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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第五話 新参巫女と出戻り武士
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其の二

本日投稿その2です。

◆◇◆◇◆



 鴻臚館に設けられた食堂の片隅。

 セキは、卓上に置かれた一枚の紙を見ていた。


「どうでしょうか?」


 向かいに座っているツカサの言葉に、むむむと頭を捻る。

 そこに、赤マフラーの男がやってきた。忍者である。


「やあ、お二方。どうされたでござるか?」

「あ、兵蔵。こんにちは」

「二日ぶりだな」


 昨日と一昨日――現実時間での話だ――の二日間、姿を見ることのなかった忍者。

 彼は、「御無沙汰でござる」と笑いながら、卓上に置かれた紙片を見やる。

 そこには、手書きで特技名が書き記されていた。


 心:【堅志】【大霊】【霊視】

 技:【武器習熟/薙刀】【神道/修祓】【神道/憑霊】【風薙ぎ】

   【風踏足(ふうとうそく)】【楽器演奏】

 体:【迅速】【大力】


「……これは、ツカサ殿の実装特技一覧、でござろうか?」

「はい。成長点が一点残っているので、次の特技をどうしようかと」

「ほほう」


 兵蔵が興味深そうに目を細めた。

 そして、「ひい、ふう、みい」と指を折って何やら数え始める。


「未だ使っていない成長点を含めると、十二枠でござるか!

 大したものでござるなぁ。おお、歩法術まで覚えたでござるか」

「昨日、頑張って歩いてきました」

「コースはどこでござった?」

「北山東コース」


 比叡山から鞍馬のあたりまでだと答えたセキに、「お疲れ様でござる」と兵蔵がねぎらいの言葉を口にした。


 歩法系特技は、鴻臚館の指南役からは取得できない。

 平安京の周囲にある山々を巡り歩く修験者と接触し、その後ろを一定区間歩くことで取得が可能となるのだが、はっきり言って面倒くさい。

 件の修験者は、常に移動しているため、時間帯によって居場所が異なる。このため、特技の取得は、まず修験者を見つけ出すことから始まるのだ。


(移動範囲が広すぎる)


 伏見の稲荷社を起点に比叡山、大原、鞍馬を経て、高雄、嵐山を巡り、最終的に松尾神社近くの西芳寺へと至る全長約八〇キロメートルもの道程。

 平安京の東から北、西の三方の山々を巡るルートを、四日間ほどで歩む彼のNPCは、攻略サイトが提供する時刻表の力を借りても、出会うだけで一仕事となる。


「がんばって、歩きました」

「いやはや、大したものでござるな」


 特技取得の要件となる一区間を踏破には、ゲーム内で五、六時間近くを要する。

 NPCに会うまでの時間を含めると、所要時間はさらに膨れ上がるだろう。

 なお、新しい歩法を取得したいときは、また同じことをする必要があるが、複数の区間を移動してのまとめ取りは出来ない。

 一度、歩法を取得すると、最低四日。つまり山伏が全区間を一周するまで取得制限がかかるのだ。おのれ運営めと、かつて掲示板で話題になっていたのをセキは思い出す。


「それにしても【風踏足(ふうとうそく)】を選ぶとは、お目が高いでござるな」

「最初は、セキの【疾風足】を考えていたのですけど、説明文を読んで、こちらの方がわたしには合っているかな、と」


 特技【風踏足(ふうとうそく)】の効果は、空を蹴る―――要は二段ジャンプが可能となるのだ。

 一度使用すると、どこかに着地するまで再使用できないが、【疾風足】や【雷迅足】のような再使用制限時間(クールタイム)は設けられておらず、短いスパンで繰り返し使うことができる。

 初伝級の特技ではあるが、初期取得特技として選択できないため、【疾風足】よりも格上のものと言えよう。


「なるほど」


 薙刀を利用した大跳躍からの回転斬り。

 からくり武者相手に見せた彼女の動きを思い出したのか、兵蔵が納得したようにうなずいた。空中での「一歩」が得られれば、さらに動きの幅が広がるだろう。


「で、あれば、ひとつは【軽業】がセオリーではござらぬか?」

「やっぱり、そうでしょうか」


 平衡感覚や空中での姿勢制御に補正を与える【軽業】は、空中機動を嗜好する者の鉄板特技だ。兵蔵の言葉に、ツカサも異論はなさそうな様子を見せる。

 忍者がセキへと視線を向けてきた。


「セキ殿の意見は異なるのでござろうか?」

「いや、選択としては有りだと思う。ただ、素でアレだけの身のこなしが出来るツカサの場合、さらに【軽業】を取る必要があるのかな、と」

「なるほど」


 初伝級で得られる補正―――【行動支援】程度では、ツカサにとって一枠使うほどの価値はないのではないか。

 そう考えるセキの言葉に、兵蔵が腕を組んだ。

 

「確かに、中伝以上の前提特技として取得する意味はあっても、実装までする必要はないかも知れないでござるな。では、他の候補が?」

「面白みはないけど、【頑強】を取って、生存率を引き上げるのも手かなと思う。

 【体】に成長点を振るから、【力】【速】【耐】の基礎能力値も上がるし……」

「でも、能力値については、【神道】の憑霊でカバーできるようにも思うんです」


 そっと、ツカサが特技の一つを指差した。


 ―――【神道/憑霊】


 術法系特技【神道】には、『修祓』と『憑霊』の二系統が存在する。

 修祓は、弓を利用した霊属性攻撃や呪詛解除、多少の体力回復など、憑霊は能力値の上昇や限定的な特技付与といった自己強化に関する術法を扱う。


「元々、巫女さんならこれかな、って選んじゃったものですけど―――」


 術法の行使に必要となる道具を持っておらず、全く使っていない。

 これはマズいと龍笛を購入するとともに、【楽器演奏】の初伝を新たに取得したのだと彼女は説明する。


「今後、憑霊の方も使えるようになれば、能力値についてはカバーできるのかな、と」

「なるほどでござる」


 憑霊は、自己強化系の術法であるため、白兵戦を得手とするツカサとの相性は非常に良い。

 舞や楽器の演奏が発動に必要なため、即時の使用ができないのが難点ではあるが―――


「強敵と戦う際に、事前に準備するという使い方であれば、特に問題はないし」

防御役(タンク)に足止めをしてもらって、その間に使用するということも出来るでござるな」

「……その、それは、ちょっと恥ずかしいです」


 兵蔵の言葉に、ツカサが少し赤くなって首を振った。

 敵の攻撃を押し留める防御役の背後で、神楽を舞い、あるいは楽器を演奏する巫女。

 中々、良い感じの絵にはなるのではないかとセキは思う。

 だからこそ、恥ずかしいのかも知れない。


「まあ、ツカサ殿の考えは分かったでござる。その場合だと、やはり【軽業】でござろうか?」

「……少し考えたのですけど、その……【武器習熟/弓】はどうかな、と」


 修祓の関係で弓を持っておこうと思うので、とツカサが呟いた。

 修祓系統の術法である〈破魔の一矢〉や〈鳴弦〉を使用するには、弓が必要となる。

 今後、それらの術法を使うことも考え、新たに弓を買おうと考えているのだと、ツカサが語った。

 併せて、弓を扱うための特技を取得しておけば、術法以外にも使えるので良いのではないかと考えたらしい。


「なるほど、理に叶っているでござるな。ただ……いや何でもないでござる」


 ―――せっかく取得した特技を、腐らせすぎではないだろうか。


 覆面のため分からないが、兵蔵が呆れたような表情を浮かべている気がして、セキはすぃっと目を逸らした。


(自主性って大事だと思うし……)


 そのあたりの助言は、全くしていないセキである。

 その結果、『鉄輪ノ井』で有効な特技をほとんど活用できなかったので、色々とマズかったかも知れないと、密かに責任を感じていたりはする。

 ―――本当に、あの凸凹夫婦と出会わなければ、どうなっていたことか。


「それで、どうしようかな、と思って、兵蔵はどう思いますか?」

「……【軽業】は、ツカサ殿が新たに取得した【風踏足(ふうとうそく)】と非常に相性が良いでござる」

「はい」

「セキ殿が推した能力値の底上げは、目に見えた効果はないでござるが、基礎を引き上げる関係上、長い目で見ると、やはり重要なことでござろう」

「確かに、基礎って大事ですよね」

「ただ、ツカサ殿が考える弓の有効活用については、出来ることを増やすという意味でとても良いことでござるよ」


 そこで言葉を切って、忍者は沈黙した。

 神妙な顔で、ツカサは彼の言葉を待つ。


「……ツカサ殿が良いと思う方で良いのではなかろうか」




◆話を聞いていた他のマレビト達の反応について


 『あの忍者使えない』





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