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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第三話 マレビトとモノノフ
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其の七

ボス戦省略は、さすがにどうかと思い、僅かですが加筆しました。

何となく消化試合の感は否めませんが、さてどうでしょうか……

冗長であればすみません。

◆◇◆◇◆



 赤鬼を相手にし始めてから、二〇分が経過した頃。

 鬼が、唐突にその動きを止めた。


「…………?」


 先ほどまでとは打って変わったその様子に、セキは緩み切っていた意識を締め直す。


(ツカサ達の方で何かあったな)


 おそらくは、拐われた娘を救い出したのだろう。

 この状況の変化を、攻略が進行したことによるものと、セキは推測した。


「―――アア」


 低い声が響く。

 昏い、陰鬱な声。鬼の口の端から、ひゅるりと細く炎が漏れた。


「我が命ヲ奪うカ」

「はン」


 その言葉に、セキは鼻で笑ってみせた。

 嗤いながら、太刀の切っ先を向ける。


「何を今さら。まさか身代わりを失って、怖くなったとか?」

「……オノレ」


 まさかの図星だったらしい。

 セキが肩を竦めて嗤うと、戻橋之奪命鬼は軋るような唸り声を漏らした。

 俯いたまま肩を震わせるその様子に、セキは首を傾げた。


「とりあえず。もう勝ったじゃダメか?」


 告げた直後、鬼が激発した。


「オノレオノレオノレ、オノレエエエエ――――っ!!」


 怒号とともに飛び掛かってくる。

 もはや余裕などない。狂乱した様子で両手の鉤爪が振り下ろされる。 

 交差するように振るわれた双腕を、セキは慌てることなく回避した。

 試しに、そっと太刀を振った。鬼の腕を浅く斬りつける。


 ―――わずかにダメージエフェクトが散った。


「―――ゥぐ」

「なるほど?」


 大した傷ではない。

 だが、それを見た鬼は顔を歪めた。

 一瞬前までの怒気が消えて、代わりに広がるのは怯えの色だ。

 それを見て、セキは眉を上げる。口の両端がつり上がるのを感じながら、太刀を構え直した。


「どうやら。ちゃんと斬れるようになったみたいだな」

「あ、アアアアア――――っ!!」


 鬼が飛び退る。悲鳴染みた咆哮を上げながら、その右腕を振り上げた。

 開かれた五指に、赤く炎が点ったのを見て、セキは橋板を鬼への間合いを詰める。


 ―――【疾風足】起動。


 一瞬で加速し、鬼のすぐ傍らを駆け抜けた。

 すれ違いざまに【疾風剣】を乗せた太刀を叩き込む。

 悲鳴が上がり、炎とダメージエフェクトが虚空に散った。


「何か脆いな。……ああ、それはそうか」


 太刀から伝わる手応えと、発生するダメージエフェクトの量。

 そして、一撃で大きく怯んだ鬼の様子。

 それらに、セキは少しばかり困惑するが、すぐに合点がいってうなずいた。


 推測されるギミックの内容を考えれば、当然のことだろう。

 大鬼と同じ仕組みであるのなら、赤鬼の体力は、簡単に削り切れる方が望ましい。

 何しろ、削り切ったその瞬間、救うべき娘は死ぬのだから。

 そして。


(そんなギミックがあるなら、回生の加護が仕事するワケないよな)


 何らかの理由によって、蘇生は叶うまい。

 おそらくは、魂が失われる事態となるのではないかと、セキは予想する。

 ギミックに気が付くことなく調子に乗って攻撃を続ければ、あっという間に「娘を救出する」という目的は果たせなくなるだろう。


(身代わりの娘が複数いれば、若干難易度は落ちるだろうけど)


 最後に鈴が身代わりとなるのなら、手遅れになる前にギミックの正体に気が付いて、彼女を救い出せる可能性は増えるだろう。

 ただ、モブと言えど、自分の攻撃で死んだ(ロストした)娘がいるとなれば、後味は非常に悪い。

 えぐい()ろくでもない()嫌らしい()と、セキは眉をひそめた。

 とはいえ、今はもう何の意味もない。


(流石に、一撃や二撃で死ぬほど弱くはないだろうが)


 ツカサ達が戻って来る前に、片づけたい。そう考えながら、セキは太刀を構える。


「オノレエエエエ―――!!」

「ハァッ!!」


 振り下ろされた鉤爪を太刀で弾く。

 間髪入れずに手首を翻し、切っ先を跳ね上げた。

 斬り上げの一閃。赤鬼の身体を斜めにぶった斬る。

 ほとんど両断する勢いで放たれた一閃を受け、赤鬼が悲鳴を上げながら後退する。


「逃がさない」


 苦し紛れに鬼が放った火炎を、一閃で斬り散らして追撃する。

 太刀を振り抜いた右手を、脇に引き付ける。

 柄を握るその手を後ろに引いて、左手を刃に添える。弓を引き絞るような構え。

 切っ先が、鬼の心臓を指し示す。


 ―――【疾風足】起動。踏み込んだ。


「ギャガ、ァア!?」


 至近距離からの瞬発による刺突。

 問答無用で鬼の心臓をぶち抜く一撃だ。当然ながら致命的な一撃(クリティカル)となる。

 ダメージ量に耐えられず、赤鬼が膝を着く。

 一撃で体力値の半分以上を削られた場合、【朦朧】の状態異常が発生することがある。

 おそらくは、今の鬼の状態はそれだろう。

 首を垂れる赤鬼の傍らに立って、セキは太刀を振り上げた。


「それじゃあな」


 ―――白刃を振り下ろした。



◆◇◆◇◆



 青い空が目に入る。

 冬の日差しの下、さほど大きくない橋を、人々が行き交っている。


 唐突に切り替わった風景に、セキは目を瞬かせた。

 太刀を鞘に戻して周囲を見回せば、すぐに自分が立っている場所に気が付く。

 一条戻橋。そのたもとだ。


「……ああ。戻って来たのか」


 振り返ると、橋の反対側に見知った顔ぶれを見つける。

 セキはホッとため息をついた。


「えっと……ぁ、セキ!!」

 

 困惑した表情で辺りを見回していた少女が、こちらに気が付いて目を丸くした。

 ぱっと表情を輝かせたツカサの反応に、何となく照れくさいものを感じながら、セキは軽く手を振った。

 近づけば、彼女たちの周囲には、十二名もの娘の姿があった。


「これは、また……ずいぶんとたくさん居たな」

「はい。助けられて良かったです」


 半数は未だに意識を取り戻していないが、いずれも命に別状はない。

 それらを介抱していた、無骨な武士が大きく息をついた。

 おおよその状況は理解したのだろう。その表情は、困惑よりも安堵の色が濃い。


「終わった、のか……?」

「然り。それと、お迎えが来たようでござるな」

「お迎え?」

「む?」


 兵蔵の言葉に、ツカサが首を傾げた。

 彼の視線の先には、一台の牛車。

 そこから降りてきた人影を見て、勝嗣が眉をひそめた。

 壺装束姿の娘だ。

 市女笠とそこから垂れ下がる薄布に遮られ、顔を見ることは出来ない。  

 だが―――


「あれは―――」

「姫様!?」


 勝嗣の言葉を遮るように、意識を取り戻していた娘―――鈴が飛び出す。

 彼女は、壺装束姿の娘へと駆け寄ろうとし、しかし、その途中で大きく体勢を崩した。


「……あっ!?」

「鈴!!」


 壺装束の娘が転倒しかけた鈴を抱き留めるように支える。

 その衝撃で笠が落ち、娘の顔が露になった。


「あっ!? も、申し訳―――」

「無事でよかった……」


 慌てたように体を離そうとする鈴を、壺装束の娘が抱きしめる。

 良かったと、安堵の表情を浮かべる彼女を見て、目を丸くした勝嗣が駆け寄って行った。

 その様子に、ツカサが弾んだ声を出す。


「助けられて、良かったですね」

「そうだな」


 少女の笑顔に、セキはうなずきを返した。

 推測が合っていて良かったと、内心、安堵のため息ついているのは内緒だ。


「さて、鴻臚館に報告に戻るか」

「お邪魔をしても何ですし、そうしましょう」

「ま、そのうち別の依頼で関わることもありそうでござるしな」


 顔を見合わせて、セキ達は、そっとその場を後にした。





『かくして、一条戻橋の鬼は討たれ、拐かされた娘たちは、無事に橋を戻ることが出来たのです』


 ―――めでたし、めでたし。


 後日、そんな一節で締め括られた物語が、冊子となって東市で売り出された。

 作者の名を『夢草子』という。




 改めて、これにて第三話終了となります。

 お付き合いいただき、本当にありがとうございました。


 また、評価やブックマークして下さった方、本当にありがとうございます。

 とても大きな励みとなっております。

 

 引き続きよろしくお願いします。



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