其の六
本日の更新その2です。
◆◇◆◇◆
現実時間では、すでに夜の十時を回っている。
ゲーマーにとってゴールデンタイムはこれからだが、そうでない良い子にとっては、そろそろ切り上げ時である。
そういうワケで、ツカサが落ちるのを見送った後、セキと兵蔵はマレビトが経営する茶屋へと足を運んでいた。
「お、昨日も来てくれた新人さんだね?」
「どうも」
どうやらチェックされていたらしい。
出された暖かい緑茶を口にして、ほうと息がこぼれる。
「鴻臚館にも置けばいいのにな」
「煎茶は、江戸時代からでござるからな」
「何でそんなところだけ真面目に考証してるんだ。このゲーム」
もっとも、麦茶―――麦湯も平安時代は貴族の飲み物だ。それが、普通に出回っている時点でやはりガバガバである。運営のこだわりは良く解からんとセキは首を振った。
さて、と小さく呟いて、隣に座る忍者へと視線を向ける。
「それで、種明かしをするつもりはあるのか?」
「……やはり、気付いていたでござったか」
「いや。何となく言ってみただけ」
ぼとりと忍者が団子を落とした。
三秒後、光の粒子となって消え去る団子を見送った後、兵蔵がゆっくりと顔を動かした。
「で? 結局、お前ら何がしたかったんだ?」
「いやいやいや。あの、ちょっと……えぇ…」
ロールプレイが崩れてるぞと指摘して、セキは緑茶を口に含む。
これくらいの意趣返しは良いだろうと、内心で笑いながら、何やら葛藤している忍者を余所に大福をつまむ。
(からくり武者、見掛け倒しで弱すぎたしな)
『中堅層の方々にお力添えを頼むとオーバーキルになるのでござる』
確かにそうだったと、セキはうなずく。
あれだけの巨体で、全身に鎧をまとっていながら、セキやツカサの攻撃でダメージが入るという不自然な脆さ。
「弱点は此処ですよ」と言わんばかりの判りやすい怯み動作。
大太刀による攻撃は、躱しやすい振り下ろしが主体。最後の衝撃波も、吹き飛ばし効果のみで、それ自体にはダメージが発生しない仕様。
ツカサを蹴飛ばそうとした動きには、一瞬ヒヤリとしたものを覚えたが、ヒットアンドアウェイに努めていれば、何ら問題無かっただろう。
そして、とセキは思う。その弱さは意図的なものだったのではないか。
「…………」
しばらくの後、忍者は、肩を落としながら湯呑を手に取った。
「あれは、最上位の式神五体分のリソースを使って作成した複合式神でござる」
皆伝級の術者が操る秘奥義。合戦用の式神なのだと、兵蔵は告げる。
無論、初期作成キャラでも戦えるように、能力値を低く設定しているのだが、だからと言って、新参マレビトが独力で倒せるほど弱くはない。
「そこで、苦戦したところを、某の知り合いが助太刀に入る算段だったでござる」
「……何か、『不良雇って絡ませたあの子を颯爽と助ける俺』みたいな企みだな」
「うむ。『ピンチを助けて胸キュン作戦』でござる」
半眼になる。セキは無言のままお茶を飲み干して立ち上がった。
「それじゃ―――」
「さ、最後まで話を聞いてください。別に悪意からじゃないんです」
慌てて言い募る忍者の言葉に、セキはわざとらしく大きなため息をついた。
座って、目で先を促す。
「お二方、つまり新人のマレビトの動向には、多くの者が注目しているでござる」
「そうなのか?」
兵蔵はうなずいた。
最近では、平安京をスタート地点に選ぶプレイヤーは少ない。
大体が、東国の江戸、もしくは九州の大宰府、あるいは四国への入り口となる淡路を選択するのだ。
だから、鴻臚館でくだをまいていた暇人達は、久しぶりに現れた新人に興味津々だったのだという。
「様子を見るに、一人はどうやら帰参者のようでござったが、もう一人は完全なご新規さん」
「うん」
「これは仲良くなりたいと、そう考えたのでござるが」
「うん」
「こちらから声を掛けるのは、何か下心がありそうで気恥ずかしいでござろう?」
「…………」
分からなくもないなと、セキはため息をついた。
困っている様子もないのに、上級者が初心者に声を掛けるのを躊躇する気持ちは分かる。
まして、相手は女性アバターである。中の人の性別はどうあれ、何となく後ろめたい気持ちになるのは、まあ分かるのだ。
(俺も盛大に転倒する所に出くわさなかったら、声をかけていなかったかも知れないしな)
「それで、今日も見守っていたのでござるが……」
「ストーカーみたいだな」
「見守っていたのでござるが、セキ殿と会うまで心細そうでござった」
「…………」
兵蔵の言葉に、セキは息を止めた。
「……どれくらいの時間、一人だった?」
「十五分程度でござる」
もう少しひとりぼっちの様子であれば、誰かが声を掛けたかもしれないと兵蔵は続けた。
しかし、「かもしれない」だ。
ずっと、ひとりぼっちのまま、という可能性も十分にある。
「それで、まあ、その、知り合いを増やしてあげねばと、そんなお節介を思ったのでござる」
「なるほど」
そして、他のマレビト達と相談した結果、『ピンチを助けて胸キュン作戦』が策定されたのだそうだ。
「きっかけも無しで話をするのは、結構しんどいでござる」
しかし、一緒に戦って顔見知りになれば、声を掛けるハードルは随分と下がる。
ツカサも気後れなく自分達に話しかけられるだろうし、こちらも「調子はどうだい?」といった感じで話がしやすくなるだろう。
後、新人のピンチに颯爽と駆け付けるオレ達カッコイイ。
兵蔵が説明する計画の趣旨は、そんな内容だった。
言いたいことはあるが、趣旨は理解できる。しかし、そうなると―――
「……計画失敗?」
「上手く行かないものでござるな」
あそこまでアッサリ倒されるとは思わなかったと、兵蔵が肩を落とす。
その様子から目を逸らし、セキは天井を見上げた。
仮想世界であっても現実は厳しい。とりあえず―――
「ちょっと狩りに行ってくるか」
セキは、明日考えることにした。
これにて第二話終了です。
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