表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第五話 新参巫女と出戻り武士
35/37

其の七

本日投稿その2です。



 一合目は、セキとツカサの優勢に終わった。

 次もそうなれば良いと、ツカサは弓に矢を番える。


 視線の先には、荒法師の攻撃を紙一重で躱すセキの姿があった。

 振り下ろしの一撃を体捌きで躱し、すね斬りの一撃を半歩下がって回避する。


(……すごい)


 その動きは、鬼若の動きを完全に見切っている。

 とはいえ、その全てを回避し続けるのは難しい。

 たとえ、分かっていても、どうにもならない攻撃は存在するのだ。


「ぬぅ、ァアアア―――ッ!!」


 荒法師が咆哮とともに大薙刀を振るう。

 横一閃。

 セキの首を刎ね飛ばさんと奔る斬撃を、セキは上体を逸らして回避した。

 間髪入れずに第二撃。荒法師が体ごと旋回し、追撃の薙ぎ払いを叩きつける。

 その攻撃もバックステップで躱すが、さらに第三撃が追いかける。


 ―――荒れ狂う刃風の渦が、セキを襲う。


「――――ぐ、クッ」


 その圧力に、彼が大きく後退した。

 厄災が逃がさぬとばかりに、追いかけようと―――


 その瞬間を狙って、ツカサは矢を放った。

 一息で三射。

 八幡大神の加護を以て、初伝の域を超えて放たれる早射ち。


「――――ッ!!」


 苛立ったように鬼若が咆哮する。

 頭を射抜かんと狙う三矢を、薙刀の一閃で打ち払う。結果、その足が止まった。

 そして―――


「ナイスアシスト」


 一瞬で間合いを詰め直したセキの太刀が、その胴を深く斬り裂いた。

 ダメージエフェクトが散って、鬼若がうめき声を上げる。

 だが、踏み止まるようだ。厄災は、大きく得物を振り被った。

 渾身の一撃だ。まともに受ければ弾き飛ばされるだろう。

 セキに与えられた選択肢は、追撃の手を緩めてやり過ごすだけだ。


 そのはずだった。


 ――――鋼を打ち合う音が響き渡る。火花が散った。


(…………えっ!?)


 飛び込んできた光景に、ツカサはパチパチと瞬きをした。

 大薙刀を弾かれ、仰け反るように荒法師が体勢を崩している。

 その眼前には、太刀を振り抜いた姿勢のセキ。


「――――っ」


 荒法師は、崩された体勢を戻すため、セキは、大技の反動に耐えるため。

 二人の動きが止まっている。

 今、この場で動けるのはツカサだけだ。彼女は、慌てて弓弦を引き絞った。

 放たれた三矢を、厄災は防ぐことが出来ない。

 

 頭部に直撃した。

 白麻の頭巾に阻まれたものの、衝撃は徹ったらしい。鬼若が小さく悲鳴を上げた。

 ふらつきながら後退し、欄干ぎりぎりの位置へと戻る。

 頭を抑えていた手をどける。そのすぐ目の前に、セキが距離を詰めていた。


「ァアアアアア―――ッ!!」


 鬼若が咆哮した。

 大薙刀を振るう。打ち下ろし、すね斬り、薙ぎ払い―――

 その尽くを、セキは紙一重で回避する。

 苛立ちの声とともに荒法師が強引に踏み込んだ。身体ごと回しながら、大薙刀を振るう。

 これは躱せないだろうと、刃の竜巻がセキを襲った。


「おっと」


 初撃をスウェー、次撃をステップ、三撃目以降は大きく後方に跳ぶ。

 先ほどの焼き直しだ。

 ツカサは、牽制の矢を放って追撃を阻む。

 そうして厄災が動きを止めたところを、間合いを詰め直したセキが、太刀を叩き込む。

 ダメージを堪え、反撃に大薙刀を強振すれば、セキの【剛の一閃】が迎え撃つ。

 そして、荒法師は押し返されて、事態は振り出しに戻るのだ。


 俗に言う「パターンに入った」という状況だ。


(このまま、押し切れる、かな?)


 さらに三度、同じ状況を繰り返したあたりで、ツカサは首を傾げた。

 そうであれば楽だけどと、矢を番えて弓を引く。

 ただ、と彼女は漠然と思った。


(何だか、ちょっと肩透かし……)


 初日に出会った脅威。

 あの時は、ただ逃げることしか出来なかった厄災。

 それが、さほど苦も無く封殺できている状況に、何故かひどく釈然としないものを覚える。

 だから。


「喝――――ッ!!」


 その【大喝破】に、ツカサは知らず笑みを浮かべていた。

 一瞬の硬直、矢を取り落とす。硬直が解け、彼女は即座に新たな矢を番えた。

 自分を見据える(標的を切り替えた)荒法師。その爛と燃える瞳を、真っすぐに視線で射抜く。


「――――」


 硬直で反応が遅れたセキを置き去りに、荒法師がツカサへと襲い掛かった。


(落ち着いて)


 大薙刀を構え、己へと突撃してくる巨体を前に、ツカサは静かに息を吸う。

 キリキリと弓弦が音を立てた。

 矢を放つ。

 大薙刀の間合いに捉えられるまでに三射。全て打ち払われる。


「ァアアア―――ッ!!」


 咆哮とともに大薙刀が振り下ろされる。

 それを横にステップして躱し、間髪入れずに後方へ跳躍する。

 追撃の刃が眼前を薙ぎ払った直後、さらに三射。後退しながら矢を放つ。


「―――む、グ」


 大薙刀を振り抜いた直後のため、荒法師は回避できない。

 顔を庇ったその左腕に、矢が命中した。

 しかし、それで怯むようでは『鬼若之残影』の名が泣くと、厄災は追撃の手を緩めなかった。


「…………っ」


 荒法師が体ごと旋回しながら、怒涛の連撃を放つ。

 一撃を躱されても、即座に第二撃、第三撃と、刃風の渦となって襲い掛かる。

 その圧に押されて、ツカサはさらに後退し―――


(……っ、思ったより早かった)


 その背中が、橋の欄干に触れた。

 出来るだけ長く距離を取れるよう、斜めに後退していたつもりだったのだが。

 そう考えながら、ツカサは迫る荒法師から逃れるため、さらに跳躍した。

 欄干の上に跳び乗る。

 さらに欄干を蹴って、荒法師の頭上へと。


(何だか、懐かしいな)


 ふと、初日の攻防を思い出し、ツカサは口元をほころばせた。

 高さを稼ぐため、胸の辺りを軸に回転する。

 天地が逆さまになる中、彼女は弓を引いた。視線の先には、厄災の首筋がある。


 ―――矢を放つ。


「が、カハ!?」


 致命の一矢(クリティカル)

 延髄のあたりを射抜かれた荒法師が、首を押さえて苦悶の声を上げた。

 その様子を見据えながら、ツカサは体を回す。

 空中で手足を振って、姿勢を制御。左手の弓を手放して、風を踏む。

 振り返る荒法師と、目が合った。


(行きます!!)


 ツカサは、葛籠(インベントリ)から呼び出した薙刀を手に、荒法師の元へと飛び込んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ