スヴェン5
「こちらで少しお待ち下さい」
スヴェン達は、神殿横占術の館に案内され、そこでラドウィグを待った。
占術の館に入ったのは初めてだ。
壁際には棚が設置されており、見た事がない星見表や、球体の地図の様な物が沢山置いてある。
スヴェンは目を輝かせてそれらをじっくり観察した。
「何とまあ、スヴェン様の好みにピッタリな部屋ですね」
ゴーシュはやれやれといった感じに呟いた。
スヴェンはそれら珍しい物に夢中で、ゴーシュの言う事など耳に入っていない。
球体の地図の様な物を繁々と見つめていると、扉が開きラドウィグが入って来た。
「先生!!」
スヴェンはラドウィグに駆け寄り、軽くハグをする。
ラドウィグは王弟であり、魔法学者であり、神官長を務めていた。
そしてスヴェンの魔法学の教師でもある。
スヴェンはラドウィグが大好きだった。王弟でありながら型にハマるのを嫌い、スヴェン程ではないが、優れた魔力を持っていた。特に占術は国一番の腕前だ。
次期国王に推される事もあったがそれを嫌い、さっさと神官に収まり、魔法学の研究に没頭していた。
「久しぶりですね王子。大きくなられましたな」
「先生もお元気そうで。でも、そんな他人行儀はやめて下さい」
ラドウィグは片目を瞑り、イタズラっぽく微笑む。
そういう所がスヴェンは大好きだ。
スヴェンがイタズラをする度に、父は「お前とラドウィグは良く似ている」と溜息をついていたのを思い出す。
「さて、それではこれからお前の叔父として、お前に起こった事を聞こう」
そうしてスヴェンは覚えている限り全てを、ラドウィグに話した。
「スヴェン、ここに座りなさい」
ラドウィグは部屋の奥の1人掛けソファにスヴェンを座らせた。
「ゴーシュ手伝ってくれ」
部屋にあった書斎机を引っ張り、ゴーシュと一緒にスヴェンの前にセットして、棚から水晶玉と琥珀色のクリスタルを取り出して置く。
「スヴェン、水晶玉に右手を置いて、左手でクリスタルを握りなさい」
言われた通りにすると、ラドウィグはスヴェンの前に立ち、スヴェンの右手の上に両手を翳した。
「ラドニアの血よ、姿なき物を表せ」
ラドウィグがそう唱えると、水晶玉の真ん中に黒い塊の様な物がゆらゆらと浮かび上がる。
「光よ、真の姿を炙り出せ。その物を消せ」
するとクリスタルが真っ白な光を放って、スヴェンの左手から全身をゆっくり包む。
スヴェンが光に包まれた瞬間、クリスタルにヒビが入り、真っ二つに割れた。
クリスタルの中から光の玉が現れ、ラドウィグに近付くと、スヴェンとラドウィグの頭に声が響いた。
「術者が呼んだ夢魔。術者以外消せない」
スヴェンは驚きを隠せない。
ラドウィグは冷静に尋ねる。
「術者は何処にいる?」
「魔物だ。指輪の印。遠い」
「魔物の力は?」
「生贄。力は強大。危険」
「夢魔を抑えるには?」
「ラドニアの泉。後はアレスに聞け」
光の玉はそう言うとフッと消えて、スヴェンを包んでいた光も消えた。
水晶玉にはもう何も写っていない。
部屋の中に静寂が訪れる。
スヴェンは堪らず口を開く。
「叔父上、今のは‥」
「光の妖精のカケラで、ラドニアの残した物だ」
「そんな貴重な物があったのですか?でも、割れてしまった」
「神殿にはそういった物が多い。だから私はここが好きなんだ。さて、妖精の言葉を分析しようか」
「はい。ただ一つ、はっきりと分かったのは、この呪いはかけた術者以外に解ける者がいないという事ですね?」
「そういう事になるな。今の所は」
スヴェンは唇をキュッと噛み締める。
ラドウィグはそれを見ながら続けた。
「生贄、魔物というのは、生贄により魔物の力を手に入れた術者だという意味だろう。ラドニアの東側の山岳地帯に広がる国には、そうした悪しき魔術がかつてあった。今では禁じられていると聞くが。恐らく、お前を襲った女というのは、山岳地帯の者だろう。しかも強大な力とは、生贄に人間を捧げている筈だ。魔物は人間が大好物だからね」
スヴェンはギョッとした。人間を生贄‥
「それでは、僕の身体を繋ぎ止めた図書室の魔方陣は‥」
「お前の魔力は強い。そのお前の自由を奪う程強力な魔方陣に使うとしたら、人間の血を使うだろうよ。だが、お前は完全には支配されなかった。それは術者がまだ完全には魔物の力を使いこなしていなかったという事だろう。それは本当に運が良かった」
「‥‥‥!」
「お前の呪いは夢魔が操る悪夢だ。単純な呪いだが、非常に強力だ。だが、まだ手がある。妖精の言葉通り、神殿へ行ってアレス様の神託を受けよう」
スヴェンはゴクリと唾を飲み込み頷いた。
ゴーシュは心配そうに2人を見つめるしかなかった。
そうして3人は占術の館を出て、神殿の祈りの間へ向かった。
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