其の五
本日は二回投稿。
次回は、十九時頃の予定です。よろしくお願いします。
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陽光を受けて輝く黒鉄の兜。その下で、独眼が鬼火の如く爛と輝く。
面頬のデザインも相まって、その威容は武者装束の鬼を思わせた。
手にするのは、ひと薙ぎで建物を両断できそうな大太刀だ。
それを肩に担ぎ、地を震わせながらゆっくりと歩く様は、鳥辺野で見た鬼神よりも恐ろしい。
燃え上がる独眼が、ぎょろりと動いてセキ達を捉えた。
「来るでござる!!」
「散れ!!」
兵蔵の警句に、咄嗟に声を上げながらセキはその場を飛び退く。
三人がそれぞれ別方向へと散開。同時、からくり武者が突っ込んで来た。
「――――!!」
跳躍からの叩き付け。大太刀が大地を割り、剣圧で暴風が吹き荒れる。
巻き上がる土煙の中を駆けながら、セキは舌打ち交じりに抜刀した。
(とりあえず、ひと当て)
刃が立たないようであれば、ツカサを連れて離脱する。
そう方針を定め、セキは武者の足へと太刀を振るった。
狙うのはアキレス腱のあたり。装甲の薄い部分へと剣閃が奔り―――
(硬い……けど)
振り抜けば、ダメージエフェクトが散った。
からくり武者の動きに淀みはなく、今の一撃で怯むようなこともなかったが、セキは離脱しながら一つうなずいた。
「とりあえず、ダメージは入るな」
ちらりと周囲に目を配る。
ツカサは鳥居の近くで薙刀を構えている。忍者の姿は見当たらない。
「兵蔵は―――」
「火遁、〈焔柱〉の術」
轟と、炎が渦巻き天へと向かって吹き上がる。
からくり武者が飛び退くように後退した。左手をかざし、炎熱から顔を背ける。
その動きを見て、ニヤリとセキの口の端がつり上がった。
「今、怯んだな」
轟々と燃え上がった火柱が消えると、からくり武者の独眼が忍者を探してさまよう。
ダメージを与えたセキの一刀より、命中しなかった〈焔柱〉の方が、からくり武者に脅威と判断されたのだ。
「弱点は、火属性攻撃。あるいは、頭部への攻撃」
単純に術の威力が大きかったので、セキの攻撃よりも敵意を稼いだということは無いハズだ。空振りした攻撃は、通常、厄災の敵意に大きな影響を与えない。
例外は、それが弱点を狙ったものだった場合だ。
「こっちでござるよ!!」
兵蔵が声を上げる。目を向ければ、からくり武者を挟んで鳥居とは反対の位置に姿があった。
挑発するように、頭部へと短刀―――いや苦無を投げつける。
特技の効果か、苦無が空中で十数本に増え、からくり武者へと襲い掛かった。
「忍法、【重影飛刃】の術でござる」
「行きます!!」
怯む武者の姿に好機と見たのか、ツカサが走り出した。
からくり武者は、兵蔵へと向き直っている。それはつまり、鳥居の傍らに立っている彼女に背を向けるということだ。
「はっ!!」
一息で間合いを詰める。振るわれた薙刀が、セキが斬りつけたあたりに叩き付けられた。
ダメージエフェクトが散る。
寸分と違わずに、とはいかないまでも、同じ場所へと打ち込まれた刃が、からくり武者の足を深く斬り裂いていた。
「このまま!」
薙刀がクルリと回る。間髪入れずに次撃を叩き込み、さらに三撃、四撃と攻撃を重ねる。
繰り返しダメージエフェクトが散って―――
「いかん。ツカサ殿、一度離れるでござる!!」
「え?」
兵蔵が声を上げるより早く、セキは地を蹴っていた。
足を強く踏み込みながら、【疾風足】を起動。きょとんとしたツカサへと、一気に距離を詰める。
体当たり気味に、彼女の体を抱えて駆け抜けた。
二人を掠めるように、からくり武者の踵が空を蹴ったのは、一瞬の後のことだ。
「あ……」
「ちょっと、攻撃に逸りすぎたな」
一瞬でも遅れていたら、後ろ蹴りに吹き飛ばされていただろう。
ツカサを抱えたまま、セキは、からくり武者との距離をあける。
追撃はない。どうやら、からくり武者にとって、兵蔵の放った苦無の方が脅威らしい。
「やっぱり弱点は頭部か」
「あの、すみませんでした」
からくり武者の反応から、セキは弱点を断定する。
申し訳なさそうに肩を落とす少女を下ろし、セキは口を開いた。
「ナイスファイト」
「え?」
「あれだけデカい相手に、躊躇なく仕掛けられるのは大したものだと思う。
後、俺が斬りつけた所に攻撃を重ねたのも、良い判断だった」
「あ。は、はい」
困惑した表情を見せるツカサに、セキは小さく笑って、親指を立てた。
気にするような事ではないと態度で示し、彼はからくり武者へと視線を向ける。
「一撃が痛そうだから、あまり長く足を止めない方が良いだろうな。
後、アイツの弱点は頭っぽいから、そこを狙っていきたい」
「あ、あの……?」
「よし。じゃあ、気張っていこうか。相棒」
その言葉に―――
「……、はい!」
ぱん、と自分の頬を叩いて、ツカサが元気良くうなずいた。
そして、二人は、肩を並べて笑い合い、一歩を踏み出した。
◆
得物を構えるセキとツカサの二人を見て、兵蔵はほっと息をはいた。
(一瞬、ヒヤリとしたでござるが、問題ないようで何より)
攻撃に集中した結果、離脱の機を逸して吹っ飛ばされる。
割とありがちな状況ではあるが、それで即死されると色々と困るのだ。
上手くフォローに入ったセキに感謝しつつ、兵蔵は、からくり武者の大太刀をステップで回避する。
「おっと、でござる」
大地を割る大太刀を横目に、兵蔵は苦無を構える。
前傾姿勢となって距離の近づいた頭部へと苦無を投げようとし―――
(……セキ殿?)
からくり武者の後頭部付近に人影を捉え、手を止めた。
どうやら、前傾姿勢により斜めとなった巨体を駆け上ってきたらしい。
太刀が、からくり武者の頭部へと振り下ろされる。
ぐらりと、その巨体が前のめりに姿勢を崩した。
「……と、ツカサ!!」
「うん!!」
延髄の辺りに太刀を突き立てて、セキが声を上げる。
片膝と両手を地面についたからくり武者へと、今度は側方からツカサが突撃した。
「はっ!!」
気合の声と共に跳躍。
薙刀の刃を地面に突き立てて、棒高跳びの要領で少女は宙へと飛び上がる。
ゲームならではの暴挙をやらかした彼女は、高々と虚空を舞いながら、クルリと体を回す。
さらに、長く持った薙刀を体ごと旋回させて、からくり武者へと叩きつけた。
「何と!?」
初心者離れした身のこなしに、兵蔵は感嘆の声を上げた。
畳みかけるように、セキが再び太刀を振り上げる。
直後、からくり武者が咆哮した。
「――――っ!!」
「わっ!?」
「ぐ、ツカサ殿」
その巨体を中心に、全方位へと衝撃波が放たれる。
着地したところを衝撃波に撥ね飛ばされ、ツカサが近くへと転がってくる。
目を回している彼女をかばいながら、兵蔵はセキを探して視線をさまよわせた。
「セキ殿!?」
セキは空中にいた。
弾き飛ばされたその体は、放物線を描きながら空を舞っている。
(いかん!!)
その高さは二〇メートルを超える。
下手な落ち方をしてしまえば、落下ダメージで即死しかねない。
焦る兵蔵の視線の先で、しかしセキは笑っていた。
その体が空中でクルリと回る。そして、兵蔵は、彼の落下軌道上にあるものに気が付いて息を飲んだ。
―――松尾神社の大鳥居。
「まさか、調整して跳んだでござるか!?」
その驚嘆を裏付けるように、セキが大鳥居の上へと着地した。
直後、その姿がブレた―――歩法系特技【疾風足】による高速移動。
その体が、大鳥居を蹴って、矢のように虚空を疾走する。
その射線上には、身を起こす途中のからくり武者。その頭部があった。
太刀が閃く。
「ハ―――」
その光景を見て、兵蔵は笑った。
傍らで目を回しているツカサを横目に、何かを納得したようにうなずく。
「類は友を呼ぶ。ツカサ殿も初心者としては大概でござるが……」
苦笑いを浮かべた忍者の視線の先。
―――からくり武者の頭部が、宙を舞っていた。




