↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はぐれ王女と魔術師  作者: 栗須まり
PR
37/37

自分の力

ダニールと2人で話し合ったスヴェンは、早急にオライアス公爵領へ向かう事を決断した。

そこですぐゴーシュにキアラと一緒に滞在する旨の手紙を書くと、ダニールには引き続き当面の仕事を頼んだ。

「僕は一旦森へ戻って、キアラにも伝えて来る。すまないがダニール、もう暫く頼むよ」

「仕事の方は別にいいんですが‥アルクの王女に身分を明かさないのですか?オライアス領へ行ったら、ごまかすのが難しいかと思いますよ。ゴーシュが伯爵位を持つ騎士である事は知られていますし、その伯爵が主君と呼ぶのは誰なのか、近隣諸国では知らない者はいませんからね」

「暗示の魔法を使うから問題無い。公爵邸からは出ないつもりだしね。キアラには‥一ヶ月の務めが終わってから話すと約束している。だからもう暫くは‥このままでいい」

「スヴェン様、共通の敵と分かった以上、お互いに信頼関係を構築する必要があるのですよ。その為には偽りの無いご自身のお姿を伝えた方が、よろしいかと思いますが?」

「キアラが頼っているのは、魔術師としての僕だ。今はその関係を崩したくない」

少しだけ不安そうな表情を浮かべたスヴェンを見て、ダニールは溜息を吐きながらボソッと呟いた。


「恋とは‥どの様な人でも弱くなる物なのですね‥。それはいかに完璧王子といえども同じ事‥か」

「なんだ?どういう意味なんだ?」

「いいえ、早いとこ告白すべきだと思っただけです。ゴーシュには転移魔法が使える様、魔法陣を描いた羊皮紙を同封致します。それと、通信用の魔法石も携帯する様伝えておきます」

「そうしてくれ。では悪いがダニール、後は頼んだ」

そう言うが早いか、スヴェンは駆け足で部屋を出て行った。

後に残ったダニールはもう一度溜息を吐いた。

「さて、私の方もアルクに揺さぶりをかけますか‥」

スヴェンの執務室に1人残ったダニールは、何かを睨み付ける様な鋭い表情に変わっていた。


森に戻ったスヴェンは、ついでに持って来たお菓子を携えて、家の中にいる筈のキアラを探した。

キアラは台所で夕食の支度をしている。

スヴェンの姿を目にしたキアラは、柔らかく微笑みながら「おかえりなさいスヴェン」と一言言った。

「ただいま」

と言いながら、胸の奥が暖かくなるのを感じる。

そこにキアラがいるだけで、何の変哲も無い台所の空気が、酷く居心地の良い物に感じてしまうのだから不思議なものだ。


「ちょうどシチューが出来上がった所です。冷めないうちに夕食にしましょう」

「うん。美味しそうな匂いがしているね。それじゃあこれは食後のデザートにしようか」

「それは‥?」

「君に食べさせたいと思って持ってきたんだ。甘い物は好きかい?」

「ええ。大好きです!ありがとうございますスヴェン!」

パアッと花が咲いた様な笑顔で、嬉しそうに菓子を受け取るキアラを見て、こんなに喜んでくれるなら、もっと早く持って来れば良かったなぁと思う。

キアラは最初に出会った時より、明らかに笑顔を見せる回数が増えた。

それだけ心を開いてくれているのだと思うと、嬉しく思う反面、正体を明かしていない自分に後ろめたさを感じて、胸の辺りがズキンと痛んだ。


それから2人で夕食を摂りながら、スヴェンはオライアス領へ行く事を話した。

ゴーシュが既にオライアス領へ滞在している事と、黒い魔物の正体を探る事、それからキアラも一緒に連れて行く事を話すと、キアラは目をパチクリしながら、驚きの表情を浮かべた。

「私も一緒に‥行っても良いのですか?」

「調べるには数日かかると思うんだ。その間君と離れる訳にはいかない。それに君も正体を知るべきだ。多分君とは真逆の力を持つ者だと思うからね」

「真逆の力‥?」

「そう。君の力は精霊アルクの、光に属する力なんだ。その証拠に癒しの力を与えられる。反対に魔物というのは人に害をなす者を言う。それを利用するという事は、何かしらの契約を結ぶ必要があるんだ。その契約がまともな物でない事は、呼び名の黒い魔物という点から想像出来るさ。まあ、調べてみない事には分からないが‥」

「‥つまりスヴェンは、私の力が魔物に対抗する力になると考えていると‥?」

「うん。王妃の中の黒い魔物は、君の力を恐れているんだと思う。だから君は監禁されて、常に監視されていたんだと考えたんだ」

「それなら、私を殺した方が手っ取り早かったのではないでしょうか?」

「いいや、そうしたくとも出来ない訳があるんだ。まずアルクの聖女を殺す事は出来ない。君の癒しは民の信仰の元であり、それを失くすと王家は権威を失墜しかねないからね。既に王妃に対する不満が膨らんでいるこの状況で、君を殺したとなると各地で暴動が起きる事は誰でも想像出来るよ。どんなに魔物の力を使っても、国全体というのは不可能だからね」

「‥‥成る程。そういう理由から、私は生かされて来たのですね」

「これはゴーシュがアルクで調べて来た事から、推測したに過ぎないけどね。まあ、とにかく行って調べてみよう。多分2、3日中には、出発する事になると思うよ。それまでには荷造りをしておいて欲しい」

「分かりました。準備をしておきます」

「うん。僕の方も準備を整えなければいけないからまた明日出かけるけど、くれぐれも訓練は程々にしてくれよ」

「はい」

何の役にもたたないと思っていた自分の力。

それをスヴェンは対抗する力だと言う。

突然の事で戸惑いはしたが、自分に出来る事があるのならば、喜んで受け入れよう。

そしてアルク様の言った通り、弟である王太子に会わなければならない。

その前に長らく顔を合わせていなかった父との対面も、避ける事は出来ないだろう。


その晩キアラはいつもの様にスヴェンを胸に抱きしめながら、あの時父の言った言葉を思い出しては、中々寝付けず蘇る悲しみも抱いて目を閉じた。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。