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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第五話 新参巫女と出戻り武士
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其の三

◆◇◆◇◆



 ―――カン、カン、キィーン。カン、カン、キィーン。


 鋼を打つ音が鳴り響く。

 二度打つたびに、相槌ひとつ。

 火花とともに、澄んだ音が鍛冶場に波紋を広げる。

 涼やかな音は、正しく槌が打てている証拠だ。しくじれば、音は耳障りなものとなる。


「……よし」


 呟いて、宗近は、小槌を持つ手を止めた。

 応じるように、向槌の担い手が大槌をそっと置く。


「お疲れ」


 宗近の労いの言葉に、向槌の担い手は、一礼すると煙のように姿を消した。

 ふわりと、式符が宗近の手元に戻って来る。

 それを大事にしまい込み、彼は、先ほどまで鍛えていた金属塊―――鍛鋼を見つめた。


「……【錬鋼値】は、一五〇〇〇。加熱は五回が上限」


 口に出して確認する。

 【練鋼値】とは、鍛鋼が保有するリソース量を示す数値だ。

 作成に使用した素材と、鍛錬の成功度によって算定されるもので、刀剣の形状や性能は、この数値を割り振ることで決定される。


 宗近はふいごを動かし、火床(ほど)に空気を送り込み始めた。

 燃え盛る炎を見つめながら、ゆっくりと深呼吸。


 やり直しはできない。

 しくじれば、素材も、ここまでに費やした時間も無駄になる。

 鍛鋼を火床に差し入れ、その上から炭を被せる。

 空気を送り込み、盛大に燃え上がらせた。


「……よし」


 白く輝くほどに熱された鍛鋼を取り出して、宗近は再び小槌を振り上げた。


 ―――カン、カン、カンと、小気味よい音が鳴り響く。


 それは、不思議な光景だった。

 白熱した鋼の塊が、槌音が響く度、火花を散らして姿を変える。

 ひとつ打てば棒状に。ひとつ打てば長さが伸びる。

 さらに打てば厚みが減って、徐々に刀の形へと近づいていく。


 カン、カン、カンと、槌音が鳴る。


 反りがない以外は、おおむね刀の形を成した後も、宗近は槌を振るい続ける。

 形が定まった後は、いくら打っても外形上の変化は生じない。

 だが、宗近の目は、その変化を捉えていた。


 ひとつ打つ度に、強度が変化する。

 ひとつ打つ度に、重量が変化する。

 ひとつ打つ度に、【斬】属性攻撃力が変化する。

 ひとつ打つ度に、【刺】属性攻撃力が変化する。

 ひとつ打つ度に、【打】属性攻撃力が変化する。

 ひとつ打つ度に、【霊】属性攻撃力が変化する。


 その眼が捉えるのは、作成途中の刀のパラメータだ。

 火床で熱することで解放状態となった【練鋼値】を、槌打つことで刀の性能に変化させていく。


 この過程で大切なのは、迷わないこと。

 【練鋼値】の割り振りは、鋼を打った瞬間のマレビトの思考を元に決定される。

 迷えば、意図しない所に割り振られ、それを「やり直したい」などと思ってしまえば、振り直しが生じて同数の数値を消費する。

 十を十五にするのも、十を五に戻すのも、【練鋼値】の消費は同じなのだ。


 さらに、迷って手を止めた結果、熱が冷める―――入力受付時間が過ぎてしまえば、残った【練鋼値】は、もはや使えない。


 ゆえに、宗近は一心不乱に鋼を打つ。


 ―――カン、カン、カンと、小気味良く音が鳴り響く。


 そして。


「――――」


 宗近は手を止めた。

 打ち上がった刃を見つめる。

 各種パラメータが当初の予定どおりであるのを確認し、彼は大きく息をはいた。

 まだ、反りも刃文もない刀状の鋼板だが、とりあえず山をひとつ越えたと言えるだろう。

 ふと、視線を動かした。

 鍛冶場の入り口。その向こう側に見知った姿を見つける。

 目が合った。


「すまない。今、良いかな?」

「ああ。もう少ししたら出かけるけど、それまでで良いなら」


 宗近は、鍛冶場に入ってきた友人へと向き直った。

 銀髪、狐耳の少女だ。

 白い水干を身にまとう彼女は、宗近の鍛冶屋仲間である。

 狐モチーフの恰好は、「宗近」ほどではないが、粟田の鍛冶師にはそれなりに多い。

 名前を、雪葉(ゆきのは)という。


「お出かけ? 珍しいね」

「そろそろ買い出しにいかないと、炭と玉鋼が無くなりそうなんだよ。

 あと、配達にも行かないといけないからな」

「配達?」


 雪葉が首を傾げる。

 うなずいて、宗近は鍛冶場の一角―――神棚の前に置かれている己の作品を示した。

 そこには、一振りの太刀と薙刀の姿。

 それを見て、「おや?」と雪葉は片眉を上げた。


「鋼之太刀と鋼之薙刀かい? 随分と珍しい」


 通常等級は束物、高品質品でも業物止まりの初級者向け装備だ。

 そんなものを作るなんて珍しい、との彼女の言に、宗近は肩をすくめる。


「新人向けの装備だからな」

「へえ。そうなんだ。どこの新人さん? 九州? それとも東国?」


 雪葉の言葉に、宗近はため息をついた。

 彼の友人は、工房に引きこもるタイプだ。

 マレビト間の交流に消極的なため、腕は良いのにあまり知られていない。

 当然、世事には疎い。

 平安京を拠点とする中堅層が騒いでいても、我関せずといった具合である。


「お前、たまには外に出て他のマレビトと交流しておけよ」

「ははは。面倒くさいじゃないか」

「……まあいいか。久しぶりに平安京スタートの新人が現れたんだよ。

 それで、その二人に武器を打つことにしたんだ」

「ほ~。なるほど」


 感心したように雪葉が声を上げる。

 彼女は、いま一度、鋼之太刀に目を向けて首を傾げた。


「あそこまでするのなら、いっそ神鋼とか使って、強力なのを打ってやれば良いのに」

「それじゃ対価が払えないだろ。俺は、新人だからって甘やかしたりはしないぞ」

「左様デスカ」


 宗近は、打ち上がったばかりの刀身を葛籠(インベントリ)にしまいこみ、立ち上がった。

 鍛冶場から板の間へと向かう。


「とりあえず、ここじゃ何だから板の間にどうぞ。お茶くらいは出そう」

「ああ。悪いね」


 背後で、雪葉が苦笑交じりに呟くのが聞こえる。


「十分、甘いと思うけどね」

「やかましい」


 どこか優しい響きを伴ったその声に、彼は振り返ることなく応じた。





◆鍛冶のコツについて

 少々しくじってもそのまま突き進むこと。

 手を止めたり、やり直しを脳裏に描くとさらに傷が広がります。


 何かを作る時、勢いってわりと大事だと思います。

 勢いだけだと、本作のようにガバガバになりますが……



 評価及びブックマークありがとうございます。

 総合評価が三桁になり、作者は小躍りしております。

 引き続き、よろしくお願いします。

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