ゴーシュの旅立ち
キアラと別れ応接室に戻ってきたスヴェンは、2人掛けソファに座っていた。
「血の繋がらない義母はもちろん、父も‥‥」
さっきのキアラのセリフが頭から離れない。
義母はともかく、肉親である父親が、娘に対する使用人達の仕打ちを放置しておいたというのか?
バタンと扉が開き、食事の後片付けを終えたゴーシュが入って来た。
「すまないなゴーシュ。お前が何でも出来て助かるよ」
「騎士団の宿舎で鍛えられましたからね。一通り何でもこなせますよ」
ゴーシュは少し得意げだ」
「なあ、ゴーシュ」
「何ですか?」
「普通貴族の令嬢は、着替えはおろか、入浴だって一人で出来ない物だよな?」
「そうですね。あっ!もしかして王女様はお一人では出来ないと申されたのですか?だとしたら、目隠しでもして私がやる他ないですね」
ゴーシュが焦る。
「やらなくていいし、その際は僕がやる!じゃなくて、全く逆だ」
「は?」
「キアラは、いつも自分でやっていると言った。全てをだ。侍女が付いていない訳じゃない。その侍女がやらないからだ」
「どういう事なんですか?そんな職務怠慢な侍女なんて、変えてしまえばいいじゃないですか。王女様ですよ?」
スヴェンはさっき聞いたキアラのセリフをゴーシュに説明した。
ゴーシュは少し考え込み、何かを思い出した様に口を開く。
「最初の神託の後、聖女を調べようとして、何度となくアルク王国へ聖女との面会を打診しましたよね?」
「ああ、でも全て実現出来なかった。聖女は明日をも知れぬ重い病にかかっているから、誰にも会えないと。だから、アルクの聖女は可能性が低いと思ったんだ」
「ところが、その聖女は自ら我々の元へやって来ました。少年に変装までして」
「ああ‥‥」
「可能性が低いと思って忘れていたのですが、私の姉の侍女だった者がアルクの商人と結婚し、5年程前からアルクで暮らしています。以前聖女について調べていた時、たまたまその者が里帰りのついでに姉に面会に来ていたので、聖女の話を聞いたのです」
「‥それで、何と?」
「2番目の王妃が王子を産んでからというもの、王女はほぼ公の場へ顔を出さないと。重い病にかかっているらしいと。シルバーブロンドの可愛らしい王女だったのに、気の毒だ。お母上の事故の現場にいらっしゃったショックから、きっと立ち直れなかったのだろうと」
「なっ!なんだって!!」
前王妃が事故死だというのは周知の事実だ。だが、王女もその場にいただと?母親の死を目の当たりにしたというのか?
「他には何と?」
「税が上がり、国民の生活が立ち行かなくなっているそうです。経済的事情は、スヴェン様の方がお詳しいでしょう。ああ、そういえば奇妙な事に、王子は城でなく庭園に建てた別荘で暮らしてるいるそうです」
「本当に奇妙だな。待望の男子だろう?キアラを蔑ろにして、よっぽど大事に育てているんじゃないかと思ったが」
「ええ、私も聖女以外の事だったので、あまり詳しくは聞かなかったのですが。これは、調べてみる必要がありますね」
「そうだな。僕はアルク王国の内情を知らな過ぎる。早急に対応してくれるか?」
「はい。今すぐ出発します。が、お二人共大丈夫ですか?」
「僕は問題ない。キアラだって全てを一人でやっていると言っていたから、大丈夫だろう」
「数日留守にするんですよ?」
「だから、大丈夫だって!」
「夜は必ず"枕を共に"して下さいね」
「問題‥‥ない」
ゴーシュはスヴェンを生暖かい目でチラッと見たが、それ以上何も言わず、あっという間に準備して出て行った。
馬に跨りながら「それでは行って来ます。どうか問題なくお過ごし下さい」と言って、颯爽と旅立つ。
その後ろ姿をスヴェンは見送りながら「問題‥あるかもしれない」と呟いた。
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