レガーラ城
ゴーシュがアルクを発って10日目。
やっとヨルグの王都へ入った。
ブレリアに着いたのは3日前。
ダニールから元首への連絡が行っていた事もあり、挨拶だけで済んだのは時間のロスが無くて良かった。
ブレリアの元首は、ヨルグ王に鳥を飛ばして連絡をしてくれた。
アラメダの夫であった亡きオライアス公爵は、ヨルグ王の従兄弟にあたるとの事だ。
現在は14歳の息子が家督を継いでおり、補佐として20歳になる娘が嫁ぎもせず領の管理を行っているという。
今回調査の協力を依頼する際、表向きはラドニアからの親善大使という肩書きを使っているが、禁書を盗まれた件だという事は、ブレリア元首からヨルグ王に伝わっている。
ダニールは交渉に際して、ヨルグからの鉱物資源の輸入を増加させるという案を出した。
他に目立った輸出資源のないヨルグにとっては、渡りに船だった様で、二つ返事で了承してくれた。
ブレリアも中間手数料が入るので、非常に好意的だった。
ゴーシュは脇目も振らずヨルグ王の居城、レガーラ城へ向かった。
ブレリア元首から渡された身分証を見せると、すんなり通してくれて、国賓を迎える部屋へ通された。
レガーラ城の外観は、全体に鮮やかな黄色い石が使われており、所々ピンク色、茶色、黒等と様々な色の石がふんだんに使われている。
鉱物資源が豊富な国ならではの城だろう。
城下から見上げると、まるでお菓子の城の様だ。
ゴーシュはヨルグ王との謁見を前に、長旅の埃を落とす為湯を使わせて貰った。
ダニールからの連絡では、スヴェンがオライアス領へ調査に来るという。
ヨルグ王の許可を得て、なんとしてもオライアス領を調査させて貰わなければならない。
ゴーシュには探査する様な魔力はない。
あるのは言語学を操る魔力だけだ。
どこの国へ行っても言葉には不自由しないが、肝心な所で役に立たない自分に腹が立つ。
とはいえ、スヴェンの性格なら自分でやると言うだろう。
現オライアス公爵と上手く話せればいいのだが。
身支度を整えて暫くすると、ヨルグ王から謁見の許可が下りた。
謁見の間へ案内され中に入ると、玉座に座る黒髪で長い髭を蓄えたヨルグ王と、数人の側近が王の横に立っている。
ゴーシュが王の前に跪くと王は
「堅苦しい挨拶はいらんよ。私は前から是非会ってみたいと思っていた。疾風のベインことゴーシュ・ベイン伯爵」
と言って微笑んでいた。
「私の様な未熟者を覚えて頂き、大変光栄に存じます」
「ホッホッホ。どんな屈強な男かと思ってみれば、これは大層凛々しい若者ではないか。どおりで城の女共が騒がしいと思ったぞ。そなたは大層モテるだろうな」
「いえ、その様な事はございません。お誉め頂き恐縮ですが、私は我が主の為にのみ存在する人間です」
実際ゴーシュはかなりモテるのだが、スヴェン同様女性にはあまり興味が無かった。
姉妹を見て育っているので、女性とはどういう生き物か充分理解している。
その為些かウンザリしている部分もある。
ゴーシュの姉妹達はかなり行動的で、買い物だなんだと頻繁に駆り出されて、ゴーシュは女性と付き合うには体力と忍耐が必要だと思っている。
「さて、ベイン伯爵よ。聞けばそなたは急いでいるという。本題に入ろうではないか」
「お気遣い頂き光栄です。陛下にはある許可を頂きたく、お願いに参った次第です」
「大筋では聞いておるよ。そこでこちらからも依頼したい案件がある。今からそなたにはある人物と会って貰おう」
王はそう言うと側近の一人に声をかけ、何かを指示した。
側近は席を外すとすぐさま一人の女性を連れて戻って来た。
艶やかな黒髪にパッチリとした大きな琥珀色の瞳、スッと通った鼻筋に形の良い唇、肌は透き通るほど白いとても美しい女性だ。
女性が王の隣に立つと、王は口を開いた。
「紹介しよう。我が従兄弟の娘にしてオライアス公爵令嬢メリダ・オライアスだ」
王に紹介されると公爵令嬢は、ドレスの裾を持ち上げて中腰の姿勢で頭を下げた。
どうやらヨルグ式の挨拶の様だ。
「お初にお目にかかります。私はゴーシュ・ベインと申します」
ゴーシュが挨拶をすると、公爵令嬢は真っ直ぐにゴーシュを見つめ、それから王と目配せをした。
王は頷きゴーシュに向かって言った。
「私が依頼したいのはメリダの事だ。メリダは父親が亡くなった直後から口がきけなくなってしまった。あらゆる医師に診せてみたが、どこにも異常は見当たらない。単なるショック状態でもないらしい。そこで占い師に占術を行わせた所、呪いという結果が出たのだ」
ゴーシュは衝撃を受けた。
呪いを探りに来た先で、呪いにかかった人物と会うとは思ってもみなかったのだ。
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