其の六
6/5 加筆に伴い、後段の一部を其の七に移しました。
◆
炎壁が再生し、再び橋が塞がれる。
もっとも、ダメージ覚悟で飛び込めば通過はできるだろう。
いや、この炎の壁を作った赤鬼の場合、その覚悟も不要かもしれない。
「それをさせないのが、俺の仕事といったところだな」
セキは赤鬼へと笑いかける。応えは、炎の奔流だった。
「おっと」
横に躱すと同時、突っ込んで来た赤鬼の鉤爪を弾いて逸らす。
こちらを無視して炎の中に飛び込もうとはしないらしい。そのことに、内心で安堵しながら、セキは赤鬼を煽る。
「ギミックバレしたら、いきなり余裕がなくなるとか、しょっぱいな!!
動きはワンパターンだし、ほら当たらない。いや当たるかな、やっぱ無理だな」
ハハハ、と笑いながら、繰り出される連撃をひらりと躱す。
苛立つように放たれた炎を、横薙ぎの一閃で消散させる。
火の粉が舞う中で、セキはヘラヘラと鬼に笑って見せた。
「斬り払われる炎とか」
「―――キサマ!!」
炎弾や火炎放射のような、投射型の術法は、要となる部分を断ち切ることで無効化が可能だ。
一般に『術法斬り』と呼ばれるテクニックであるが、該当の部分が非常に小さい――バレーボール大の炎弾ならビー玉サイズ――ため、その難易度は高い。
失敗して直撃するリスクを考えれば、普通に回避する方が堅実と言えるだろう。
ゆえに、あえて行う『術法斬り』は、魅せプレイや舐めプレイの部類に入る。
(ここに来るまで、戦闘含めて歩きで四〇分から五〇分くらい)
赤鬼の攻撃を躱しながら、どれくらいの時間を耐えれば良いのかを考える。
走るのなら、スタート地点までは戦闘なしで十分から十五分といったところのハズだ。
そこから、反対側の橋のたもとまで進むとして、さてどれくらいの時間が必要になるか。
「……三〇分くらいか?」
いや、もう少しかかるだろうかと、セキは内心で首を傾げる。
(というか。無事に娘さんを救い出せても、そのことを知る手段がないな……)
無事救出した後、ツカサ達が戻って来るまでの時間を考えると、その倍の時間、赤鬼の相手をする必要があるのだろうか。
とりあえず、セキは考えるのを止めた。
目前の赤鬼へと告げる。自分は煽ったりするのは、苦手なのだ。
なので。
「何か、もう勝ったじゃダメか?」
「――――ッ!!」
正直に心情を吐露したセキの言葉に、赤鬼が怒りの声を上げた。
◆
橋を戻り始めてから、十分ほど。
当初予想していたよりも遥かに早く、ツカサ達は目的地に到着していた。
「え?」
「これは……」
霧が晴れた橋の上、周囲を見回せば、朱塗りの柱が立っている。
両側の欄干沿いに等間隔で建てられた柱は全部で一二本。
そこには、鎖で縛り付けられた娘の姿があった。
「これ、みんな攫われた―――」
「鈴殿!!」
その柱の一つを見て、勝嗣が声を上げた。
焦った様子で駆け寄ろうとし―――
「いかんでござる」
「―――ッ!?」
兵蔵が上空へと苦無を投げた。
直後、炎の華が咲く。
轟音と共に吹き荒れる熱風に、勝嗣がうめき声を上げて足を止めた。
その傍らに、地響きを立てて異形が着地する。
身の丈五メートルを超える大鬼。
先ほど戦った中ボスと同じ姿の厄災に、ツカサは全く躊躇なく突撃した。
薙刀を構えながら、勝嗣へと警告する。
「下がってください!!」
横薙ぎに振るわれた薙刀が、大鬼の足を斬り裂く。
赤いダメージエフェクトが発生し、大鬼が苦悶の声を上げた。
「大丈夫。娘御に肩代わりが発生している様子はないでござるよ」
「なら―――」
くるりと柄を回し、追撃を放つ。
横薙ぎに振るった薙刀が、今度は大鬼の腹を斬り裂いた。
怯んだ隙を利用して、ツカサは一歩後退。薙刀を大きく振り被った。
一呼吸。
―――その刃に、風が渦を巻くように収れんする。
「ハァッ!!」
裂帛の呼気。
強く踏み込んで、その腹へと再び薙刀を振るう。
直後、その軌跡を追うように風の刃が吹き荒れた。
「ギ―――ッ!?」
鋼と風の刃に斬り裂かれた大鬼が、大きな悲鳴を上げる。
―――戦技【風薙ぎ】
本来は、扇状に広がる風の刃によって、広範囲を薙ぎ払う技だ。
それを至近距離で撃たれたことで、多段ヒットを受けた大鬼が、腹を庇いながらよろよろと後退する。
その顔に、苦無の群れが襲い掛かった。
「忍法【重影飛刃】の術。アレは某が引き受けるでござる。お二方は娘御を」
「分かりました!」
「かたじけない」
うなずいて、ツカサと勝嗣は柱へと向かって走る。
「鈴殿!」
「……良かった」
柱の一つに取りつき、そこに縛られた娘の様子を見て、ツカサはホッと息をはいた。
苦し気な様子ではあるが、まだ生きている。
勝嗣が鎖に手を伸ばし―――バチッという音を立てて弾かれた。
「ぐ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ。大事ない。しかし―――」
赤黒く錆びた鎖は、禍々しい紫のオーラを纏っている。
それを見て、ツカサは傍らへと薙刀を置いた。
勝嗣を下がらせて、先ずは二礼。
「掛けまくも畏き―――」
おそらく【行動支援】の働きによるものだろう。日常生活では早々聞くことの無い祝詞がスラスラと出てくる。
そのことに若干奇妙な感じを覚えながら、ツカサは天への奏上を行う。
最後に、改めて二礼二拍手二礼。
鎖が無数の光の砕片となって消滅した。
「良かった。〈祓詞〉で助けられるみたいです」
「セキ殿の判断は正しかったな。ツカサ殿がいなければ、助けようが無かった」
倒れ込んできた娘を支え、ツカサがホッと息をつく。
その娘―――鈴の身柄を彼女から受け取り、勝嗣も安堵の声を漏らした。
「そこのお二方。まだ、あと十一人いるでござるよ!」
「――――!」
兵蔵の声が飛んでくる。
二人は顔を見合わせると、慌てて残る柱の解放作業へと移った。




