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“解呪の魔女”は恋をした ~ウサ耳の呪いを解いたら、コワモテ騎士様に溺愛されました  作者: es


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7/12

07_一生忘れない

 


 翌日。

 早起きして顔を洗ったヨハンナは、すぐにキッチンに入って、料理に取りかかった。魔法薬作りが得意なヨハンナは、料理もそれなりに得意だ。

 持論だが、魔法薬と料理はよく似ていると思う。


 まずはバターたっぷりのスコーンを焼く。

 ボウルに小麦粉と少しの砂糖。一撮みの塩、ふくらし粉を入れてかき混ぜ、そこに、冷たいバターを混ぜる。

 ざっくり混ぜ合わせたところで牛乳を足し、生地をまとめて綿棒で伸ばしていく。


 伸ばした生地は、コップの口で丸く抜いて、鉄板に並べて熱した(かまど)に入れた。


 スコーンを焼いている間に、ジャムを煮よう。

 摘み取ったベリーから丁寧に茎や葉っぱを取り除き、大きめの鍋に放りこむ。

 そして、たっぷりの砂糖と水を少々。レモンの果汁をほんの少したらして、中火にかける。


 スコーンの様子を窺いながら、丁寧に鍋のアクを掬っていく。

 暫くすると、鍋から甘い香りが立ちのぼる。竈の方からも香ばしい匂いが漂ってきた。

 ヨハンナはそっとうしろの竈を覗いた。素晴らしい。スコーンはきれいに膨らんでいる。


 そろそろ頃合いだろう、と竈から鉄板を取り出すと、こんがり狐色に焼けたスコーンがお目見えした。


 スコーンを冷ます間に、ジャムの鍋の確認だ。ヨハンナは榛色の瞳を嬉しそうに細くした。

 ジャムの方もいい感じに煮詰まっている。とろみが出てつやつやしているし、ベリーの赤い色も鮮やかだ。


 タイミングを見計らい、鍋の火を消して、こちらも完成。用意しておいた瓶に、とろりとした赤いジャムを手早く詰めていく。


 大皿にスコーンを山盛りに乗せ、ジャムは瓶から取り分けて小皿へ。カップに温めたミルクを注いで、そばに添えれば。

 何ということでしょう。


「朝ごはん完成、おいしそうです……!」


 ヨハンナが自作のスコーンとジャムを自画自賛していると、「……良いにおいがするな」と言いながら、キッチンと続きのダイニングに大柄な騎士が入ってきた。


「丁度出来たところなんです。そちらの椅子に座っていてください、今運びますね」

「かたじけない」


 渋い声で礼を言って、カディスはダイニングの椅子に腰かけた。

 使い古した木製の椅子が、その重みに抗議するように小さくギシリと鳴る。


 ……ヨハンナにはぴったりな、その華奢な椅子は、長身のカディスが座ると相当な違和感がある。

 子供用の椅子に大人が無理して座ってるような、そんなちぐはぐさが却って微笑ましい。




 朝食をテーブルに運ぶと、カディスの鋭い眼光がギラリと光った。愛らしいふわふわのウサギの耳もピンと立っている。

 ……たぶんあれは、出来立ての朝食を見て喜んでいるのだろう。犯罪者をどう締め上げようか、とか、そういう物騒な事は考えてない……はずだ。


 ヨハンナも席につく。二人は目を閉じて、神に祈りを捧げた。

 食事前の祈りは、この国では身分に関係なく共通のマナーだ。小さく聖句を唱えた二人は、待ちきれないとばかりにパチッと目を開けた。


「いただこう」

「いただきましょう」


 二人の声が重なる。

 焼きたてのスコーンに、出来たてのジャムをこれでもかと乗せて、パクリと齧りついた。


「美味い…………魔女殿は、天性の料理の才能があるのだな。王都でも、これほど美味いものは食べたことがない」

「それは……さすがに誉めすぎではないでしょうか、ヴェルダー様」

「本当のことだ」


 カディスはそこそこの大きさのスコーンをぺろっと一口で食べてしまった。

 それからヨハンナの朝食を褒め称えた。

 手放しの称賛にうろたえつつ恐縮していると、彼は次のスコーンを手にとって感慨深げに眺めた。


「今夜は、『満月の光を浴びた釣鐘草』を取りに行くのだったな」

「ええ、そうですね」

「では明日の朝、解呪に成功したら、俺はここを出て行かねばならぬのか。……ならばこのスコーンの味は、一生覚えておくとしよう」


 その言葉を聞いて。

 ヨハンナは思わず、齧ったスコーンをろくに噛まずに、ごくん、と飲みこんだ。

 口の中がパサパサに感じられるのは、スコーンのせいだけではないだろう。


 彼の言う通りだ。

 今日は、カディスが来てから五日目。つまり、満月の夜だ。

 今夜、釣鐘草を採取して、明日"解呪"に成功したら。


 カディスはこの家を去ってしまう。



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