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陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~  作者: 鉢棲金魚
第二話 忍者とからくり武者
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其の四

◆◇◆◇◆



 ガラガラと、木製の車輪が音を立てて回る。


 雪化粧をした小倉山を遠目に、桂川沿いを進む牛車。

 外見上の大きさを無視し、マイクロバス程の広さを備えるその車内で、セキはのんびりと温かい白湯を飲んでいた。

 傍らには火鉢が置かれ、据えられた五徳の上で鉄瓶から湯気が立ち上っている。

 炭は、先ほど兵蔵が術法を用いて火付けを行ったものだ。


『忍法、火遁の術でござる』

『いや。【陰陽道】の五行だろ』

『忍者が使えば、忍法でござる』


 突っ込みにもめげることのない兵蔵とのやり取りを思い出す。

 忍法というカテゴリの特技は、『陰陽洲』には存在しない。

 このため、兵蔵は【隠形】や【陰陽道】などの特技を駆使し、忍者ムーブを実現しているようだった。


(出会った時の、目の前にいても見失いそうな隠形からすると、特技はおそらく皆伝級)


 皆伝級の特技取得条件は、【心】【技】【体】の合計値が十九以上となる。

 つまり、特技枠は最低でも十九……二四枠(カンスト)でもおかしくはない。

 実装特技は、各種能力値強化と知覚拡大、武器戦闘、術法。そして、隠形、歩法、呼吸法、軽業あたりだろうか。

 道すがらの世間話などを参考に、セキは、兵蔵の能力を大雑把に推測する。


 『陰陽洲』におけるプレイヤーキャラクター―――マレビトの能力は、【心】【技】【体】と特技によって決定される仕組みだ。

 より正確には、【心】【技】【体】に割り振られた数値を元に、【体力(HP)】【気力(MP)】や【力】【速】【耐】【意】【識】【霊】【巧】【知】や耐性などの各種能力値の基礎値が算出される。

 続いて特技―――【心】【技】【体】の数値分だけ存在する特技枠に、能力値に補正を与える特性や、武器、術法を扱うための技能を実装する。

 それらの特技による補正を受けて、最終的な能力値が決定されるというワケだ。


 このため、「特技枠の数」と「実装特技の強弱」の二つがマレビトの強さを図る指標となっている。

 ちなみに、初期作成時におけるマレビトの特技枠は八つ。

 当然、特技は全て初伝級だ。


(力の差がありすぎて、助力どころか、単なる足手まといだろうに)


 なお、今のセキの特技枠は、昨日から一つ増えて、九つとなっている。

 昨晩、ツカサと別れてから一人で延々と狩りを続け、厄災一〇〇体撃破を達成したことにより成長点――【心】【技】【体】に割り振るための数値――を新たに得たためだ。

 とはいえ、特技が一つ増えた程度では、劇的に強くなったりはしない。


 セキは不可解な心持ちで忍者へと目を向けるが、その覆面の下に隠れた真意は見えそうになかった。


(初心者狩りの類じゃないとは思うが……)


「……しかし、この度は、本当に助かったでござるよ」


 セキの内心を知ってか知らずか、飄々とした様子で、兵蔵が頭を下げる。

 手伝ってくれる人が見つからず難儀していたのだと、彼は言うのだが。


「これまで、ずっと独り(ソロ)ってワケでもないんだろう? 

 臨時徒党(野良パーティー)専門であっても、同じくらいの強さの知り合いはいるだろうに」

(それがし)ぼっち(・・・)でござってな」

「………」


 さらりと告げられた言葉に、セキは口を噤んだ。目で続きを促す。


「痛い忍者コスのござるロールが災いして、気が付けば、こうしたことに付き合ってくれる朋友はいなくなっていたでござるよ」

「そうか……」

「……あの、一応、突っ込み待ちなのでござるが」

「いや。納得した」

「納得したあ!?」


 忍者の声が裏返った。「大変だな」と肩を叩くと、兵蔵が慌てた様子で手を振る。


「い、いや。今のは冗談で。(それがし)、ちゃんと朋友はいるでござるよ!?

 ただ、ちょっと、今回の件には都合が合わなかっただけで、本当でござるよ!?」

「うん。分かってる。そうだよな」

「その優しい視線を止めるでござる!!」

「? どうかしたの?」


 車後方の簾を上げ、景色を楽しんでいたツカサがこちらへと振り返る。

 何でもないと手を振って応えながら、セキは兵蔵へと鉄瓶を差し出した。


「まあ、温かいものでも飲んで落ち着け」

「かたじけないでござる」


 マフラーをしたまま湯呑に注がれた白湯を飲む忍者。なぜかマフラーは濡れていない。

 どういう仕組みなんだろうと、内心で首を傾げるセキを他所に、兵蔵はわずかに居住まいを正した。


「セキ殿は、一年ぶりに『陰陽洲』に戻って来られたそうでござるが、今の平安京を見てどう思われたでござろうか」

「変わってないなと、そう思ったよ」


 第一印象は間違いなくそれだった。ツカサと一緒に鴻臚館に到着した際にも、同じ感想を抱いたと、彼は問いに答える。


「人の数、という点では?」

「ん~、分散しているのか、若干減っているような気がする。

 ただ、寂れたって印象はないな。左京を回っている間も、結構マレビトらしき姿を見たし」

「……で、ござるか」


 少し落胆したような声。それを聞きながら、セキは「ただ」と言葉を続けた。

 ツカサの方へと視線を向けながら、低く呟く。


「……新規の姿はほとんど無いよな」

「そこが今、平安京が抱える問題なのでござる」


 兵蔵が「然り」と大きく頷いた。


「新規が少ないのが?」

「……『陰陽洲』全体で考えると、新たに始める御仁はそれなりの数がいるでござるよ。

 ただ、平安京にはいない、というだけで……」

「ああ、なるほど」


 どこか寂し気な兵蔵の言葉を聞き、セキも何となく現状を理解する。


「つまり、新規は別の場所をスタート地点に選択するのか」

「サービス開始から二年経っていることもあってか、新たにゲームを始めるのは、『既存プレイヤーに誘われた人』が多いでござるよ」

「で、誘ったプレイヤーは、平安京以外の場所で活動している、と」


 かくして、新規プレイヤーの多くは、誘った者の言葉に従い、東国や九州を活動地点に選ぶ。


 征夷大将軍、坂上田村麻呂と共に、北方を支配する悪路王の軍勢と戦う東国。

 天魔が支配する死国八八迷宮、その攻略に挑む四国。 

 乱立するマレビト達の勢力による、熾烈な覇権争いの場となっている九州。


 現在の『陰陽洲』における人気コンテンツが用意された地域。

 そこに用意されたスタート地点を選ぶのは、さほどおかしな話ではない。

 上級者から初心者まで楽しめるよう配慮がされているなら、なおのことだ。

 結果、平安京を訪れる者は減り、それがさらに新規参入を妨げる要因となる。負のループが形成されているのだと、兵蔵はため息をついた。


「若者の流出が止まらない田舎みたいだな」

「然り。このままでは、いずれ色々とマズい状況になるでござる」

「……運営側のテコ入れとかは?」

「イベントを開催する等、色々と手は打っているでござるよ。

 しかし、イベントが終われば―――」

「まあ、そうなるよな」


 色々と世知辛いなと、二人は顔を見合わせ、次いで深くため息をついた。





 松尾神社。

 その入り口となる大鳥居を見上げ、ツカサは感嘆の声を上げた。


「大きな鳥居ですね」


 そっと鮮やかな朱柱に触れる。

 一本の檜で作られた柱は、ツカサ一人では手が回らない太さだ。その高さも優に一〇メートルを超えていた。

 そんな巨大な鳥居の奥、参道を進んだ先には、山そのものが神体である松尾山と、その麓に築かれた社殿の姿が見える。


「現実の松尾大社とは、建物含め色々と別物でござるが、皇城鎮護の社……つまり平安京の守護神という位置づけは変わらぬでござるよ」


『賀茂の厳神、松尾の猛霊』


 そう並び称され、平安京で暮らす人々(NPC達)から絶大な崇敬を集めているのだと続けた兵蔵に、ツカサは神妙な顔で頷いた。

 鳥居の向こう側―――社殿や、その背後の松尾山を見ていると、知らず背筋が伸びる。

 厳かな空気に気圧されながら、ツカサは思った。


(勿体ない、よね)


 牛車の中で交わされていたセキと兵蔵の会話は、当然のことながら、ツカサの耳にも届いていた。

 その内容とともに、ツカサは、セキと一緒に駆け回った左京の様子を思い出す。


 大路を行き交う天下万民の、活気溢れる昼の京。

 道辻を闊歩する魑魅魍魎の、瘴気渦巻く夜の京。


 そのどちらも、ツカサにとって胸躍らせるものだった。

 そして、今、兵蔵を加えた三人で訪れた社を前に、少し気圧されながらも胸が高鳴っている。冒険の予感がある。


「確か、ここって異界(ダンジョン)があったような」

「然り。磐座から神域に入れるでござる。

 といっても、今の(それがし)達が足を踏み入れるには、少々、難易度が高いでござろうが」


 その予感に応えるような同行者二人の話に、ツカサは、ほぅと息をつく。

 こうしたものを知らずにいるのは、勿体ない。

 このゲームを始めた本来の目的とは別だが……いや、別ではないなと彼女は笑った。


「わたし、もっと色々と知りたいです。この平安京のこと」

「ツカサ殿……」


 まだゲームを始めて二日だ。

 平安京に関して、彼女が知っていることなど皆無に等しい。

 だから、これから色々な所に行って、たくさん冒険をして、そうして知り得た平安京の良いところを他の人に教えてあげられるくらいになりたいと、ツカサは口にする。

 そんな彼女を、兵蔵が眩しそうに見つめて頷いた。


「では、(それがし)で良ければ、色々と案内させていただくでござるよ」

「はい! よろしくお願いします!」

「うむうむ。こちらこそ、よろしくお願いするでござる」

「……あ~、盛り上がってるところ、水を差すようで申し訳ないんだが」


 セキが気まずげな表情で口を挟んでくる。

 直後、地響きと共に地面が揺れた。近くの雑木林から鳥が一斉に飛び立つ。


「からくり武者って、アレか?」

「…………わあ」


 セキが指差す先を見て、ツカサは目を見開いた。

 問うように兵蔵へ視線を向けると、彼は「然り」と腕を組んで頷いた。


「探す手間が省けたでござるな」


 鳥たちを追うように、雑木林の中から、のそりと姿を現した鎧武者。

 それは、十メートルを超える巨大な体躯を有していた。


「……いや、これは無理じゃないか?」


 からくり武者。

 いや、鎧武者を模した巨大ロボットを前に、セキが呻くように呟くのが聞こえた気がした。



◆マレビトの成長について

 マレビトは、【心】【技】【体】に成長点を割り振ることで成長します。

 この成長点は、特定条件をはじめて達成した際に取得する仕組みです。


 特定条件(一部抜粋)

  【厄災を100体撃破】【等級:束物の品を100個生産】

  【難易度:三の依頼を五回達成】【脅威度:三の厄災を五体撃破】

  【等級:業物の品を10個生産】【難易度:四の依頼達成】

  【脅威度:四の厄災を撃破】【常設型の異界を攻略】

 ※条件は、【心】【技】【体】の合計が12に達すると一新。



◆ステータスについて

 名前:セキ 

  心:2 技:3→4 体:3

   体力:1075

   気力:900→1075

   力:43→50 速:43→50 耐:43

   意:36→43 識:30→36 霊:24

   巧:30→40 知:30→40

  特技

   心:【堅志】【霊視】

   技:【武器習熟/太刀(初伝)】【軽業(初伝)】【疾風足】

     【疾風剣】New!

   体:【大力】【迅速】【頑強】


 ・ツカサ:変更なし

 ・兵蔵:非公開


特に何の見せ場もなく、さらっと主人公が成長。

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