メリダ
「メリダ嬢は呪いにより口がきけないという事ですか?」
「そういう事だ。普段は筆談で問題ないが、ある事に関しては筆談すら出来ない。体が動かなくなってしまってな」
「その、ある事とは何か伺ってもよろしいでしょうか?」
「うむ。それこそがそなたに依頼したい件だ。ある事とは我が従兄弟の記憶と義母の記憶。つまり父親と義母親に関するあらゆる情報についてだ。2人について訪ねると、体が硬直して暫く動けなくなってしまってな。私は我が従兄弟が何故突然亡くなったのかが知りたいのだ。ラドニアでは未だ魔術が生きている。ラドニア人のそなたなら何か分かるのではないかと思うのだが?」
「私は魔術において明るくありません。せいぜい他国の言語を操る程度です。ですが我が主なら何か分かるのではないかと思います」
「ラドニアの完璧王子か。確か近年稀に見る魔力の持ち主だったと記憶している。しかし王子直々に見て貰う訳にはいくまい」
「いいえ、王子はこちらへ来る事を希望しています。勿論お忍びですが。今王子も別の呪いについて調べている所なのです。そこで手掛かりがオライアス領にあると睨んで、私が使いに参ったのです」
ヨルグ王は顔色を変えてゴーシュを見た。
「やはりそうなのか?私は以前からあの女が怪しいと思っておったのだ。オライアス公爵家の悲劇はあの女が嫁いで来てから始まった」
「陛下が仰るあの女とは、元オライアス公爵夫人アラメダの事ですか?」
ゴーシュがアラメダの名を口にした瞬間、メリダは硬直してバランスを失った。
ゴーシュは素早く反応して、メリダの体を支えて抱き上げた。
「緊急にて抱き上げる事をお許し下さい。これはどういった事でしょう?」
「最初に説明しておくべきだった。メリダの呪いは不完全で、他の者が対象となる者の名を口にしただけで反応するのだ。私はこの娘が不憫でならない。こんな呪いの為にメリダは嫁ぐ事も出来ず、結婚適齢期を逃してしまった」
抱き上げたメリダは硬直したまま、琥珀色の瞳から一筋の涙を流した。
ゴーシュは不謹慎にも美しいと思ってしまった。
「陛下、私と我が主がオライアス領へ滞在する許可を頂けないでしょうか?調査だけさせて頂ければ、主もお忍び故領内に宿をとってオライアス公爵家には迷惑をかけません」
「許可を出すまでもない。むしろこちらから願おう。宿などと言わず、オライアス公爵家に滞在するが良い。メリダもそれを望んでおる」
メリダを見るとうっすらと赤くなり、何度も頷いている。
硬直が解けたようで、ゴーシュの腕を軽く叩き降ろしてくれと訴えていた。
抱き上げられている状態が恥ずかしい様だ。
メリダの様子が可愛らしく思えて、ゴーシュはメリダに微笑んだ。
メリダは益々赤くなり、両手で顔を覆っている。
ヨルグ王はその様子を見て、微笑ましく思った。
「ベイン伯爵、メリダは男性に慣れていない。降ろしてやってくれ」
「これは失礼を」
メリダをそっと床に降ろすと、メリダはゴーシュに向かって胸の前で腕を交差させて頭を下げた。
「メリダはそなたに感謝している。明日の朝早速メリダと一緒にオライアス領へ向かってくれ。口はきけぬが筆談で役に立てるだろう」
「陛下のお心遣いに感謝致します。ではその様に致します」
「時に伯爵、そなたは今何歳だ?」
「21歳です」
「この様な遠方まで来るとなると、そなたの伴侶はさぞや気を揉んでいる事だろうな」
「いえ、我が主がまだ結婚はおろか婚約者もいない状態なので、私は主の結婚を見届けてからでないと、自分の事は考えられません。ですから私には伴侶も婚約者もいないのです」
「なんと!そなたならいくらでも良縁に恵まれるだろうに。ふむ。ではまだ可能性はあるか」
「可能性ですか?」
「いやいや、こちらの事よ。長旅で疲れておろう?今日はもう休んで明日に備えてくれ。本来なら晩餐会を開きたい所だが、後で食事を運ばせよう」
「お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
ゴーシュはヨルグ王とメリダに騎士の礼をすると、案内係に着いて出て行った。
ゴーシュが退出してからヨルグ王はチラリとメリダを見て様子を伺った。
メリダはまだほんのり顔が赤い。
今迄何度か倒れそうになる場面があり、さっきの様に抱き上げられた事もある。
しかしメリダが恥ずかしがって赤くなる事は無かった。
「強く凛々しく、罪作りな騎士よのぅ‥‥」
ヨルグ王は小さく呟いて、ラドニアの王子の訪問に尽力を尽くす事を誓った。




