義母について
キアラとスヴェンは夕食を摂っていた。
今日は午後からキアラの力を強化する為、スヴェンの考えた訓練法を実践したので、キアラは正直かなり疲れている。
訓練法は複数に対する集中力。
壁にスヴェンの作った映写機で幾つもの被写体を映し、それらに集中して力を発動する事で動きを止めていく物だった。
キアラの力を被写体に作用させる為、映写機には魔法石を使い、スヴェンが魔法で被写体を作った。
原理はよく分からないが、やってみると確かに手応えを感じる。
やはりスヴェンは魔術師なのだと、身をもって体験した上で納得した。
「疲れたかい?キアラ」
「少し。でもかなり効果的な訓練法ですわ。続ければそのうち慣れると思います」
「出来ればあと29日以内に習得して貰いたいんだ。少々スパルタだけど耐えられるかな?」
「大丈夫です。私はその為に来たのですから」
ニッコリ微笑んでスヴェンを見ると、スヴェンは申し訳なさそうな顔をしていた。
今日は義母について自分の分かる範囲話した。
その中でスヴェンに指摘されたのは、義母の出自が明確ではないという事だ。
一国の王妃となるからには、相応しい身分や家柄が必要な筈。
それなのに、何故誰も詳しい事情を知らないのだろう?
どういう訳かここに来てスヴェンに言われるまで、それがおかしな事だと一度も思わなかった。
それはキアラに限った事ではなく、国の中枢を担う面々も、誰も苦言を呈する事は無かったのだ。
義母の出自について知っているのは唯1人、宰相だけだった。
スヴェンは唯一分かっている、ヨルグのオライアス公爵について調べてみる必要があると言った。
そして、義母が嫁いで来た時に侍女達が噂をしていた「父と義母は顔見知りであった様だ」という話をしたら、アルク以外で顔見知りになる可能性のある場所も調べる必要があると言っていた。
頭の回転が速いスヴェンは、次々にやるべき事を探し出し、行動に移していく。
そんなスヴェンを頼もしく思いつつ、自分の無力さに落ち込んでもいた。
そんなキアラの気持ちを読み取り、スヴェンは一つ一つ気遣って元気付けてくれる。
キアラはそれが嬉しくて、幸せだと思った。
いつか終わる夢である事も、分かってはいるのだが。
「今日は疲れているだろうから、早目に休む事にしよう。本当は1人でゆっくり寝かせてあげたいんだけどね、僕の都合に合わせて申し訳ない」
「何を言うのですか!私が唯一スヴェンの為に出来る事ですわ。私はむしろスヴェンの役に立てる事が、嬉しいと思っています」
「嫌ではないと?」
「ええ。勿論ですわ。スヴェンこそお嫌でしたら離れて寝るとか工夫をしますが?」
「とんでもない!君が嫌でないなら、それでいいんだ」
スヴェンは少し赤くなりながら必死に否定した。
夕食を済ませてから、それぞれに入浴をして、かなり早い時間ではあったが休む事にした。
スヴェンは昨日と同じ様にベッドで本を読んでいる。
キアラはその横に潜り込み、スヴェンの横顔を眺めた。
「ん?灯りが気になる?」
キアラは首を左右に振って否定した。
「スヴェン、私は今日すぐ眠ってしまうと思うのです。きっとあなたより先に。ですから一つお願いがあります」
「どんな?」
「あなたの呪いを少しでも和らげられる様、抱きしめたまま眠らせて下さい」
「えっ‥‥!!」
「他に方法が思い付きません。今の私に出来る方法はそれしかないのです」
「‥僕は‥‥構わないけど、君は‥」
「お願いします」
スヴェンは狼狽えてはいたが、それ以上何も言わずにキアラの横へ体を倒した。
キアラはスヴェンの頭をフワリと腕で包み、自分の胸元へスヴェンの顔を押し付けて目を瞑った。
「苦しくはありませんか?」
「‥うん‥‥」
「動きにくくてごめんなさい」
「いや、快適だよ‥」
「スヴェン」
「うん?」
「‥おやすみなさい‥」
「‥おやすみキアラ‥」
スヴェンは落ち着かない気持ちだったが、キアラの規則正しい鼓動の音を聞いているうちに、眠りの世界へ入っていった。
こうして2日目の夜は更けていった。
読んで頂いてありがとうございます。




