ダニールの企み
顔色を変えたが、一瞬のうちに元へ戻る。
流石と言おうか。
常に冷静さを失わないのが、ダニールの凄い所だ。
スヴェンは自分の側近であり、将来の宰相候補であるダニールを尊敬していた。
ダニールはダニールで、スヴェンのあらゆる才能を認め、この国の未来の国王に期待をしている。
だからこそスヴェンの未来に対する憂いは、全て取り除くつもりである。
一番大きな憂いは調査の結果発覚した、ミランダという女性により11年前にもたらされた、スヴェンにかけた呪いという名の憂いだ。
「スヴェン様、私は急ぎブレリアの元首に手紙を書きます。今ゴーシュの向かっているヨルグで、国交のないラドニア人が、自由に動き回るのは難しいでしょうし」
「ダニールの判断に任せる。封蝋は僕のを使ってくれ」
「もちろんそのつもりです。ゴーシュにはその旨伝えておきますので」
「それと、ゴーシュがヨルグに着いたら僕も行くつもりだ。僕の予想通りなら、オライアス公爵領には、ミランダを変えた黒い魔物の痕跡が必ずある筈。それを見付けるのはゴーシュには無理だ。それに、僕は黒い魔物を倒さなければならない。キアラと一緒に。だからキアラも一緒に連れて行く」
「‥‥本来なら反対する所ですが、アルクの導きというのなら、私の判断の外でしょう。スヴェン様の気の済む様になさって下さい。ところでスヴェン様、全てが終わった後アルクの王女をどうするつもりですか?」
「‥どうするって、まだ無事に終えられるかどうかも分からない内から、そんな事を言われても困る。彼女には僕の出来る事を誠意を持って返すつもりだが?」
「私が言っているのは、将来貴方が国王となった時に、王妃の座が空いていたのでは都合が悪いという事です。貴方は今まで女性を毛嫌いしておりましたし、問題も抱えておりましたから、私も無理強いせずに皇太子妃の座は空けたままにしておりました。ですがアルクの王女だけは毛嫌いの対象外だった様で、一緒に行動すると仰る。それならば妃に望んでも、何ら問題ないのでは?」
「な、何を突然言い出すんだ?まだ僕の問題は解決していないじゃないか。妃なんて、僕がこの先どうなるかも分からない内は二の次だ。第一にキアラの意思はどうなる?彼女にとっても迷惑だろう?」
「ほほう。それ程狼狽えるとは、スヴェン様にも漸く遅咲きの春が訪れたという事らしい。ふむ、私の洞察力も馬鹿にしたものじゃないですね。そういう事ならお任せ下さい。私が一肌脱ぎましょう」
「ダニール!余計な事はしなくていい!頼むから放っておいてくれないか?」
「こういう事は早い方がいいんですよ。特にスヴェン様は恋愛初心者ですし。ゴーシュじゃそこまで気が回らないでしょう」
「いや、ゴーシュは女性姉妹に囲まれて育ったから、僕等より女性の事は良く解っている。って、そんな話じゃない!とにかく放っておいてくれ!僕はまだ、キアラに自分の身分も明かしていないんだ!」
「おやおや何と歯痒い事でしょう。いいですかスヴェン様、相手の気持ちを尊重するのは悪い事ではありません。ですが、相手に好かれる努力を怠ってはいけませんよ。好いた相手なら、自分の物にしたいと思うのは当然の事なのですから。まあ、一応見守りますけど。今のところは」
「分かった、もう分かったから。これ以上はやめてくれ」
ダニールはスヴェンを生暖かい目で見ながら、スヴェンの執務机へと向かった。
「さて、面白い物も見られた事だし、仕事に精を出すとしましょうか。スヴェン様、こちらの事は気にせず、戻ってキアラ様と睦まじくお過ごし下さい」
「あ、ああ、何だか言い方が妙に引っかかるが、ゴーシュから連絡が来たらまた知らせてくれ。後は頼んだぞダニール」
ダニールは見惚れてしまう程柔らかな笑顔を見せて
「お任せ下さい」
と言ってスヴェンを見送った。
麗しの次期宰相殿と密かに呼ばれているほど、ダニールは中性的な美しい容姿の持ち主だが、こういう笑顔の時は大抵良からぬ事を企んでいる事をスヴェンは知っている。
一抹の不安は残るが、一刻も早くキアラの元へ戻りたかったので、スヴェンはそのまま森へ戻って行った。
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