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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第五話 新参巫女と出戻り武士
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其の四

◆◇◆◇◆



 羅城門から南に真っすぐ伸びる街道を、鳥羽作道(とばのつくりみち)という。


 平安京の建設に必要となる資材の運搬を目的に作られたこの道は、羅城門から鴨川の先―――鳥羽までを一直線に結び、そこから桂川の流れに沿う形で(よど)へと通じている。


 この淀は、巨椋池(おぐらいけ)の西―――桂川、宇治川、木津川の三川が合流する場所であり、(みなと)として、近隣一帯における水運の一大拠点となっている。

 また、石清水八幡宮や難波、あるいは南都へと通じる主要陸路の中継点の一つにも数えられている。

 当然ながら、この水陸交通の要衝には、多くのヒト・モノ・カネが集まってくるワケだが、それらを大消費地たる京に引き込む役割を担っているのが、鳥羽作道と言えよう。


 平安京を支える物流の大動脈。それが、この鳥羽作道なのだ。


「―――と、いう設定なんだが」

「その一言で台無しでござるよ」


 セキが説明の最後に付けた一言に、兵蔵が肩を落とした。

 その隣で苦笑を浮かべつつ、ツカサが辺りを見回した。


「確かに、人通りが多いですね」

「実際、設定どおりにちゃんと物資が運び込まれてるからな」

「そうなんですか?」


 うん、とセキは頷いた。

 VRMMORPG『陰陽洲』には、一応ながら経済らしきものが存在する。

 それは、マレビト達による生産と消費、ではない。

 もちろん、それもあるのだが、それとは規模の違うものが存在しているのだ。

 すなわち、NPCが生産し、NPCが運搬し、NPCが消費する―――マレビトを必要としない、NPC達によって完結し得る生産と消費の円環。


 マレビトは、この円環に対して、アイテムの「店買い」や「店売り」、あるいは己の店を持つことで関わることになるが、全体の規模を考えると、その影響力は微々たるものと言えるだろう。


「反面、この円環がマレビトの活動に与える影響は大きいでござる」

「そうなんですか?」

「お店に行っても、物が買えなくなると困るでござろう?」

「えっと……ハイ」


 ツカサが目を逸らした。セキは、深くため息をついた。


「……大変残念な話だけど、俺たちはそんなに金持ってないし、今は常時消費するアイテムもないから、多分大して困らないぞ」

「そんな悲しい話は聞きたくないでござるよ」

「……けど、例えば宗近あたりは、鉄が買えなくなったりすると、すごく困るだろうな」


 一定以上の力量を持ち、店売りによって収入を安定確保できるようになったマレビトは、素材集めを店買いで済ませるようになる。

 素材を集めるための時間が勿体ないためだ。なにしろ、その時間を生産に費やせば、店買いに伴う費用増など簡単に賄えるのだから。

 セキが知り合ったばかりの鍛冶師の名前を出すと、兵蔵がそのとおりとうなずいた。


「然り。何らかの理由で、この円環が……流通が止まって、お店に商品が並ばなくなると、鍛冶師などをやっているマレビトは、活動の規模を縮小あるいは休止せざるを得なくなるでござる。

 そうなると、マレビト印の品を購入しようとする者達は、欲しい物が買えなくなるでござる」

「そして、NPCの店でどうにかしようにも、そっちも機能しなくなっているワケだ」

「それは、確かに困りますね」

「だから、鴻臚館で受けられる依頼には、この円環の維持に寄与するものが多いでござるよ」


 分かりやすいもので言えば、配達や護衛。

 その他にも、流通を妨げる賊や、生産に悪影響を与える厄災の討伐といった依頼があるのだと、兵蔵が続けた。


「この鳥羽作道には、そうした依頼を受けたマレビトも結構いるでござる。

 たとえば、あの荷車を引いている御坊などは、きっとそうでござろう」

「荷車を引くお坊さん?」


 兵蔵の言葉に、ツカサが彼の視線を追う。

 そこには、確かに僧形の男の姿があった。

 笠を被っているので、その顔ははっきりと見えないが、身の丈二メートルを超える見事な体躯の偉丈夫だ。

 視線を巡らせれば、その後方で赤髪の少女が荷車を押しているのが目に入る。

 ツカサの顔がぱっと輝いた。


「緋扇ちゃ、さん! 同鏡さん!」


 そちらへと向かって駆け出したツカサに、兵蔵が目を丸くする。


「なんと、お知り合いでござったか」

「一昨日、一緒に鉄輪ノ井を攻略してな」

「なるほど。成長点が増えているのは、それが理由でござったか。

 しかし、嬉しそうでござるな」

「ツカサからすると、俺以外ではじめて徒党を組んだマレビトになるからな」

(それがし)、それがしが、ここにいるでござるよ?」

「はじめて、真っ当に徒党を組んだマレビトになるからな」


 言いながら、セキは、緋扇に話しかけるツカサの姿を眺めた。





 同鏡と緋扇の二人は、見たままのとおり、配達依頼の遂行中だった。

 目的地を問えば、「淀」との答えが同鏡から返ってくる。


「そちらは?」

「わたし達は、石清水八幡宮にお参りに」

「石清水八幡宮。ああ、【神道】の憑霊術関係かな?」

「わ。よく分かりますね」


 あっさりと目的を看破した同鏡に、ツカサが目を丸くする。

 その反応に、くつくつと、大柄の僧が喉奥で笑った。


「なに。神社に行く理由としてぱっと思いつくのは、二つくらいだからな」


 指折り数えながら、言葉を続ける。


「一つは、単なる観光」


 意図的かどうかは不明だが、『陰陽洲』の寺社は、現実にあるものとは微妙に構造や外観が異なっているが、作り込み自体は非常にしっかりと行われている。

 そのためか、観光目的で参拝に行く、という層が少なからず存在するのだ。


「もう一つは、加護の受領。【神紋】と【朱印】集め」


 神様の力を借りて自己強化を図るのが【神道】の憑霊系術法の特徴だ。

 この術法を使うためには、事前に神社にお参りをして【神紋】を取得しておく必要がある。

 セキ達が石清水八幡宮に赴く理由は、同鏡の推測どおり、この【神紋】を得るためだ。


「で、ツカサの場合であれば【神紋】集めだろうと踏んだのだよ。

 もしも既に【神紋】を持っているのなら、鉄輪ノ井で使っているハズだろうから」

「なるほど」

「―――ちょっと、待った」


 初歩の推理だよワトソン君、などと言って片眼をつぶる同鏡に、セキは手を上げた。


「……しゅいんあつめ?」

「……これは驚いた」


 もしや、ご存じないのかと問う同鏡に、セキは、ご存じないのですとうなずいた。


「簡単に言うと、強化効果が得られるもの、よ」


 ツカサの隣を歩いていた緋扇が口を開く。

 マレビトが神社を参拝した際、『朱印帳』というアイテムを持っていると、そこに神社の【朱印】が登録され、『陰陽洲』時間で六日間、御利益として神社に対応した強化(バフ)効果を得られる。

 もちろん、初回登録時のみということはない。むしろ、参拝を繰り返すことで、強化(バフ)効果が向上する仕組みとなっている。

 この強化効果目当てで、八幡宮のような武にまつわる神様のところにお参りを行うマレビトは多いらしい。

 そう締め括った緋扇の説明に、セキは小さく息をはいた。


「……知らなかった。朱印帳を手に入れる方法って?」

「確か、神社で買えるはず」

「そうか。危うく取りこぼすところだったな」


 ほっと、セキは息をついた。

 教えてくれて助かったと礼を言うと、同鏡がニヤリと笑って合掌した。

 その後、どこからともなく鉢を取り出す。

 それを見て、緋扇が半眼になった。


「案内役の真似事は感心しない、わね」

「?」

「……御朱印帳を持たずに参拝を行っても、強化(バフ)効果は得られない、わ。

 でも、その状態で神社の境内から出ると、どこからともなく声が掛かる、の」

「フフフ。『Hey、そこのマレビトさん。お参りは初めてかい?』といった感じで声を掛けてくる男が現れる」

「……どっかで聞いた話だな」

「ご名答。そうして『最初の死者』こと『案内役』が現れるのだよ」


 そして、加護の受領に関する仕様を一通り説明していくのだと、同鏡が続けた。

 もちろん、ぼったくりで情報料を取られるが、と補足する。

 なるほど、とセキはうなずいた。


「俺とツカサが神社をお参りするのって、これが初めてだもんな」

「そういえば、朱印帳がらみの要素は、今年の四月に追加されたものでござったな」


 それならば、知らなくても無理はないでござるか、と兵蔵が口を挟んだ。

 ところで、と彼は言葉を続ける。


「……どうして(それがし)は、荷車を引かされているのでござろうか?」

「さあ?」

「フフフ。ご協力、痛み入ります」


 セキが首を傾げる傍らで、同鏡が合掌した。

 ツカサが困ったように笑い、緋扇が大きくため息をついた。





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