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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第三話 マレビトとモノノフ
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其の三

◆◇◆◇◆



 大内裏の裏手―――平安京の北端に位置する一条大路。

 役人達の宿所である厨町(くりやまち)が近くにあるこの大路は、昼夜を問わず交通量が多く、それゆえに様々な事件が起きる場所として知られている。


「あなた方が、依頼を受けて下さったマレビトだろうか?」

「はい。よろしくお願いします」


 その一条大路と室町小路との交差点に設けられた桟敷屋(さじきや)―――宴や祭りの行列を見物するための建物の中で、ツカサが礼儀正しく依頼人にお辞儀をする。

 それに合わせて軽く会釈をしながら、セキは男の様子を窺った。

 若い男だ。歳の頃は二〇歳前後といったところだろうか。

 束帯に身を包み、頭には巻纓(けんえい)の冠。腰には太刀を佩き、手には弓を、背には矢筒を背負っている。


(……武官の正装)


 耳の上あたりに取り付けられた扇状の飾り―――(おいかけ)を見ながら、セキは目を細める。

 自宅ではなく桟敷屋を待ち合わせの場所としておきながら、自身は正装で臨む。


「素性を隠したいのか、そうでないのか。今ひとつ、よく判らんでござるな」

「素性は明らかにできないけど、本人はクソ真面目だからバシッとした恰好をしてる、とか?」


 口を真一文字に引き結び、真っ直ぐにコチラへと目を向けてくる男。

 いかにも堅物です、といった様子の立ち姿に、ツカサの背後でセキと兵蔵はひっそりと言葉を交わす。

 それに気が付いているだろう男は、しかし特に気にした様子も無く、三人のマレビトへと頭を下げた。


「かたじけない。私は、(みなもとの)勝嗣まさつぐという」

「初めまして。わたしは、ツカサといいます。後ろの二人は、セキと兵蔵」


 あっさりと名乗った勝嗣に、素性を隠すつもりはないのかと、セキは若干意外を感じながら頭を下げる。隣で、忍者がポツリと呟いた。


「これは、単にこの桟敷屋が便利だったから待ち合わせに使ったとか、そんな感じでござろうな」

「……裏とかはなくて、単純に実用本位な感じか」

「然り。クソ真面目で不器用。しかし、誠実な武官といった感じでござろう」


 こういうタイプは、(それがし)、結構好きでござる。

 そう続けられた兵蔵の言葉に、セキは小さく笑って同意した。


「それでは、此度の件について簡単に説明をしたい。良いだろうか?」


 そう言って、無骨な武士(モノノフ)は、説明を始めた。





 一条戻橋を前に、三人のマレビトと一人のモノノフが立っていた。

 既に日は高いものの、昼まではまだ少しの時間がある。


「ここで?」

「ああ。ある姫の乗る牛車が鬼に遭遇した」


 朝の冷え込んだ空気が残る中、それでも行き交う人々の活気で満ちている。その様子からは、とてもではないが、昨日、ここで鬼にまつわる事件が起こったとは思えない。

 そんなツカサの呟きに、勝嗣は自分もそう思うとうなずいた。


「日があるうちは、京の内外に住まう人々が往来し、日が暮れれば、魑魅魍魎どもが闊歩する。

 一条大路は境界なのだと、陰陽師あたりは口にするが、私にはその辺りのことはよく解からない。ただ―――」


 ここで昨日、姫を乗せた牛車が鬼に遭遇したこと。側仕えの娘がその身を差し出して、主たちを守ったことは確かな事実だと、続ける。


「おそらくは、娘は生きてはいまい。

 だが、それならば、蘇生を願うため、あるいは御仏の許に送るため、その魂を連れ帰らねばなるまい」

「はい」


 ―――『陰陽洲』のNPCは、基本的に死んでも蘇る(リスポーンする)


 神仏による『回生の加護』を受けており、寿命がある限り、四九日を迎える前に誰かが蘇生を神仏に願えば叶えられるという設定ゆえだ。


 しかし、それには例外がある。

 鬼などに(シナリオ上)魂魄を捕獲(都合が悪い)された場合がそれだ。

 四九日以内に解放できないと死が確定するし、囚われたままなら成仏も不可能だ。

 神仏の加護といえど万能ではない。


「必ず助けましょう」

「ありがとう」


 娘の献身への報いが、異界で鬼の慰みモノというのは、あまりに酷い。

 何とか助けてやりたいと、そんな言葉にツカサが力強くうなずくと、勝嗣は口の端をつり上げた。

 不器用な笑み。

 人によっては、威嚇に見えたかも知れないその表情に、セキは内心で苦笑する。


(何というか、絵に描いたような不器用なお人好しだな)


 勝嗣は、件の姫に仕える者というワケではない。

 件の姫とは古くからの顔見知りであり、その縁で昨日の事件を知ったのだそうだ。


 相手が鬼となると、姫に仕える家人達では対処できない。娘を救おうと人を遣れば、間違いなく犠牲が生じ、身を挺して自分達を守った娘の献身を無駄にしてしまう。

 だからといって、このままでは、あまりに娘が哀れだと嘆く姫に、ならば自分が何とかしようと、勝嗣が救出を買って出たのだそうだ。


(関わり続けると、遠からず無骨な武士と姫の恋物語とかに巻き込まれそうだな)


 そんなことを考えながら、セキはツカサと勝嗣の後を追う。

 向かう先は、橋の中ほど―――そこに漂う芒とした光の玉だ。

 (フラグ)が生じたマレビトにのみ認識可能な、異界(ダンジョン)への入り口である。


「さて、準備はいいか?」


 触れれば、異界へと転送される。それを前にして確認するようにセキが問えば、残る三人―――光の玉が見えていないだろう勝嗣も含めて、全員が頷いた。


「それじゃ、出発」


 そう告げて、セキが光の玉へと手を触れる。

 光が溢れ、視界が真っ白に塗りつぶされ―――次の瞬間、世界が一変した。


「――――」


 真っ青な空が、昏い灰色に塗り替わった。

 人々の喧騒が魑魅魍魎の喚き声に変じ、冬の冷たい空気は、生温く湿った霧に呑み込まれている。

 十メートルにも満たなかった小さな橋は、霧のせいもあるが―――今は両端を見通すことが出来ない大きさとなっている。

 欄干から下を覗けば、遥か下には、真っ赤な血染めの大河が広がっていた。


「……何か、凄いところですね」

「ザ・地獄って感じでござるな」

「といっても一本道っぽいし、基本的な構造は夜回りの異界と大差ないんだけどな」


 見た目が派手なだけだと続ければ、傍らで忍者が「バッサリでござる」と苦笑を浮かべた。


「でも、これどっちに進めばいいんでしょう?」

「あ~」


 彼らがいるのは、橋の途中だ。

 橋の両端は共に見えず、進行方向を示す目印もない。


「いや。目印はあるでござるよ」

「?」

「鬼どもでござるよ」


 こちらに向かって来ていると、忍者が警戒を促す。

 その言葉にツカサが薙刀を構え、セキも太刀を抜き放った。

 ふと、勝嗣へと視線を向ける。彼は、今の会話が聞こえていなかったのか、目を見開いて周囲を見回していた。


「大丈夫ですか?」

「……っ! ああ、大丈夫だ。なるほど、異界とはこういうものか」

「鬼が迫っています。警戒を」

「ああ。すまない」


 セキの言葉に、男は目を閉じて、一度大きく深呼吸を行った。

 再び目を開けた時には、完全に平静を取り戻しているようだった。

 弓を構え、矢をつがえる。


(これは、介護の必要はなさそうだな)


 男の様子に、セキは思う。

 無骨で誠実な人柄の武士。その技量には、期待しても良いハズだ。

 むしろある程度の戦力として数えるべきか。


「……もう大丈夫だ」

「俺とツカサが前に出ますので、援護をお願いします」


 頷いて、セキは暗がりの向こう側から姿を見せた小鬼へと一歩踏み出した。





 ひょう、と放たれた矢が小鬼の頭をぶち抜いた。

 続けて三連射。一矢一殺。

 バタバタと倒れていく小鬼達の姿に、セキは小さく息をはいた。


(介護の必要はなさそう、どころか)


 すでに三分の一が射倒されている。

 前衛のセキやツカサが接敵する時には、当初の半分程度になっているだろう。


「むしろお助けNPCだったか」

「え?」

「いや。このまま任せっぱなしというワケにもいかないし、そろそろ前に出ようか」


 隣で首を傾げるツカサに何でもないと応じ、セキは前方へと地を蹴った。

 背後へと声を投げる。


「中央は俺が受け持ちます」

「承知」


 勝嗣が応える。橋の左端へと矢が放たれた。

 それが小鬼の頭を撃ち抜くのとほぼ同時に、セキは中央の小鬼を斬り伏せた。

 

「いや、本当に―――」


 楽なものだと、太刀を振るう。

 二体、三体と致命の一撃(クリティカル)を受けた小鬼が黒い靄となって消散する。

 セキの太刀が届かない相手には、勝嗣の矢が死を届けていく。

 橋の右側では、ツカサが薙刀を振るっている。

 死角から彼女に襲い掛かろうとする小鬼もいるが、何処からともなく飛んで来た苦無に阻まれて、逆に屍を晒す羽目となっているようだ。

 楽勝である。それゆえに、セキは首を捻った。


「う~む……」


 消滅していく小鬼の死骸を、眉をひそめて見つめる。

 数は多いし、一匹一匹の強さも上がっているが、それでも夜廻りの雑魚と大差ない。

 仮に兵蔵や勝嗣がいなかったとしても楽勝だっただろう。


「これで難易度が四ってことはないよな」


 次の小鬼へと刃を向けながら、セキは独りごちる。

 勝嗣という十二分に戦力となるNPCの助けを借りられる前提で、難易度が四に設定されているのなら、絶対にこの程度なワケがない。

 加えて言えば―――


(兵蔵がいる分、難易度調整が入っていてもおかしくないし)


 機械的に厄災を狩ったり、素材を調達する恒常系の依頼と違い、今回はNPCが大きく関わってくる依頼だ。

 この手のものは、多くの場合、【語り部】(ゲームマスターAI)によって進行が制御されている。


 マレビトやNPC達の行動から【切っ掛け】(シナリオフック)を見出し、それを起点とした【運命】(シナリオ)を作成し、障害となる厄災を配置し、関係NPCの行動を誘導し―――それら全てをマレビト達の行動に合わせて随時調整しながら、ひとつの物語を紡ぎ出す。


 そうした役割を持つ【語り部】は、今回の兵蔵のように、難易度上、想定されていない強さのマレビトが関わる場合、ある程度―――表記難易度が嘘にならない範囲での調整を行うのが常だ。

 そうした点を踏まえると、敵が強くなることはあっても、弱くなることはあり得ない。


 あの小鬼の群れは、【運命】(シナリオ)の進行上、どうでも良い存在ということなのだろうとセキは推測する。つまりは、賑やかしという奴である。


(……本番は、これからか)


 果てが見えない橋。

 その奥で蟠る闇へと視線を向けて、セキは無言のまま目を細めた。


◆ステータスについて

 名前:ツカサ 

  心:3 技:3→4 体:2

   体力:600

   気力:1075→1250

   力:36→43 速:36→43 耐:24

   意:43→50 識:36→42 霊:43

   巧:30→40 知:30→40

  特技

   心:【堅志】【大霊】【霊視】

   技:【武器習熟/薙刀(初伝)】【神道/修祓】【神道/憑霊】

    【―非公開―】New!

   体:【大力】【迅速】


 ・セキ:変更なし

 ・兵蔵:非公開

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