オライアス領
レガーラ城を出発したゴーシュ達は、オライアス領を目指していた。
先を急ぎたいであろうゴーシュにとって、馬車のメリダは足手まといだろうと、メリダは終始気にして、申し訳なさそうな顔をしている。
しかしゴーシュは苛立ちもせず、細やかにメリダに声をかけては体調を気遣っていた。
「メリダ殿、疲れていませんか?」
メリダは表情や仕草で「大丈夫」と「ありがとう」を伝えてくる。
途中休憩しようかというゴーシュの提案に、メリダは首を横に振った。
これ以上遅れるのは、申し訳ないと思っているのが伝わって来る。
これがもしゴーシュの姉妹達であったならば、やれ腰が痛いだの退屈だのと文句を言っただろう。
慣れない遠出で疲れている筈だが、メリダは疲れた素振りも見せず、終始笑顔でゴーシュの問いに筆談で答えた。
もし、口がきけたなら‥もっと彼女の事を、知る事が出来るのに‥
ゴーシュはそう考えている自分にハッとして、思わず苦笑いを噛み締める。
あの姉妹達に囲まれて育ったのだ。
女性の事はよく分かっているつもりだし、今迄知りたいと思う事も無かった。
しかし彼女に至っては、知りたいと思うのだから、不思議なものだな。
余程私はこの、憐れな彼女に同情しているのだろう。
だが、1人の人間にあまり思い入れるべきではない。
私のするべき事は、任務の遂行なのだから。
私の守るべき相手は、スヴェン様只一人なのだ。
ゴーシュは自分の感情の変化に蓋をして、任務を遂行する事に集中した。
メリダが無理をしたお陰で、陽が沈む少し前にはオライアス領に到着する事が出来た。
オライアス城は黒色の石がふんだんに使われた、低い岩山の頂に建っている。
遠くから見ると、まるで黒くそびえ立つ山の様で、容易に他者を近付けない威圧感の様な物を感じた。
城の入り口までは、馬車が一台通るのがやっとの、細い道が続いている。
裏側は断崖絶壁で、天然の要塞になっていた。
「姉上!おかえりなさい!疲れたでしょう?」
城の城門が開いた途端、黒髪の少年が駆け寄って来た。
14、5歳位の、まだあどけなさの残る、可愛らしい少年だ。
黒髪に茶色い瞳で、どことなくメリダに似た顔立ちをしており、姉上と呼んだ事から、この少年が現オライアス公爵である事は間違いない。
ゴーシュは出迎えに来ていた騎士の一人に馬を預け、オライアス公爵の前に膝をついた。
「お初にお目にかかります。私はラドニアの親善大使として参った、ゴーシュ・ベインと申す者です。国王陛下の命により、この度オライアス領に滞在させて頂く事となりました」
「疾風のベイン!本物だ!!陛下から聞いて、楽しみに待っていたんだよ!膝などつかず、立ち上がって。オライアス領にようこそ!僕はセスク・オライアス。一応このオライアス領を受け継ぐ者だよ」
セスクはゴーシュの手を引いて立ち上がらせ、固く握手を交わした。
「その名で呼ばれるのは、少々気恥ずかしいのですが、歓迎頂き光栄に存じます」
「そんな畏まらないでよ。僕の事はセスクと呼んで!僕もゴーシュと呼ばせて貰うけど、構わないかな?」
「ええ、構いません。ではセスク殿、改めてよろしく!」
「嬉しいな!あの疾風のベインが僕の目の前にいるんだ!ねえゴーシュ、折角だから僕に剣を教えてよ!」
セスクがゴーシュにねだると、メリダは首を振ってセスクを止めた。
「えーなんで駄目なの姉上?こんな機会逃したら、僕は絶対後悔するよ!」
するとメリダは手を動かして、手話で意思を伝えている。
どうやら普段は手話で会話をしている様だ。
「分かったよ姉上、今日はこれ以上我儘を言わない。明日改めて頼んでみるけど、それならいいよね?」
今度はメリダも納得した様で頷いている。
セスクは会話の内容が分からないゴーシュに、メリダの意思を伝えてくれた。
「姉上が、疲れているだろうから、ゴーシュを休ませてあげてって言うんだ。ごめんねゴーシュ、僕は興奮して客人に気遣いを忘れていたよ」
「いいえ、突然押しかけた私に、気遣いなどいりません。私で良かったら、喜んで剣をお教え致しましょう。只、それと引き換えと言ってはなんですが、私の頼みも聞いて頂けますか?」
「もちろんだよ!!ゴーシュに稽古を着けて貰えるなんて、こんな凄い事は無い!で、頼みって‥」
セスクがそこまで言うと、メリダは又手話でセスクに意思を伝えた。
「姉上に怒られた。立ち話もいい加減にしなさいだって。姉上の言う通りだ。悪かったねゴーシュ、部屋に案内させるから、夕食の席でゆっくり聞かせて」
「はい。ありがとうございます」
セスクは初老の執事を呼んで、ゴーシュの荷物と案内を頼んだ。
ゴーシュは執事に案内されるまま、客室へと進んで行った。
客室はシンプルな作りで、あまり派手な装飾はない。
しかしその分、上質な素材をふんだんに使って、内装を仕上げている事が伺える。
大きなベッドの支柱は黒檀だし、壁のタペストリーは見事な織物だった。
タペストリーの模様は、何かの物語を題材に織られている様で、四方の壁に同じ人物がいて、壁ごとに背景と仕草が違う。
ゴーシュは見事な作りに、繁々とタペストリーを見ていたが、その中の一枚に目を止めると、心臓がドクンと跳ね上がった。
これは‥‥!
この真ん中にいる黒い生き物!
これこそがスヴェン様の探している、魔物なのではないか‥?
ゴーシュは鼓動が早くなるのを感じながら、魔物とオライアス城の関係を確信した。
大分ご無沙汰になってしまいましたね。
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スローペースですが、最後まで頑張って書くつもりですので、お付き合い頂けたらありがたいです。
読んで頂いてありがとうございます!




