第71話 才能
やはり、ティアの魔法適性は驚くものがあった。
僅か一日で魔力を掴むだけではなく、まだ完全ではないが可視化までしてしまった。感極まって抱き上げてしまったほどに私は驚いたのだが、当の本人は私のような綺麗な光を出せなかったと、満足していないようだった。
一日でそこまで出来るようになるのは、魔法の天才でも難しい。素直に喜ぶべきだと思うが、そこで満足して傲慢になるのも勿体無い。だから私は、ティアが暴走しないように見守ることにした。
双子の競争は、もちろんティアの勝ちだ。
彼女にはご褒美に、私の手でマッサージをしてあげた。
癒しの魔力を込めたマッサージだ。
よほど気持ち良かったのだろう。
ティアは終始、幸せそうな表情をしていた。
だが、ティアばかりに構っていたら、ティナがいじけてしまう。
彼女も不利な状況でも諦めずに頑張ったところは、私も評価してあげたいと思っている。
だからティナには頑張ったご褒美に、稽古後の休憩時間に出したケーキを、いつもより大きく切り分けて出してあげた。それで機嫌が直るのだから、本当にちょろくて可愛い子供だ。
魔力は体力とほぼ同じだ。
ずっと使い続ければ疲れる。
双子はすぐにベッドに潜り、やがて静かな寝息を立て始める。
「お嬢様、失礼いたします」
エルシアが部屋に入ってきた。
双子を起こさないよう、一切の音を立てないところは流石だなと思う。
サイレスは昔の知り合いだと、エルシアは言った。
つまり、彼女も昔は彼と同じところに居たのだろう。
素人ではあり得ない体捌きや、気配を上手く消す術。
その謎が判明したが、彼女自身から話が出てこない限り、この話題を出すつもりはなかった。
隠したいということは、聞かれたくないということだ。
ならば、それをわざわざ聞き出そうとするなんて無粋だろう。
「お疲れ様でした。双子はどうでしたか?」
「二人してそれなりに強い魔力を持っているわ。特にティアの方は異常ね。時代が違えば『大賢者』になっていてもおかしくはなかった……勿体無いわね」
双子は元々、魔力を他よりも多く所持していた。
それは白狼族特有のものなのかはわからないが、素質は間違いなくある。
ただ、ティナの方は繊細な調整は苦手のようなので、個人によっては得意不得意が異なるのだろう。
「学園に入るまでには、必ず強くさせるわ。あっちでは尚更、私の目が届かない時間が増えてしまう。何かあった時は自分達で身を守れるようにならないと」
もちろん、私は常に二人を守ってやるつもりでいる。
だが、やはりそれでも限界はあるので、その時のために自己防衛くらいできるようになってもらいたい。
「少し過剰だと思いますが……」
「過剰なくらいがちょうどいいのよ。あの時にもっと強くなっていればと後悔するよりは、もっといいわ」
その後悔は何度もしてきた。
あの時、もっと早く動いていれば、もっと強くいれば、もっと気を付けていれば……。
少しの油断と怠慢により、大切な者を失った。
二人には、私と同じ後悔をしてほしくない。
だから二人を鍛えるのだ。
「──っと、少し暗くなっちゃったわね」
軽く伸びをして、はぁ……と息を吐き出す。
「私も少し疲れているみたい。夕食まで仮眠を取るわ」
「かしこまりました。では、近くなったらお呼びします」
双子の寝息を聞いていると、こちらも眠くなってしまう。
今はまだおやつの時間が終わったくらいなので、ここで眠ってしまっても問題はないだろう。
ワンピースを脱ぎ、寝巻に着替える。
双子を起こさないよう、ゆっくりとベッドに上がり、布団を被った。
「お休みなさいませ、お嬢様」
「ええ、おやすみ……」
私は目を瞑り、考える。
再び双子の身に危険が迫った時、私は二人を守れるだろうか。
この世界はとても広い。
私の知らないところで何かが起きて、双子が巻き込まれるかもしれない。
その時、私は被害を出さすに双子を守れるだろうか。
──おそらく不可能だ。
姿が変わっても、私はやはり魔王なのだ。
敵対者は滅ぼし、圧倒的な力によって統治する支配者だ。
そんな私が今更、全てを平和に終わらせることなんてできない。
だが、それでも良いと私は思う。
どんな結果になろうとも、双子さえ守れれば満足だ。
全てを守れることは不可能だと、以前の魔族との戦いで思い知った。
どのような理想を掲げようとも、私の手はとても小さい。
ならば、この小さな両手で双子だけでも守り抜いてみせる。
私は薄れゆく意識の中、そう誓った。




