を見据える荒法師。その爛と燃える瞳を、真っすぐに視線で射抜く。
「――――」
硬直で反応が遅れたセキを置き去りに、荒法師がツカサへと襲い掛かった。
(落ち着いて)
大薙刀を構え、己へと突撃してくる巨体を前に、ツカサは静かに息を吸う。
キリキリと弓弦が音を立てた。
矢を放つ。
大薙刀の間合いに捉えられるまでに三射。全て打ち払われる。
「ァアアア―――ッ!!」
咆哮とともに大薙刀が振り下ろされる。
それを横にステップして躱し、間髪入れずに後方へ跳躍する。
追撃の刃が眼前を薙ぎ払った直後、さらに三射。後退しながら矢を放つ。
「―――む、グ」
大薙刀を振り抜いた直後のため、荒法師は回避できない。
顔を庇ったその左腕に、矢が命中した。
しかし、それで怯むようでは『鬼若之残影』の名が泣くと、厄災は追撃の手を緩めなかった。
「…………っ」
荒法師が体ごと旋回しながら、怒涛の連撃を放つ。
一撃を躱されても、即座に第二撃、第三撃と、刃風の渦となって襲い掛かる。
その圧に押されて、ツカサはさらに後退し―――
(……っ、思ったより早かった)
その背中が、橋の欄干に触れた。
出来るだけ長く距離を取れるよう、斜めに後退していたつもりだったのだが。
そう考えながら、ツカサは迫る荒法師から逃れるため、さらに跳躍した。
欄干の上に跳び乗る。
さらに欄干を蹴って、荒法師の頭上へと。
(何だか、懐かしいな)
ふと、初日の攻防を思い出し、ツカサは口元をほころばせた。
高さを稼ぐため、胸の辺りを軸に回転する。
天地が逆さまになる中、彼女は弓を引いた。視線の先には、厄災の首筋がある。
―――矢を放つ。
「が、カハ!?」
致命の一矢。
延髄のあたりを射抜かれた荒法師が、首を押さえて苦悶の声を上げた。
その様子を見据えながら、ツカサは体を回す。
空中で手足を振って、姿勢を制御。左手の弓を手放して、風を踏む。
振り返る荒法師と、目が合った。
(行きます!!)
ツカサは、葛籠から呼び出した薙刀を手に、荒法師の元へと飛び込んだ。




