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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第四話 凸凹コンビと鉄輪の鬼女
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其の三

◆◇◆◇◆



 鉄輪ノ井。

 五条大路から南に少し下ったところにある小さな井戸だ。


「丑の刻参りの女が力尽きた場所らしい」


 すぐ近く―――五条大路を挟んで北側には、源氏物語に出てくるヒロインの一人、夕顔が住んだとされる宿所がある。

 光源氏との逢瀬の最中、生霊に取り殺された娘の住所が近くにあるのは、果たして偶然か否か。


「丑の刻参りって……神社でわら人形に釘を打つアレですよね?」

「そのとおり。その様子だと、この井戸にまつわる話は知らない?」


 問えば、ツカサが気まずそうに頷いた。

 有名な話なのかと問う彼女に、セキは少し考えて首を横に振った。

 陰陽師ものの小説を読んだりする人には、わりと有名かも知れないが、そうでなければ、知らない方が普通だろう。


「じゃあ、簡単にどんな話か説明しようか」

「お願いします」


 コホンと小さく咳払いをして、セキは口を開いた。


「むかしむかし……いや、むしろ最近か?」

「どっちです?」

「うん。まあ、むかしだな。むかしむかし、あるところに一組の夫婦がいた。

 ある時、夫が浮気をして、新しい嫁を娶るからと妻に離縁を切り出した」

「ひどいです!」

「うん。そうだな」


 憤慨するツカサに、セキは重々しくうなずいた。

 コホンと咳払い、話を続ける。


「離縁された妻……女は、元夫のことが許せない。

 許せないので、元夫と後妻に報いを受けさせてくれと貴船神社にお参りを行った」

「貴船神社?」

「ここからだと、十五キロメートルくらい北にある神社」


 平安京の北、貴船山の東麓にある社だとセキは説明する。

 縁結びの神として知られ、丑の年の丑の月の丑の日の丑の刻に貴船明神が降臨したとの由緒から、丑の刻にお参りを行う風習が生まれたのだそうだ。


「で、この丑の刻参りをしたところ、お告げがあったそうな」

「お告げ、ですか」


 赤い布を切って身にまとい、顔に朱を塗り、頭に逆さにした五徳を被り、その三本の足に蝋燭を立てて火を点し、怒りにその身命を委ねれば、鬼となれよう。

 有名な呪詛―――丑の刻参りの恰好である。


「鬼になる方法を神様が教えたんですか?」

「鬼になれば、憎い元夫と後妻に報いを受けさせられる、ということだろう」

「……なる、ほど」


 ツカサが何やら釈然としないといった様子で唸った。

 神様が呪いの方法を教える、ということに納得がいかないんだろうな、とそんなことを思いながらセキは続ける。


「それで、六日間、毎晩丑の刻参りを行ったんだけど、満願成就まであと一日というところで女は力尽きてしまった」

「…………」

「毎日、片道十五キロメートルの道のりを歩んでいたら、そりゃ力尽きる。

 別の話だと、安倍晴明によって呪詛を破られたっていう話もあるが、まあ失敗してしまったわけだ」

「はい。それでどうなったんですか」

「うん。力尽きたのか、呪詛を破られたのか。どちらにしろ、女はこの井戸のところで力尽きて、そのまま息絶えた」

「……何だか、すごく釈然としません」


 むぅと眉をひそめるツカサに、気持ちは分かるとセキは同意した。

 話を続ける。


「後世、この井戸の水を飲ませると、その相手との縁が切れると言われるようになったそうな」

「縁を、切る」

「人の縁には、良いものもあるけど、悪いものもあるから」


 ここまでが、現実にある鉄輪の井戸にまつわる話だ。

 そして、ここからは、陰陽洲における鉄輪ノ井の話となる。


「女の恨みは、とても強かった。命を失う羽目になるほどに。

 しかも、六日目には、半ば鬼に転じていた。その結果、回生の加護も失われ、彼女を哀れに思った者が祈っても蘇生することが出来なかった」

「それは、その、女の人が可哀そうです」


 ツカサが眉をハの字にする。

 

「女の恨みは死後も残り、この井戸を入り口とする異界を形成した。

 そして、近づく者を手当たり次第に引きずり込んでいるという」

「…………」


 ツカサが何とも言えない表情で沈黙した。

 さもあらんと、セキも内心でうなずいた。あらゆる意味で救いがない。

 ふと、拍手が聞こえてきた。


「――――」


 視線を向けると、近くに一組の男女の姿があった。

 一人は笠をかぶった僧形の男。もう一人は山伏姿の少女。

 おそらくは、セキ達と同じマレビトだろう。


(何か、ずいぶんと身長差のある二人組だな)


 凸凹コンビ。


 セキの第一印象はそれだった。

 僧形の男は、身の丈二メートルを超える偉丈夫だ。

 墨染の空衣うつおに白の折五条袈裟といった出で立ちで、ゴツゴツとした大きな手には、水晶の珠と黒珠から成る数珠が握られている。

 僧衣の上からでも、鍛え上げた筋骨隆々とした体躯が伺え、正直、真言を唱えるよりもぶん殴る方が向いていそうな印象があった。


「いや。興味深い話を聞かせてもらった」

「申し訳ない。立ち聞きをするつもりは、なかったのだけれど」


 会釈をする男の傍らで、山伏姿の少女が恐縮したように頭を下げた。


 彼女は、男とは逆に小柄だった。

 その身長は、せいぜい百二〇センチメートルといったところか。

 赤髪に紅玉の瞳を持った、人形のように整った顔立ちの少女だった。

 禿髪(かむろがみ)兜巾(ときん)をかぶり、小さな体に篠懸(すずかけ)結袈裟(ゆいげさ)をまとった姿が、どこか子供の仮装じみた印象を抱かせ、何となく微笑ましい。

 体格に見合わない長さの錫杖を手にしているのも、少女の幼い外見を際立たせる方向に一役買っていた。

 ちらりとツカサの様子を窺うと、彼女は目を輝かせて少女を見ていた。


(可愛い! とか思ってそうだな)


 男が口を開く。

 こちらは、少女とは裏腹に、何となく、すごく、かなり胡散臭い。


「拙僧は、同鏡(どうきょう)という。こちらは、緋扇(ひせん)

 お二人は、これから鉄輪ノ井(そこ)に行かれるのかな?」

「ええ。そのとおりですが」


 なるほど。そう頷いて、男は笠を外した。

 露になった禿頭が、陽を受けてキラリと輝く。彼は笑みを浮かべて続けた。


「よろしければ、ご一緒させてはもらえないかね?」

「…………」


 何ということのない、ただのパーティー編成のお誘いだ。

 だというのに。


 なぜだろうか。物凄く胡散臭かった。





 ―――こぉおん。


 乾いた音が、闇の中で木霊する。


 繰り返し、繰り返し、跳ね返った音が螺旋を描く。

 十を数えるごとに一度。

 決して途絶えることのない祈りが、地の底から響いてくる。 

 

 異界『鉄輪ノ井』


 その構造を、一言でいえば巨大な井戸だ。

 穴の直径は六〇メートル、深さは五〇〇メートルほど。その内側に張り付くように、幅十メートルほどの鉄の輪が足場として備えつけられている。

 最深部へと至る途中、足場となる鉄の輪は、全部で六つ。


「……ふ、深いですね」

「確か、下の輪までは六〇メートルくらいあったはず」

「ひええ」

「階段があるワケでもなさそうだけど、下にはどうやって行く、のかしら?」


 セキの言葉に、足場の端から、恐々とした様子で下を覗き込むツカサ。

 その隣にいる少女が顔を上げ、疑問を口にする。

 それに答えたのは、彼女の連れである同鏡だった。


 緋扇の問いに、彼は足場となっている鉄輪の外縁部、石壁と接している場所を指差した。


「あそこに穴が開いている」

「うん」

「その穴から三メートルほど下で、壁に鉄杭が刺さっている」

「うん」

「その鉄杭の斜め下四メートルくらいの位置にも、鉄杭が刺さっている」

「……その先も同じように?」

「ご名答。螺旋階段みたいなものだと思えば良い。

 それで、その等間隔に刺さっている鉄杭を足場に下りていくわけだ」

「えぇ……」


 話を聞いていたツカサが、情けない声を上げた。

 気持ちは分かる。杭に飛び移り損なえば、下まで真っ逆さまだ。

 ヒュンとするので、セキもあまりやりたくはない。

 加えて言えば。


「下っている途中で襲われた場合、足場がないに等しいから近接戦闘は厳しい」

「そのとおり」


 顔をしかめて呟いたセキの言葉に、同鏡が頷いた。

 出てくる敵が亡霊の上に、マップがご覧の有り様である。つくづく近接戦闘オンリーなセキに優しくない。

 セキは、事前に購入していた縄を取り出しつつ、ため息をついた。

 同様に取り出した縄を腰に結わえ、その調子を緋扇と確かめ合っているツカサを見て思う。


(異界に入る直前で二人に会えたのは、ラッキーだったな)


 異界『鉄輪ノ井』は、インスタンスダンジョンだ。

 侵入する徒党(パーティー)単位でエリアが形成されるため、異界の中で他の徒党と顔を合わせることはない。

 異界に入ってしまっていたら、同鏡と緋扇に出会うことは無かっただろう。


(……そのおかげで、いきなり本攻略になったが)


 自分が役に立たない以上、人を集めて挑まないとツカサの負担が大きすぎる。

 そのため、今回は下見のつもりだったのだが、何やらいきなり面子が揃ってしまった。

 しかも、真っ当にバランスが取れた徒党となっている。


(同鏡が回復役(ヒーラー)で、緋扇が防御役(タンク)というのは、意外だったけど)


 事前に確認した二人の役割(ロール)は、ぱっと見の印象からは真逆のソレだったが、外見と能力が一致しないのは良くあることだ。

 筋骨隆々の貧弱ボーイや、怪力無双の幼女―――特に後者は、わりと多い。


防御役(タンク)が一、攻撃役(アタッカー)が二、そして回復役(ヒーラー)が一。

 即席の徒党にしては、中々どうして、良いバランスではないかな?」

「……申し訳ないが、俺は多分役に立たないぞ。もちろん、サボるつもりはないけれど」

「それで結構。期待しているよ」


 同鏡が横目でこちらに見ながら含み笑う。

 油断すると後ろから蹴落とされそうだ。

 そんなことを思いながら、セキは小さく肩をすくめた。





◆ステータスについて(三話からの変動なし)

 名前:セキ 

  心:2 技:4 体:3

   体力:1075

   気力:1075

   力:50 速:50 耐:43

   意:43 識:36 霊:24

   巧:40 知:40

 特技

  心:【堅志】【霊視】

  技:【武器習熟/太刀(初伝)】

    【軽業(初伝)】【疾風足】

    【疾風剣】

  体:【大力】【迅速】【頑強】

 ※未使用の成長点が1点あります。


 名前:ツカサ 

  心:3 技:4 体:2

   体力:600

   気力:1250

   力:43 速:43 耐:24

   意:50 識:42 霊:43

   巧:40 知:40

 特技

  心:【堅志】【大霊】【霊視】

  技:【武器習熟/薙刀(初伝)】

    【神道/修祓】【神道/憑霊】

    【風薙ぎ】

  体:【大力】【迅速】

 ※未使用の成長点が1点あります。


・緋扇:非公開

・同鏡:非公開

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