奴隷
やってしまった。自分の意識とは関係なく、いや、好意はあるから関係なくはないのだが、ともかく告白などするつもりはなかったのだ。
彼女は告白を受けて一瞬だけ目を見開いてすぐに無表情に戻った。あまり感情を表にだす人ではないようだ。
「ごめんなさい。私はまだ修行中だから」
彼女はそれだけ言ってさっていった。女になって二日目だが今日ほど女で良かったと思ったことはない。もとの男の俺だったら気持ち悪がられたに違いない。女が女に告白するのだって気持ち悪いと感じる人もいるのだろうが、彼女はそうではなかったようだ。そこは本当によかった。
「嬢ちゃんいい度胸してるね、砂漠の氷壁に告白なんて」
メリーは街を目指して歩きながら呆れている。ちなみに気絶したヘイズの足にロープを巻いて引きずっていた。なんとも豪快な人である。
「有名な人なんですか?」
色々と誤魔化すためにきいた。メリーは少し呆れたようだ。
「この辺じゃあ知らない奴なんていないよ」
シュトリア・アンラ、それが彼女の名前。冒険者ギルドに所属する中級冒険者である。褐色の肌であることから砂漠の民であろうと言われているが聞いても無視される。彼女を口説く奴は後をたたないが、口説き落とせた者はいない。冷たい眼差しで追い返されのが関の山だ。どんな男も相手にしないどころか笑顔すら見せない彼女を揶揄して砂漠の氷壁とよぶようになったのだ。
「女同士ってのも、私は否定しないけど、アンラは難しいだろうねえ」
励まされて複雑な気分だ。そもそも俺は男だし、でも見た目は女である。相手からすれば女なわけでとなると女性と付き合うのは難しい。前途多難である。さらにわをかけるように嫌な要素追加されている。それはシュトリアに告白してしまった原因。隠されていたバッドスキル。
・女好き
惚れた女性に即座に告白する。なお、このスキルを所持していることを他人に伝えることはできない。
いずれ血を見そうなスキルである。だからこそバッドスキルなのだろうが。
「ところで、カルロ、あんた鬱陶しいよ。いつまで落ち込んでんだい」
後ろのほうで項垂れながらとぼとぼ歩いていたカルロがびくっと震えた。悪魔崇拝者とやらが変身して以降、完全に空気と化してしまった彼は相当に落ち込んでしまったらしい。そりゃあ、女の子に守ってやると言っておいてびびって動けなくなってたら落ち込み具合も半端ないだろう。
「まったくしょうのない奴だよ」
俺としては同じ男として慰めの言葉でもかけてやりたいところだが、今の俺に慰められたらそれこそ最後のとどめである。
メリーがカルロにうんざりしはじめた頃にやと街についた。早朝に馬車に乗って昼頃につくはずが、既に夕刻も近い時間だ。
高い石の壁に囲まれた街の門には衛兵が立っていたが特に何事もなく通れた。人を引きずっているのに見とがめられないということはわりとよくあることだということか。街に入ってすぐにカルロは宿に帰っていった。その背中は控え目にみても悲壮である。
街は首都と比べれば田舎だった。といっても首都は低めのビルが普通にあるくらいの文明レベルで女王によれば、首都ほど栄えている都市はせいぜい6つくらいしかないらしい。かつて召喚した神の使徒がもたらした技術が中途半端なうえコストがかかりすぎるせいで全体的な文明の向上が出来ていない。
それを考慮すればこの街、ラ・セーヌは相当に栄えている。ヨーロッパの古い町並みといった感じだし、街灯も設置されている。なにより行き交う人々の数が多い。
「冒険者ギルドにいくだろ? 悪魔崇拝者の報告もあるからねえ。一緒にいこうか」
メリーさんの言葉に甘えて一緒についていく。冒険者ギルドの場所は聞いてはいたが実際に歩くと勝手が違う。歩く人々はほとんどが人族でたまに別種族らしき人もいた。ただ気になるのは首に首輪をつけた人がたまにいること。あれはやはり奴隷なのだろうか。
「ちっ、間が悪いね我慢しておくれよ」
メリーが忌々しげにいった。その原因はおそらく馬車道のむこう側を歩く一団だろう。がたいのいい男が鎖を引いて歩いているのだ。鎖の先には首輪をつけた獣人達がいて手錠が鎖に繋がり一列になって歩かされている。薄汚れ、粗末な服を着て、暗い雰囲気を引きずって歩く様はまさに奴隷だ。みんなそこそこの年齢なのだが最後尾にいるのは小柄な子供でただでさえ気分が悪いのに余計嫌な気持ちになる。
「奴隷ですか」
「ああ、今は戦争奴隷か、犯罪奴隷しかいないがね。あれは戦争奴隷だね。犯罪奴隷はもっと厳重に管理されるから」
「戦争は三十年前に終わったんですよね」
戦争奴隷は戦争で奴隷狩りにあった人々をさす。現在は奴隷狩り自体禁止されているが既に狩られた人々は奴隷のままだ。なら若い戦争奴隷はいない筈なのだが、実は戦争奴隷が子供を生むと奴隷でない者が認知しない限り子供も戦争奴隷になる。これは昔の身分制が残っている結果で、いずれ改正されるだろうが、法的には戦争奴隷の子供は戦争奴隷だ。気分の悪い話しである。
最後尾にいる獣人の子供に視線を戻すと偶然目があった。大きな目には感情がない。ただ切っただけの金髪は汚なく黒ずんでいた。こけた頬のせいで骸骨みたいな顔になってしまっている。粗末な服からはみ出るように伸びた手足は細く壊れそうでただの棒と言った感じだ。爬虫類系の獣人なのだろう、腕の外側には手から二の腕まで青い鱗が生えていた。首もとも鱗で覆われている。いっては悪いが俺の好みの外見ではない。非道と罵られるだろうが、この外見に女性的な魅力を感じない。
なのに、バッドスキルが発動する。
馬車道を全力で横断した。罵声が聞こえたが構うものか。未だに力なく俺を見つめる少女にかけよって手錠が嵌められた手を包み込むように握る。
「俺と家族になって下さい!」
この少女の笑顔を見たい。俺は心からそう思った。




