癒し
ひとしきり泣いて落ち着いてくると、キアラは急に恥ずかしくなった。
なんといってもスヴェンに抱き締められているのだ。
意識し出したら、全身がカーッと熱くなる。
きっと今、顔どころか全身真っ赤だろう。
それに気付くと耐えられなくなり、おずおずと口を開く。
「あ、あの、スヴェン‥」
「なんだい」
「もう‥大丈夫ですから、その‥」
「大丈夫?僕はもう少しこうしていてもいいけど」
スヴェンが悪戯っぽい笑顔で、キアラの顔を覗き込む。
ダメ、もう耐えられない!
スヴェンの腕の中でキアラがジタバタしていると、スヴェンは楽しそうにキアラを抱き上げてクルクルと回り出した。
「もう!スヴェン!下ろして下さいませ!」
スヴェンは構わず回り続ける。
キアラはどうする事も出来ずに、されるがままになっていたが、段々楽しくなってきて声を上げて笑い出した。
キアラが笑顔になったのを見て、やっとスヴェンは床に下ろしてくれた。
「お腹空かないかい?僕はもうペコペコだよ」
「そういえば、大分時間が経ちましたね。もう夕食の時間でしょうか?」
「そうだね。ゴーシュがいないから大した物は出来ないけど、何とかなるかな」
「私が作ります!」
「えっ?君が?」
「はい。亡くなった母は、父が遠方へ視察に出掛けると、帰って来る日に必ず自分の手料理を振る舞っていました。それで私も料理に興味を持って、料理長に無理を言って教えて貰ったんです。普段自分の食事は、全部作っていたんですよ。だから料理にはちょっと自信があるんです」
そう言ってキアラはフフッと微笑む。
それを見たスヴェンは満足げに頷き言った。
「それじゃ、お手並み拝見だ!僕も手伝うよ!」
調理場には豊富に食材があり、キアラはウキウキしている。
可愛いな‥
スヴェンはそう思ってニヤケる自分に気付き、被りを振りゴーシュの言葉を思い出す。
「問題なくお過ごし下さい」
早くも問題ありだ。思わずキアラを抱き締めてしまった。でも、あの場はどうしてもそうしたかったし、そうする必要があった。
そんなスヴェンの様子を他所に、キアラはテキパキと野菜を洗ったり、鍋に火を掛けたりと忙しく動き回る。
「手際がいいね。僕は何を手伝えばいい?」
「では、そこのジャガイモの皮を剥いて貰えますか?」
「これだね?任せて」
余計な事を考えない様に、スヴェンはジャガイモに集中する。何でも出来るスヴェンだが、料理は初めての経験だ。慣れていないせいか、歪な形のジャガイモが出来上がった。
「まあ!スヴェン!ジャガイモを無駄にしないで下さいね」キアラに笑われる。
スヴェンはムキになり、ナイフをジャガイモに滑らせると、指に当たってしまった。
「あっ!痛!」
「怪我をしたのですか!?見せて下さい!」
キアラが慌てて近付いてくる。
「大した事ないよ」
「いいえ、私に任せて下さい」
怪我をした手をキアラが握る。
ふわっとキアラの甘い香りがスヴェンの鼻腔を擽り、どうにも落ち着かない。
キアラは目を瞑った。何をするつもりなのか分からないスヴェンは、黙ってその様子を見ていた。
一瞬スヴェンの手が白く光り、瞬く間に光りは消えた。
スヴェンの指の怪我は何処にもない。それだけでは無く、傷痕も残っていない。
「これが癒し?」
「ええ。傷が小さかったので、ほんの一部ですが」
「回復魔法を使って治すつもりだったんだけど、回復魔法だと、回復を促す物だから少なくとも傷痕は残る。癒しの力は、それとはちょっと違うんだね。うん、これはかなり興味深い」
「そうなんですか?」
「明日から色々と調べさせて貰ってもいいかな?それによって君の力の強化方法が、変わってくるかと思うけど」
「もちろんですわ」
「それじゃ、明日の為にもさっさと作って食べよう!僕はあんまり役に立たないけどね」
そう言ってスヴェンがイタズラっぽくウインクをする。
キアラはスヴェンのイタズラっぽい笑顔を見るのが、何故だか凄く嬉しかった。
そうして手早く調理をし、2人分の食事を作りあげた。
読んで頂いてありがとうございます。




