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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第四話 凸凹コンビと鉄輪の鬼女
26/37

其の七

本日は、3回更新予定です。

2回目が14時頃、3回目が16時頃の予定です。

◆◇◆◇◆



 深く昏い井戸の底。

 中天に至った月から、銀の光が差し込む。

 それは、まるでスポットライトのように、中心にて浮遊する者の姿を、セキ達に(あらわ)にした。


 朱を塗りたくった顔には、赤く爛と(とも)った瞳がひとつ。

 身にまとった赤布は、ボロボロに朽ちており、その下から黒ずんだ小袖が覗いている。

 その右手には、ひび割れた木槌を握りしめ、釘を持つ左手は、骨がむき出しとなっていた。

 鉄輪を冠にいただく髪は、酷く乱れ果てている。


 改めて、その名が視界の端に刻まれた。


『鉄輪の鬼女/脅威度:四』


 人位級最上位。鬼へと転じた女。

 恐れから生まれた『鬼若之残影』と並ぶ、人の想念が生んだ京の闇だ。


「―――ォオ、オォオオォォゥ」


 木槌の音は止んでいる。

 代わりに、嗚咽のような、唸りのような―――低く枯れた声が木霊した。

 怨と。

 ただ、それだけが込められた音。

 怖気の走るその声を聞きながら、セキはそっと太刀を握り直した。

 ゆっくりと、脛まで水に浸かった足を動かし、立ち位置を整える。

 先ほどまでの亡者と釘のラッシュとは裏腹な、ひどく静かな、しかし張り詰めた空気。

 そこにどこか心地よさを感じながら、セキは始まりの号砲を待つ。


「―――さあ、ここからが本番、よ」


 一行の最前に立つ緋扇が、錫杖を鳴らした。その正面には、すでに格子状の防壁が展開されている。

 ちらりと、視線を横に動かせば、薙刀を構えたツカサと目が合った。

 うなずき合う。

 背後では、きっと同鏡が胡散臭い笑みを浮かべているのだろう。

 すぅ、と緋扇が息を吸い込んだ。


「喝――――ッ!!」


 【大喝破】―――それを合図として、『鉄輪ノ井』におけるボス戦の火ぶたが切って落とされた。


 こぉおん、と槌音が鳴り響く。紫炎を帯びた釘が―――


「ぬるい」


 鬼女が木槌を振り上げると同時に飛び出したのだろう。

 至近まで間合いを詰めた緋扇が、障壁越しに冷たく告げた。

 彼女に追従した〈九字法〉の障壁に阻まれ、勢いを失った釘が水面に落下する。それを踏み潰すように、山伏の娘が踏み込んだ。


 ―――硬く鈍い音が響き渡る。


(打撃系の武器って、物凄く痛そうな音がするんだよな)


 鬼女の頭を錫杖で殴りつけた少女を見て思う。

 柄の中ほどを持った緋扇は、セキの視線の先で巧みに杖を操り、間髪入れずに石突で鬼女の顎をかち上げた。

 衝撃にふらふらと鬼女が浮遊したまま後退する。

 緋扇は追撃しなかった。代わりに。


「どうぞ!」


 と、声を上げた。

 ―――【疾風足】起動。

 鬼女が後退したことで緋扇の間に生じた間隙を、セキは左方から斜めに横切るように駆け抜けた。

 鬼女の傍らをすり抜けざまに太刀を振るう。

 戦技【疾風剣】の効果により、速度を刃に変えた一閃が深々と鬼女のわき腹を斬り裂いた。


「――ァアアアアッ!?」


 悲鳴が上がる。

 鬼女の後方三メートルほどの位置で、セキは【疾風足】の勢いを殺しながら振り返る。

 その視界に、己とは逆―――右方から接近するツカサの姿が映った。


「はっ!!」


 痛撃に怯んだ隙を狙った強攻撃。

 月明かりを受けて煌めいた薙刀が、三日月を描いて鬼女の体を薙いだ。

 一瞬遅れて、風の刃が追撃する。

 【風薙ぎ】により、多重にダメージエフェクトをまき散らす鬼女が、たまらず上空へと逃げ出した。


「―――ォオオオオ!」


 距離をとった鬼女が、赤い独眼でこちらを睥睨する。

 その周囲に、紫炎をまとった釘が出現した。


 ―――こぉおん、こぉおん、こぉおん。


 連続斉射。

 一音に付き二〇の釘を射出―――それを三度繰り返す。


「弾幕が薄い」


 セキは嗤った。

 ばら撒くように撃ち出された釘は、広範囲に広がる分、密度が低い。

 しかも、追尾のない直線的な射撃だった。

 セキは、水をはねさせながらステップを刻み、最小限の動きでかわす。

 どうしても回避が難しいものは太刀で打ち払いながら、他の者達の様子を窺った。


「と、ほっ!」


 ツカサは回避を選んだようだった。

 薙刀を利用した高跳びの要領で、射線の外へと己が身を退避させている。


 対照的に、緋扇は防御を選択していた。

 足を止め、障壁で釘の雨を受け止める。そのまま、じっと鬼女の動きを観察しているようだった。

 なお、その背後には、しっかりと避難している同鏡の姿。


(さすが……)


 各々の方法で危なげなく対応している様子に、セキは頼もしいなと笑う。

 口の端を吊り上げて、その視線を上方に向けた。

 水面から、五、六メートルほどの高さで鬼女が浮遊している。


(届かないことはないな)


 踏み込み、水底を蹴ると同時に【疾風足】を起動。

 特技の効果による大加速が背中を押す。

 本来は、足場の水平方向に発生するその力を、セキは上方へと捻じ曲げる。

 跳躍した。

 特技【軽業】の効果を受け、重量軽減を受けた体が、文字通り矢となって鬼女へと放たれる。

 激突した。


「――――!?」


 鬼女がもがくように虚空に手を伸ばす。

 その胸を貫いた太刀の柄を支点に、セキは体を回す。その勢いで刃を引き抜き、斬撃に繋いだ。

 空中で、華が咲くようにダメージエフェクトが散る。

 鬼女とセキ、二人そろって落下する。水飛沫が散った。


「ァ、アアアア―――ッ!!」


 即座に水面から飛び上がった鬼女が、セキから距離をとりながら金切り声を上げた。

 そんなに嫌がるなよと、セキがずぶ濡れのまま軽口を叩く。


「ククク。水も滴るという奴かね? ずいぶんと男前が上がったではないか」

「たった今、近寄るなと振られたが」


 同鏡の言葉に笑って応じる。応じながら、セキは目を細めた。

 水面が所々で沸騰するように泡立っている。


「人を呼ばれたようだ」

「変質者扱いかよ」


 ばしゃりと水音を立てて、人影が立ち上がった。


「亡者!」


 ツカサが声を上げた。

 湧出(ポップ)したその数、全部で七つ。


「亡者は、セキとツカサに任せる。緋扇は、鬼女の動きを警戒」

「了解」

「はい!」


 同鏡の言葉に、セキとツカサがうなずいた。

 足場がある状況ならば、亡者は大した脅威ではない。

 セキは一息でその一体へと間合いを詰めて、太刀を叩き込んだ。

 袈裟斬り。間髪入れずに、手首を返し切っ先を跳ね上げる。

 斬り上げた刃を、再び振り下ろせば亡者が悲鳴を上げて消散した。


「次―――」


 ほどなくして、喚び出された亡者は全滅した。

 借り物の太刀様々である。





 釘の射出は、緋扇が至近距離で防いで即座に反撃。

 空中に舞い上がれば、セキが跳躍して叩き落す。

 亡者を喚ぶと、セキとツカサが斬って回る。

 木槌と釘を頼りに白兵戦を挑めば、囲んで太刀と薙刀と錫杖でボコボコにする。

 その繰り返し。


「このままパターンで押し切れると楽だが」

「残念ながら、多分、そろそろ動きが変わる」


 同鏡が呟くのが聞こえたので、セキは注意を促す。

 それに応えたわけではないだろうが、上空にいた鬼女が高度を下げ始めた。


「あ、下りてきました」

「警戒を!」


 パターンが変わったと、緋扇がツカサに注意を促す。

 鬼女が降り立った。浮遊ではなく、己が足で立っている。

 ざわりと、水面が揺れる。


 ほぼ直感で、セキは後方に跳んだ。


「―――っ!?」


 眼前を何かが貫く。

 それが、下方から伸びた〈水槍〉だと気が付いて、セキは警告の声を上げようとする。

 直後、目を見開いた。


「……ぁ」


 複数の〈水槍〉に貫かれ、宙に持ち上げられたツカサの姿を目にしたからだ。


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