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第72話 爆弾




 研がれていない鉄製の物体がぶつかり、甲高い音を響かせる。

 それは一度のことではなく、何度もぶつかり、時に火花を散らす。


 そこに立つ者全てが鬼気迫る表情で、対峙する仲間と己の腕を競い合う。絶え間なく聞こえる雄叫びと、むせ返るような熱気。そこは夏場のような暑さがあった。



 これが第二騎士団本部に所属する騎士達の、朝練の様子だ。

 


「「わぁぁぁ……!」」


 その様子を遠巻きに見つめ、瞳を輝かせる小さな双子。

 先日、シルヴィア様に双子の観覧を許可され、早速連れて来てみればこれだ。


 皆の戦う様がかっこいいのか、一瞬たりとも目を離そうとしない。


 かくいう私は見慣れているし、こちらの話が聞こえない双子に呆れながら、動きに合わせて体を揺らしている可愛らしい後ろ姿を堪能していた。



「──よし。皆そこまで。休憩だ」



 中心に立つシルヴィア様の声に、張り詰めた緊張感は緩和した。

 疲れて座り込む者、冷水を浴びに行く者、まだ感覚を忘れたくないのか剣を振る者と騎士達は自由だ。



「…………お? よう、嬢ちゃん」


 親しげに話しかけて来たのは、バルクだ。

 彼も朝練に参加していて、タオルで汗を拭きながら手を振って近づいてくる。


「おはようございます、バルクさん。今日もお疲れ様です」


「おう。おはようさん。シェラローズ様も今から稽古か? ……と、そのちっこい獣人はどうした?」



 バルクは遅れて、私の背中に隠れる双子の存在に気が付いたようだ。

 他の騎士達も見慣れない獣人に興味を持ったのか、ぞろぞろと寄ってくる。



 ちょうど良い機会だ。

 皆が居るところで挨拶した方が手っ取り早いだろう。



「紹介いたします。私が親代わりとなった双子ですわ……ほら、挨拶なさい」


 背中を叩くと、双子は若干怯えながらもしっかりと頭を下げた。


「…………ティア」


「…………ティナ」


「このように人見知りしていますが、とても良い子達ですの。皆様も仲良くしてくださると嬉しいです」



 相変わらず初対面の相手には警戒心が強い。

 それは彼女達の過去に関わっていることだ。




「ティアちゃんに、ティナちゃんですね」


 と、そこで騎士達の間を掻き分けてくる人物が二人。

 シルヴィア様とシンシア様だ。


 彼は双子を安心させようと優しく微笑み、膝を折って目線を同じくさせた。


 流石は紳士だ。

 子供の扱いをよく心得ている。


「私はここの第二騎士団の団長シルヴィアと申します。そして横のが副団長シンシアです。お二人のことはシェラローズ様からよく聞いています。どうぞよろしくお願いします」


 双子はぴょこんと顔だけを覗かせ、シルヴィア様を指差した。



「このひと、しってる」


「シェラローズさまの、ナイトさま」




「「ッ!?」」




 とんでもない爆弾を投下した双子に、私とシルヴィア様は吹き出した。


「な、ななななにを言っているのかしら!?」


「だって、サイレスいってた」


「シルヴィアってひとは、シェラローズさまのナイトさまって」


「サイレスぅ……!」


 あいつは知らぬ間に何を吹き込んでいるのだ!

 本当になんてことを吹き込んでくれたのだ!?


「も、申し訳ありませんシルヴィア様! 双子が失礼なことを……」


「い、いえ……気にしていないので、お構いなく」


 シルヴィア様は顔を隠し、プルプルと震えている。


 ああ、彼を怒らせてしまっただろうか。

 まさか初対面から爆弾を投下されるとは予想していなかったので、反応が遅れてしまった。


 くそっ……!

 サイレスの奴、後で覚えていろ!


 出来る限りの拷問の末、どうしてそんなことを吹き込んだのかを聞き出してやる。ついでに滅茶苦茶謝らせてやる。



「本当に申し訳ありません。このお詫びは」


「シェラローズ様。その必要はありませんよ」


「……え?」


 何度も頭を下げる私に、シンシア様は冷静にそう言った。


 その必要が無いとは、どういうことだろうか?

 首を傾げた私に、彼女は無表情なままシルヴィア様の尻を蹴り上げた。



「いったぁ!? シンシア、お前なにを!」


「思わぬ不意打ちで情けない顔を晒している間抜けに、ちょっと強めの喝を入れただけです」


 今の蹴りは間違いなく岩を砕く威力だったと見えたが、流石はシンシア様。上司に対しても容赦が無い。むしろ容赦無さすぎて、シルヴィア様は本気で痛そうにしている。軽く涙目だ。



「照れてないでさっさと切り替えてください。なんかウザいです。見せつけているのですか?」


「照れてないしウザくないし見せつけてもいない! ──ンンッ。シェラローズ様、私は本当に気にしていないので、どうか謝らないでください」


「ですが……」


「双子もシェラローズ様も悪くありません。元凶はあの男です。……くそっ。あいつ本気で国家権力で捕らえてやろうか」


 シルヴィア様の言う通り、悪いのは全てサイレスだ。

 だが、国家権力で捕らえるのだけは勘弁していただきたい。それでは今後の予定に支障が出てしまう。



「ティアちゃん、ティナちゃん」


 彼は再び、双子と視線を合わせる。


「私はまだシェラローズ様のナイトではないんだ。だから私のことは気軽に名前で呼んでくれるかい?」


「わかった……あと、ごめんなさい。シルヴィアお兄ちゃん」


「へんなこといっちゃった。ごめんなさい。シルヴィアお兄ちゃん」



 お兄ちゃん!?

 なんだそれ私も言いた──ゲフンゲフンッ!



「うん。ちゃんと謝れて良い子だ。流石はシェラローズ様が自慢する子供達だね」


 シルヴィア様も突然の「お兄ちゃん」呼びに目を丸くさせていたが、笑って双子の頭を撫でた。また子供達が爆弾発言したかと思ったが、そこはシルヴィア様の寛大な心で許してもらえたらしい。


 先程から双子が何かをやらかさないか気掛かりだったが、どうやらその心配はいらないようだ。



「ようこそ、お二人とも。第二騎士団は貴女方を歓迎しましょう」




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