お互いの運命
ゴーシュを送ってスヴェンは応接室へ戻ってキアラを待っていた。
程なくして、キアラが応接室に入って来た。
入って来たキアラを見て、スヴェンは息を飲む。
クリーム色の、胸の下をキュッと絞った膝下までの丈のAラインの清楚なドレスに身を包み、湯上がりでほんのりピンク色に染まった頬。まだ濡れたままのシルバーブロンドの髪は右肩に流されて、数本首に貼り付いた髪は、酷くセクシーな様相を呈している。
「ヤバイ!ヤバイぞ!」
スヴェンの胸が早鐘を打つ。
「大変お待たせしてしまいました」と、キアラが言う。
「緑色だ」
「はい?」
「君が目を開けたら、どんな瞳の色なんだろうと思っていたんだ」
するとキアラは俯き、悲しげに言った。
「雑草の様な緑色でしょう?」
「えっ!?」
「いつもそのように言われておりましたので‥‥あまり自分の瞳の色は好きじゃないんです」
「誰がそんな事を?」
「義母が‥‥。でも、そう思われるのも仕方がないんです。義母は艶のある黒髪に黒曜石の様な瞳で、とても美しい人ですから。わたしのシルバーの髪はまるで老人の様だと仰って、侍女も義母が私の髪と瞳の色を疎ましく思っていると言っていました」
「その侍女と君の義母は、とんでもない見当違いをしている」
「えっ?」
「君も君の価値を知らな過ぎる」
「どういう意味ですか?」
「その髪と瞳の色はとても美しいし、君にとても良く似合っている。誉めるべきなのに、貶すなど間違っている」
「!!!!」
キアラはそんな事を言われたのは初めてで、言葉が出てこなかった。
スヴェンの表情は真剣だ。
「誰が何と言おうと、君の髪と瞳は美しいよ。それに、僕は黒髪で黒い瞳は大嫌いだ!」
「黒髪、黒い瞳に何か嫌な思い出でもありますの?」
キアラはふと、思った事を口にした。
スヴェンははっとして口ごもり、何かを言うべきかどうか悩んでいる様子だ。
「今はまだ、話す事は出来ない。だが、君に30日間"枕を共に"して貰えたら、全てを話せる様になるかもしれない。僕は厄介な「訳あり」でね。それでも条件を飲んで貰えるだろうか?」
「私も厄介な「訳あり」です。ここに置いて頂くだけでもありがたい事です。でも、お相手の方はよろしいのですか?添い寝などしたら誤解を招くのでは?」
「?なぜ相手がいるなどと?」
「男所帯だとおっしゃっていらした割には、クローゼットの中が充実しておりましたので、どなたか頻繁にご滞在なさっているのかと思いまして‥‥」
「それはとんでもない間違いだ!僕にはそんな相手などいないし、クローゼットの中がどうなっているのかなんて知らない。あれはすべてゴーシュが揃えたものだ」
スヴェンは焦った。
ゴーシュ!恨むぞ!
「まあ!ゴーシュさんが?でも何故女性物を?」
「今話せる事として、僕等は神託を受けたとだけ言っておこう。聖女が訪れるのを待っていた。その聖女と30日間枕を共にというのも、神託の一部分だ。そして君が現れた」
「それでは、最初から女性がここに来ると知っていたと?」
「そういう事になる。かなり不安だったんだけどね、それでも僕は信じるしか道がなかった」
「私も同じですわ。夢のお告げを信じるしか道がなかった。これは運命であり、逃れる事は出来ないと‥‥」
そこまで言ってキアラはハッとした。
スヴェンも同じ事に気付いた様だ。
先に口を開いたのはスヴェンだ。
「つまり、僕等は運命によって導かれたという事か‥」
「ええ。その様ですね‥‥」
お互いに顔を見つめ合い、微笑んだ。
運命に導かれた相手が、キアラはスヴェンで、スヴェンはキアラで本当に良かったと思った。
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