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バッドスキルは女好き  作者: 一葉
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ギルド

「困りますよ、商品に勝手に触れないで下さい」

身綺麗な男がじっと俺を見下ろしている。その瞳には興味深そうな色がついていた。

「買います。いくらですか」

商品なら買えばいい。奴隷なんて胸糞悪い制度ではあるが、必要な場合もあるのだ。よそからやって来た俺が軽々しく口を出していい問題ではない。

「おや、御客様ですか。失礼しました。私、奴隷商のガーランと申します。家名はございません。気軽にガーランとお呼び下さい」

態度は丁寧でも慇懃無礼な感じのする男である。奴隷商という職業も相まって胡散臭い印象が強い。油断したら全財産絞りとられそうだ。

「アオイ・イチジョウです。奴隷を購入させて下さい」

ガーランはわざとらしく顎に手をあてた。

「困りました、お売りしたいのはやまやまなのですが」

俺を焦れさせるためだろう。勿体ぶった態度のガーランは悩む素振りをみせた。

「何か問題が?」

ガーランはふっと笑う。

「いえ、こちらの奴隷は冒険者ギルドに卸す奴隷です。勝手に売買先を変えられませんので」

おいおい、さんざん時間をかけさせておいてそれはないんじゃないか? 流石に苛つきを抑えきれない。

「まちな、冒険者ギルドに卸すってのはあれかい? 荷物持ちかい?」

追いついてきたメリーが口を挟む。

「さようでございます」

「そうかい。嬢ちゃん一旦引きな」

冗談じゃない。彼女の様子から奴隷はろくな扱いは受けていない。今を逃せば二度と会えないかもしれないだろう。

「睨まないでおくれ。ちゃんと説明するよ。此処で騒いでも良いことはない。あちらさんはそれがねらいさね」

メリーの口調が少し厳しくなって頭が冷えた。そうだ、怒って騒いだ所で理はあちらにある。ぐっと拳を握って去っていく奴隷商を見送る。鎖に繋がれた彼女は一度だけ振り返った。その瞳は空っぽのガラス玉みたいだ。俺が迎えに来るなんてこれっぽっちも信じていない瞳。それはきっと俺が信用出来ないのではなく、人生を諦めてしまっているからだ。バッドスキルがうずく。惚れた女を助け出せと叫ぶ。

言われなくても絶対に彼女を迎えにいくさ。そのためにもまずはメリーに色々聞かなくては。


荷物持ちと呼ばれる職業がある。名前の通り荷物を持つ職業で一般の職業につけない、社会の最底辺がやる仕事だ。ダンジョンに潜る冒険者に雇われて荷物や魔物の素材などを持ち運びする仕事である。上級冒険者パーティであればアイテムボックス持ちが一人はいるので雇うのは中級冒険者以下だ。ただ、駆け出し冒険者は荷物持ちを雇うお金すらない。そこでギルドでは奴隷を購入して荷物持ちとして安く貸し出すサービスをしていた。奴隷法が改正されて借金奴隷などの区分がなくなったためにそのうち無くなるサービスと言われている。

「でだ、気に入った荷物持ちの奴隷は購入できるさね」

ギルドとしてもいつまでも奴隷を抱えておくのは負担になる。問題なければわりとあっさり奴隷を売ってくれるらしい。

「じゃあ、後は頑張りな。私は報告があるからね」

ギルドに入るとメリーは二階に上がっていった。ちなみにヘイズは奴隷商と揉めた時に路上に放置されていたりする。可哀想な人である。

ギルドの中は左手が酒場、右手が受付になっていた。酒場ではいかにもな風体の者共が酒を片手に騒いでいた。何人かがこちらに気付いてにやついている。男のにやついた顔って気持ち悪いな。俺もこんな顔をしていたのだろうかと思うとちょっとショックである。

受付のほうにいくと綺麗なお姉さんがにこやかに出迎えてくれた。

「おー? 綺麗な子だね。依頼の申込かな」

見た目は落ち着いた感じなのに随分気さくな人だな。

「荷物持ちの奴隷を購入したいのですが」

お姉さんはんー? と小首を傾げる。

「冒険者ランクはいくつ?」

「まだ登録もしてません」

お姉さんは納得したように頷く。

「やぱりそうだよねえ。悪いけど下級以上でないと奴隷は売れないんだよね」

冒険者ランクは上から、特級、上級、中級、下級、見習いとなる。見習いは挫折する者も多いため奴隷を売らないという規定があった。

どうしよう。今日登録していきなり下級にはなれないだろう。まごついている間に彼女が売れたりしたら笑えない。女王に泣きつく手もなくはないのだが、へたな行動をとれば先輩達に迷惑をかける。ならば、最短で下級に上がるしかない。

「とりあえず登録お願いします」

「はい、じゃあこれに記入してね」

「あの、これを」

女王から貰った指輪をアイテムボックスから取り出してみせる。指輪は銀色で複雑な紋様が彫られていた。俺の身分を示すと同時に女王の名において最大限の配慮が得られるしろものだ。女王からはひんぱんに使わないように釘を刺されたので使いどころは難しい。

指輪を見たお姉さんは目を見開いて狼狽える。

「す、すみません。イチジョウ様ですね。御用意は出来ています」

「あの、さっきみたいな感じで大丈夫ですよ。俺は指輪を借りてるだけなんで」

俺が神の使徒の仲間であることはギルドには知らせていない。だから態度を変えるだけの力がこの指輪にあることになる。俺はただの凡人だから恐縮されても困ってしまう。

「ほんと? 良かったぁ。敬語なれてないから窮屈なんだよね」

ほっと息をついたお姉さんは一旦奥にいって茶色いプレートを持ってきた。

「これが見習い冒険者カードだよ。ギルド口座の引き出しにも使うからなくさないでね」

ギルド口座は銀行みたいなもので今は500万円ほど入っていた。通貨単位は昔の神の使徒の影響で円に統一されており価値も大体同じくらいだ。金貨、銀貨も残ってはいるが、基本使われるのはお札で細かい単位に銅貨を使うくらいであるとお姉さんが教えてくれた。

「世間知らずのお嬢様って噂してたけどほんとだったみたいね」

「はは」

乾いた笑いを返す。女王から色々教えてあげてほしいと頼まれたギルドでは、俺は貴族の隠し子ではないかと噂されていたらしい。

「実際のとこどうなの?」

「ご想像におまかせしますよ、それよりランクのあげかた教えて下さい」

冒険者ランクは依頼をこなすことで上がる。下級にあがるには二十回依頼をこなせばいい。例えば、薬草三束の依頼なら六束納品すれば二回依頼を達成したことになる。採取依頼や納品依頼は受注する必要はなく、貼り出された依頼表を確認して受付に納品すればいい。そのさい、既に依頼規定数にたっしていたら依頼を達成したことにはならないが、常時買い取り対象の品ならギルドで買い上げる。

「なんたってダンジョンがあるからね。ランクはあげやすいよ」

「ダンジョンってなんですか?」

お姉さんは苦笑いしつつ答えてくれた。

ダンジョンとはダンジョンという名前の魔物だというのが定説だ。発生したばかりだとただの洞穴で成長していくと迷宮のように複雑な形になっていく。仕組みは不明だがダンジョン内では魔物が無限湧きする。悪魔のように別世界から転移しているのではないかと考えられるがよくわからない。ともかく魔物は素材にもなるし、体内にある魔石はエネルギー源として利用できるし、金の落ちてる穴なのだ。

「依頼も沢山あるしね。頑張ればすぐ奴隷だって買えるから」

さらに詳しく聞くとダンジョンは基本的に三人以上で入って数日こもるのも珍しくないらしい。なんでもダンジョン内にある小部屋で魔物を全滅させれば部屋をでるまで魔物は湧かないし入ってくることもないから、そこで眠るそうだ。なら今から行っても問題ないな。ちょっと無茶をするから一人でいかざるおえないけど、スキルをくしすればなんとかなるだろ、多分。それに悪魔崇拝者と戦った時にレベルが十五まであがってステータス値が上がっている。その辺の冒険者を鑑定してみても数字上は俺より強いやつはいない。経験が足りてないから実際戦うなら力押しになるだろうが。

「私のことはアイリスって呼んでね。アオイちゃんの担当だからこれからよろしく」

アイリスはにっこりとあどけない子供のように微笑む。大人な容姿で子供っぽい仕草。この人は危険だ微妙にバッドスキルがうずいている。

「はい、よろしくお願いします」

完全に惚れてしまう前に俺はやや慌ただしくギルドを後にした。

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