スヴェン3
もう少しスヴェン続きます。
‥何も見えない。
どんなに目を凝らしても、辺り一面真っ黒な世界が続いているだけだ。
いや、果たして目を開けているのか?
顔を触ってみようと腕に力を入れたが動かない。
声も出せない。身体が動かない。
何なんだ?これは?
意識だけははっきりしている。
いったいどうなっているんだ?
ズブリと足元が沈み始める。
どんどん下へ沈み込んでいく感覚だけはある。
いや、むしろ感覚だけが研ぎ澄まされている。
まるで底無し沼に飲み込まれている様だ。
ドロドロとした得体の知れない物が、全身に纏わりついてくる。
ツーンとした嫌な臭いが鼻腔いっぱいに広がり吐き気を催すが、当然身体が動かない為吐く事も出来ない。
時折耳元で悲鳴のような、呻き声のようなものが騒ぎたて、耳を塞ぎたいが出来ない。
「うるさい!うるさい!うるさい!」
声にならない叫びを、頭の中で繰り返す。
「気が狂いそうだ‥」
身体が自分の意思とは裏腹に、ユサユサと揺さぶられる。
「やめてくれ!痛い!」
その声がはっきり聞こえた時、スヴェンは目を開ける事が出来た。
叫んだのは自分。自分の声で目を覚ましたのだ。
両肩をゴーシュに掴まれている。痛いくらい強く。ゴーシュは泣きそうな顔で覗き込んでいた。
「スヴェン様が目を覚まされた!早く報せを!」
医師の声が聞こえる。
ゴーシュは両肩を掴んでいた手を離し、スヴェンの寝台横右側へ膝をつき頭を下げた。
「スヴェン様、申し訳ございません!今回の事は全て、お側を離れた私の責任です。如何様な処遇でも受ける覚悟は出来ております。死を持って償えと仰れば、その様に致します。どうか、不甲斐ない私を処罰して下さい」
ゴーシュを見ると、憔悴しきって真っ青な顔色をしている。
スヴェンは段々と頭がはっきりしてきて、全てを思い出した。
「気が狂うかと思う程、酷い夢をみた‥」
そう呟くとゴーシュは顔を上げた。
「酷くうなされて苦しそうにもがいておられました。不敬かと思いましたが、あのままでは呼吸が止まってしまうのではないかと思い、お身体を揺すって無理矢理起こしてしまいました。申し訳ございません」
「いや、正解だ。助かった」
スヴェンは溜息を1つ吐いて考える。
あの時ゴーシュはいなかった。それは、図書館へ入ってすぐ、青い制服を着た役人がゴーシュを呼びに来たからだ。宰相が呼んでいるからとの事だったので、すぐさま向かう様指示したのは自分だ。
「お前には何の罪もないぞゴーシュ。ところで宰相はいったい何の用だったのだ?」
するとゴーシュは眉間に皺を寄せて、腑に落ちないといった顔をした。
「それが、宰相様の部屋の隣の控えの間へ通され、しばらく待てと言われたので待っていたのですが、いつまで経っても呼ばれる気配が無く、業を煮やして部屋を出て、通りすがりの侍女に聞いた所、宰相様は視察の為外出中との事だったのです」
スヴェンの右眉がピクリと動いた。
「つまり、宰相が呼んだ事実はないと?」
「はい。朝からお出掛けで、王宮には寄らず直接視察へ出掛けられたという話でした。その事実確認をしていたら、王宮中にサイレンが鳴り響いたのです」
もしや?と思って聞いてみた事が確信に変わる。
スヴェンは身震いをした。どんなに優れていても、まだたった8歳の子供なのだ。
突然バタンと勢いよく扉が開いたと思ったら、国王、王妃、その側近達が入って来た。
「ああ!私の大事なスヴェン!!」
王妃はスヴェンに走り寄り、力一杯抱きしめて泣いた。
国王は王妃とスヴェンを柔らかく抱きしめて
「無事で良かった」と言った。
スヴェンも両親に抱きしめられ、やっと安堵して泣きじゃくる。
ひとしきり泣いてから、打って変わって真剣な表情で国王に言った。
「父上、何が起こったのか?とお思いでしょう。僕の推測も交えて、話を聞いて下さい。勿論ここに居る皆も」
そう言ってスヴェンは全てを話し始めた。
話が終わり、一同は真っ青になった。何といっても決して公に出してはならない禁書が、数ページとはいえ奪われたのだ。
又、スヴェンの推測を聞き、更に一同は青くなった。
計画的犯行。禁書の封印を解くには国王とスヴェンの指輪が必要だ。
国王より接触し易いスヴェンは狙われ、罠に嵌められたのだ。
まずゴーシュをスヴェンから遠ざけ、あらかじめ描いておいた魔方陣へスヴェンをおびき出し、指輪を奪うという計画だったのだろう。
誤算は、思っていたより遥かにスヴェンの魔力が強力で、指輪により掌に消せない焦げ跡を残された事だ。
側近達はすぐに調査を始める様国王に指示を受け、足早に部屋を出て行った。
部屋に残った両親とゴーシュに向かってスヴェンは言った。
「もう一つ大きな問題があります」
3人は心配そうな顔をしてスヴェンを見つめる。
「僕は、呪いを受けました‥」
「!!!!」
3人の顔が絶望に変わった。
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