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はぐれ王女と魔術師  作者: 栗須まり
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魔の森にて

神託の結果は希望が見える物だった。

だが一つ引っかかるのは"枕を共にせよ"という内容だ。

スヴェンはラドウィグに聞いてみた。


「叔父上、枕を共に‥とは、どういう意味でしょう?」

「祈りを捧げたのはお前だ。そのままの意味じゃないのか?」

「うっ‥やっぱりその、一緒に寝るという意味なんですかね?」

「お前の呪いは夢に関する物。という事はやはり、そうなるかのう」

スヴェンは狼狽えた。11年間誰とも一緒に寝た事などない。

「ホッホッホ。お前も年頃の若者だから、色々と思う所はあるだろう。だが相手は聖女だという事を忘れるな。きちんと相手の同意を得た上なら、まあ、なんだ、いわゆる行為に及んでも‥」

「叔父上!もういいです!」

スヴェンは耳まで真っ赤だった。

それを見てラドウィグとゴーシュはニヤニヤしている。

スヴェンはゴーシュをキッと睨むと、ゴーシュは咳払いをして何事も無かったような顔をした。

「まあ冗談はさておき、聖女がいつ現れるのか、どんな状況でなのかは全く分からない。だからすぐ魔の森へ行って、聖女を待つのだ。アレスの神託は、それを信じる者のみが実現出来る」

「分かりました。僕は必ずやり遂げて帰って来ます」

「うむ。お前にラドニアの風が吹く様、私は祈りを捧げよう」

ラドニアの風とは、ラドニアが風の妖精であった事から、「幸運を」という意味を込めて使うのだ。

スヴェンはゴーシュを見て言った。

「ゴーシュ一緒に行ってくれるか?」

「私は貴方の剣であり、盾でもあります。断られたとしても、絶対一緒に行きます」

「それでは出発だ。魔の森へ急ごう!!」

「但し、油断大敵ですよ」

スヴェンは予想通りの言葉に、思わず吹き出した。


城へ戻って両親に一部始終を話し、旅支度を始める。

ゴーシュは聖女の為にと、ドレスやら女性物の下着やらを準備していた。

ゴーシュのこういう気遣いには感心する。

「姉と妹がいるので、女性には何が必要かが分かるんです」とウンザリした顔で言っていた。よっぽど揉まれてきたのだろうなぁと、一人っ子のスヴェンには羨ましくもある。

魔の森はアルクとの国境付近にあるが、あまりそこを通る商人はいない。

かつてイタズラ好きの妖精達が、旅人を迷わせて楽しんでいたという伝承があるせいだろう。

近年では大昔の火山噴火により、溶岩で出来た土台の磁気の為、コンパスが効かないという事が分かっているが。

それを研究したのもラドウィグだった。

その際研究用に魔の森の中に山荘まで建てた程だ。

スヴェン達は、その山荘を利用する事にした。

馬に荷物を積み込み、ゴーシュと2人翌朝早朝に出発する。

食料や水はラドウィグが先に転移魔法で送ってくれた。

馬を飛ばし、一度も休まず夜半には到着した。


スヴェンは山荘の半径500メートルに強力な結界を張った。

迂闊に触れば弾き飛ばされるという代物だ。

又、何者かが結界に触れると、スヴェンの右手に嵌めた魔法石の指輪が、動物は緑、人間は赤く光るようにもして、用心に用心を重ねた。

着いてから1カ月は何も起こらず、募る不安ばかりが膨らむ。それでも、信じる事は止めなかった。


ある夜の事だった。

夕食後に魔術書を読んでいると、突然指輪が赤く光ったのだ。

「ゴーシュ!侵入者が現れた!!」

ゴーシュはサッと剣を携え、足早に入り口へ向かう。

「スヴェン様はここにいて下さい」

「いや、僕も行く!」

「危険です!!」

「お前がいるから大丈夫だ!」

そう言われるとゴーシュは何も言えない。

「無茶だけはしないで下さい」

「約束する」

2人は結界周辺へと急いだ。



グルリと丸くドームのように張られた結界を、シラミ潰しに探すと、弾かれて気を失った少年が倒れている。

一時的に結界を解き、少年の側へと近付いた。

スヴェンは止めようとしたゴーシュを振り切り、少年を抱き起こした。

少年の頭からハラリと帽子が落ち、中から月明かりに照らされた銀色の髪が顔を出す。

「これは‥女か‥?」

抱き上げると羽のように軽い。しかも柔らかい。

「山荘に運ぶぞゴーシュ!」

ゴーシュはあまり納得していない様だったが、黙って着いて来る。

山荘へ運び、ソファに寝かせると、再び結界を張る。

ゴーシュは清潔な布と桶に入れた湯を用意した。

スヴェンは布を湯に浸して軽く絞り、弾き飛ばされた時に汚れたらしい侵入者の顔の泥を落とす。

その瞬間、スヴェンは息を飲んだ。

髪色と同じ長いシルバーの睫毛。スッと通った鼻筋に、形の良いピンク色の唇の少女。

その唇にキスをしたいという衝動に駆られる。

心臓がドキドキとして落ち着かない。

スヴェンは今まで、女性に対してこんな感情を抱いた事はない。

天使の様な容姿に、王子という肩書きに群がる女性達は、どれもギラギラした物に思えて、嫌悪感すら感じていた。

それに、自分に掛けられた呪いの事を理解しようとする女性は母しかいなかった。

だが今は、この少女に対する感情を持ってはいけない。

全ては聖女の導きのままに‥


ゴーシュに少女を任せて、落ち着かない気持ちを鎮める為、外へ出て月を眺めた。






読んで頂いてありがとうございます。

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