夢と現実
キアラが目覚めると、隣に眠っていたはずのスヴェンの姿は無かった。
ベッドに温もりも残っていないところを見ると、かなり前に抜け出したのだろう。
慌てて起き上がりカーテンを開けると、外はすっかり明るく、小鳥のさえずりが聞こえる。
「寝過ごしてしまったのだわ!私ったら!」
キアラは慌ててクローゼットのある部屋へ行き、中のドレスに着替えた。
薄い緑色の前にボタンが並んだ膝より少し下までの丈で、腰の辺りに付いた太めの2本の布を後ろで縛るとリボンになる清楚なドレスだ。
このクローゼットの中のドレスは、どれも上品で清楚なデザインばかりだった。
自分の好みにピッタリで、ゴーシュのセンスには感謝するしかない。
寝間着は別として。
着替え終わると急いでキッチンへ向かった。
中へ入るとコーヒーの匂いが充満していて、豆を挽いた器具やお湯を沸かしたポットがそのままになっていた。
「大変だわ!初日から弟子としてあるまじき寝坊をしでかしてしまうなんて!」
料理をした形跡がないので、スヴェンは多分まだ朝食を摂っていないのだろう。
昨日の様子だとスヴェンは料理をした事がない様だ。
お腹を空かしているのではないだろうか。
とにかく早く作って許しを請わなければいけない。
キアラは手早くオムレツやサラダを作り、ベーコンやパンを焼いたりと朝食の準備を整えた。
「おはよう!いい匂いだね」
いつの間にか戸口にスヴェンが立っている。
「あの、おはようございます。申し訳ございません、私ったら寝坊をしてしまいました。ご迷惑をおかけした上に寝坊までして、本当に申し訳ございません!」
言い終わると頭を下げて、おずおずとスヴェンの顔を見る。
スヴェンはキアラにアレス様と見紛う程眩しい笑顔を向けた。
恥ずかしくてまともに見られない。
怒っているのではないかしら?
「まだ寝ていても良かったんだよ。君はまだ完全には回復していないのだから」
意外な返事が返って来た。
今迄自分の周りにいた人達は、少しのミスも許さなかったのに。
「あの、怒っていらっしゃるのでは‥?」
「何故怒る必要が?君は僕の張った結界に触れて弾き飛んだ。あの結界には細工がしてあって、触れた者の体力を削ぐ効果があるんだ。だから君の体力はまだ半分も回復していない。起きられなくて当然なんだよ」
スヴェンの言葉を聞いて、キアラは少しホッとした。
「でもやはり弟子にして頂いた以上、寝坊などあるまじき行為です。どんな理由があるにせよ、甘えてはいけないのです。明日からはきちんと致しますので、謝罪を受け入れて頂けませんか?」
「‥‥分かったよ。そこまで言うなら謝罪を受け入れよう。でもキアラ、ここではそう固くならず、肩の力を抜いてくれないか?僕は体の弱っている相手に鞭を打つ様な事はしない。むしろ君を甘やかしたいと思っているんだ。少しずつでいい、そういう事に慣れて欲しい」
「‥それは‥大変有り難い言葉ですが‥‥分かりました。努力します」
「そう?ところでもう朝食は出来上がったのかい?さっきからお腹がうるさくてね、早く食べたいんだけど」
「あっ!そうですわね!すぐ用意致しますわ!」
「運ぶのを手伝うよ。一緒に食べよう」
「はい!」
2人で出来上がった料理を運び、朝食を摂る事にした。
スヴェンは優しい。
私を気遣い、些細な事だと笑ってくれる。
そして、そういう事に慣れてくれと言う。
でもそれに慣れてしまったら、城に戻った時私はきっと耐えられなくなってしまうだろう。
だったらせめてここにいる間だけ、優しい夢を見ただけだと思って、慣れたふりをして過ごしていこう‥‥
辛い現実は変わりはしないのだから‥‥
久しぶりの更新になってしまいました。
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