再びラドニアへ
朝食を摂った後スヴェンは「夜まで出掛けてくる」と言って家を出た。
昨日キアラと話して、気になる事があったからだ。
アルク王と王妃は"顔見知り"であった様だという事が、妙に引っかかっていた。
王の所には立場上様々な国の人間が訪れる筈だ。
だが、あまり重要視していない国の公爵夫人が、わざわざ訪れる事はないだろう。
ヨルグはアルクやラドニアにとって、あまり重要視される国ではない。
ヨルグとの間にブレリア共和国がある為、貿易面ではブレリアを通し、直接ヨルグと交渉する必要がないからだ。
と、なると王が王で無かった時の、顔見知りである可能性が高い。
つまり、王太子時代の留学先という事だ。
アルク王の留学先はラドニアである。
スヴェンはラドニアに戻って、その当時の記録を調べる事にした。
前回ゴーシュと2人だったので森へ来る際馬を使ったが、今回は1人なので転移魔法を使う。
家の外に食料輸送用の魔法陣があるので、それを使って戻る事にした。
呪文を唱え一瞬のうちに城の食料倉庫へ移動する。
突然現れた王子に倉庫番は腰を抜かした。
「おっ、驚いた!お、王子様!!」
「すまん。緊急を要するんだ。ああ、そうだ!悪いがこの紙に書いてある食材を、用意しておいて貰えないか?」
「は、はい」
スヴェンは倉庫番に食材リストを渡すと、城内の自分の執務室へ向かった。
突然の王子の帰還に一番驚いたのは、王子付き補佐官のダニールだった。
「スヴェン様!!どうしたのですか連絡もなく突然?」
驚いたといってもいつも冷静なダニールは、片方の眉を上げただけで表情には出さない。
この冷静な補佐官こそ、スヴェンの側近で数少ない呪いを理解した者で、ゴーシュ同様に信頼する1人であり、時期宰相の呼び声も高いスヴェンの頭脳と呼ばれる男だった。
スヴェンが安心して留守に出来るのは、ダニールがいてくれるからこそだ。
「すまんダニール、至急調べて欲しい事がある。今から話す事は他言無用だ」
スヴェンは呪いをかけた相手に関する手掛かりを話し、アルク王が王太子時代に通った学園の、当時の在校生リストを調べる様、ダニールに指示を出した。
「分かりました。至急リストを入手します。しかし一つ引っかかる事があります」
「何だ?何が引っかかるんだ?」
「名前です。もしかしたらアラメダという名は、ヨルグの呼び方かもしれません」
「と、いうと?」
「ヨルグでは外国人が帰化した場合、名前にアと付けます。それに綴りの読み方も違います。ですからアラメダという名ではリストに載っていない可能性が高いのです」
「流石だなダニール。それを踏まえた上で調べないと徒労に終わるという事だな?」
「そういう事です。リストはすぐに手配しましょう。ですが調べるのはスヴェン様ご自身でお願いします。分かっていらっしゃるでしょうが、私には今余裕がありませんので」
ダニールはチラリとスヴェンを見て、机の上の書類の山を指し示した。
「うっ!そ、それは分かっている。しかし僕はヨルグの言葉に詳しくないぞ」
スヴェンがそう言うと、ダニールはニヤリと笑った。
「仕方がありませんね、私が調べる方が早いでしょう。ですがそうすると仕事が滞ってしまいます。さて、どうしたものか‥。主人不在の間身を粉にして働いている私に、まだ調べ物をさせるというのですからね」
「わ、分かった!分かったから嫌味はそれくらいで止めにしてくれ。そっちの書類は僕が片付ける。リストはダニールに頼む。それでいいだろ?」
ダニールはニッコリと微笑み、戸口へ向かった。
「殿下の仰せとあらば至急その様に致します。それではお急ぎの様なので、私は直接学園へ行って調べて参ります」
「ああ、よろしく頼む」
扉を開き優雅に配下の礼をとると、ダニールは執務室を出て行った。
スヴェンは自分の執務机に向かい、大量の書類を片付け始めた。
ダニールに任せておけば間違い無いだろう。
しかし、これだけの量の書類を1日で片付けるのは流石に無理がある。
当分は森と城の往復になるだろう。
その間キアラと離れているのは、なんだかとても寂しいのだが。
いや、これは余計な感情だ。
これ以上彼女に惹かれてはいけない。
自分と彼女の敵は一致している。
今はその敵を調べる事と、対策を練る事が重要だ。
全てを良い方向に持っていく為、時間を無駄にしてはならない。
スヴェンはそう決意して、目の前の仕事に精を出した。
読んで頂いてありがとうございます。




