其の一
第五話開始となります。
短いので、本日は2回投稿。こちらが、その1となります。
どうぞよろしくお願いします。
はじめて『陰陽洲』の世界に降り立った時、彼女の心中は期待と不安が半々といったところだった。
仮想現実世界。
五感で感じとることのできる、しかし現実とは異なる世界。
それは、どのようなものなのだろうと、胸の高鳴りとともに抱いた疑問は。
「―――すごい」
羅城門を出た瞬間に、氷塊した。
―――薄暗い門を抜けた先、視界一杯に広がる雪化粧の朱雀大路。
現実とは真逆。冬の冷たい風が吹き抜けて、少女の長い黒髪を揺らす。
目を疑うような巨大な通りを行き交うのは、時代劇に出てくるような恰好の人々。
どうやら、まだ夜が明けたばかりのようで、活気あふれるとはいかないものの、彼女は人々の生活の息吹を感じて、ほぅと息をついた。
空を見上げる。
冬の高い空。
そこを、一羽の雀が横切っていく。
これから、この世界でどんなことが起きるのだろうと、彼女は期待を抱いた。
ただ。
(……でも)
対戦、共闘……その方法に違いはあれど、オンラインゲームは、基本的にプレイヤー同士の交流を前提としている。
そして、MMORPGであれば、千、万を超える人々が同じ世界に立ち、気の合う者達が集まってチームを組んで、一緒にゲームを進めているという。
(大丈夫、かな?)
自分は、オンラインゲームどころか、この手のゲーム全般の初心者だ。
下手くそと、嘲笑われたり、怒られたりしないだろうか。
誰かの足を引っ張って、迷惑をかけたりしないだろうか。
―――そもそも、わたしと遊んでくれる人はいるのだろうか。
彼女は、そんな不安を抱く。
それは、オンラインゲームを初めて遊ぶ者の多くが少なからず抱くもので、ほとんどの場合においては杞憂に終わるのだが、それを彼女が知る由もない。
ふと。
「―――って、冬かよ!?」
そんな声が傍らから聞こえてきて、彼女はパチリと瞬きをした。
視線を向けると、一人の青年が立っている。
薄茶色の着物に、暗い緑の袴姿。腰には一振りの太刀。
おそらくは自分と同じ、たった今、この『陰陽洲』に降り立ったであろう青年。
こちらに気が付いた様子もなく、朱雀大路を見て寒そうに腕をさすっている。
「…………」
その姿を見て、彼女は小さく息を吸った。
ちらりと、路面に目を向ける。
通行人達の足跡が残る雪。一部はシャーベット状になっていた。
声が震えたりしないだろうか。
少し心配になりながら、えいやと声を出した。
「―――わあ!」
自分でもわざとらしいと思うほどに、明るく声を張る。
同時に、少し小走りで雪の上へと進む。
(目の前で尻もちをついたら、「大丈夫?」くらいは、声をかけてくれる、かな?)
かけてくれたらいいな。それで、一緒に遊ぼうと誘ってくれたら、もっと良い。
我ながら姑息で浅ましい。人様の善意に付け込もうなどと。
そう思いながらも、都合の良い期待を胸に抱いて、彼女はわざと足を滑らせた。
「雪だっぶべっ!?」
―――思っていたのと違った。




