第5話
驚いて声が出なかった。アレス様は自分の事を"魔術師"
と言ったのだ。意図せず目的の場所へ辿り着いたという事だろうか?
また、魔術師というのはこれほどに美しいのだろうか?
「で、その魔術師にいったい何の用事があるんだい?」
突然目的の核心を突かれ、狼狽えはしたが、ここで怯んではいられない。この目的の為に危険を冒してここまで来たのだ。
「呆れた事を言うと思われるかもしれませんが、どうか私の願いを聞いて頂けませんか?」
「願いとは?」
「私に魔術を教えて頂きたいのです。夢のお告げでは、魔術師に頼れという事でした。頼るとは即ち魔術を教えて頂く事だて解釈致しました。私に出来る事であれば、どの様な事でも致します。どうか願いを聞き入れては頂けませんか?」
アレス様は眉を潜め、フーっと溜息を吐いた。
「軽々しく"どの様な事でも"などと、言ってはいけないな。もし僕が、夜ベッドの相手をする様に言ったら、君はどうするつもりだったんだい?」
カーッと血が顔に集まり、熱くなった。おそらく、今自分の顔は真っ赤だろう。ベッドの相手の意味が分からない程子供ではない。おおよその知識だけはある。ただ、そういった事を強要されるとは思っていなかった為、予想外の反応が表れてしまったのだ。
勝手に魔術師のイメージは老人と決め付けて、この様な事は一切考えていなかったのだ。
「そ、その様な事は考えておりませんでした。ですが、それでも、どうしても!私は魔術を習得しなければならないのです。どうか!どうか!私に魔術を教えて頂けませんでしょうか?」
感情が昂り、目元が熱くなる。堪えきれず涙が2、3粒目から溢れた。アレス様は私の顔をジッと見つめている。
暫く無言で私を見つめ続け、またフーっと溜息を漏らし口を開いた。
「僕の名前はスヴェンだ。よろしく。君は今日から魔術師の弟子になる」
「!!」
その言葉に驚いて言葉を失うと、スヴェン様は立ち上がり私の手を引いて立たせた。
終始無言で見守っていた茶色い髪の男性も、やれやれといった動作をしてから口を開いた。
「私の名前はゴーシュ。スヴェン様の従者だ。よろしく」
何が何だか分からないが、どうやら私は迎え入れて貰えたようだ。
「よろしくお願い致します」
膝を降り、君主に挨拶をする時のお辞儀をした。幼い頃から身に染み付いた、上品な仕草と笑顔を貼り付け、2人の方へ向き直る。
するとスヴェン様はふいっと横を向き、何故か少し赤くなりながら「反則だ」とかなんとかブツブツ呟いている。それを見たゴーシュ様は、ニヤニヤしながら生温かい目でスヴェン様を見ている。
私がキョトンとしていると、ゴーシュ様がニヤニヤしながら言った。
「魔術師の弟子になる条件として、スヴェン様と添い寝をして貰う事になる。そこで何かあるかどうかはスヴェン様次第だが。この条件は変えられないが、君は受け入れられると思った。途中で引き返せないが大丈夫だろうか?」
添い寝‥また顔が熱くなる。この美しい男性と私が⁈
むしろ私で良いのだろうか?こんなみすぼらしい私とでは逆に可哀想に思えてくる。
「‥受け入れられます。ですが私でよろしいのでしょうか?」
ゴーシュ様が笑顔で口を開こうとした瞬間、スヴェン様が真っ直ぐ私を見て言った。
「君でなければならないんだ」
青灰色の目に真剣な表情で見つめられ、胸が苦しくなる。
私の中に、今迄感じた事のないよく分からない感情が芽生えた。
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