第73話 本気
双子には『体験』として、騎士団の特訓に混ざらせてもらうことにした。
二人はまだ体力作り仕上がっていない状態だ。
特別にシルヴィア様が付いているとは言っても、やはり心配になってしまう。
──というかシルヴィア様の監修だとぅ!?
「よそ見をしない」
「いたぁ!」
脳天に一撃もらい、私はよろめいた。
その声は双子にも届いたのだろう、そちらから凄まじい敵意が感じられた。
私は大丈夫だと、今にもシンシア様に襲い掛かりそうになる双子を制する。
今のは完全に私が悪い。
「あの子達のことが心配なのはわかりますが、今はこちらに集中してください」
「……はい。申し訳ありません」
正直に言ってしまえば、もっと別のことに気を取られていたのだが、それは口に出さず素直に謝っておいた。
「では、気を取り直してもう一度行きますよ」
「はいっ!」
互いに木剣を持ち、ぶつかり合う。
すでに私は、技術だけで言ってしまえばシンシアと同格だ。
本気で打ち合っても、体力が続く限り永遠に剣戟を交わせる。
しかし、彼女とは経験の差がある。
そのため、長期戦になれば不利になるのは私の方だった。
死線を潜り抜けた場数で言えば、私の方が圧倒的に多いだろう。
だが、剣と魔法の戦い方は全く異なる。
咄嗟の判断を強いられた時、私はつい、魔法使いとしての最適解を選んでしまう。
それは長年の癖であり、私が直すべき課題だ。
──思い出せ。
唯一、美しいと感じた男の剣技を。
──思い出せ。
彼が見せた駆け引きを。
「……っ!」
シンシア様の動きが変わった。
剣技には三種類の『戦い方』がある。
一撃に全てを乗せる『豪剣』の型。
手数を重視した『速剣』の型。
カウンターを狙う『柔剣』の型。
この三つには相性がある
豪剣は柔剣に強く、速剣に弱い。
速剣は豪剣に強く、柔剣に弱い。
柔剣は速剣に強く、豪剣に弱い。
要はじゃんけんだ。
もちろん、使い手の技量では相性不利を無視して捩じ伏せることも可能だが、お互いの力が均衡している場合は、剣技の相性が勝敗を分ける。
私とシンシア様は幾度もこの三つの剣技を切り替え、剣を交える。
その中では様々な思考と戦略が渦を巻き、一瞬たりとも気を抜けない緊張感が訓練場に伝染していく。
同じように剣で打ち合っていた騎士は手を止め、走り込みをしていた新人も注目する中、私達の剣は更に苛烈さを増していた。
「また腕を上げましたね、シェラローズ様」
「それはこちらの台詞です」
また腕を上げた。
折角追いついても、すぐに離される。
最近では私達の成長を見たシルヴィア様も焦り始め、夜な夜な稽古するようになっていると聞いた。
それでちゃんと上達しているのだから、二人の器は凄まじいなと呆れると共に、私だったらどこまで上り詰められるのだろうと、内心ワクワクが止まらない。
「これでどうです!」
シンシア様は大きく後退し、私は驚きに目を丸くさせた。
彼女から漏れ出したのは──魔力だ。
騎士の中には魔法で自己強化する者もいる。過去にもそのような戦い方をする剣士は居たし、『剣聖』ラインハルトもそうだった。
だが、シンシア様は剣一筋だったはずだ。
魔法で自己強化するような戦い方は、今までしてこなかった。
まさか──
「剣だけでは、いつか追い付かれる。だから私も魔法の練習をしました。まだ不完全ですが、上手くいってよかった」
「ははっ」
私は笑っていた。
貪欲に力を得ようとするその姿勢、嫌いじゃない。
騎士は魔法と疎遠になりがちだ。
だが、シンシア様は強くなるためにと魔法に手を伸ばした。
それは魔法を極めた者の一人として、とても嬉しいことだ。
だが、彼女は一つだけ、間違いを侵した。
「では、私も魔法を使わせていただきますね」
今まで押し殺していた魔力を解放する。
その瞬間──世界が停止した。
「──え?」
シンシア様は疑問符を顔に浮かべながら、倒れる。
騎士達からはどよめきが起こった。
気が付けばシンシア様が地面に倒れていたのだ。そうなるのも無理はない。
ただ一人、シルヴィア様だけが頭痛を抑えるように、額に手を添えていた。
「申し訳ありません。少し、魔力を出し過ぎました」
本当は魔力を使うつもりはなかった。
でも、彼女が魔法を使ってくれたことが嬉しくなり、私も少しばかり本気を出し過ぎてしまった。
シンシア様が倒れた理由。
それは、私が発した魔力の余波に当たり、酔ったのだ。
そのため平衡感覚を保てなくなり、倒れた。
私はまだ何もしていない。
でも、それだけで勝敗は決してしまった。
仕方ないことだ。
魔力に慣れていない者は、強い魔力だけで酔う。
でも、これから慣れていけばいい。
シンシア様のような頑張り者ならば可能だ。
「嬉しいですわ。シンシア様も魔法を使ってくれて……これからも共に研鑽を積んでいきましょう?」
私は微笑む。
シンシア様もそれに応えようとしてくれたのだろう。
しかし、なぜかその笑顔は盛大に引き攣っていた。
「シェラローズ、さま……」
倒れた状態で顔だけを上げた彼女は、一言。
「もう二度と魔法は使いません」
「──なぜっ!?」
今日一番の叫びが、訓練場に響き渡った。




