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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第二話 忍者とからくり武者
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其の五

本日は二回投稿。

次回は、十九時頃の予定です。よろしくお願いします。



 陽光を受けて輝く黒鉄の兜。その下で、独眼が鬼火の如く爛と輝く。

 面頬のデザインも相まって、その威容は武者装束の鬼を思わせた。


 手にするのは、ひと薙ぎで建物を両断できそうな大太刀だ。

 それを肩に担ぎ、地を震わせながらゆっくりと歩く様は、鳥辺野で見た鬼神よりも恐ろしい。


 燃え上がる独眼が、ぎょろりと動いてセキ達を捉えた。


「来るでござる!!」

「散れ!!」


 兵蔵の警句に、咄嗟に声を上げながらセキはその場を飛び退く。

 三人がそれぞれ別方向へと散開。同時、からくり武者が突っ込んで来た。


「――――!!」


 跳躍からの叩き付け。大太刀が大地を割り、剣圧で暴風が吹き荒れる。

 巻き上がる土煙の中を駆けながら、セキは舌打ち交じりに抜刀した。


(とりあえず、ひと当て)


 刃が立たないようであれば、ツカサを連れて離脱する。

 そう方針を定め、セキは武者の足へと太刀を振るった。

 狙うのはアキレス腱のあたり。装甲の薄い部分へと剣閃が奔り―――


(硬い……けど)


 振り抜けば、ダメージエフェクトが散った。

 からくり武者の動きに淀みはなく、今の一撃で怯むようなこともなかったが、セキは離脱しながら一つうなずいた。


「とりあえず、ダメージは入るな」


 ちらりと周囲に目を配る。

 ツカサは鳥居の近くで薙刀を構えている。忍者の姿は見当たらない。


「兵蔵は―――」

「火遁、〈焔柱〉の術」


 轟と、炎が渦巻き天へと向かって吹き上がる。

 からくり武者が飛び退くように後退した。左手をかざし、炎熱から顔を背ける。

 その動きを見て、ニヤリとセキの口の端がつり上がった。


「今、怯んだな」


 轟々と燃え上がった火柱が消えると、からくり武者の独眼が忍者を探してさまよう。

 ダメージを与えたセキの一刀より、命中しなかった〈焔柱〉の方が、からくり武者に脅威と判断されたのだ。


「弱点は、火属性攻撃。あるいは、頭部への攻撃」


 単純に術の威力が大きかったので、セキの攻撃よりも敵意(ヘイト)を稼いだということは無いハズだ。空振りした攻撃は、通常、厄災の敵意に大きな影響を与えない。

 例外は、それが弱点を狙ったものだった場合だ。


「こっちでござるよ!!」


 兵蔵が声を上げる。目を向ければ、からくり武者を挟んで鳥居とは反対の位置に姿があった。

 挑発するように、頭部へと短刀―――いや苦無を投げつける。

 特技の効果か、苦無が空中で十数本に増え、からくり武者へと襲い掛かった。


「忍法、【重影飛刃】の術でござる」

「行きます!!」


 怯む武者の姿に好機と見たのか、ツカサが走り出した。

 からくり武者は、兵蔵へと向き直っている。それはつまり、鳥居の傍らに立っている彼女に背を向けるということだ。


「はっ!!」


 一息で間合いを詰める。振るわれた薙刀が、セキが斬りつけたあたりに叩き付けられた。

 ダメージエフェクトが散る。

 寸分と違わずに、とはいかないまでも、同じ場所へと打ち込まれた刃が、からくり武者の足を深く斬り裂いていた。


「このまま!」


 薙刀がクルリと回る。間髪入れずに次撃を叩き込み、さらに三撃、四撃と攻撃を重ねる。

 繰り返しダメージエフェクトが散って―――


「いかん。ツカサ殿、一度離れるでござる!!」

「え?」


 兵蔵が声を上げるより早く、セキは地を蹴っていた。

 足を強く踏み込みながら、【疾風足】を起動。きょとんとしたツカサへと、一気に距離を詰める。

 体当たり気味に、彼女の体を抱えて駆け抜けた。


 二人を掠めるように、からくり武者の踵が空を蹴ったのは、一瞬の後のことだ。


「あ……」

「ちょっと、攻撃に逸りすぎたな」


 一瞬でも遅れていたら、後ろ蹴りに吹き飛ばされていただろう。

 ツカサを抱えたまま、セキは、からくり武者との距離をあける。

 追撃はない。どうやら、からくり武者にとって、兵蔵の放った苦無の方が脅威らしい。


「やっぱり弱点は頭部か」

「あの、すみませんでした」


 からくり武者の反応から、セキは弱点を断定する。

 申し訳なさそうに肩を落とす少女を下ろし、セキは口を開いた。


「ナイスファイト」

「え?」

「あれだけデカい相手に、躊躇なく仕掛けられるのは大したものだと思う。

 後、俺が斬りつけた所に攻撃を重ねたのも、良い判断だった」

「あ。は、はい」


 困惑した表情を見せるツカサに、セキは小さく笑って、親指を立てた。

 気にするような事ではないと態度で示し、彼はからくり武者へと視線を向ける。


「一撃が痛そうだから、あまり長く足を止めない方が良いだろうな。

 後、アイツの弱点は頭っぽいから、そこを狙っていきたい」

「あ、あの……?」

「よし。じゃあ、気張っていこうか。相棒」


 その言葉に―――


「……、はい!」


 ぱん、と自分の頬を叩いて、ツカサが元気良くうなずいた。

 そして、二人は、肩を並べて笑い合い、一歩を踏み出した。





 得物を構えるセキとツカサの二人を見て、兵蔵はほっと息をはいた。


(一瞬、ヒヤリとしたでござるが、問題ないようで何より)


 攻撃に集中した結果、離脱の機を逸して吹っ飛ばされる。

 割とありがちな状況ではあるが、それで即死されると色々と困るのだ。

 上手くフォローに入ったセキに感謝しつつ、兵蔵は、からくり武者の大太刀をステップで回避する。


「おっと、でござる」


 大地を割る大太刀を横目に、兵蔵は苦無を構える。

 前傾姿勢となって距離の近づいた頭部へと苦無を投げようとし―――


(……セキ殿?)


 からくり武者の後頭部付近に人影を捉え、手を止めた。

 どうやら、前傾姿勢により斜めとなった巨体を駆け上ってきたらしい。

 太刀が、からくり武者の頭部へと振り下ろされる。


 ぐらりと、その巨体が前のめりに姿勢を崩した。


「……と、ツカサ!!」

「うん!!」


 延髄の辺りに太刀を突き立てて、セキが声を上げる。

 片膝と両手を地面についたからくり武者へと、今度は側方からツカサが突撃した。


「はっ!!」


 気合の声と共に跳躍。

 薙刀の刃を地面に突き立てて、棒高跳びの要領で少女は宙へと飛び上がる。

 ゲームならではの暴挙をやらかした彼女は、高々と虚空を舞いながら、クルリと体を回す。

 さらに、長く持った薙刀を体ごと旋回させて、からくり武者へと叩きつけた。


「何と!?」


 初心者離れした身のこなしに、兵蔵は感嘆の声を上げた。

 畳みかけるように、セキが再び太刀を振り上げる。

 直後、からくり武者が咆哮した。


「――――っ!!」

「わっ!?」

「ぐ、ツカサ殿」


 その巨体を中心に、全方位へと衝撃波が放たれる。

 着地したところを衝撃波に撥ね飛ばされ、ツカサが近くへと転がってくる。

 目を回している彼女をかばいながら、兵蔵はセキを探して視線をさまよわせた。


「セキ殿!?」


 セキは空中にいた。

 弾き飛ばされたその体は、放物線を描きながら空を舞っている。


(いかん!!)


 その高さは二〇メートルを超える。

 下手な落ち方をしてしまえば、落下ダメージで即死しかねない。 

 焦る兵蔵の視線の先で、しかしセキは笑っていた。

 その体が空中でクルリと回る。そして、兵蔵は、彼の落下軌道上にあるものに気が付いて息を飲んだ。

 

 ―――松尾神社の大鳥居。


「まさか、調整して跳んだでござるか!?」


 その驚嘆を裏付けるように、セキが大鳥居の上へと着地した。

 直後、その姿がブレた―――歩法系特技【疾風足】による高速移動。

 その体が、大鳥居を蹴って、矢のように虚空を疾走する。

 その射線上(・・・)には、身を起こす途中のからくり武者。その頭部があった。

 太刀が閃く。


「ハ―――」


 その光景を見て、兵蔵は笑った。

 傍らで目を回しているツカサを横目に、何かを納得したようにうなずく。


「類は友を呼ぶ。ツカサ殿も初心者としては大概でござるが……」


 苦笑いを浮かべた忍者の視線の先。


 ―――からくり武者の頭部が、宙を舞っていた。


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