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39 【アベル】 再会



 カズハがキャビネットに隠れたのと同時に、外の扉が押し開けられた。数人がかりで扉をこじ開けたようである。

 そこに立っていた人の姿を、アベルは知っていた。


「……殿下」


 彼もまた、目を見開いてアベルを見つめていた。壮年の男の顔がくしゃりと笑みに変わる。


「ご無事で、よろしゅうございました。殿下」

「……エルベル」


 近衛団長でもあり、彼の親しき友でもあり、彼と共に陥れられた男がアベルの傍に跪く。アベルは彼をじっと見て言った。


「すまなかった、エルベル」

「なにがでしょう」


 見上げてくるその目には一筋ほどの恨み言も無かった。アベルが陥れられたことにより牢に繋がれたはずの男だったが、その体つきは変わらず逞しく、笑みのようなものを浮かべた顔はやつれてはいない。


「お前が無事で何よりだった」

「勿体ないお言葉でございます」


 アベルはエルベルの肩を叩くと、自分の剣を差し出した。牢から脱出したばかりなのか、彼の腰には剣が無く、武器と呼べる物は無い様子だった。剣技ではエルベルに敵うべくもないため、自分が持つよりもと思った。


「これを使ってくれ」

「殿下の武器が無くなってしまいますので」

「大丈夫だ、俺には魔法もあるし……これもある」


 先ほどカズハに押しつけられた短剣は、短いが何かの時に使えるだろうと一本を腰に差した。もう二本は扉脇で喜んで満面の笑みのユインと、けだるそうな表情のアルゼに投げる。


「死んだと聞いた。無事で良かった、ユイン。アルゼ」

「殿下こそ! ああ本当に、あの魔女め! 許し難い女狐ですとも! 殿下を追い込むなんて!」

「死ぬのも難儀なので、まあ脱出できてよかったですよ」


 二人に微笑みかけてから、アベルはエルベルに問いかけた。


「どうやって牢から脱出したんだ?」

「うちの奴らが、大挙して牢屋に駆け込んで来まして。なんでも城内に恐ろしい生き物が出現したそうなのです。恐らくソランジュの仕業かと」


 一筋の汗を誤魔化すように拭うと、アベルはちらりとキャビネットを見た。

 死んだかのように物音もしない。よし、カズハ。絶対出てくるな。


「そ、そうか。それで?」

「隊を組んで追えと。それでも近衛兵かと叱ったところ、皆目が覚めたかのように追いかけると言って行きました。正気に戻ったようですね。我々の牢の鍵はソランジュが持っているはずだったためどうにもならない様子ではありましたが」


 エルベルは少し眉根を寄せて言った。


「キリク殿下が鍵をお持ちになって、我らを牢から出して下さいました。またアベル殿下がこちらにいるとも伝えて下さったのです」

「キリクが?」


 アベルは眉根を上げた。めずらしいことがあるものだ、と思ったが、そういえば先ほどカズハもキリクのことを言っていた。


「それで、ソランジュはどこに?」

「王妃の部屋にいるはずだと」

「それもキリクが?」

「はい」


 アベルは少し考えた。大人しいキリクとはろくに話したこともなかったが、何よりカズハが「弟と話せ」と言っていた。

 あんな姿ではあるが、カズハは運命の女神が下さった救いの手かもしれないと思っていた。


「キリクの部屋に寄ってから、行こう」

「御意」

「先に行って途中で武器を調達しておいてくれ、すぐに行く」

「……大丈夫ですか、殿下」

「いいから」


 彼らがいては話せないのだ。

 三人を先に部屋から出して、アベルはキャビネットを叩いた。中からは反応がない。


「ソランジュと決着をつけてくる。カズハはそこから出ない方がいい。退治されかねない。必ず倒してくるから、戻ってきたら」


 アベルは笑みを浮かべた。


「改めて感謝の言葉を伝えさせてくれ」


 カズハの返事はなかったが、気にすることなくアベルは、部屋を出て行った。

 もしもそこに彼女がいたら、多分こう言っただろう。


「待ったアベル! それは死亡フラグ!」


 だがキャビネットからは物音一つしなかった。まるで誰もいなくなってしまったかのように。


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