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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第四話 凸凹コンビと鉄輪の鬼女
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其の六

◆◇◆◇◆



 攻略を再開した。





 ―――こぉおん。


 槌音が鳴り響いてから、十秒……十五秒……二十秒が過ぎても、次の音が聞こえてこない。


「また、音が止まった?」

「警戒を!」


 下の足場まではまだ遠い。杭の上で、全員が鬼女の出現に備える。

 二十五秒経過。三十秒―――……


 ―――こぉおん。


「どうやら、音の間隔がズレただけみたいですね」

「嫌がらせか!」





 ―――こぉおん。


 前の槌音から、二五秒が経過したところで、新しい槌音が響き渡る。

 それを耳にして、一行は警戒を解いた。空気が弛緩する。

 直後、セキの目が下方に紫炎の輝きを捉えた。


「……っ、最下層から撃ってきた!?」


 警告の声を上げつつ、セキはその動きを注視する。

 光の尾を引きながら、こちらに向かって飛んでくる紫炎。その数、二〇。

 標的は―――


「俺かっ!?」


 舌打ちしながら、下方の杭へと飛び移る。

 だが、回避するセキの動きに呼応して、紫の光跡が折れ曲がる。逃げられない。


「ほ、ホーミングした!?」

「ああ!? セキが! セキが!?」


 持ってて良かった命綱。





 ―――こぉおん、こぉおん、こぉおん。


 ―――こぉおん、こぉおん、こぉおん。


 短い間隔で槌音が鳴り響く。それを聞いて、セキは舌打ちをした。


「……くっそ、馬鹿にしやがって」

「くくく。遊ばれているな」


 セキが悪態をつき。同鏡が喉奥で笑った。

 三々七拍子だった。





 幾多の苦難を乗り越えて、第六層に到達した一行は、大きくため息をついた。

 これが最後の小休止になるだろう。


「何だか、セキばかり狙われていたような」


 ツカサの言葉のとおり、道中、地の底から撃ち込まれた呪いの釘は、その全てがセキを標的としていた。

 回数にして、約六回。撃ち込まれた釘の数は、全部で一二〇にも上る。

 そのほとんどは、太刀で叩き落としたり、空中機動を駆使することで難を逃れているが、それでも幾度かは直撃を喰らっている。


 本当に、持ってて良かった命綱。


 こぉおんと、今は定期的になっている槌の音。

 その発生源がいるだろう方向と視線を向けて、セキは昏い笑みを浮かべた。


「待っていろよ。もうすぐ会えるからな」

「セキ。目が怖いです」


 ツカサが引いたような声を出した。

 しかし、とその隣で緋扇が首を傾げる。


「なぜ、セキばかりが狙われた、のかしら?」

「大した理由はあるまい。単に先頭だったからだろう」


 同鏡の身も蓋もない言葉に、だろうな、とセキは同意する。

 視界外、絶対に反撃できない場所からの鬼女の攻撃は、厄災による攻撃という体裁を採っているが、実際のところダンジョンギミック―――罠の一種だ。

 そして、罠であれば、標的は機械的に選ばれる。


「何の根拠もないけど、特定の杭を踏むことでスイッチが入って、対応した反応が返ってくるとか、そんな感じだと思う」


 スイッチを踏むと飛んでくる仕掛け矢のような。

 そう、セキは推測を口にする。


「音の間隔がおかしくなったり、釘が飛んで来たり」

「三々七拍子に変わったり?」

「何か最後おかしい気がするが、そういうこと」


 運営の嘲笑う声が聞こえてくるようだと、セキは低く唸った。

 サイレント修正の理由は、何も知らないまま突然ボスに襲撃を受けて慌てふためくプレイヤーを見たいとか、そんな理由に違いあるまい。


「ところで―――」


 気分を入れ替えるように、同鏡が手を叩いた。

 視線を向けると、彼は「今更ではあるが」と前置きをして。


「セキとツカサの二人は、どうしてこの鉄輪ノ井を攻略しに?」


 本当に今更な質問をしてきた。

 その問いに、セキとツカサは顔を見合わせる。同鏡が笑った。


「何、大して深い意味はない。もうじきこのダンジョンも終わりだからな。

 そうなれば、この徒党も解散だ。

 ならば、多少は親交を深めておきたいと思うのが人情だろう?」

「……解散。そうですよね」


 ツカサが、小さな声で呟いた。

 寂しげなその顔を見て、緋扇が苦笑を浮かべる。


「……また徒党を組みたいから、仲良くなっておきたい。

 そう言わないと、これっきりみたいに聞こえる、わよ」

「これはしたり」


 ぺしりと、己が膝を叩いて同鏡が笑う。

 その言葉を聞いて、セキはそっと息をはいた。口元がほころぶのを感じる。


「本当に今頃なんだけど、こっちの目的は『縁切り水』だよ」


 告げながら、メニューウィンドウを呼び出す。

 葛籠(インベントリ)に、自動格納されている戦利品(ドロップアイテム)を取り出す。

 

 手元に竹筒が出現した。『縁切り水』だ。

 それを見て、ふと緋扇が首を傾げた。


「……そういえば、どうして亡者が縁切り水を落とすの、かしら?」

「ああ、それは―――」



『縁切り水』

 飲ませた相手との縁を切る霊水。

 その正体は、手ひどく裏切られた鬼女の血涙か。

 あるいは、鬼女との縁切りを願う囚われし亡者達の慟哭か。



 縁切り水の情報欄にある説明文フレーバーテキストを読み上げた。


「え、それって涙なんですか?」

「何で涙を竹筒に……?」

「本当に涙かどうかは別として、竹筒に入ってるのは、ゲーム的な都合だろうな」


 何の容器にも入っていない液体を、そのままドロップしても困るだろう。

 そう言って、同鏡が苦笑する。


「なぜ、縁切り水を?」

「鍛冶師から武器を作る対価として、縁切り水を一〇〇個要求された」

「鍛冶師が?」

「何か、焼き入れの時の水として使うと夫婦(つがい)特攻の属性が付くとか言ってた。そっちは、どうして鉄輪ノ井に?」

「ああ、私たちは―――」


 異界としては、近場で手頃だったのだと緋扇が答えた。


 緋扇と同鏡のログイン頻度は、それほど高いわけではなく、お互い以外のマレビトと固定で徒党を組むのは難しい。

 とはいえ、即席の徒党を組もうにも、同程度の力量を持つ―――要は新人のマレビトがあまりいないのが現状だ。

 それで、二人だけでも挑めそうな近場の異界として、この鉄輪ノ井を選んだのだと彼女は説明する。


「まあ、二人で挑んでいたら、今頃は普通に全滅していただろうな」

「セキとツカサに出会えたのは、幸運だった、わね」

「わたし達も、緋扇ちゃん達と出会えて良かったです」


 ツカサの言葉に緋扇がうなずく。何やら微妙そうな表情を浮かべた彼女を見て、同鏡がクツクツと喉奥で笑った。

 そういえば、とツカサが首を傾げた。


「お二人は、ずっと一緒に行動しているんですか?」

「何しろ夫婦だからね。ああ、リアルでの話だよ」

「ふうふ……?」


 いきなりのカミングアウトである。ツカサが動きを止めた。

 耳に入った言葉を吟味するように、しばしの沈黙の後、理解が追い付いたのか、彼女は目を見開いた。


「ええ!?」

「休みの日に、夫婦でVRMMOをやっているのだよ」

「ん? 休みの日って、今日は月曜だったような」

「あ、あのわたし、もしかして年上の方にちゃん付けで……」

「大丈夫。気にしていない、わ」

「ふふふ。年次有給休暇」

「ごごご、ごめんなさい」


 ツカサの反応に、同鏡が満足げな様子を見せる。

 緋扇が大きなため息をつくのに、セキは苦笑した。

 

 果たして、これで親交は深まったのか。




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