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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第三話 マレビトとモノノフ
18/37

其の六

6/5 加筆に伴い、後段の一部を其の七に移しました。



 炎壁が再生し、再び橋が塞がれる。

 もっとも、ダメージ覚悟で飛び込めば通過はできるだろう。

 いや、この炎の壁を作った赤鬼の場合、その覚悟も不要かもしれない。


「それをさせないのが、俺の仕事といったところだな」


 セキは赤鬼へと笑いかける。応えは、炎の奔流だった。


「おっと」


 横に躱すと同時、突っ込んで来た赤鬼の鉤爪を弾いて逸らす。

 こちらを無視して炎の中に飛び込もうとはしないらしい。そのことに、内心で安堵しながら、セキは赤鬼を煽る。


「ギミックバレしたら、いきなり余裕がなくなるとか、しょっぱいな!!

 動きはワンパターンだし、ほら当たらない。いや当たるかな、やっぱ無理だな」


 ハハハ、と笑いながら、繰り出される連撃をひらりと躱す。

 苛立つように放たれた炎を、横薙ぎの一閃で消散させる。

 火の粉が舞う中で、セキはヘラヘラと鬼に笑って見せた。


「斬り払われる炎とか」

「―――キサマ!!」


 炎弾や火炎放射のような、投射型の術法は、要となる部分を断ち切ることで無効化が可能だ。

 一般に『術法斬り』と呼ばれるテクニックであるが、該当の部分が非常に小さい――バレーボール大の炎弾ならビー玉サイズ――ため、その難易度は高い。

 失敗して直撃するリスクを考えれば、普通に回避する方が堅実と言えるだろう。

 ゆえに、あえて行う『術法斬り』は、魅せプレイや舐めプレイの部類に入る。


(ここに来るまで、戦闘含めて歩きで四〇分から五〇分くらい)


 赤鬼の攻撃を躱しながら、どれくらいの時間を耐えれば良いのかを考える。

 走るのなら、スタート地点までは戦闘なしで十分から十五分といったところのハズだ。

 そこから、反対側の橋のたもとまで進むとして、さてどれくらいの時間が必要になるか。


「……三〇分くらいか?」


 いや、もう少しかかるだろうかと、セキは内心で首を傾げる。


(というか。無事に娘さんを救い出せても、そのことを知る手段がないな……)


 無事救出した後、ツカサ達が戻って来るまでの時間を考えると、その倍の時間、赤鬼の相手をする必要があるのだろうか。

 とりあえず、セキは考えるのを止めた。

 目前の赤鬼へと告げる。自分は煽ったりするのは、苦手なのだ。

 なので。


「何か、もう勝ったじゃダメか?」

「――――ッ!!」


 正直に心情を吐露したセキの言葉に、赤鬼が怒りの声を上げた。





 橋を戻り始めてから、十分ほど。

 当初予想していたよりも遥かに早く、ツカサ達は目的地に到着していた。


「え?」

「これは……」


 霧が晴れた橋の上、周囲を見回せば、朱塗りの柱が立っている。

 両側の欄干沿いに等間隔で建てられた柱は全部で一二本。

 そこには、鎖で縛り付けられた娘の姿があった。


「これ、みんな攫われた―――」

「鈴殿!!」


 その柱の一つを見て、勝嗣が声を上げた。

 焦った様子で駆け寄ろうとし―――


「いかんでござる」

「―――ッ!?」


 兵蔵が上空へと苦無を投げた。

 直後、炎の華が咲く。

 轟音と共に吹き荒れる熱風に、勝嗣がうめき声を上げて足を止めた。


 その傍らに、地響きを立てて異形が着地する。

 身の丈五メートルを超える大鬼。

 先ほど戦った中ボスと同じ姿の厄災に、ツカサは全く躊躇なく突撃した。

 薙刀を構えながら、勝嗣へと警告する。


「下がってください!!」


 横薙ぎに振るわれた薙刀が、大鬼の足を斬り裂く。

 赤いダメージエフェクトが発生し、大鬼が苦悶の声を上げた。


「大丈夫。娘御に肩代わりが発生している様子はないでござるよ」

「なら―――」


 くるりと柄を回し、追撃を放つ。

 横薙ぎに振るった薙刀が、今度は大鬼の腹を斬り裂いた。

 怯んだ隙を利用して、ツカサは一歩後退。薙刀を大きく振り被った。

 一呼吸。

 ―――その刃に、風が渦を巻くように収れんする。


「ハァッ!!」


 裂帛の呼気。

 強く踏み込んで、その腹へと再び薙刀を振るう。

 直後、その軌跡を追うように風の刃が吹き荒れた。


「ギ―――ッ!?」


 鋼と風の刃に斬り裂かれた大鬼が、大きな悲鳴を上げる。


 ―――戦技【風薙ぎ】


 本来は、扇状に広がる風の刃によって、広範囲を薙ぎ払う技だ。

 それを至近距離で撃たれたことで、多段ヒットを受けた大鬼が、腹を庇いながらよろよろと後退する。

 その顔に、苦無の群れが襲い掛かった。


「忍法【重影飛刃】の術。アレは(それがし)が引き受けるでござる。お二方は娘御を」

「分かりました!」

「かたじけない」


 うなずいて、ツカサと勝嗣は柱へと向かって走る。


「鈴殿!」

「……良かった」

 

 柱の一つに取りつき、そこに縛られた娘の様子を見て、ツカサはホッと息をはいた。

 苦し気な様子ではあるが、まだ生きている。

 勝嗣が鎖に手を伸ばし―――バチッという音を立てて弾かれた。


「ぐ!?」

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ。大事ない。しかし―――」


 赤黒く錆びた鎖は、禍々しい紫のオーラを纏っている。

 それを見て、ツカサは傍らへと薙刀を置いた。

 勝嗣を下がらせて、先ずは二礼。

 

「掛けまくも畏き―――」


 おそらく【行動支援】の働きによるものだろう。日常生活では早々聞くことの無い祝詞がスラスラと出てくる。

 そのことに若干奇妙な感じを覚えながら、ツカサは天への奏上を行う。

 最後に、改めて二礼二拍手二礼。

 

 鎖が無数の光の砕片となって消滅した。


「良かった。〈祓詞〉で助けられるみたいです」

「セキ殿の判断は正しかったな。ツカサ殿がいなければ、助けようが無かった」


 倒れ込んできた娘を支え、ツカサがホッと息をつく。

 その娘―――鈴の身柄を彼女から受け取り、勝嗣も安堵の声を漏らした。


「そこのお二方。まだ、あと十一人いるでござるよ!」

「――――!」


 兵蔵の声が飛んでくる。

 二人は顔を見合わせると、慌てて残る柱の解放作業へと移った。


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