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17 【和葉】  西園先生と異次元バッグ

 毎朝思う。

 ――あと五分でいいから、寝たい。

 ピー、ピー、ピー。


「ううー……」


 毎朝和葉を起こす、憎らしい青い鳥の目覚まし時計を止めようとしてベッドの中から手を伸ばすが、どれだけ探っても枕元に時計が見つからない。

 ぱたぱたと手が何度か空をきって、ようやく気付く。そうだ、消えてしまったんだと。

 和葉はあくびをしながら起き上がると、ベッド脇のチェストに置いてある携帯電話のアラームを止めた。既にアラームの表記が四回目になっている。恐らくあと五分を三回繰り返し、無理矢理寝ていたに違いない。

 何かを探すように周囲を見回して、ああ、と息を吐いた。


「あの袋、西園先生に渡してあるんだった」


 不思議な文様の書かれた不思議な袋は、今は和葉の手元に無かった。一日傍にないだけなのに何かが足りないような変な気持ちにすらなってしまう。

 目をこすって外を見ると、爽やかな朝の光が差し込んでいた。


「西園先生は、どうしてるかな」


 和葉は目を細めた。心に思うことはただ一つ。

 ――後先考えず目覚まし時計を突っ込んで、遅刻する人間が増えればいいのに。




 * * * * * * * * * *




「結論から言うと、消えなかった」

「ええええ!?」


 昼休みに食事を終えてすぐに、社会準備室に向かうとそこには西園先生がいた。彼は椅子に座って授業準備のプリントを書きながら言う。


「とりあえず詳細は放課後に話すけど、気になっているだろうからそれだけ言っておく」


 西園の言葉に驚きの表情で和葉は尋ねた。


「え、あの袋に入れたんですよね? 朝見ても消えなかったってことですか?」

「ああ。そのままあるな」

「何を入れたんですか? 目覚まし時計?」


 消え去った青い鳥を思い出しながら和葉が言うと、西園は目を丸くした。


「俺の家には目覚まし時計が一つしかないのに、入れて消えたら困るだろうが」

「……そうですね」


 数秒ほど沈黙した後に、一つしかない目覚まし時計を入れて困った人間は心から相づちをうった。く、罠に引っかからなかったかと思ったがそれを隠して、笑顔のまま尋ねてみる。


「じゃあ何を入れたんですか?」

「職員室でちらっと見た菅原の数学のミニテストは入れてやりたい点数だった」

「ちょ、それは入れた物よりテストの結果のほうが気になるんですが!」


 また野田先生の嫌みが! と頭に手を当てる和葉を、西園は苦笑して見ている。

 和葉の「中に入れた物が消える不思議な袋」の話を聞いて試した上で、結局消えなかったのだ。

 それゆえ彼が和葉の言ったことを信じていないかというとそういう訳でもなく、また完全に信じているかというとそうでもない。

 何故なら昨日試しに入れてみた和葉から預った短剣は、確かに朝もそこにあった。消えていない。

 だが昨夜遅く、自宅の机でうたた寝をして起きた西園が何気なく袋を開いたその時に。

 確実にそこにあったはずの短剣は無かった。袋はからっぽだったのだ。

 目を見開いて袋を覗くも、何もない。その袋の中に手を突っ込んでも、触れるのは袋の柔らかい裏地だけである。

 慌てて脇に置いてあった携帯を引き寄せて中の写真を撮ろうか、いやデジカメのほうがいいかと左右に目を回したその直後。

 まるで最初からそこにいましたよと言わんばかりに、袋の中には短剣があった。

 思わず手を伸ばしてみると、ひんやりと冷たい短剣の鞘に触れた。


「……」


 もう一度左右を見回して、袋の中を覗いてもそこに変わりはなかった。短剣は素直に袋の中にある。普段ならば恐らく目の錯覚だと思っただろう。

 だがこの袋は中にあるものが消えたりまた現れたりするのだと彼の生徒は言った。

 ならば現実に起こった出来事なのかも知れないと、ちらちら袋を覗きながら今日の指導準備をしていたため、夜遅くなっても準備が全部終わらなかった。そして眠い。朝起きるのが大変だった。

 西園はあくびをかみ殺しながら和葉に言った。


「とりあえず後は放課後に話すが、菅原からは何かあるか?」


 そういえばと和葉は思い出した。もう一つ試してみたいことがあったことを。


「そうだ! 西園先生、理科準備室の鍵って借りられます?」


 和葉の言葉に戸惑う西園だったが、一応頷いた。職員室にはどの部屋の鍵も置いてあり、もちろん教員ならば鍵も借りることはできる。生徒の場合掃除のときなどは誰か先生に声をかける必要があるため、和葉一人では借りることができないのだ。


「じゃあ話は理科準備室でお願いします、放課後すぐ行きますから」


 すぐ、という言葉に首を振ると西園は言った。


「……あの点だと放課後に再テストだと思うぞ?」

「……」


 これはテストか野田先生を袋に突っ込むべきではないだろうかと、思わないでもない和葉だった。





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